史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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Episode MG1:とある殺人拳の日常

「――んー、いいわァ……最っ高ゥ……」

 

 本物の金と見紛う程に艶やかさを見せる黄金の髪と、男ならばむしゃぶりつきたくなるような……余りにも『下品に』豊かな肉体。色気重視のグラビアアイドル、等と表現するのすら憚られるようなプロポーションに加えその肌は、瑞々しくシャワーの水滴を弾き返し一切の皺も見えない。

 年齢を他者に問うたならば、二十代前半、それも『若さ』に依る美の真っ盛りと、確信にも似た答えが返ってくるであろう彼女はしかし……その実年齢、四十代にすら差し掛かる一歩手前の女性だ。

 

 彼女は美の維持に一切の妥協をしなかった。故にこそ、このアンチエイジングっぷりである。その肉体は『肉欲』を駆り立てる様に、完璧に調整されていた。

 彼女にとって、他者を魅了する肉体、というのはステータスだ。何者をも触れ難い美貌と言うのも悪くはないが、個人的な趣味で、其方にチューニングを振っている。

 

「やっぱりィ、一仕事ォ終えた後のォシャワーってばァ、たまらなァいわァ……」

 

 そして――そんな彼女は、今、どんな仕事をしているのか。

 シャワーを借りたホテルの一室は、彼女の今日の仕事場でもあった。標的が居る場所に窓から堂々と入り込んで、心臓を一撃。簡単な仕事ではあったが、それでも仕事は仕事。彼女は仕事に貴賎を付けない。やり遂げたのだから達成感はひとしおだ

 

 ジャック・ブリッジウェイ。

 

 『闇人』としてはまだ新参ながら、次期一影九拳の候補として先ず名前を挙げられる程の急成長株。しかし、当人にはその気は一切なく、自分の好きな仕事を好きな様に受けるその奔放さから、決して歓迎する者ばかりでもない奇人変人。

 そして、現状『暗殺』という一点に置いて、世界最大の国家の一角、アメリカから警戒を受ける『闇』の要警戒人物の筆頭でもある。そんな彼女は今……

 

「特にィ、JAPANのホテルってばァ、何処もォ外れがなくてェ、いいわねェ」

 

 日本に来ていた。

 

 

 

 ジャックは、日本が好きだ。

 化粧品の出来も良し、食事も美味い、清潔で、綺麗だった。自分のホームタウンとは大違いの国だ。

 何より、平和なのがいい、と個人的に思っている。それを何時も同じ『闇』の武人に言うと信じられない者を見る目で見られるが、別に気にした事もない。

 

 戦乱を求める性格か、と言えば違うと彼女は答える。

 戦乱と言う醜い時の中で、自分が輝けるか、と言われれば違う。確かに武人として輝きを放つ事は出来るだろうが、しかしそれは自分の望んだだけの輝きを発せられているかと言えば違う。

 彼女は、自分の『美』がこの平和な時代であるからこそ、兎も角一際輝くのだと考えているのである。

 

 矛盾だらけ、と他人は言うが。彼女はそうは思わない。

 例えば、周りが赤ばかりなら、真紅は確かに目立つは目立つだろうが、そこそこどまりである。しかし周りが白ばかりなら。真紅の目立ち方は文字通り、群を抜いている。

 平和と言う『白』の中で、自分と言う『真紅』は誰よりも輝く。彼女はその事を一切疑っていない。

 

 では、その『赤』は周りの白に伝染しないのか。自分の行為が、世界を『赤』に変えはしないのか、という疑問も、当然問われた事はある。だが、彼女は全くそうは思ってはいない。

 自分が請け負っている仕事は、『白』の中で生まれた『赤』、所詮は異分子だ。それを自分が請け負おうとも、『白』という時代は覆らないと思っている。誰かが明確に『白』をひっくり返そうと大きな仕掛けをしなければ、大勢は決して動かない。

 

 彼女は、ある意味、今こうして成っている太平の世を信じてもいるし、そうでないといけない――それが、平和を維持するという意識を放棄した、ロクでもない身勝手で邪悪な思想である事は間違いないのだが――と思っている。

 

「――おーいしィ。高いのもォいいけれどォ、こう言う店の味もォ、中々よねェ」

 

 ホテルの一室で、牛丼を貪りながら。

 というか、彼女的には太平の世じゃないとこんな美味しい物を食べられないので勘弁してほしいとすら思っている。彼女は基本的に武人ではあるが、俗物でもあるのだ。明らかにそこらとはサービスや、施設のレベルの違う『質の高い』ホテルでファストフードを貪るその姿から、それは余りにも分かりやすい。

 

「っはぁ……満足ゥ」

 

 さて。

 米一粒残さず全てを平らげた後。チラと眺めるのは、世界最新型のノートPC。漸く膝に乗せても膝を痛めないレベルまで改良されたその画面から眺めるのは、最近整備されたらしいアクセサリー店のHPだ。まごう事無きセレブ向けである事をアピールしているその店に、今日の照準を定める。

 日本に来たならば、メイドインジャパンの質の良い品物を沢山仕入れて帰るのは彼女にとっての基本だった。

 

 仕事も終えて、数日中には日本を離れる――故に。

 ここらで気合を入れて観光でもする積りで、ベッドから腰を上げた。

 

 それに、日本で手に入れられるお土産と言うのは、物ばかりではない。

 ……今や、世界的な武術が集まる、渦を巻く、武術大国の日本。彼女にとっては、ある種最高の『ショーウィンドウ』ですらあるのだ。

 

 

 

 自分が注目される事を、彼女は実に好む。故に堂々と町中を歩くし、こうして普通に店にも寄る――裏の人間だからと言って、闇の世界ばかりにいるというのは出来ない。表があるからこそ裏がある。裏だけで生活はなりたたない。

