史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「かぁっ!」
先ずはあいさつ代わりの手刀を一発、横へと滑らせてこめかみを狙う。様子見程度とはいえ生中な相手ならこれだけでダウンを取る事も難しくない。
というか、先生をサンドバッグにしておいて、そんな半端者一人程度、一撃で倒せないなんぞと言ったら、それこそ情けない事この上ない。
「ぐぅっ……重いっ……!」
「――ッフゥ……!」
その一撃を……白浜は重ねた両腕でブロック。容易に、という感じではないがしかしながら、守りの硬さは、そこら辺のゴロツキでは比べ物にならない程にしっかりとしているようだ。やはり、あの時――脱退リンチで見せた動きのキレは、偶然ではなかった。
まだまだ武術家として基本を仕込まれた段階なのだろう。更に言えばコイツに才能があるとは到底思えない。が、しかし。それにしても、ここ最近では一番手応えがある相手ではないか――!
「良い防御だッ! 今の一撃を受け止められた事、貴様に武術を仕込んだ師の腕に感謝するがいい!」
「お、重い……っ」
「当然だ――俺に武術を仕込んだのも、また本物の武術家、貴様が今まで戦って来たスポーツ武術家などとは比べ物にならんっ!」
ここまでの腕の相手など久方ぶりだ。ガードを避けて叩き込んでもいいが……ここまで来たなら、そのしっかりとした守りを、正面から崩すのも――面白い!
「どこまで耐えられるか、試してやろう!」
「ぐっ……うぅっ!」
防御から一切の事をさせはしないつもりで、一気に攻める。一、二、三……両方の腕を鞭の如く叩きつける劈掛拳は、圧倒的な攻勢をこそ強みとする武術だ。相手の防御をすり抜けるのも不可能ではないがしかし、防御を上から破壊するのは……
「俺相手に防勢に回ったのが失態だったな!」
「う、くぅ……っ!」
「中国拳法は覇者の拳! 嵐の如き攻勢、凌ぎ切れると思うなよ!」
更なる、得手だ。
「凌ぎ切れると……」
「ぐ……うぉおおっ……」
「凌ぎ……」
「うぐぐぐっ……!」
「凌ぎ切れてやがる……っ!?」
なんだこいつ!? 馬鹿程硬いんだが!? ちょっとした武術家モドキなら、これで容易に守りを破って後は滅多打ち、まで持ち込めるはずなんだが……なんて打たれ強さだ。叩いても叩いてもまるで守りを緩めねぇ!
全然次元が違うが……この硬さは、何となく先生を思い出す。
コイツの師匠は、余程こいつを普段から打って打って打って……厳しく鍛えているんだろう。恐らくは、そこらの武人のレベルではここまで仕込めない。コイツの師匠も、師匠と同じ、『真の達人級』!
「ちぃっ……」
流石に連打しすぎ、一旦息を整えるために一歩、下がろうと――
「――っ!!」
「……っ!?」
瞬間。目の前の男の瞳が、ギラリと輝いた気がした。
「うぉおおっ!」
「おぉう!?」
頭に過った危機感に従って一歩下がれば、上に拳――そして腹にも。下がった分の間が無ければ、両腕で捌くのは、ギリギリ間に合わなかっただろう。一瞬、俺が油断していたのも間違いなくあるが……それを踏まえても、俺の間合いに踏み入れてくるほどに、鋭い一撃だった。
「空手の山突きかっ!」
「ぐっ……ま、まだまだっ!」
「おぉっ!」
そこから繰り出される拳は、今まで全く無名だったのが不思議なほどに疾い。というかちょっと前の俺の拳といい勝負じゃないか、コレは。
今の俺に勝る、とは到底言えないがしかし、油断すりゃあ『万が一』があり得る程度には良い突きだ。
……面白れぇじゃねぇか。
「ふっ、やぁっ!」
「悪くねぇが……まだ温いッ!」
スパァンッ!
