史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「ふぅ……」
頭に嵌めた環っか型の飾りを外して、一息。歓声は鳴り止まないあたり、会心の出来になった事だけは確かだろう、と心の中でフン、と鼻を鳴らしたりしてみる。
とはいえ――続いて入ってくる役者が居るので顔に出したりしないが。特に今回、ある理由から接触した、あの女性には絶対に晒せない、と谷本夏は……後ろをちらりと見ながら思う。
自分の後に続いて、入って来た金髪の女性……風林寺美羽は、先ず間違いなく自分よりも格上である事は間違いない。彼女と仲の良いあの男と何をしようと思っているかを考えれば、下手な隙を見せないに越した事は無いだろう、と思う。
「お疲れさまでしたわ、谷本さん。本当にお上手ですわね。本物の孫悟空が現れたと勘違いしてしまう位!」
「いやいや、ああいう荒々しい演技は得意じゃなくて……本当に、偶にしかやらないんだよ、アハハ……」
嘘だ。
本来はアレが素だ。ぶっちゃけた話をすると。何時もは『優等生』として猫被っているが、それが面倒になった時、こうやって割と暴れられるタイプの主役になって鬱憤をしっかりと晴らす事にしている。
演技は得意ではあるが、別に好きでも嫌いでもないのでいつまでもはやっていたくはないというのが本音で。ラグナレクで暴れている時も発散はできているのだが、まぁそれでも足りない時はあるので。
まぁ正直、ああいうタイプの演技……というか、自分の素を曝け出せばいい感じの演劇は、スッキリするし楽しい、というのは正直、ある。
それに、最近は、俺の師匠である馬 槍月の事もあった。
自分に中国武術の全てを伝えるように依頼したのも遠い昔。ここ最近は放浪癖が再発した挙句、完全に行方が分からず俺はずっと自主トレ中と来た。
契約違反にも程がある。怒りのあまり、取り敢えず身近な知り合いに行方を聞いてしまった程で。その結果。
『――槍月か? ……あぁ、うん。詳しくは分からないな。うん』
嘘が致命的に下手すぎだという事に改めて気が付かされた。あのハゲ先生は。
恐らく、自分に知らせない様にあの不良師匠が根回しをしていたのだろう。しかしまぁ明らかに困っているのが丸わかりで。俺の恩人に何を迷惑かけてくれてんだと。若干イラっとした。
後、俺よりも序列の上の拳豪から『捜索に加われ』と熱烈なラブコールを受けていて大変にうっとおしかったというのもあるし。
なんなら、ごく最近に出会った謎の宇宙人野郎の言動が想像以上に精神を逆なでして来たというのは、相当に大きな理由だった。というか『白浜兼一と会わせろ』と口にしただけなのに馬鹿程逃げられた、そんなに怖いか。
まぁそんな色々とした理由から、部活において当初のロミオとジュリエットから『西遊記やるぞ』と突然言い出して劇の内容を変更してしまったのはちょっとしたお茶目だ。あぁお茶目だとも。演技や小道具やらは突貫作業になったが、自分のワガママなので何とかした。
まぁその結果として、大分本来の目的からはズレた気もするが、まぁいいと割り切る事にする。一応はこちらの目標と接触は出来たので。
「お疲れ様風林寺さん。助かったよ」
「いえいえ、私も結構貴重な経験が出来ましたので、お相子ですわ」
「そう言ってくれるとありがたい。それじゃあ……」
別に相手と顔を合わせる必要なんざないが……けれどもまぁ、どうせ殴り合うんだったら、相手の為人を知ってからの方が、気持ち良くやれる、気がする。
……なんだか、あの医者先生と関わる様になってからっていうもの、妙に律儀になった気がする。根本からしてそこらのゴロツキと薄皮一枚くらいしか違わないというのに。
「――っと、行ったか」
さて。
恐らくは風林寺も、自分が目標としてる男に会いに行ったのだろう。客席に姿が見えなかったが……外から見ていたのか? まぁ、それは良い。
服のポケットから、ラグナレク第六拳豪としての証――『Ⅵ』のエンブレムが取り付けられた黒い手袋を引きずり出してから、両手に嵌めて――その途端に、カチリとスイッチが切り替わる音がする。
学生としての自分から、武術家としての自分に。
これから、自分は真剣勝負に入る。
今の自分にとって、強さとは『楓を守るため』のモノであり、ただ単純に『追い求めるモノ』でもある。故にこそ、ただのケンカであろうと、相手の武術のレベルが我流とも呼べないケンカ殺法であろうとも、相手と仕合う事は大きな経験値になるので、真剣に行うのが基本だ。
それに加えておれが今狙っている相手、と言えば……最近、ラグナレクで噂になっている白浜兼一。