 

「それじゃァこれェ、貰ってくわねェ?」

「お、お買い上げありがとうございました!!!」

 

 それに、彼女は良く知っている。

 こうして無辜の民が周りに居る状態で、迂闊に自分を捕まえたりする為には仕掛けて来ない、と言う事は。

 

 自分の事を目の敵にしている表の住人達は、前提として。自分の事を魔界の猛獣か何かと勘違いして迂闊に戦いを挑めば周りを巻き込んで凄まじい事になる――と思っているフシがある。

 別に周りのそんな奴らを殺す意味も、ジャックには何もない。勘違いしているようだが、彼女は依頼を受ける先を一切差別しないで、何処からの依頼も受けるのと、強い武人を見たら自慢の踵が疼くから、そりゃあ殺害数はそれなりになるだけで。別に誰彼構わず殺す狂犬的な一面など、ほんのちょっとしかない。

 

「良い買い物ォ、したわァ」

 

 そんな事情もあって、自分が堂々と買い物をしていようと、仕掛ける事が出来ない。人数が多いこういう場所ではそんな事は出来ない。それを自覚し、故に堂々と表を歩く。

 彼女は強かで、実に狡賢い。

 

 そして、もう一つ。

 自分と言う真紅もそうだが、白の中に『赤』か、若しくは『青』に輝くものが居ればそれはとても目立つ。映える。美しく。平和な世界だからこそ、本当に強い存在と言うのはより輝いて見えるのだ。

 自分の様な存在とは正反対の位置に存在する、同じように強い『活人』の武人というのはこういう街中でこそ存外と出会えるのである――決して、あのハゲ野郎を探している訳ではない。彼女的には。と言うかあのハゲは活人とか、そう言う区分に存在しない。

 

「さァて」

 

 折角日本に来たのだから、と化粧品店の外、そこそこ行きかう人の群れをちら、と見つめてみる。どこに『獲物』が居るかは、本当に分からない。こういう時こそ、意外な出会いがあるかもしれない……乙女の如く、ジャックは胸を躍らせてそこら中を歩く白を見つめて――

 

「……あらァ」

 

 意外にも、簡単にそれは見つかった。

 恐らく、買い出しに来たのだろう、大量の食材を持った――黒髪を二つに括った女性だった。自分より小柄な女性……一見、一般人にも見えるが、しかしながら、その歩く姿、足運びには間違いなく、『武』の匂いがする。

 それどころではない――自分より、間違いなく若い。それこそ、成人してそこまで経ってはいないだろう。だというのに彼女からは、とても濃い『武』の香りがしていた。

 

「いいじゃァん……あの子ォ」

 

 踵が、疼く。ティダードで一つ弾けてから、ちょっと本気を出せそうな相手を見つけるのは久しぶりだ。とはいえ不意打ちなんぞ美しいやり方ではないし……戦うのは()()()()()だろう。

 ちゃんと誘ってから一つ、話でもしてみるのがベスト。

 

「――」

 

 一歩、踏み出して。人の合間を縫うように――そして、誰にも気取られない様に。下手な騒ぎを起こして逃げられるなんて、一流のやり方ではない。ちゃんと、彼女とだけ話したいから、と。少々と、本気で動いてしまった。

 

「ふぅ……これくらいあれば、結構持つ、かな。父上も勤さんも、食べるからね――」

「ねェ、お嬢さんゥ」

「――っ!?」

 

 ねぇ、と話しかけた時点で既に、自分から一歩距離を取っている。良い反応だ。此方を見つめる瞳は真っすぐで、その輝きは正に宝石の様。ますます好ましい……とはいえ、まだ、戦うつもりはないので――一つ、警戒させないためにもとニッコリと笑って見せた。

 それを見て、構えられかけていた拳がピタリと止まる。間を外されたようで、その表情についふふっと笑ってしまったのは、不可抗力だと思った。

 

「ちょっとォ、お茶しなァい?」

「……誰なの、急に。それに貴女」

「うふふふ、そうよォ。アンタのォ御同業ぅってェ、奴ゥ」

「何が御同業よ。その血の香り……誤魔化せてない」

「誤魔化すゥつもりィ、無いしィ?」

 

 そうして話している間にも、ジャックは、アスファルトに踵を叩きつけて鳴らして聞かせて見せる。当然、誰に聞かせているかは分かり切っている。そして、どういう意味で聞かせているのか。

 目の前の少女の顔は、このコツ、コツと言う音が何の為の物なのか、理解しているのだろう。逃がすつもりはないという、強い警告音だと。

 

「大丈ォ夫よォ……今はアァ、やりあうつもりィもォ、無いからァ?」

「――どうやってそれを信じろっていうの」

「私からする匂いでェ分からないィ? やる気があるならァ……何処でもォ関係なくゥやってるってェ」

「っ!」

 

 ――嘘である。

 そんな醜いマネはしない。自分の美学に賭けて……だがしかし。それを馬鹿正直に言った所で誰が信じるか。ので、自分が凶暴で、理性無い獣である、という風な仮面をちらと見せてやるのだ。そうすると――

 

「分かった。だから、変に暴れないで。ここは――」

「えぇ。私だってェそこまでェ見境ない訳じゃァないしィ?」

 

 こうしてオッケー出してくれることも案外あるのだと、彼女は良く知っている。

 こういうモノ言いも、裏で好き勝手やるには意外と必要なのだ。故に――本気で彼女を仕留める積りは、()()何処にもなくても。




メスガキちゃんの傍若無人ぶりを、先ずは全力で描き上げてみました。

タイトルのMGは皆さんもお分かりの通り、『メスガキ』の略です。
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