史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第一回・裏:とあるシラット使いの憂鬱

「――先生、珍しいな。遅刻とは」

「父様すみません。目撃証言得られませんでした」

「あ、あぁ。うん。ありがとう……遊んでこなかったのかい?」

「いいえ。父様が困っている模様でしたので」

「そうか……そうかぁ……うん。なんだか、すまない」

 

 羽田。成田と共に日本最大級の国際エアポート。相当数ここは利用しているが、昔より更に便利になったと思う。子供が喜びそうなエリアも増えた……のだが。どうやらハルティニを子供にするような程ではなかったようで。

 

 最近、どうしてかハルティニが周囲の子供たちよりも物凄い冷静というか。いや、聞き分けが良いというのは悪くは無いのだが……いや、うん。正直に言うと心配だ。父親代わりとしては。

 皆で、ちゃんと愛情を込めて育たつもりだ。私が主導となって、多くの事を教えた。教えたのだが……いや、もしかしたら礼儀とかその他諸々とか些か以上に頑張って教え込み過ぎたやもしたりしれなかったり……

 

 ので。

 まぁ、あの、気晴らしになれば、と。こうして連れて来た先でも、色々と……こんな機会にお小遣いを渡して『好きに遊んでおいで』とかしている。構いすぎという自覚もあるにはあるので……まぁ……うん。上手くいってはいないのだが。見ての通り。

 

「そうか……じゃあ、先生を探そうか。そうしたら皆一緒に食事でもしよう」

「それよりも先生のお仕事を優先した方がいいのでは?」

「あ、いや、その……だ、大丈夫! 先生だって食事を取らない訳でもなし、流石にアメリカからの長旅だ、腹だって空いているだろう、うん。うん」

 

 ……もしかしたら。もしかしたらだけど。先生を『先生』と呼ぶくらいに、旅に同行させてしまったのが、一番良くなかったのかもしれない。可愛い子には旅をさせよ、という言葉もあったからと、本当に旅をさせたのが悪かったのか。

 

「――いえ、やっぱりダメみたいです」

「えっ?」

「アレを見てください。先生が先生らしいです。とても」

「えっ?」

 

――等と悩んでいる暇は私にはない模様だった。ハルティニが指さす先、ガラスの窓の向こう側に……見えているモノ。うん。モノだ。私としては、とっても胃が痛くなるような事態が展開されている。

 

 人だかりの中心に明らかに他より一回りは大きな影がしゃがみこんでいるのが見える。一体なぜそんな事をその人物がやっているのかは、もう私にとっては常識の範疇でしかないのだが問題は……それを先生が『滑走路』でやっているという事だ。恐らく、滑走路の辺りで見つけた患者に、飛行機の中から襲い掛かったのだろう。うん。

 

「――行こうか」

「はい」

 

 分かった。

 たぶんハルティニがこうなってしまったのは、私の所為だと思う。うん。

 

 

 

 

 

 

「――先生!」

「む、メナング。ちょうど良かった。処置は終わったので、これから病院に運ぶ。支払いと説明を任せたい。それとこれはハルティニへのお土産だ。バンダナ。似合うといいのだが……」

「ありがとうございます」

「先生先生ッ! 展開が! 早いです! 待ってください!」

 

 振り返り、立て板に水が如き勢いで喋るこの人は、もうなんていうか、いつもどおり過ぎる。ジーパン、白シャツの上に新品の白衣を常に纏って、治療用に持ち歩いているカバンに、使った器具を丁寧に戻す姿は……ギリギリ医者に見える。

 だが、いつも以上に光り輝いている禿げ頭と、そのあまりにも人相の悪い見た目に周りの人だかり――武装していないとは言っていない――に囲まれ、最大限の脅威と見做されているのか睨まれているのがあまりにも見慣れた光景過ぎるのがマズい。医者なのに。

 

 いやまぁ、ある。押しかけ治療してるときなんか、感謝されるばかりではない事も幾らでもある。なんだったら先生が『護身術(自称)』を極め上げたのも、治療押し売り……いや押し売りですらない辻治療を行った結果として起きた患者への『制圧』の為に身に着けたのだと言うし。

 先生にとっては、この程度は慣れた事……慣れた事なのだが。しかし。

 

「だから! 先ず辻治療する前に説明とかその他諸々を行ってからと、あれほど!」

「それでは間に合わないと判断した」

「鋭く切って捨てないで!!!」

 

 一般人は慣れていないので私がクッションになる必要があったのだが今回は間に合わなかったという事で。一つ。一つではない。全く。

 

 だって理屈は分かるけどちょっと冷静に……の所をこの人は全然ブレーキ踏まないから。どうするんだこの周りの警戒心満々の空港警察の皆様は。不審者を見る目で見られてる。実際不審者だけど。

 

「後それから。先に言った梁山泊への使いは君に一任する。すまない」

「えっ!? す、すまないじゃないですよ、先生が直接行くという話では!?」

「患者を優先したい。それに、患者を優先した場合、その後に控えている谷本君との約束の時間にはなるだろう。患者の家族への説明を怠るわけにはいかない」

 

