史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十二回・裏:かえでとつるつる

 ――その人たちは、私のへやに、急にやってきた。

 

「――せ、先生。勝手に入って大丈夫なんですか……!?」

「要治療患者の気配だ」

「またそれですか……って、女の子……?」

 

「――おじさん……だあれ……?」

 

 大きなおじさんと、黒いおじさん。大きなおじさんは、おいしゃさまの服を着ていて……とっても、服はみちみちしていた。ふしぎな人だった。おいしゃさまに見えなかった。どっちかといえば悪い人にみえた。

 いつも私をみてくれるお母さんとは、ぜんぜんちがった。

 

「……少し失礼する」

「え?」

 

 おじさんたちを見ていた私に、大きなおじさんは、グッとかおを近づけて。私のほっぺにそっとさわった。びっくりしたけど、私の体はうごかなくて、おじさんのするがままになっていた。

 

「――これは」

「ん? どうしたんですか先生」

「……ここの担当医は一体何をしている……治療の痕跡が全く……まさか、そんな」

「あの、顔が怖いんですけど」

 

 そうしてると、大きなおじさんは、みるみる怖いおかおになって。それを見て、黒いおじさんはビックリしてる。でもそんな事を、大きなおじさんは気にしていないみたいで。私の目を、じっと見てきた。

 怖いおかおなのに、おじさんの目は、なんだかとっても、とうめいで。キレイで。あんまり怖い、とは思わなかった。

 

「お嬢さん。喋れるか?」

「……あ、はい……」

「喋るのも苦しいんだね。分かった。なら一つだけ。君を担当している医者は誰だね」

「――おかあ、さん」

 

 だから、聞かれたことに、直ぐにこたえた。それが悪いことだとは思わなかった。

 そうすると、怖いかおをしていたおじさんは、少し笑って、ありがとう、と言って私のあたまを、ゆっくりなでてくれた。その手が……おかあさんよりも、なんだか優しい感じがして。そうしてなでてもらってたら。

 私は、あっというまに寝ちゃってた。

 

 

 

 そとで、ばたばた、だれかが走ってる。みんな、いそがしいみたい。おかあさんも、今日はきてくれないみたいで……どうしたんだろうとおもう。ひとりじゃない、いっぱいの人がたくさん、走りまわってる。

 

「――」

 

 私は、ひとりぼっち。みんながげんきに走ってるのに。くるしい。ここでずっと。くるしいままなのが、さびしい。

おかあさんが、私をみてくれてるのに。よくならない。どうしてだろう。

かえでの体がわるいのかな。『大丈夫、きっと治るわ』っていってくれてたのに。かえでが、わるい子、だから。かみさまも治してくれないのかな。

 

たすけて、もいえない。口がひらかない。

お兄ちゃんに。あいたい。

 

「――お兄ちゃん」

 

 ……そうつぶやいたら、すぐ。

 

「ぬぅん!!!!!」

 

 まどが、こわれた。

 ……びっくりしちゃって、ちょっとだけくるしいのをわすれちゃった。つるつるのまどがバラバラになってた。小っちゃくなった。どうしたんだろうって、おもうまえに。もうその人は、わたしの前にいた。つるつるの、おじさんが。

 

「メナング、万が一の場合に備えて扉の前に」

「正義は我に在り正義は我に在り正義は我に在り……!」

「急いでくれ。万が一見つかれば全てが終わる。ここに居ては彼女は助からない」

 

 黒いおじさんが、とびらのまえにいって……とおせんぼのポーズしてる。そして泣いてる。どうしたんだろう。楓とおなじで、苦しいのかな。でもそんなかおにみえない。なんていうかとても、かなしい、気がする。

 そ、それで、なんでおじさんたちは私のへやにはいってきたんだろう。なんでまどをこわしてきたんだろう。

 

「――谷本楓さん」

「は……は……」

「これから誘拐する。先に謝罪しておく。すまない。失礼する」

 

 ――あっ、ていうのもできなかった。

 すぐに、私はおじさんのてに抱かれていた。またびっくりして。でも、おじさんのての中は、とてもしっかりしてて。あたたかくて。なんだかとても、ほっとした。

 ベッドでねてるときよりも、なんだか、らくになった気がした。

 

「メナング」

「大丈夫です、気付かれてません! 行けます! やっちゃいけませんけど!」

「命を最優先だ。行くぞ。万が一の場合も剣星殿には話を通してある」

「あははははは念入りに練られた計画だ追及されたら何も言えやしないですねぇ!!!」

 

