史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「うぉおおおおおっ!」
――思い出せ。
先生の拳を。先生の守りを。先生の――戦い方を。
私に真似できる訳もない。極限の『守り』の拳。だがそれを誰よりも近くで見て来たのは私だろう。先生の教えを受けていたのは、私以外に居ないだろう。
どうやって逸らしていた、どうやって凌いでいた。三対一、実力が隔絶しているという訳でもない。不利なのは此方だ。彼らを止める為には、丁寧に。完璧に。凌ぐしかない。
「――ふっ!」
「ぬぅっ!?」
あくまで、模倣だ。先生の防御の模倣。それでも今までで一番の精度だと思う。拳を明後日の方向に逸らし、突進の勢いを殺して転がして見せてから、続いて突っ込んで来る相手に向けて構え……
「オラァッ!」
「ぐっ……ぬぅっ!」
今度は逸らすのが間に合わない。上段への蹴りを重ねた腕で防ぐ。重い。気持ちも、体重もしっかり乗せられた、重い、実に重い蹴りだ。
先生の捌きを完璧に真似する事なんて出来ないのを、嫌と言うほど理解させられる。更に言えば、こんな劣化したレベルの模倣だって、相当に集中して居なければ出来やしない。結局、必死になって防ぐことしかできない。
これではダメだという事を、早々に悟った。
三人を纏めて相手取る関係上、後手後手に回る事が多いだろう。相手の攻撃を捌いて、崩して、そこから切り崩していかないとならない。先生に及ばぬ劣化版で一々防御していては削りきられてしまう。
「何故――何故俺達を止めるメナング!」
「っ!」
「あの所業を許しておけないという俺達の思いは、分かるはずだ!」
「……分かる、分かるが! だからと言って、お前たちを見捨てろというのか!」
伝わってくる。
拳を通して。彼等の心が。
怒りに満ちている……だがしかし。怒りに満ちていても、芯の通った拳だ。仲間の仇を討とうという、熱い思いに溢れた拳だ。軽く等無い。これらをマトモに全て受けていては、抑えきれないのに。対する私の腕があまりにも未熟に過ぎるのだ。
彼らの強い想いを受け止めきれない弱い拳に、歯噛みしながらも……それでも引き下がる事だけは、しない。歯を食いしばって耐える。
「勝てると、心から思っているのか!」
「それは……!」
「目を逸らしては居ないか! 己の胸に問いかけろ! 今一度!」
こんな重たい物を、私は……私を育ててくれた恩ある先生に、受け止めさせようとしていたのだ。重ねて、情けない。何と情けないのだ俺は。歯ぎしりするのを止められない。
だが情けない事を言い訳にして良いなんて事は一切ない。
ここで受け止めきれなければ。私は大切な友人達を失う。ティダードから生き延びた仲間を失うのだ。
もっと。もっと想いをしっかり受け止めろ。
どうすれば受け止められる。強い想いを。どうすればいい。考えろ、考えろ!
私は、多くの武術家の戦いを見て来たじゃないか。
先生の傍で多くの戦いを見て来たじゃないか。
その経験を今生かさずして、どう生かすと――
「「「うぉおおおおおっ!」」」
「あっ」
――マズい、考え過ぎた!!
三人の拳が此方に迫ってくる。ヤバい、避けきれない。万事休す。
終わったか……っ!?
あぁ、こんな事、前もあった気がする――何時だっけ。そうだ、先生と、馬 槍月の戦いを超至近距離……というか二人の間で見ている時だったか。
その瞬間の事が、自分の頭の中になぜか鮮明に浮かんだ。無数の拳。私の周りを囲んでいた。アレが先生と槍月の攻防のやり取りだとして。
何故、あの時私は、あの動きが分かったのだろうか。
あの間に入れば、死ぬ。それを分かってなお、私は少年を守る為に。飛び込んだ。
彼を守ろうとしたからか? いや、そうじゃない。あの時私は――
極限の危機の、淵に居たのだ!
「――ッシャアアァアアッ!!!」
「うぁっ!?」
「ぬぅぅぅ!?」
「っだぁ!?」
三対一。
全員、自分と同格レベルの相手。
今、私は……危機であろうことは間違いない。
だからこそだ。この極限であるからこそ、危機を突破しようと、感覚はより鋭く。そして重圧をはねのけようと、体により力は籠る。
無駄に力がこもっている、という者もいるだろう。だが、それは『自分の経験していない危機を超える為、自分を超える力を出そうとしてる』とは考えられないだろうか。
先生との旅の中で、馬鹿程危機にさらされて。だがその度に、潜り抜けて来た。困難を越えて強くなるのには、キチンと理由が存在する。極限の危機にこそ、成長のチャンスあり。そうだ。ずっと、先生はそうやって私を育てて来たじゃないか。
この機会でこそ――感じるのだ。より強く。心を。相手の事を。そうすれば、分かるのではないか。相手の動きを。相手の心に寄り添い、そして理解する事が出来れば、相手の動きとて読み切れる。
幸運だ……相手は、自分と同じ、ティダードの出身で、シラットの武人なのだから分かる部分は多い!!
