史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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た だ い ま


断章:『始まり』の火種
Episode M1:アメリカでの平穏


 アメリカに来て、まず最初に向かうのが軍関係の敷地、というのには……まぁ、二度目なのでいい加減慣れた。

 何せここに来るのは、まぁ疑似的な里帰り、的な意味もあるので。

 

「――皆!!」

「お、メナング! 来てたのか」

「また逞しくなったんじゃないか!?」

 

 久しぶりだ。こうして、同郷の仲間たちと会うのは。

 前に会ったのは……もう数年前になるだろうか。その時よりも、皆アメリカに馴染み、そして男衆はアメリカ軍の軍服が良く似合うようになっている気がする……ティダードの服を見ないのは、少し寂しく感じないでもないが。

 

「先生は」

「知り合いに会いに行ってる。此方の患者を見に行ってるらしい。あぁ後、知人とも顔を合わせる、と言っていたが……?」

「そうか。後で先生にも挨拶しないとなぁ……」

「俺もだ。アメリカの飯に慣れすぎちまって、ちと脂肪が増えた」

「ははっ、先生に叱られるぞ」

「うへぇ」

 

 とはいえ、皆変わってはいない。寧ろ、男衆は常日頃、アメリカの軍隊内で腕を磨く事が出来て、より活発に活動するようもなった者もいるという。

 そして、活発になった勢いそのままに、この国で結婚した者も多い。しかも、現地の人間とも。

 

「――あらメナング、こんにちは」

「こんにちは。おや、ハルティニは寝てるのかな」

「えぇ。どう? 大きくなったでしょ?」

「いやぁ、子供の成長は早いものだね。で、この子の両親は? こんなに可愛い子をほったらかして何処にお出かけだい」

「仕事よ。もう少ししたら帰って来るって」

 

 この少女、ハルティニもその勢いで生まれた子の一人だ。私も、他の人の調子を見ていた先生の代わりに彼女の健康状態を見る為に幾度もここを訪れた事もあるし、両親に愛されてすくすくと育つ姿を見て来た。一切の問題無く元気に育っているその姿には、なんだかとても感慨深いものがある。

 

「そうか……そう言えば父上は?」

「あぁ、アンタのお父様もお仕事。ちょっと大きな一件なの」

「大きな一件?」

「そう。聞いて無い? ティダードの現政権を打倒し……内乱を止める作戦」

「――そうか、もう始まったのか」

 

 そして、これについても。

 我々は、結局の所は脱走兵だ。国に帰るためにはそれなりの覚悟を決めないといけない。父も、母も、自分達が助かるために国に置いてきたのだから……と。そう思って、初めは活動していた。

 

 だが状況は、直ぐにその様相を変えた。我々、脱走した兵隊はどうやらアメリカ軍との戦で死んだ事にさせられていた、というのだ。

 それがどうしてか。

 単純な話だが、下手に脱走兵が出た、等と騒ぎ立てるよりも。居なくなった兵士達は『国の為に立派に戦い抜いて、死んだ』事にした方が、その親族らの士気は上がる。

 

 死んではいない事を確かめようにも、国内には我々はいない。そして……ティダードは何方かと言えば閉鎖的な国だ。我々がアメリカに逃げ延びた事等、知り様も無いだろう。

 何時かバレる嘘であろうとも、ある一定期間なら、その親族の士気を上げ、次なる戦へと駆り立てる為のニトロにもなり得る。

 

 ティダードは、もうそう言う段階に来ているのだ。全てを賭けて戦争を行わなければいけない。そんな段階に。

 外に向けての戦乱ですらない……内乱だというのに。

最早国として、相当に危うい所に来ているのは間違いないだろう。出来るだけ多くの肉親を、同胞を助ける為には。もう我々が力づくで内乱を止めるしかない。

 

 それは……逃げて、しかしこうして力を蓄えた私達も、同じ国内の出であり……そして逃げ出したからこそ、やるべき事なのだ。

 

「その第一段階、って奴よ」

「先ずはティダードの現状を探るために、諜報に長けた奴らが入り込んだらしい」

「そうか。なら私も行けばよかったか」

「いや良いさ。お前は、先生に付いておけ。こっちは俺が何とかしておく。若い奴らが経験を積む邪魔はしない」

 

 ……そうは言うが、ティダードで過ごした時間も大切な物。私にとっては大切な故郷なのだ。それをないがしろにする、というのは流石にしたくない。

 

「それに、お前に手伝ってもらう程の事でもない。俺達だって元はティダードの戦士なんだぞ?」

「だけどな」

「任せろ。それにお前は、カエデの事もあるだろう」

 

 ……そうだ。

 先生には多くの患者が居る。先生と共に行動し、彼らとも私は触れ合った。彼らの力になれる事なら、出来る限りの事はしたいというのも、最近私が思う事だ。

 その患者の一人のカエデ・タニムラは、ここアメリカで療養を行っている。最新の医療と先生の尽力が、彼女を快復へと押し上げていた。とはいえ、まだまだ予断は許さない。

 