「うわっ!?」
連打連打、それでも当たらず功を焦ったか、その最中に挟まる一瞬の大振り、そこを狙って下から掬い上げるように、掌底をねじ込んで、手を弾き飛ばし、相手のリズム諸共体勢も大きく崩す。
その一瞬、ステップで相手の側面に回り込み。
そのまま狙うのは、後頭部から首の付け根辺り。
先ずは――先の一撃!
「フンッ!」
「っ!?」
そしてすかさず、同じ場所に後の一撃を叩き込む。
決め手に成り得る、劈掛拳の大技の一つ!
「『倒発鳥 雷撃後脳』!!」
もう一発も、寸分たがわず同じ場所に直撃。一撃は耐えられても、二連打を同じ場所に叩き込まれては、いかな達人とてもダメージは必至。弟子クラスであれば猶更、普通だったらこれで昏倒するのは間違いない――がっ!
「――倒れねぇよなぁ!」
足がふらついてはいるが……倒れる程ではないのは、注視していれば直ぐに判断できるってんだ。というか、それ以前にアレだけ俺の連打に耐えた打たれ強さしてる奴が、たかが直撃の二連続で倒れるか、という話。
「い、いってぇ……ってうわぁっ!?」
「『烏龍盤打』!」
故に容赦なくもう一発。今度は上から振り下ろす、平手打ち……だが、しかし当たらない、予想以上にダメージが少ない! というか、アレ食らって立ち眩みの一つも起こしてないのは、何かの冗談じゃねぇかと思う。
「あ、あぶなっ……ふらついてなかったら、避けられなかった……!」
「……」
「っていうか地面若干割れてるぅ!?」
あ、ふらついては居たのか。そうか。それでよけられたって訳か……はっ、こりゃあとんだ自業自得って奴か?
まぁいい、やはり想像は合っていた。コイツ、攻撃の腕は兎も角として、単純な打たれ強さはそこらの弟子クラスのレベルじゃねぇ。なら次はソレを想定に入れて、戦えばいいって話だ!
「やるじゃねぇか、漸く体も、温まって来たぜ!」
「なんて強さ……ま、まるで師匠たちみたいな……うわぁっ!?」
「オォラァッ!」
今度は大技で一気に叩くのではなく、腕を柔軟に使って、鞭の様に叩きつける。
相手の隙をついて大技を叩き込むのも有効だが、しかし武術ってのは結局の所大技ばっかりぶつけられる程甘くねぇ。『削り』も重要になってくる。
コイツこそ、正に削りが必要となってくるだろう。大技をぶち込んでも、耐えられる位には頑強。であれば、その頑強さから、少しずつ削っていく!
そうして削って削って、その先にこそ、コイツへの勝利は掴み取れるはずだ。
久しぶりだ、こんな、全力を尽くして戦うのは――
「ぐぅ……わ、分からない」
「あぁ!?」
「君の、拳は……純粋に、強さを、求める……僕たちの、師匠のような拳だ」
「――!」
「どうして、美羽さんを利用してまで、僕を、ここまで誘い出す様な……!」
――チッ!
「そんなもん、決まってるだろうが」
「なに……」
「お前と、サシで、勝負する為だ!」
胸の内に湧いた苛立ちと共に、上から手刀を振り下ろす。直撃、だが肩で受け、尚且つ少し体を沈ませた。恐らく咄嗟の受けを、師匠からねちっこく教え込まれてるんだろう。この無意識の小さな防御が、コイツの頑強さを生んでるって訳だ。
だってのに、この白浜とかいう野郎……全く苛立たせてくれる!
