史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二回・裏:日本上陸するメスガキ

「――それでェ? 間違いなくゥ日本に居るのねェ? ()()()はァ」

『えぇ。間違いないですよ『ジャック』サマ……んで『神聖ラグナレク』に集める用の人材とかは……』

「えェ。ちゃんとォ、融通してあげるからァ……安心なさァい、『ラスカル(いたずら小僧)』」

『いやぁ、裏の世界でも伝説みたいなアンタと接触できたのは、本当にラッキーでしたわぁ……これからもWIN-WINの関係でお願いしますよ』

「それはアナタ次第ねェ。それじゃァ」

『へっへっへっへっ……そいじゃまぁ、失礼!』

 

 ピッ、と電話を切り……空中へ投げ捨て、そのまま粉々に蹴り砕く。

下手に隠すよりもこうして証拠を残さないのが一番、彼女にとっては楽だ。殺しに関しては小器用だし、世渡りもそこそこ出来る方だと彼女は自負しているが……別に表の世界で自分を取り繕う必要は無いと思っている。

 

 というか、そんな事をして自分の美貌がくすんではいけない。基本的に若くある秘訣はとある邪神に教わった若さの秘訣と、我慢しない部分では徹底的に我慢しないで好きにやる事である。ストレスが一番若さには良くない。

 とはいえ、その点に関して言えばあのコードネーム『ロキ』を使っているのは正直、ストレスの元になりかねない、と思う。

 

 今は、彼の情報網は結構便利ではある。正直な話、普通のハイスクール・ボーイが出来る範囲の諜報能力ではない。将来其方方向で鍛えたならば、『闇』の情報すら抜いてくるのではないだろうか。

 

「あとォ、ナマイキなのもォ……ちょっとねぇ」

 

 明らかに此方に媚びている様に……見せて、此方を傘として更にやらかす気しかしない。神聖ラグナレクとかいう組織を作り上げて反旗を翻す時に、自分の名を使う腹積もりなのかもしれない。

 言わなくてもいい組織の名前を態々口にして私に伝えているのは……なし崩しに私を関係者にしようという意図も混ざっているのだろう。子供だというのに全くもって可愛くない、寧ろ性格が悪い。

 

「疲れるのよねェ……ああいう子ォってェ」

 

 相手にしたくない手合い、NO,1まである。

 正直に言えば。あんまり長い事粘着されても困るし、さっさと離れて欲しいというのが本音だ。余計な事をされたら、殺意すら湧くかもしれない。

 とはいえ。態々追いかけて殺す事はしない。プロとしての美学に反するし、そもそもそんな事を一々気にする方が、明快なストレスになる。

 

「……ま、何とかなるかしらァ。別にィ」

 

 という事で。ジャックは問題を丸投げした。

 もう面倒だ、最悪面倒に巻き込まれても全部ひき肉にすれば何とかなる。

 

 達人というのは、割と自分が強すぎるせいなのか、大雑把な者も多い。きちんと頭を使う者も当然いるが……しかし、ジャックは何方かと言えば、大雑把な方であった。そしてそれを自覚してもいるので、考えても無駄だと判断するのは早かった。

 

「さァーて。買い物も済ませたしィ……どうしましょうかねェ」

 

 そもそもそんな事を考える為に、態々日本に来たわけではない。当面の『外敵』であるオガタが日本で『弟子育成プログラム』を行っているというのを聞いて、そこでなら奴を見つけることが出来るかもしれない、という私用……そして、それはそれとして、観光の為にも。

 

 オガタの方は雇ったスパイで、出来る限り探らせるとして。久しぶりに平和な日本を堪能するのも良いだろう。もしかすれば……あの時の様に、運命の出会いが、待っているかもしれないし。

 

「あの子ォ以上に痺れる事なんてェ……無いと思うゥんだけどォ」

 

 とはいえ、そういう自分の『運命』は向こうから歩いてくる訳がない。自分から歩いて見つけに行かねば。ジャックは、そういう所は変に生真面目で、ロマンを感じるタイプの女だった。

 

 とはいえ。

 一体何処をぶらついたものか……と、屋根を蹴っ飛ばして、空を駆けながら思う。今回は特に、狙った化粧品がある訳でも無く、アクセサリがある訳でも無く。本当にただ観光に来ただけで……

 

「……KYOTOでェGEISYAにでもォ、会いましょうかァ?」

 

 最速でペースを考えず飛ばせば、ギリギリ日帰り……も、行けなくはない。まぁ疲れ切った自分に日本の伝統文化を楽しむ余裕があるとは思えないが。まぁ比較的体力を使わない方の伝統文化だからセーフか、等と思いながら、もう一度思い切り空へと跳びあがろうとした――

