史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十三回・裏:二人の酒の肴

「……」

 

 金持ちの用意した酒だけあって、やはり質がいい。それに……今日は、特別に美味い酒だという事が確定してる。此処まで心地のいい日はない。

 

「待たせたな」

「遅い」

「すまない。一応、ひとっ走り拠点に戻っていたのでな」

「患者か。本当に、その根っからの医狂いは治らんな貴様」

「……その言い方は止めろ。俺はそんな言われる程可笑しくなってない」

 

 口をとがらせながら、隣に座る男は、前よりも明らかに腕を上げている。僅かな手合わせだったが、確かに分かった。この男の防御は、以前の相対し、撃墜する。そんな武術を更に発展させたのだろう、その防御方法。

 俺には、制空圏ではなく、奴の周りにガラスの如き球体が見えた。そこに打ち込んだところで勝手に逸れて、何処かへとすっ飛んでいく。

 

 距離を測った戦い方を覚えたら『ああ』なるとは、思っても居なかった。いや、普通はああはならないが、あの男ならありそうなのが、少し可笑しい。おかしな成長の仕方を昔から奴はしていたのだから。

 

「――久しぶりだ。お前とこうして、酒を酌み交わすのは」

「あぁ」

「何をしていた?」

「治療をしていた」

「……そりゃあそうだが。そうじゃない」

 

 だが、性格自体はあまり変わってはいないらしい。全く予想していた答えしか返ってこない。まぁ、この男からすれば、治療以外をしてきたつもりなど無いのだろう。恐らく治療以外も絶対にやっている、と確信できるが。

 

「何処でだとか、あるだろう」

「……と言ってもな。世界のいろいろな所へ行ったよ」

「色々な所、というと」

「国、という意味でも勿論。病院、鉄火場、戦場……患者が居そうな所は、一通り」

「全くもって貴様らしいな。それで鍛えられたか」

「どうやら、その様だ」

 

 ……少し互いに黙り。気になっている事を口にした。

 

「あの男は、弟子か何かか」

「いや。彼は、助手、の様な何かだ。彼のサンドバッグ役が、俺でもある」

「どんな関係だ……?」

 

 此方を見ていた黒い肌の男。多少は『出来る』のは間違いない。俺達の『仕掛け』を一応見れていたようだし、それなりの実力ではあるのだろう。

それ程なのだから、コイツが鍛えているのかと思ったが、まさかのサンドバッグ役だった。サンドバッグ役とはなんだ。まぁコイツを殴っているだけでも腕が上がる、というのは否定はせんが……しかし。

 

「どの程度使える?」

「……君程ではない。仕掛けるなよ」

「ちっ」

「とはいえ、才覚ある若者だ。切欠があれば……上り詰めるとは思うよ」

「ほう。そう言えるだけ武術に関して学んだか?」

「父がその手の蔵書を残してくれていたからな。多少なら、分かるようになった」

 

 そう言ったホークの顔は、少し微笑んでいる様に見えた。どうやら、医療狂いなのは変わりないが……多少は人間らしくもなったらしい。

 

「あの弟子の影響か……」

「何の話だ」

「随分と、情を見せるようになった」

「……そうでもない。無表情やら、無感情やら。言われる事ばかりだ」

「昔と比べればだ。そこら辺の若造の様にお前が笑って居たら、天変地異を疑う」

「ふむ。正当な評価だな」

 

 ……再び、持っていた瓶の中身を、口に流し込む。こんなにも、スルスルと飲める酒だっただろうか。変わるな、とは言っていた。しかし、余りにも変わっていない。それが予想外で、そして、俺にとっての喜びでもあったのか。

 

「剣星と会っただろう」

「何処で聞いた」

「ふん。鳳凰武狭連盟に、とんでもない医者が出入りしている……ちょっと裏に潜っている奴ならば、知らぬ者など居なかった」

「そうか。俺もいつの間にか、有名になったな」

 

 自分の名声にも、こうして全く興味がないのも、変わらずだ。

 

「貴様、自分が何と呼ばれているのかも知らんのか」

「……剣星殿には何も言われなかった」

「まぁ何方かと言えば、裏の方で少しずつ名が上がってきている。お前に、さんざん邪魔をされた奴が色々と吹聴しているらしい」

「ふむ。恨まれるような事はしていないが」

「その内、広まるだろうよ……『医の狂人』だなんだと、好き勝手触れ回っているらしいからな」

 