「なっ――」
「おかしな話だ、お前は……『白浜兼一』という男が、策を練ってまで襲う理由がまるで分からねぇ、という面をォ……しているッ!」
「あぐっ!? きょ、強烈……っ!」
「価値があるんだよ! テメェとのっ!サシの勝負にはな! それだけっ! テメェはっ! 強い! 俺が『戦ってみたい』と思うだけの、強さがあるんだ!」
全力で連打、連打、連打。どうだ、コレだけやっても……まるで、折れるような様子はねぇ。普通、防御してるとはいえ、コレだけ殴られれば、何処か負けを意識してしまう部分がある。攻勢を凌ぐってのは、それだけ体力も、何よりも意思ってもんも削る。
だが、どうだ。どれだけ殴っても、コイツを叩き潰せる、っていう感じがしない。まだまだスタミナもそこを突く様に見えねぇ。そして、目の輝きも、全く死なない。その底知れないタフさは……普段から功夫を、積み重ねている証拠だろう。
「強いっ、僕が……!?」
「俺から見りゃあな! そして……俺は、もっと、強く、成りたい!」
「うわぁっ!?」
渾身の拳で後退させて……一息、吐いた。
「強い奴とやれれば、それだけ強くなる! お前とやり合いたい理由なんざ、それだけだ」
「ぼ……僕が気に入らないとか、そういうことじゃないのか!?」
「そのはっきりしねぇ面は気に入らねぇが」
「えぇっ!?」
「だが……その真面目に功夫を積んでいる処は、好ましいとすら思うぜ」
拳の強さが全て、じゃねぇが。しかし戦うなら、キッチリと鍛錬を積んでいる奴が良いと思う。それは……俺がずっと師事したり、相手して貰ってきた人たちが、何よりも研鑽と努力を怠らない人達だったからだ。その点、目の前の奴は強さは足りないが、間違いなく折れず、積み重ねて来ている!
「誰よりも、俺はお前と戦いたいと思った……それじゃ悪いか? 白浜兼一!」
「……!」
俺の言葉に、白浜の奴は呆気にとられたような顔をして……それから。
「……ぷふっ」
「あ゛?」
「あははははははっ」
笑い出しやがった……笑い出しやがった。
「おいテメェ、人の話聞いて笑いだすとはいい度胸だな。殺されたいか」
「ご、ごめんなさいっ……でも、貴方みたいに、純粋に『強さ』にストイックな人、初めて見まして!」
「……何?」
「ラグナレクとぶつかるようになってからは、何処かこう、威圧的というか……何処か不良っぽい人とばっかり戦う事が多くて。でも、君は……そうじゃない!」
しかし、良く見てみるとそれは此方を馬鹿にしている、というよりは。向こうが心から、楽しそうと思って笑っているような。苛立ちを覚えるような物じゃない。
「――まるで、僕の師匠たちの様だ!」
「褒めてんのかそれは」
「はい! 僕にとっての最大の讃辞です! そして……『僕を襲う』のではなく『自分の強さを見せつける』のでもなく……『僕と試合』をするのが目的であるなら」
そして何よりも。苛立ちを収める理由となったのは。
白浜の目が、今さっきまでの何処か、『抗う』ような輝きではなく。純粋に『闘志』の輝きを宿しているのを、見たから。
苛立ちなんざ抱えてる暇もねぇ。そんなもん抱えてたら、この勝負を楽しめねぇじゃねえか。
「――梁山泊が弟子、白浜兼一、改めてこの勝負、受けて立つ! 行くぞぉ!」
「はっ……いきなり目の色変えやがって、訳が分からねぇ……が!」
こういう目をした奴と戦うのが、一番、良いんだからな!
「馬 槍月が唯一の弟子、谷本夏……参る!」
谷本君→純粋に強い奴と戦いたい。
ケンイチ君→自分の信念を貫く為に武術をやっているが、しかし真っすぐ『お前と武の腕を競いたい』と言われたのは実は初めて。後『お前が強いから戦ってみたい』と言われたのも初めて。なんというか、相手が苦手な不良っぽくなく、いい意味で真剣な武人気質なのが幸いしてか『自分も……!』となんかやる気が湧いてきた。