史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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Episode M5:可能性に賭けろ

 ――部屋の中には、父上と、私と、先生がいる。

 

 父上は、実力的にも年齢的にも、実質的なここのまとめ役であり、此処の命運すら分けるジュナザードについての事は、父上と話し合うのが筋である。

 私が叩きのめして一旦は仇討の流れを収めたとはいえ、時間が経てばまたその流れが再燃しないとも限らない。父上が言葉として出して初めて、その勢いを鎮める事が出来る。

 

「――ジュナザードには、今は手を出さぬのは先ず確定としても……何れは、と言う結論になるのは避けられんだろうな」

「それは……しかし、時をかけて勝てる、相手でしょうか」

「不可能だ――と言いきりはしない、だが。我らが今より必死の修練に励み、全てを賭したとしても難しい相手である事は間違いないだろう」

 

 苦々しい表情を、父上は隠しもしない。

 嘘は吐かない人だ。そして、彼我の戦力差が分からない人でもない。父上がそう言うのであれば、やはり私の想像は決して間違って居なかったのだろう。

 ジュナザードを相手取るのがどれだけ無謀な事なのか。ジュナザードと言う邪神がどれだけの怪物なのか。

 

 だが今回の一件で、皆が抱いた感情を抑えられるか、といえばそれも違う……我々亡命部隊は、故郷の者達と違い、ジュナザードという英雄への畏怖が薄れ始めている。

 『英雄』としてのジュナザードの力を、ティダードの頃の人間として信仰していた頃であれば。その枷が一度頭を冷静にしてくれただろう。戦いを挑んで、勝てる相手なのか。皮肉ではあるが、自由を手に入れたからこそ、皆を止める事は非常に難しくなっているのが現状である。

 

「であれば、何とか誤魔化し誤魔化しでやっていくしか」

「いや、そうとも限らん。確かに我々には無理だが――お前が居るではないか。メナング」

「………………え?」

 

 とか思ってたら思考を強制的に寸断された。父上が可笑しなことを言った。

 私? いや、その文脈の流れで言うのであれば先生とかでは――等と思って居たら、先生もどうしてか隣で頷いているではないか。待ってくれ。全く分からないのだが。

 

「え、えっと。先生の、間違いなのでは?」

「いいや。ここで出向くのは先生ではなくお前だ。メナング」

「えぇっ!?」

 

 父上が此方を見て強く言い切っている。余計に良く分からない。私は……武人としてはあくまでまだまだ小僧に過ぎない。先生『ではなく』としっかりと口に言われたのだからそりゃあもう頭の中は大混乱。

 ど、どうしたんだ父上は。まだ耄碌するには些かと早いぞ……いや、耄碌している様には到底見えないのだが。

 

「そもそもティダードの内政問題に、医者である俺が手を出すのはお門違いである、というのがまず大前提としてだ……君は、自分自身の実力を過小評価していると思う」

「えっ、えっ?」

「うむ。見ていたぞ、先程の動きを……いよいよ、殻を一つ破ったな」

 

 ……分からない。何も分からない。

 先ほどの動きって。皆を抑え込んだ時の動きなのだろうか。いや、アレは確かに今までの中で渾身の動きを出来たという自負はある、あるが。

 結局あの後、私は限界を迎えて立ち上がれなくなってしまったし。正直火事場の馬鹿力的な感じは否めない。寧ろ火事場以外の何者でもない気がする。

 

 なので、自分が何か、武術家としての殻を破ったという自覚は一切ない。アレをいつでも引き出せるというのであれば、話も変わってくるが。

 

「父上、アレは……正直、追い詰められて出た極限状態と言うか。兎も角、アレを再現しろと言われましても」

「何を言う。あの世界を一度見たこと自体に大きな、本当に大きな意味があるのだ」

「あの世界……?」

「――恐らく、アレは俗に言う()()()()の一つだろう」

 

 そんな父上の言葉を継いだのは先生で。しかし、静の極みとはまた、私に似合わない言葉ではないか。私自身、極みなど一体何処にあるのか、まだまだ霧の中を裂いて進んでいるかのような有様だというのに。

 

「静の、極み……」

「相手の動きを予知しているかの様な動きで、全てを封殺する制空圏の発展形があると聞いた事がある。俺が見ていた限り、メナング。君はその扉を開いていたように思う」

「えっ、えっ、えっ!?」

 