 その渾名を初めて聞いた時、思わず笑ってしまった。世界には、アイツ以外にもそんな名前を付けられる者がいるのだな、と思って。で、コイツ本人だと分かった時は……うむ。思い出したくないが。盛大に酒を、吹いた。

 余りにも『らしい』渾名だったから。

 

「……狂人とは、随分な言い草だな」

「名乗りたい名でもあるのか?」

「いや。だが、狂人などと……俺はそんな、脳に問題があるかのような渾名が似合う訳がないと思うのだが」

 

 ……脳に問題はないだろうが、しかしながら狂人、という渾名は余りにも似合い過ぎているのは言うべきだろうか。いや、そんな節介をする必要もない。別に此奴がどんな呼ばれ方をされようと、それで態度を変えるような男ではない。

 強いて言うのであれば。まぁ、別の渾名を流してやる位か。俺が。自分の酒飲み仲間を『狂人』呼ばわりするのは些かと、気分が悪い。

 

「ああそうだ」

「なんだ」

「剣星殿が、会いたがっていた」

「連れて行くか?」

「まさか。俺は伝えるように言われただけだ。君の好きにすると良い」

 

 ……こうして、余計な節介を焼かない。というのも、得難い。

 

「それよりも、一つ聞いておきたい事がある」

「なんだ」

「――『闇』という組織、知っているか」

 

 その言葉に、隣の男にチラリと顔を向ける。

 ホークは夜の空に視線を向けていた。本当に、何てことない事を聞いたようだった。その問いかけは……答え方次第によっては、亀裂を生みかねない、そんな問いだ。

 だがこいつにとっては、そんな程度の事なのだろう。

 

「あぁ」

「加わっているのか」

「うむ」

 

 だから俺も、その程度の事だと思って話した。久しぶりに会った友人との、酒の肴程度に想って、口を開いた。

 

「そうか。だろうな。君の気質からして、表の組織は肌に合わないだろう」

「全く合わん。温い所ばかりだ」

「闇、という組織はどんなところだ。良くしてくれているのか」

「……まぁ、悪くはない」

「そうか。良かった。君に良くしてくれていない、というのであれば、剣星殿や無敵超人に話を持ち掛けようと思っていた」

「やめろ。全面戦争でも引き起こす積りか」

 

 まぁ冗談だろうが、一応軽口程度に返しておく。

 隣で、友は普段浮かべないような微笑みを浮かべていた。それも一瞬、何時もの様な鉄面皮に戻ったが。

 

「……槍月」

「なんだ」

「クシナダ、という名前を知っているか」

「……」

 

 その鉄面皮から紡がれた言葉は、俺の何かに引っかかるには十分な意味を持っていた。クシナダ。その名前は、聞いた事があった。というよりも、馴染みのある名前だった。

 

 思い出す。闇として、一影九拳として。初めてあれらと出会った時の事。俺の前任を『力づくで退任させ』そこに食い込んだ、その時の事。

 

『――儂の子と、良くしてくれている様で、感謝する』

 

 底知れぬ女だった。

 異様だった。聳え立つ山の如し、ではなく。横たわる底なしの谷の如しだった。勝てぬとは思わなかったが、間違いなく苦戦する、と思ったのは初めてだった。

 悍ましいと思ったのは……その顔に浮かべていたのが、親子の情だったのか、それとも他のものだったのか。分からなかった事だった。

 

「――知り合いか」

「あぁ。少し探して居る」

「……一影九拳、という組織に属する女だ。俺が知っているのは」

「一影九拳?」

「あぁ。俺が、属している組織だ」

 

 此奴と、あの女がどんな関係か。無理な推察はしない。

 

「そうか。君のいる組織なら、武人に関する組織なのだろうな」

「あぁ。化け物ばかりだ」

「化け物か。君がそう言うのなら、想像もしたくない」

「そう言うな。酒の肴には、丁度いい輩ばかりだ」

 

 取り敢えずは、自分の属する、裏世界の事情を酒の肴に、のんびりと飲む事を優先しようと思った。どうせ、この時間よりは、重くない。

 




剣星殿『伝えるだけじゃどうにもならないだろうし、出来れば連れてきて欲しいな』
ホモ君『まぁ会いに行くのは本人の意思次第だろ。無理やり連れて行くとかマナー違反だし』

どっちも……間違っていないのである……!!!
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