 

 その時だった。

 

「――ん?」

 

 ふと、肌に何か……ヒリつくような感覚を覚えた。

 

「……ふゥん? あの時ィみたいなァ出会い……あるものねェ?」

 

彼女の優れた感覚。武術家としてとしての勘にも等しい何かが感じる、間違えようのない程に濃厚で新鮮な――『武』の気配。風を切る拳、深い深い息吹の音、そしてビンビンと感じる殺意……ではなく、澄み切った闘気。

 これは『血』の臭いのしない、極上の『活人拳』の気配ではないか。

 

「良いわよォっ! 目的地変更ォッ!」

 

ぎゅりぃいいっ、と自分の乗っていた屋根にくっきりとヒールの踵の跡が残る程の急ターン。それと共に、気配の感じる方向へと鼻先を向け、ゆっくりと屈みこみ。いつも通りの全力跳躍の準備を整えて――

 

「――っと、そこまでね」

 

 しかし、その一歩を踏み出す直前で、突如として目の前に立ち塞がって来た影に、出鼻をくじかれた。

 幾ら此方から仕掛けるつもりで気を抜いていたにせよ。まるで気配を感じ取れなかった事に、目を見開く。相当に腕のいい、特A級の『静』の武術家である事は間違いない。

 

「……ちょっとォ、折角のお楽しみィ、邪魔しないでェおじさまァ?」

「そういう訳にもいかんね。お嬢さん」

 

 男だった。大柄ではない。小兵、ではある。中華風の服と、被った帽子の下から覗く瞳は、拍子抜けするほどに透き通っているが、しかし……感じ取る臭いは、股座が熱を帯びる程に強烈。今すぐに命のやり取りの一つでも始めたい所ではあるが。向こうにその気がない事は、何となく感じ取れてしまう。実に残念。

 

「『闇』とおいちゃん達は長年不可侵を結んでいる。そちらから仕掛けられたら迎撃するしかないね……ここは退いてもらいたい」

「――あらァ? 女人がお好みでェ、見境ない……ってお噂ァ、まさかガセだったかしらァ? 『あらゆる中国武術の達人』、馬 剣星ィ」

 

 知っているからこそ、それは余計に。

活人拳として、恐らく頂点に位置する達人の一角であろう男、馬 剣星。無数の中国拳法を手足の様に自由に使いこなす、鳳凰武侠連盟の最高責任者を目の前に、恐らくは舌なめずりだけで終わらせなければならない、というのは……

 

「おいちゃんとて、流石に闇人が達人の一角、『貫きジャック』こと、ジャック・ブリッジウェイを前にしては、ちょっとはシリアスにもなるね。馬家の秘奥義をお見舞いしたいのは山々だけども」

「ふゥん……私の事ォ、ご存じィ?」

「いやでも耳に入ってくる。先日も、同じ『闇』の一角すら食い破ったその凶悪さ加減は」

 

 まぁ無理矢理仕掛ければ何とでもなるだろうが……それこそ、彼が言った一件の時の様に、雑に挑発すれば『ノってくる』とは思えない。まぁ胸やら腿やらちらりと見せればもしやすれば釣れるかもしれないが……そんなやり方で戦うのは、些かと美学に反する。

 それに。足手まといが居ては、最大出力も発揮できまい。

 

「――貴方だけ、って訳でもなさそうねェ?」

「お節介焼きの弟子がね……おいちゃんも若いね、緊張した顔を見せてしまった」

「なるほどォ……オーライ、今日は一旦ゥ、お暇するわァ」

 

 ちらり、と視線を向けた先。そこに居る少年が『そう』だというのは余りにも分かりやすかった。鍛え方が違うし、そして何より……

 

「良い目、してるわねェ……強くなるわよォ、ああいう子はァ」

 

 折れない、目をしている。

 

「それが分かる貴女が、『闇』として生きている事に些かと寂しさを感じるね」

「――生き方なんてェ、人それぞれよォ? 私はァ、命のやり取りの()()()を知っちゃったしィ。まぁでもォ貴方達のォ、あり方はァ……嫌いじゃないわァ」

 

 くるり、と背を向ける。その一瞬、明らかに自分の臀部に視線が向かったのを感じ取ったがしかし……軽く腰を振って、寧ろ挑発してみたりする。

 そこで明らかに『何か』熱い闘気……ではない何かが膨れ上がったのを感じ取ったがそれでも、飛び掛かってはこない。恐らくは、寸前で堪えたのだろう。

 達人が誰も彼も高潔な武人という訳でもない。寧ろ、結構『人間臭い』後ろの男はジャックの好みだった。どこぞのハゲとは真逆だ。

 