 いや、そんな技があるのも初耳だし。私がそんな動きをしていたのも全くと言っていい程に記憶にないのだが。そんな大層な事してたのか私。いや、先生の目を疑う積りは欠片もないし、疑うこと自体が文字通りの無礼だと思うのだが。

 

「そ、そんなバカな……!?」

「メナング」

「っ、父上」

「お前が辿り着いた世界は、様々な達人が目指し、しかし至れなかった極みの一つ。そこに辿り着けただけでも、お前には十分な『可能性』がある」

「……」

「恐らく、守りの極みの様な人の傍にいたからこそ、『制空圏』について学ぶことも多かったのだろう。その世界は決してお主一人で辿り着いた場所ではないが……しかし、その経験を得られる『幸運』もあった。その二つがあるならば、希望はある」

 

 父上の視線は、じっと私に注がれている。冗談を言っている様には見えない。だが今の実力と言う話ではなく、『幸運』と『可能性』で話をしている、というのであれば。

 ……いや、それでもどうなんだろうと思ってしまう。確かに『幸運』という一点においては人以上の物がある、と言い切れる。私は師にも、武運にも、いや正直な話、恵まれているというしかない。

 守りにおいてはこれ以上無きほどの見本、そしてシラットに関しても達人である父上に師事する事が出来た。

 

 しかし『可能性』と言う話になってくると、どうなのだろう。その二人に師事しているのであれば、自分はとっくのとうに達人になっていても何ら不思議ではない。それくらい恵まれた環境だというのに。

 

「どうしても信じられないのであれば、俺の目を疑えという事になってくるが?」

「いえ! 先生の目を疑えなんてそ、そんな事は!」

「では私の目を疑うか?」

「父上の!?」

 

 二人の顔が気持ち近い気がする。そもそもなんか顔がデカい気がする。物凄い圧力を感じてしまう。心が折れてしまいそうだ。いや折れた。ダメだ。疑う余地すら残して貰えない。なんてこった。疑う、と言う事は弱さとでも言わんばかりのゴリ押し具合だ。

 

「……は、はい。私には幸運と、可能性が、ありますはい」

「「良し」」

 

 ヨシではない。が。仕方ない。

 このお二人が揃って私が勝つ道理は欠片も存在しない。目の前に立ったならば後はボロカスにされて終わりなのである。泣いた。

 今回は『いや、そんな過大な評価を……』と言う心がボロカスだ。改めて泣いた。

 

「――と言う事で、だ。メナング。これからお前には、多くを背負って貰う事になる」

「はい……父上……」

「その為に、此処まで強くなったお前に、私は全てを託すことにした……今まで学んだ全ての事を。私が知るシラットの全てを、だ」

 

 ――!

 

「私がお前に託したノートには、全てが描かれていた訳ではない……しかし、アレらを全て修めたのであれば、いよいよ私の生涯で学んだことを託しても、大丈夫だろう」

「つまり……」

「シラットの奥義の幾つか――私が知るそれを伝授する」

 

 その言葉に、気が引き締まると同時に、ゾッとする。

 シラットの分派は無数に存在するが……しかしながら、その流派に伝わる奥義と言うのは侵略者の手に渡ることが無いようにと、正に秘伝と言っても過言ではない程に厳重に守られて来たのだ。

 一子相伝、と言う言葉すら冗談ではない程に。

 それが伝えられる、と言う言葉の重さが……どれだけの事なのか。私だって分からない訳でも無いのだ。

 

「とはいえ私はシラットを極めたとは到底言い切れぬ身だ。お主の可能性を引き出し切る事は出来ぬだろうが……しかしそれでも、その身に宿る可能性を引き出し切る為の足場を作る事は、可能だ」

 

 身震いする。自分が、そこ迄強くなれているなど、想像もしていなかった――

 

「故に、お前にはしばし、もう一度私の下で腕を磨いて貰う事になる」

「えっ」

「うむ。そうなるな。君には君の道がある。俺も、責任を取る為にティダードに居る患者の根本的な治療法を探る為に改めて旅に出る積りだ。しばしの別れとなるだろう」

「えっ?」

 

 ――当然、この展開も、全く。いや全くもって、想像だにしていなかった。

 ずっと共に過ごして来た先生と、別れて、腕を磨く。

 

 そんな事を……自分は、全くもって想像だにしていなかったのだ。いや、本当に。

 




オラッ! 可能性を認めるんだよッ!

頭のデカいお二人のイメージはアニメケンイチ、内弟子になる下り、師匠って何度も呼ばせる辺りの逆鬼師匠を想像してもらえると分かりやすいです。、
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