「はぁっ……!」
「な、なんだ、今のは……すり抜けた!?」
「お前達の気持ちは良く分かる。そういっただろう!」
今なら分かる。
先生と槍月のあの一瞬、私は二人の『攻める思い』と『守る思い』の中心にいた。相反する余りにも強い二つの思いだったからこそ、意識せずとも見えたのだ。
感覚は、あの時既に、掴んでいた!
より鋭敏に。
動きを。彼等の感情を。全てを感じ取れ。鋭く、細く、薄く。刃の切っ先のように。感覚を研ぎ澄ませるのだ。いいや、切っ先では足りない――イメージは、絞り切った紙の如くに細く、細く、無駄のない様に!
無駄なく。薄皮一枚ほどに紙一重に。
「メナングゥウウウウウウウッ!」
三人相手に力でねじ伏せるのではない。それは無駄だ。
合わせろ。相手の動きに合わせる様に、最低限の力で――殴ってくる相手の拳の軌道に体を沿わせ、すり抜ける様に背後を取る。最低限の動きで、ギリギリで躱し。
隙だらけの相手の膝裏を蹴って崩して――
「ふぅううおおおおっ!」
「う、おぉぉぉっ!?」
投げるっ!
「っがぁ!?」
「なっ……何時の間に背後に回り込んで……!?」
「このぉっ!」
先ず一人。
落ち着け、捌き方は、もう教わっている。
相手の戦い方に合わせるだけじゃない。今まで自分が教わって来た事。全てを。生かせ。だが、ただ模倣するばかりではどうしようもないのは、分かり切っているのだ。であれば……私に出来るやり方を。
先生は相手に先んじて『守りで攻撃を制圧』する。どういう表現なのと言われてもそうと言うしかない。故に、あの弾くような防御が出来る。発想は同じだ。ただし、先生程守りに振るのは、土台不可能だ。
だが冷静に考えろ。あの人は普通じゃない。じゃあ普通に攻めも意識すれば良い。相手の領域を『普通に』制圧しつつ……そして、私の動きに巻き込む位の勢いでないといけない。
「そこを退けぇっ!」
「退けるか……お前たちの思いを
彼らは同じシラットを学んだ仲間だ。そして、同じ気持ちを有するティダードの仲間だ。だからこそ、その気持ちも、動きも、人よりは分かる。先を読むならこれ以上の相手はいないだろう。
踏み込んで来た相手の動きを先んじて抑えろ。ねじ込まれた肘が勢いに乗る前に相手の懐へ飛び込み――無理な軌道変更で崩れた体勢の横へ滑り込んで回避。
それから……無防備な横っ面に掌底を、返す!
「――せぁあっ!!」
「ごっ!?」
「な、あ……!?」
圧されてはいけない。受け止めて、押し返せ。
これで、二人。後は一人だが……流石に、この現状を見て、分からない訳はない。後は言葉で、伝わるはずだ。
「――私に負けているようでは、ジュナザードに……邪神になど、勝てるものか!!」
「うっ……」
「目を覚ませ愚か者!! やる事を間違えるな! ここで、怒りに任せて突撃して……何人が死ぬ! 何人が、また犠牲になる!」
集中は、まだ解かない。まだ向かってくるのであれば、私は容赦なく戦わなくてはならないのだ。彼等の事を思うからこそ、此処で一歩も退いてはいけないのだ。それが……彼等を助ける、と言う事だろう。
最早、此方の優勢は分かり切っている。でも、それでもここで引く訳にも行かないという気持ちを嫌と言うほど感じる。だからこそ、彼は拳を握ろうとして……しかし、その想いが少しずつしぼみ、手から力が抜けたのが『見えた』。
それを確認して、体から力を抜いたのだが。しかし想像以上に足に力が入っていない事に気が付いた。
緊張で張り詰めて、限界になって崩れ落ちそうになった体を……誰かが支えてくれた。
けど、見なくても。この頼りがいのある腕で――いや、ちょっと嘘吐いた。一瞬見えた、トレードマークの頭も要因だった。
「――先生」
「頑張ったな」
「……ありがとう、ございます」
先生に褒められた事は幾度もあった。でも……今。この時。
人生で一番、退いてはいけない今この時を、頑張りきれたことが。とても嬉しかった。助けられた。私の仲間達を。
それを褒められたのが、一番うれしかった。
自分でアレの切欠を開眼するのにどうすればいいか凄い苦労しました。
結果→同郷&同系武術による先読みのしやすさに加え、防御特化の達人の下で弟子クラスを卒業済みレベルの実力、んでもって火事場のクソ力補正加えて、『切っ掛け』開眼してもギリギリセーフかな……という。
マジで『流水』ってクソチートだからこそ難しいんやなって……