「今度はァ……我慢しないでェ、追いかけて来てねェ?」

「……」

 

 そう言い残し、ぴょんっと屋根を蹴って空へと跳ぶ。

 当面の『お楽しみ相手』確定で良いだろう。まだまだ『蒔いた種』が孵化するには時間がかかる……それまでの繋ぎ、にしては豪華すぎる相手だ。

 

「ん~っ、良いィ拾い物したわァ……!」

 

 思わずスキップしてしまう。アレだけの達人と血で血を洗う様な殺し合いが出来ると思うと、そりゃあ武人ならば誰だって楽しみにもなるだろう。たぶん自分だけかもしれないが、とも思うが。

 

 それに。

 思い出す。何処か平凡そうな馬 剣星の……否、『梁山泊』の弟子。

 明らかに単一の武術を習っている鍛え方ではない。何方かと言えば……あらゆる『蹴り』のエッセンスを取り込んでいる自分に近いものを感じた。

 そして馬 剣星と言えば、『闇』に相対する武術集団、『梁山泊』が豪傑の一人。恐らくはそこの達人たちが、彼に全てを注ぎ込んでいるのだろう。

 

「……あァ~イイッ!!」

 

 一歩、跳躍する度にその目を思い出して、ゾクゾクとする。

 ああいう目をした人間は、『育つ』。才能の云々など関係ない。

 

 自分の一番大嫌いな男にも似ているが……しかし、もっと純粋だ。というかあのハゲはもう気が狂っている。全然違う。

 

 将来のお楽しみがまた一つ増えた。

 

「良いわねェ~……弟子って言うのもォ……」

 

 自分は取った事が無いが、ちゃんと育てればあそこまで愉しみな逸材を育てられるとなると……魅力的に見えてくる。

 自分磨きは何処までもやるつもりではあるが、そのやり方を変える事も考えるような年だ。自分も。そう考えると……『師匠は弟子を育て、弟子は師匠を育てる』という昔ながらの教えを試してみるのも、悪くない。

 

 とはいえ、自分が誰かを育てられる人間ではない事は良く分かっている。多分生中な人材では、一週間でぶち壊しかねない。

 

「そこそこォ才能あってェ、流されやすくてェ、ちょっとくらい生意気だトォ、長持ちするのよねェ、経験上」

 

 しかし、とどっかしらの学校の屋上に着地しながら思う。そんな丁度いい人材、一体どこに居るものか、と。

 

闇にも『弟子』に出来るような人材を斡旋してもらうシステムはあるのだが……自分はゴリゴリの我流で、弟子に伝えられるような体系化された技を持っているか、と言えばちょっと微妙だ。そんな自分が『真っ当な』武術を学ぼうと煮え滾っている若い人材を引き取った所で。

 

「はーっ……今日ってェ運いいしィ、ついでにィ、ちょうどいいティーンとかァ、見つからないかしらァ」

 

 取り敢えず、学校の上から周りを見回してみる。若い奴らは居るのだが、しかしなかなかピンとくるような人材は……

 

「――あーもーっ! なんだよ! 全然おでこちゃん見つからないんだが~!?」

 

 ……視界に、ある『少年』の姿が止まる。

 

 ツンツンと逆立った短い髪。

 足を振り回して、児戯にも等しい蹴りで空をかき回しているが……しかし、どうやら足技を重視しているのは間違いないらしい。

 才能はそこそこ。そして我もそこそこ強いが、強者には流されやすいタイプと判断。

 周りに遠巻きにされている辺り……孤立している模様。

 

「というかキサラ様も無茶言うよなぁ……何処の女の子かも分からないのに探し出せってさぁ。っていうか、『蹴り』の古賀様のやる事じゃないよね、こんなジミ~な仕事さぁ。下っ端にやらせればいいってのに」

 

 地団太を踏んで口から飛び出す台詞は、実にチンピラじみていて……何処か『ホーム』の事を思い出す。まぁホームの『筋金入り』よりは甘ちゃんではあるが。それでも一つの武術を真面目に修めるタイプよりは、指導しやすいだろうか?

 

「――いるじゃなァい」

 

 

 

 

 

 

 結論として。

 ジャックは、生来初めて、自分より二十歳は軽く若い少年を、真昼間から誘拐する事となったのである。

 




なんでロキがあそこまで真剣だったのか……単純にラグナレクを思っての行動である訳ないよなぁ!?(震え声)
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