 私も、そのサポートをする。というか先生に少女の生活の『常識的な』サポートが出来るかと言えば、正直な話首を傾げるしかない。無いとは思うが、味とか半分二の次の食事とか毎日作りかねない。いや、これは偏見だとは思う、思うが。

 

「俺達はそれぞれの道を歩み出した。俺達はティダードを。お前は……世界の患者を。それでいいじゃねぇか」

「……」

「もう一度言うぜ。国は任せろ。お前は、お前の信じた道を行け」

 

 そう言われ、肩を叩かれるのが、本当に嬉しい。私の選んだ道を、肯定してもらえるのがこんなにも誇らしい。

 一般人だって。犯罪者だって。道端で死にかけて居た達人だって。助けるのがあの人だ。そんな人の助けになれるのは、武人としても、人としても、とても充実している。

 それを認めて貰える事の、何と心強い事か。

 

「ありがとう」

「って事で、先ずはあのドラ患者をどうにかしろ。ベッド占有して『ビールを追加であーる!』とか騒ぎ立てるんだよ……患者なのに。眼を抉られた後とは思えないくらい元気なんだ」

「あの人はホント……分かった、行ってくる」

 

 あの地獄から生きて逃げ延びて。

 でも私は、こんなにも幸せで。

 

 このまま、続くと思っていたのだ。この日々が。

 

 

 

「――はー……先生、ちょっと、目薬取って頂いても……」

「そんな風になるなら休め。メナング」

「いえいえ。先生のお手伝いが出来るのなら」

「俺一人で事足りる量だ。君を不健康にしてまで付き合わせる必要もない」

 

 先生の治療に関わる全ては多岐にわたる。当然、先生自ら作成しているカルテも外から届くカルテも、膨大な量となる。それを毎日、コツコツと捌く。先生に殆ど自由時間は無い様な物、の筈。なのだが、曰く『これでも健康の為に取っている方だ』との事。

 しかし、それでも、私が少しでも手伝えば……と言う事で、手が空けばこうして先生の隣で白いカルテに目を通す。専門的な事は分からなくても、先生が読みやすい様に整える位は出来るから。

 

 で、今処理をしているのは、外からのカルテの方だ。

 

「ティダードへの再介入……上手く行きますかね」

「我々はそう言った事の専門家ではない。気にしても仕方ないだろう」

「そう、なんですけど」

「とはいえ。少なくとも、ここ数日のティダードの戦士の皆、そしてアメリカ軍人達の士気の高さも練度も、相当な物だった、と医者の立場からは見えた。心配する事でもないとは思うがね」

 

 ティダードの戦地などで、様々な要因から健康を害し、帰還せざるを得なかった現地の調査員などを見ていると、どうにも不安が湧き上がってくる。

 万が一があるのではないか。何せ、向こうには……

 

「……しかし、今でも信じられません」

「シルクァッド・ジュナザードの事か」

「えぇ。彼が、ティダードの戦乱を、搔き乱し、そして燃え上がらせている、なんて」

 

 ――その名を、拳魔邪神。

 我々が、嘗て国を救った英傑と慕っていたお方は、闇に堕ちた。

 私が世界中を旅していた時にも、裏社会でその名を聞く事は多かった。正直、ただの噂話だとばかり思っていた。だが……こうしてアメリカに帰って来た時、それが真実か、真実ではないかは、いやでも知る事になった。

 

「君の仲間が掴んで来た情報なのだろう。私は患者の言う事を信じるよ」

「……はい」

 

 だからこそ。不安だ。

 ジュナザード様が敵に回っているとなれば、何が起きても不思議ではない。敵に容赦するような人物ではないのだから。

 彼と相対した時。果たして、友は無事に帰ってこれるのだろうか。それとも……

 想像するだに背筋が凍る。我々は、国に裏切られ、国を裏切って、逃げて来た存在だ。その最後がどうなっても――

 

「――やはり今日はもう寝たまえ。疲れが出ている」

「えっ?」

「気付いていないか。体は兎も角として、精神が疲れている」

 

 いつの間にか、先生が此方を覗き込んでいた。

 

「体も精神も、何方も健常であってこその健康だ。精神の疲れで休みを取らない、というのは愚かな事だというのが、医者としての意見だ」

「……それは」

「精神は体以上に、癒えないのだ。傷を負う前に、休ませることを推奨する」

 

 ……言われた言葉に、何も言い返せない。

 精神が疲れている、と言うのに、心当たりが無いわけがない。

 そして、先生がそれを見逃す訳もないし、先生が『治療が必要だ』と言葉にするときは文字通りの意味しかない。そこには『治療する事で感謝を買う』だとか『大きな金を得られる』だとか俗物的な考えはない。

 

 だから、ズシンと、心に響く。

 

「……分かりました」

 

 休もうと思った。

 心が弱っていたら、耐えられないから。この世界は。心も、当然体も。強く無ければ。だから――

 

 ――それを超える悪夢が来るなんて、想像もしていなかったんだ。

 




と言う事で帰参いたしました。どうも。

所で、どうでも良いですがMはメナングのMです。
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