流石に俺程ではないにしろ、あのお気楽ボクサーを破り、脱退リンチとかいう数での暴力も破ったのをこの目で見ている。当然、真剣にだってなる。更に言えば、白浜は中国武術を扱うと聞いている。同じ武術を扱う相手なら、良い相手にもなるだろう。
「――手紙の主はお前か、ラグナレク!」
……随分とまぁ警戒されたものだ。別に取って食おうって訳じゃないんだが。まぁそれ以上の事をしようとは思っているし。そう言われることに否定は出来ん。
「
「ハーミット……ラグナレクの第六拳豪か!」
実際まぁ、風林寺に劇を手伝ってもらう――という体で、白浜の机に手紙を仕込んでこんな放課後の校舎裏に呼び出したのだから、警戒されるのも当然だろう。
正直、怪しまれないかギリギリの所だった。万が一、風林寺に見つかろうものなら目算は全て崩壊する。バレて風林寺とやり合うのは別にいいが、折角ちゃんと戦うと決めたら最後までやり切らないと、どうにも気持ちが悪い。ので、頑張って。隠した。
「こんな所に呼び出して、何のつもりだ!」
「はっ……分からない訳じゃないだろう。白浜兼一」
「……い、いや、分からない! サッパリだ!」
「とぼけるな! 貴様はラグナレクの兵隊を倒している。俺はラグナレクに属している……やる事は、一つだろう」
なのでここで逃げてもらっては興ざめ以外の何物でもない。なんだったら俺の努力が全て無駄になりかねないので許せねぇ。絶対に。
という事で……ここはひとつ、強めに牽制を入れておくに限る。
「――先に言っておく。逃げるならば、貴様の背後から襲う」
「うぅっ!? バレてる……!?」
「当たり前だ」
あんまりにも露骨に腰が引けてやがるんだ。分からねぇ訳がねェだろうが。
「――選べ、後ろから容赦なく襲われるか、真っ向から戦うか」
そう言って拳を構えれば、白浜ははぁ、と一つ溜息を吐いた。
流石にここから逃がしてもらえる、と思える程は脳味噌お花畑ではないようで、若干しぶしぶではあるが、拳を構えて此方を見つめてくる。というか、なんだそのあからさまに渋い顔は。お前チベットスナギツネでもそんな渋い顔しねぇぞ。
「僕の人生どうしてこうなったんだろう……放課後に手紙で呼び出されるって、もうちょっと甘いシチュエーションじゃないのかなぁ……」
「はっ、テメェ自分が誰にでもモテる面してると思ってんのか?」
「にゃにぃ!? い、今は僕の顔の話はしてないだろ!!」
「呼び出される自信があるってことじゃねぇか、今の発言は」
その渋い顔のままやられるのも正直ムカつくので、軽く挑発しておく。まぁ見れない顔って訳でも無いが、実際そんな美男子という程でもねぇ。少なくとも俺の方が……いや、そこは別にどうでも良いか。別に美醜なんざそんな気にしてる訳でもねぇし。
とはいえ、流石に挑発の効果はあったようで、明確にさっきよりも締まった顔をしてやがる。それでいい、やるのであれば真剣な方が良いだろう。
「……美羽さんの劇も見れなかった分も込めて、ちょっと怒ってるぞ僕は!」
「あぁ? テメェ見てなかったのか?」
「そーだよ!! せっかくキスシーンも無く安心して劇を……い、いや、あのイケメン谷本君との劇を見るのはそれだけでダメージも……うわーん!」
「ははっ、そりゃあ惜しかったな……風林寺のアクションは、中々見応えあったのによ」
――ふと
こうすればもっとやる気を出すのではないか、と思って。フードに手をかける。別に顔を隠す意味は……まぁ無いでもないが。それよりも、コイツと本気でやり合う方が楽しいじゃねぇかと思って。フードを払い……俺の素顔を晒す。
驚く表情。そりゃあそうだろう。目の前の男は、今さっきまでただの演劇部の部長だと思っていた相手だ。
「――っ!? 君は!?」
「ま、一番近くで見れていたってのもあるが……さて、どうする? テメェの一番大切な人を騙していた訳だが、俺は……」
「……谷本君、君の目的がなんであれ、美羽さんを巻き込むのは……」
「許さないぞ!」
「上等!」
そう。そうだ。俺はそのギラギラした目を見たかった。あの時、脱退リンチの中で見せた良い輝きだ。嫌々戦われては、こっちだって真剣になり切れん。
俺が求めるのは……本気の一騎打ちだ。闘志と闘志をぶつけ合う戦いだ。
久しぶりに、そんな勝負が出来そうで。ウズウズするじゃねぇか!!
岬越寺師匠「演技それなりに楽しんでるね。良いと思うよ」
谷本君「あ、ありがとうございます」
楓ちゃんは生きてるし、信頼できる大人も居るし、師匠との仲も原作よりも良いしで割とおいたわしくない谷本君、美羽さんを利用してケンイチを純粋に決闘に招くという原作ブレイクを仕出かす。
あと演技はそこまで嫌いでもないというどうでも良い原作との差異。