 やっぱり黒いおじさんはないてる。どうしてなんだろう。

 

「では、行くから決して動かない様に」

 

 気になったけど、でもつるつるのおじさんがはなしかけてきて。でも、私はそれにこたえられなくて……いく、ってなんだろう。なんておもって。それで、わたしは……

 

「――ぬぅん!!」

「ひぇっ――」

 

 そらを、とんだ。

 

 ぎゅんぎゅんと、まわりの家が、ビルが、お店が、どんどんうしろにとんでいく。びっくりした。『動かないで』って言ってたけど。うごけなかった。それにまたまた、びっくりしちゃって。

 でも、さむくはない。あたたかい。さむくないように、風は、おじさんがさえぎってくれていた。私をくるんでる、うすい……タオルみたいな、おふとんで。

 

「――」

「暫しの辛抱だ。もう少し待っていてくれ」

 

 そのあたたかさで、また目がとろんてしてきて……さいごに気になったのは。

 黒いおじさんは、おいてきちゃって、よかったのかな、って。

 

 

 

「……ほんと、本当に……私、やばかったんですからね。もうホント、しら切るの本当に苦労したんですからいや本当に。まだ結婚もしてないのに、刑務所送りになるかと」

「すまなかったと言っている。それに患者優先だ」

「偶には助手をいたわってくれても罰は当たらないと思うのですが」

「……アメリカへの旅費、やはり検討するべきか」

「それも良いですねぇ。ひさびさに仲間に会いたいですから」

 

 ――また目がさめて。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、くるしくなくなった気がした。すぐそばで、おじさんたちが、たっていた。黒いおじさんが、ちょっとだけこわくなってて、つるつるのおじさんは……ちょっと小さくなってる気がした。

 

「はぁ、全く……それで、お兄さんへの連絡は」

「今は警察で事情聴取を受けているらしい。それが終わり次第、此方へ来ると」

「――楓!!!」

 

 そのむこうで、いりぐちがひらいて……入ってきたのは、おにいちゃんだった。はしってこっちにこようとして……つるつるのおじさんにぶつかってころがって。でも、すぐに立って、ベッドのちかくに来た。

 

「おにいちゃん」

「楓……楓……」

「治療は施した。とはいえ、今まで放置されていた分を回復するには時間がかかる」

「――幾ら欲しい」

「莫大な金は要らない。ただ、彼女の病気を治すのに必要な分は、これだ」

 

 ……おにいちゃんは、つるつるのおじさんから出された紙をみて、ちょっと目をぱちくりさせてから、つるつるのおじさんのほうを見た。

 

「これだけでいいのか?」

「彼女の体質を改善するならば、薬等に頼らずに、地道に体を動かすなどして、体質改善していった方がいい。そうした方が、長く健康も続く」

「……楓を助けてくれた事は、感謝する。だが、お前らに楓を診せるか、って言う話は別だ。楓は、あの女医に騙されて……お前らの事も、信用できない」

「関係ない。患者が目の前に居る。私達は彼女を助ける。何をしようとだ」

 

 おにいちゃんは、こわいかおをしてる。つるつるしたおじさんも、こわいかおをしていた。にらめっこみたいにずぅっと、ふたりは、ふたりをずっと見てた。

 それが……こわくて。

 

「おにいちゃん……どうしたの……?」

「楓、いや、なんでもない」

「どこかいたいの、だからこわいかおしてるの……?」

「そ、そうじゃなくて……」

 

 ……そんなおにいちゃんを見て、つるつるのおじさんは、すこしだけわらった。ほんのちょっとだけ。なんだか……やさしいかおだった。

 

「――信じるかどうかは関係ない。私は彼女を治療するだけだ。だが……気になるなら、隔日のペースで、彼女を見に来てくれ」

「なんだと?」

「家族が傍に居た方が、患者は気力に溢れる。病気と闘う意思が無ければ、治療を施しても効果は薄い。『病は気から』というのも、間違いではない」

「……監視と、楓の為に、って事か」

「そうだ」

 

 つるつるのおじさんは、とびらの方へあるきだした。

 そのとき、ちょっとだけ、わたしの方を見て……なんだか、泣きそうなかおになってから。

 

「家族という物は、一緒に居るべきだからな」

 

 それだけ。言って。出て行った。

 




ホモ君がどんな無茶をしたのか。された側の視点から。
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