史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十三回・裏:少年が、武術を学ぶ

「――うん。ケガ等はなし。大丈夫だ」

「……」

 

 ――目の前のコイツが信頼できるかは、分からない。

 でも、少なくとも楓を助けたのは確かで。それだけでも、一応邪険にしない理由はあるとそう思っていたんだけど……もうそんな生ぬるい話をする段階に、この男はいないという事だけは確かだ。

 

『良いか、夏。世の中には、ありとあらゆる利益や道理では、決して動かぬ、例外の様な輩が居る。そう言った輩にも、時としてお前は相対せねばならん』

『そう言った輩をどうするか……良いか。敵対する事だけは避けろ。味方に付けろとまでは言わんが、上手く利用しろ』

『……ただ。それですら生ぬるい。狂人の類だった場合は』

 

『諦めろ。諦めて……流れに身を任せつつ、上手い事やれ。そうとしか言えん』

 

 谷本コンツェルンの長として、長い事様々な商売敵に、スパイに、時には内部の裏切り者相手とも戦ってきたあの養父をして『諦めろ』というしかない類の『極まり切った狂人』という奴だと、思う。

 その証拠? 目の前の窓だ。いや……元窓というべきだろうか。

 

――だまし討ちに遭った後。あの直後に、他にも敵がいるかもしれない会社に居るのは怖かったので、家に戻ってきた。

 そして……考えていた。ボクを助けてくれた、あの男が言っていた事について考えていたんだ。誰かを支配する為には、先ずは己の五体を、己自身が百パーセント支配できていなければならない。

 

『少年よ、武術を学べ!!』

 

 その言葉が、心に……酷く、重たく、刺さった気がして。

 武術、という事に目を向けて……

 いたら、急に窓割って突入して来た。ハゲ頭が。何事か、とか言う前に服を全部剝かれた。いや粉々に破られた。『襲撃と聞いた。診察する』という、凶行の理由だけは、耳で聞いた。

 

 マジだ。今のボクは、上半身真っ裸だ。着ていた仕立ての良い服は粉みじんになった。もうその時点で考えるのをやめそうになって、でも頑張って文句を言おうとしたが、座っていた椅子からなんでか立てない辺りで、やっぱりやめた。

 

 で、このアホはずっと診察を続けてる訳だが。

 

「……良かったです」

「服に関しては後で弁償をする。急を要していた。すまない」

「いえ……」

 

 今ここに警察か何かが居て、そう言う趣味の大人だと思われたら多分なんも言い訳出来ず捕まると思う。哀れだとは思わん。やり方を選ばなかったコイツが悪い。というか、服弁償しろ。

 

 ……改めて、目の前の『自称医者』を見る。

 

 ボクの事を騙していた弁護士曰く。この男は『不自然』だという事だった。経歴を見てるとある日、突然とある病院に勤務しだした。それに、何処かの機関で医学の勉強をしていたという経歴も無い。

 そもそも、免許を持っているかも怪しい……らしい。

 俺を騙していた男の発言だ。信じる方が馬鹿だと思うかもしれないが、その調査報告書はきちんと探偵に依頼して作っていたモノだった。

 

「――なぁ」

「なんだ」

 

 だが。そんな事は関係ない。

 楓を助け、治療し、そしてその様子を毎度、律儀に報告。様子を見る様に言ってくる此奴は少なくとも、あの女医よりも、弁護士よりも、マトモな人間だという事だけは確かだ。というか、そもそも此奴は俺の権力も金も見ちゃいない事くらいは分かる。

 

 だから、今……コイツを上手い事利用しないと、ボクは()()()。それくらいは分かる。

 そして、利用の仕方は色々ある……あの橋の男の様に、異様に強いだろうこの医者に、聞いておきたい事があった。

 

「アンタ、強くなるには……どんな武術を学べばいい」

「中国武術」

 

 ……予想外に即答されてびっくりした。

 

「なんでだ」

「俺はそれ以外を良く知らない。が、中国武術は俺が知っているだけでも多くの種類が存在する。手っ取り早く強くなるための武術も、あるかもしれない。だからそう答えた」

「そうか」

 

 中国武術。

 確かに、武術と言えば、戦いと言えば、というイメージがある。武器も、拳も、何でもあるし、強そうなイメージはある。武術、というなら……

 

