史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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Episode M6:そして『親』となる

「……」

 

 ユナイテッドステイツの夜景は、正に摩天楼と呼ぶにふさわしい。

 ギラギラと光る瞬きの一つ一つに、人の欲望が、時には命すら燃えているのだろうかと想像すると、この夜景を見て途端に背筋を冷やしてしまう……先生と共に、ずっと患者と向き合って来たからだろうか。

 あの一つ一つに先生が押し入って患者を……ああダメだ。そんな想像しちゃ。あり得るとは思いつつも思っちゃダメだ。

 

 と言う事で、今の想像は破棄。別の方向に思考を……

 

 向けた結果。今度は別の意味で、溜息を一つ吐く事になった。

 正直な話、まだ全く、納得できていない。先生の元から離れて修行を行うなど、全くもって実感がわかないのだ。

 

「……長かったんだなぁ」

 

 手のひらを見て、今更ながらに想う。昔、ティダードで戦っていた時は、ティダードから出ていく事すら想像もしなかった。あの頃の手は、まだ武人としては柔らかく、苦労を知らぬ手だった気がする。それが今では……

 

 ここまで変わり切ったのだ。月日も過ぎていて当たり前だろう。

 私の中で、いつの間にか自分の居場所は『ホーク先生の傍』というのが普通になっていたのだ。教わり、助け、助けられて。二人で生きて来た。

 そして、時間を気にする間も無い程に、私は必死だったのだ。

 それくらいに充実した毎日だった。苦しくもあったけど。苦しくもあったけど。

 

 だから……寂しい、とかではないのだ。本当に。先生が私が居なくなったからって地球上から消える訳でも無し、そもそもあの人は寿命以外では多分死なないだろうし。なんだったら患者に呼ばれたら地獄からでも蘇ってきそうだし。何時でも会える、というのがあそこ迄確約された人もいない。

 

 そもそも私の脳内に……『先生が居ない生活』と言うのが想像できないだけで。

 断言しても良い。多分、先生が傍に居なかったら生活リズムが崩れる。

 

「隣人が居なくなった事で病気になった人、なんて言うのも居たしなぁ」

 

 あくまでレアなケースではあるが。

 隣人と朝、いっつもゴミ出しの事で喧嘩になる人がいて。その人は、隣人が居なくなってストレスから解放され、健康になった……と、言う訳ではなく。

 寧ろ、生活から緊張感が抜けたその影響か、何とその後一月後に体調を崩してしまったのだという。

 

 人間に活力をもたらすのは、同じ人間だ。であれば、身近な人がいきなり居なくなったらそりゃあ生活リズムの一つだって壊れるだろう。

 

 ……先生の後についていくのは、何時だって命がけで。正直、何度『あ、終わった』と思った事か。スリリングどころの騒ぎではない。

 だがそんな危険塗れの生活をずっと続け、その中で腕を磨く事が、自分にとって当たり前になった、いや……なってしまった今。

 その激務を忘れ、修行のみに没頭できるのか?

 

「んんんんん」

 

 それどころか。折角の修行にも身が入らない、なんて笑い話にもならないのではないだろうか。いや本当に。生活リズムが崩れる、というのはそれくらいの影響を人間に与えるのである。

 師匠が居ない状態で、そう簡単に『良し、修行のメニューを多めにやってみよう!』とかでその分をカバーできる程人間上手くは出来ていない。それが出来るのは、心の強さがずば抜けているか、相当真っ直ぐに育った者くらいだろう。

 

 私は……うん、ちょっと厳しい。

 かと言って、先生に付いていくのは無理だ。今から断るのはちょっとどころではなく勇気が必要だが私にはそれはない。多分デカくなった顔二つに押し切られて『なんでもないです』とか言う未来が見える。

 

「となれば必要なのは……修行を続ける為の適度な負荷……か」

 

 生活リズムを崩さない為にも、やはり駐屯地の雑用とかを手伝うのは必須だろうが。しかしそれで先生と一緒に居た頃と同じくらいになるかと言えば甚だ疑問だ。やはり、寝床に着いた時、泥のように速攻で眠れるくらいで丁度良い。

 ワーカーホリックと言われてしまえばもうそれまでなのだが。しかし先生にそう、育てられてしまったのだから私の所為ではないと思いたい。いや、そのレベルで仕事をさせられていたとしても先生は私の管理をしっかりしてくださったので、健康に一切の問題はなかったが。

 

「さて、どうするかな」

 

 ふと、そんな事を考えていた所で……ふと、後ろに近づいて来る気配に気が付いた。顔を向ければ、三つの影が並んでいて――どうやら、彼等を私がねじ伏せた時の傷は、どうやらもう平気らしかった。

 

「――メナング」

「お前ら……どうした」

「いや、その……ちょっと来てほしいんだが」

「ん?」

 

 だが怪我が平気そうな割りには、その表情は、実に険しい。何かあったのだろうか、と改めて体ごと振り向いて、先ずは話を聞いてみる事にした。

 

 

 

「――私が、ハルティニを?」

「そうだ。お前が一番適任なんじゃないか、って」

「何を馬鹿な……子供を育てた事なんて無いんだぞ私は」

 