 そして私に対してもそんな先生の狂気ぶりは止まらない。

 

 こうして見ていると、思う。

 ハルティニの、あの冷静で、ちょっと行動的な感じは、間違いなく先生から受け継いだものだとしか言えない。決してどんな時でも、慌てず、自分や周りにとって最適な行動が出来るように、賢く、強い子に、頑張って育てようとした結果、その最適にして最凶の答えに辿り着いてしまった感じがする……

 

 先生は、ハルティニの事も良く可愛がってくださった。

 

 皆の治療法の探索、各地での治療の旅、達人から舞い込む高額の依頼、そして……ある組織に関する調査も行っていた、そんな多忙の時期。

 恐らく、彼の人生でも、トップクラスに忙しい時期であるにも関わらず、先生はいつも以上のバイタリティを持ってそれに当たり、その上で一定の成果を出しもして。

 

 私が再び先生の旅に同行するようになった頃に、それに加えてハルティニの相手もして貰っていたのだ。小児治療への知見を深める意味もあったらしいが、しかしそれ以上に愛情深く接してくださっていたとは思う。

 だが、それが、多分こうなってしまった原因だと思う。

 

「それに梁山泊への報告は、最悪俺でなくてもいい。急ぎの用ではあるが」

「それは……」

「最早武術の階位としては、一つの高みに昇った君を信頼しての事だ。頼むぞ」

 

 ……別に、先生を参考にするのは悪い訳ではない。先生は、恐らく私の知る限り、最も頼りになる大人ではある。私の仲間の治療法についても『一定の成果』を出すまでは絶対に手を抜かず、徹夜すらしてくださっていた先生に感謝こそすれ、悪感情の何れをも抱ける訳がないし。

 

 私がここまで成る事が出来たのも……結局は、先生に頼った部分があるし。

 

「――分かりました。その任は、必ず」

「頼む。それと――ハルティニは、此方で預かるか、君が連れていくか。私は仕事が終われば直接ホテルに荷物を預けに行くが……」

「あ、いえ。先生のハードスケジュールにつき合わせるのはその子にはあまりにも酷が過ぎると思いますので」

 

 だがそれにしたって、そろそろ止めないとマズい気がする。ここ最近は私がいない時も連れ回している時だってあるというし。なんかこの前は『アパって言う人と知り合いになりました』とかいうし。なんだろう。アパって言う人って。

 

「そうか。なら――」

「いいえ。先生のお仕事に、お付き合いします」

「――分かった、私が預かろう」

「どぉぉおおしてぇええええっ……」

 

 しかしながら私が止めようとしてもハルティニがとても行動力が強い。

 どうしてだ!? どうしてそんな話になった!? というか先生もそんな『そうか、じゃあ行こうか』くらいの感覚で了承するのはちょっと!! 

 

「ま、待つんだハルティニ」

「父様は先生の事が心配だとは思うので、私が傍にいれば少しは安心するのではないですか? これからお使いに行かないといけないなら、私は邪魔になるかもしれませんし」

「いや、いや……いやぁ……」

 

 ……ギリギリ、多分安心が勝つ、かな。先生が何をしでかすか分からない+ハルティニへの心配から、先生と一緒にいる事での安全性とハルティニが一緒にいる事でのブレーキの存在への安心を考えると……多分だけど、ギリギリ。

 いや、でもだからと言って彼女の一応父親役なのだから、それに頷く事は出来ない。彼女を守るのは私の――

 

「では先生、お供します」

「分かった、俺の懐から絶対に顔を出さない様に」

「分かりました」

 

 ああもう娘の行動力が非常に高すぎて嬉し涙と一緒に別の涙が出てきそうだ……引き留める時間なんて無かった。即断即決だった。

 正直、一番似てはいけない人に似てしまった気がする。環境が人を育てるというのはまんざら嘘ではなかったようで……うう、もうちょっと、もうちょっとだけ天真爛漫に育ってくれても全然よかった。良かったんだ。

 

 でもそうはならないのだ……私がもっとしっかりしていれば、ここまで彼女が『しっかり』とする必要は無かったんだ……あぁ、うぅ。

 

「ではメナング、また後で」

「父様、頑張ってください」

「ハルティニ、跳ぶから掴まっていろ……ヌゥンッ!」

 

 そして。

 

「……あぁ。うん。頑張るよ。行ってらっしゃい」

 

 先生は、私の目の前から軽く跳躍して、明後日の方向に跳び去って行く。空港のアスファルトには、ヒビ一つ入らず綺麗に残った足跡。

 それを見て、私は空港警察の皆様に、身分と事情の説明、そして空港の滑走路を傷つけた器物破損についての謝罪などを、全力でしなければならない事に……天を仰いでしまった。




※因みにこうして話している間も空港警察の皆様は摩股やら構えて包囲を解いていません。ホモ君は一切その事を気にしていません。
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