「……ちょっと、失礼する」

「あぁ。お大事に」

 

 今から直ぐに、中国武術の達人を探さないといけない。本物の中国武術を極めさせてくれる。どんな相手でもあっと言う間に蹴散らせるような。そんな、圧倒的な強さを手に入れられるような……

 そんな、本物の武術家を。

 

 

 

「――馬 槍月か。金じゃなく、酒を要求してくるとは……ったく、とんだ酔いどれだ。本当に強いんだろうな」

 

 後ろには、大量の木箱。連絡を取った時に『良い酒を用意しろ』という条件を提示されたので、一応どれくらい飲むか分からないので多めに用意した。後、この量にビビってくれれば主導権握れるかな、なんて。

 親父から学んだ、数少ないことの一つだ。弱い部分は見せない。強気で押して、こっちが主導権を握る。

 

 今まで、実践できたことはなかったが。

 

「ぼ、坊ちゃん……本当にお通しするのですか?」

「当然だ、客人だぞ」

「……アレは、私にはとても人には見えませんでした……化け物ですよ……」

「化け物、か」

 

 使用人が怯えている。コイツは、もうこの家に来ている槍月の顔を見ているのだろう。出て行った時と違い、真っ青になって帰って来た。

 

「――上等だ。それくらいじゃなきゃ、教えてもらう甲斐も無い」

 

 だからこそ、会いたくなった。

 使用人に命じ、この部屋に通すように伝える。最後まで怯えていたが、諦めた様に部屋の外へと消えていき……しばし後。扉が開いて――

 

「失礼する。楓ちゃんの様子を見に来る時間だ」

「アンタじゃない!!!!!!」

「……本当に、すみません」

 

 入って来たのはハゲ頭だった。後、黒いオッサンが申し訳なさそうに頭を下げてた。

 思わずズッコケそうになった。本当に、空気も、タイミングも、何にも考えずに突入してくるなコイツ。というか、どっから入った。正直、前回の事があるから、万が一刺客とかが送られても困るし、防犯装置とか増やしたはずなんだが。一切作動しなかったぞ畜生。やっぱり外すか。

 

「……分かってる。分かってるが、ちゃんと時間は伝えてただろう」

「ダメだ。楓ちゃんが今、会いたいそうだ」

「いや楓がお前にそんな命令する訳ないだろ」

「そうだな。寂しそうにしていたので連れて来る事にした」

「独断じゃないか!!!! おい! アンタ助手だろう! どうにかしろ!!!!」

「無理です……私に出来るのは、後始末位なもので……」

 

 患者の為なら何でもする、というのはマジらしいが……今はちょっと勘弁して欲しいんだが。いや、マジで。

 

「――ところで」

「ん、なんだよ」

「誰か呼んでいるのか?」

「分かるのか」

「あぁ。何か、恐ろしい者がいる気配がする。そして……懐かしい、気配も」

 

 ――とか言った、その直後だった。

 ボクのいる部屋の壁が弾け飛んだ。ビックリした、とか、壁の修繕費、とか。そんな思考の前に『壁って弾け飛ぶんだ』というこの世の新たな事実に、呆然とするしかなかった。物理法則とは何だっただろうか。

 

「――先生!! 谷本君を!」

「いや、必要ない。目標は、恐らく俺だろう」

「えっ?」

 

 粉塵の舞う室内に……隣の部屋から、男が一人、踏み込んで来た。

 口元の立派な髭が、ごつい顔をより厳つい印象に変えている。ハゲの先生よりも、ちょっとマッシブに見える肉体。そして何よりも、この、圧力。

 見ているだけなのに、足が震えそうになる。とんでもない力を秘めている、という事を『分からせている』。強い、弱いに関わらず。

 

「……懐かしい気配だ」

「あぁ。そうだな」

「相も変わらず、か?」

「当然だ。君に誓った」

 

 その男の目の前に、当然の様にハゲの先生は一歩を踏み出す。

 それで、分かった。あの先生は、ただ強いだけじゃない。あんな強者の目の前に……涼しい顔で出て行ける程に、『選ばれた強さ』を秘めた、医者なんだ。

 

 ……医者って、なんだったけか。

 




ショ谷本君に襲い掛かる医療の魔の手! 健康を強制!!

あと、若干もう谷本君がやさぐれて来てるのは仕様です。
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