――曰く。

 ただ一人残されたハルティニを、一体誰が育てるか、と言う話には当然なった。しかし全員で育てるというのは前提にしても、明確に一人でも『親』が居る方が良いのではないかと言う結論に行きついた。

 言わば、代表役とでも言うべき存在が必要だろうという話である。子供の情操教育的に考えて、との事。

 

「でも、子供の育て方について一番お前が詳しいだろう。先生に付き従って、子供の診療だとかを手伝ったって言うのは聞いてるぞ」

「……それは」

「あの子の為にも親代わりはきっと必要だ」

 

 善意の他人だけでは、どうしようもない事は沢山ある。それは、明確な事実ではあると思う。問題は……どうしてそれを私に任せるのかと言う話だ。幾らなんでも私以上に彼女を育てられる人材など幾らでも居るだろう。

 

「人選を考えた方が良いと、思うのだが」

「……お前は何度もハルティニの下を訪ねていただろう。夫妻とも仲は良かった」

「俺達は何度か顔を突き合わせていたけど、お前程多くハルティニちゃんの様子を見に行ってない」

「医者って立場があるからな。そう考えると、お前が彼女の事についても一番詳しいだろうと思うんだが」

「ぐ」

 

 ……実際そうだ。

 私自身、先生の代わりにハルティニの様子を見に行っていた事もある。診察等はしないし出来ないが、彼女の様子を正確に話す事くらいであれば難しくもないので。

 故に彼女がどんなものを食べていたか、病気をしていたかどうか……そう言った辺りは確かに、良く知っている。というか知らないとマズいので。

 

 確かにそう言われてしまうと……

 

「だが、な。私は……その、なんだ。無骨な男だ。女の子を育てられるような、そんな器用な真似なんて出来ないし……両親を、失ったばかりの子だぞ」

 

 結局、ハルティニの両親の事については何も言えていない。

 仲間を失って多くの事が問題となる中で、最も難しいのは彼女に、どう事実を説明するかだ。もし迂闊なやり方をすれば、まだ幼い少女の心を傷つけかねない。

 そして、多くを説明する役割を担うのは……恐らく、近くで親代わりを務める者になるだろう。間違いなく。

 

 彼女の人生を下手すれば滅茶苦茶にするというその一点だけで、私がこの話を受けない大きな理由になる。両親を失うという最悪の運命に晒された彼女を、これ以上不幸な目に遭わせるなど、到底頷けない。

 

「彼女にとって、決して間違いのない人選を、だな」

「しっかり話し合って決めた」

 

 しかし、俺の言葉を、真剣な表情と言葉が寸断した。

 

「……俺達だって、雑にお前を選んだわけじゃない」

「引き取りたい、って奴もいたんだ。何人もな。その中には今ちゃんと子供を育ててる母親だって居た。居たけど……」

「でも、本当の親と同等に育てられるか、って言えば。まず無理だ。誰だってそんな事出来やしない」

 

 そう言って落ち込むその顔は……その年齢以上に、苦悩の感情で出来た皺で、歳を喰っている様に見える。どれほど彼女の事について真剣に考えたのか、その辺りを見抜けない程私だって節穴じゃない。

 

「それなら……本当にあの子の事を考えるなら……せめて、あの子をちゃんと健康に育てられる様な知識を持った奴に任せるのが一番だ」

「俺達もしっかりサポートはする……だから、考えてくれないかメナング。両親を失ったあの子を、不幸のままでなんか終わらせられない……もしそうなったら、あの世の二人に顔向けできない」

「頼むよ……!」

 

 ――彼女の顔を思い出す。

 まだ彼女は、両親が死んだ、と言う事実を知らないし……余りにも重たい事実を受け止められる年じゃない。寧ろ、受け止められないのは当然だ。それくらい、彼女は両親に愛を注がれて育てられたのだ。

 その穴を埋めきれない……だとしても、出来る事をしなければならない、というのは間違いない。それが、せめてもの手向けになるだろう。

 

 迷っている暇は、無い、か。

 

「……はぁ、全く。私には修行だってあるんだぞ」

「うっ」

「いや、それは……」

「か、考えてなかった……」

「――だが、先生であれば、その程度は両立して然りだろうからな」

 

 であれば。

 彼女の両親の為にも、ハルティニの為にも。故郷に平和を取り戻し、彼女を無事に育てるのは……うん。良い感じにズシッと来る。

 気合を入れて、一つ厳しい修行にも打ち込めるという物だ。

 

「メナング」

「彼女が……もう一つの故郷にも無事に帰れるように。成し遂げよう。彼女を育てるのも、故郷を取り戻すのも」

 

 私の未熟な腕で、何処まで行けるかは分かったものではないが……やらないという選択肢は、初めから存在しないのだ。なら、腹を括って突っ込むとしよう。

 何時だって後先考えない、あの人の弟子らしく、な。

 




ヨシッ!!!! これでハルティニちゃんはメナング君の娘になったな!!!!

……と言う訳で、作者のガバから始まった断章一つ目、終了。どうしてこんな惨い事になってしまったのか。全ては作者のガバが原因でございます。ハルティニちゃん本当にごめんなさい。
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