史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第四回・裏:暴力的な治療風景

――俺の中で『医者』は二種類いる。

 

 一つは、普通に患者と話し合って治療を行う者。普通の医者。

 

 そしてもう一つは――

 

「オドレクソ医者アアアア!!! あぅっ」

「ふむ、患部はここか――ふっ!!!」

「おぎゃああああ!? いた……くないけど動けねぇ!?!」

「ベッドの上で安静にしていろ。お大事に――次ぃ!!!」

 

 目の前で乱取りよろしく突撃してくる患者を捌いている変人。

 治療用に設けられたスペースに突撃してくる奴らを綺麗に選別し、病人は組手染みた取っ組み合いの間に処置を済ませ、キッチリとベッドへ、非病人は武器をへし折り、入り口から外へとキャッチ&リリース。とても病室にいる医者のやっている事ではない。

というか、二種類目の医者はコイツしかいないが。コイツの治療風景は大分久しぶりに見たが。うん。見応えはある。

 

「肴にはなるな……んぐっ」

「呑むなぁ!! 止めろォ! アレをぉ! お前の紹介だろうガァ!!」

 

 ……全く喧しい。

 ちらりと声のする方に視線をやれば。肩で息をするここのボスの姿。ここ数週間でいい加減に見慣れたが、相も変わらず俺諸共建物を燃やして始末しそうな、小物染みた顔をしている。

 

「……医者を紹介しろと言ったのは貴様だろうが」

「あんな!!! 暴走機関車!!! 医者なわけあるか!!!」

「治療は完璧だろうが」

「ぐぅ」

 

 そしてあっさり黙る。迫力も無ければ頭も悪い。全く、よくこんな奴をトップに据えて今までやっていけたものだ……まぁアイツが暴走機関車だというのは否定はせんが。

 こいつらからすれば、治療の完璧さでもお釣りが来ないくらいの大問題な行動を、目の前のハゲはやっている訳だ。それを止めようと、こうして雪崩れ込むのも間違いではないとは、俺とて思う。

 

 まぁ、一応こうやって襲われるだけの理由はあるという事だ。

というのも、アイツはここに来てから、先ずはチャイニーズ・マフィア共の傷の治療を行っていた。それは間違いない。無いのだが。

 

『――では中華街の皆様の回診に行ってくる。槍月、留守の間、治療室の見張りを頼むぞ』

『おう。行ってこい』

『……えっ? えっ? えっ?』

 

 こっちでの仕事をひとしきり終えた途端に、今度は向こうの治療に向かったのだ。しかもマフィアが用意した道具を持って。

 結果として、こいつ等が行った脅しやらなんやらはまぁ殆ど無駄になった。

 金のかかる筈の治療は全てコイツが無償で診療したし、店を潰すために暴行を加えた店員も完璧にケアされていた。しかも、継続的な治療が必要な患者には、良いかかり付け医まで紹介する徹底ぶり。

 

その行為に対する『心付け』として、ホークが白眉の奴からも金を受け取らされていたと来れば『医者がいきなり裏切った!?』となるのも不思議ではないのだが……残念ながら裏切りでも何でもない。奴にとっては、自分の周りに居る患者は全て分け隔てなく『治療対象』でしかない、という事だ。

 

「ふむ……君は肝機能に問題があるな。食事に関して少し気を付けた方が良い。私がメニューを考えよう。好きな食べ物なら食べられるようにしておくから、どうしても食べたいものは、ここに書き込んでおきなさい」

「あーそれはどうも先生、はいはいはい、こんな感じで……本当にありがとうございま死ねェ!!!」

 

 しゅぱっ! ぴたっ。

 

「それはできない相談だ――ふむ、ではコレを中心にメニューを組んでおく。お大事に!」

「ありゃりゃした~~~~~っ」

 

 ぴゅーん……

 

 今も、診断ついでに、片手に携えた青龍刀を振り下ろしてホークを殺そうとしていたゴロツキを、診療を終えてから改めて外に設置したマットに向けて投げつけ、軽く撃退している。いやどんな治療だと言われると俺も少し……困るが。

 しかしまぁ、襲ってきた相手だろうと、真摯に治療するのは間違いない。

 

 ……それにしても。

 

「ふぅむ……」

 

流れるような攻撃の捌き方は、最早目で反応をしている次元ではない。だが一々頭で考えて予測するような温いモノではなく――さらにその先の段階に、奴は至っているように見える。

まるで、俺ですら見えない何かを『感知』しているかのような――

 

「制空圏……いや、それだけでは無い。もっと何か……」

「……おい、なんだ。なんで目が光ってる。後なんで酒瓶にひびが入ってる。ビン掴んでないだろ紐持ってるだけだろ、おい、おい」

 

 俺ですら知らない技術。研鑽の形。武を目的に鍛えているか等、この際関係はない。奴の日々の積み重ねが、どれだけ膨大なモノか、どれだけ地道なモノか、どれだけ妥協をしてこなかったか。

 

 分からない訳がない。

 沸き立つ。燃えてくる。ここに呼び寄せてからというもの、派手にぶつかり合った事はない。タイミングが悪かったとしか言いようがない。

 まぁ、俺とてやつの『生き方』の邪魔をするつもりはない。友人にそんな無粋を働く程にまで堕ちたつもりもない。

 

 だが――

 

「……(ズオオオオオオオオオ)」

「こ、こわいぃ……」

 

 いかんな。拳が疼いてしまう。口が勝手に大きく息吹を吐き出してしまう。体の隅々まで新鮮な空気を送り込んでしまう。全力で殴り合う準備をしてしまう。

 ここ最近は、腕のいい達人とも競り合えていないで退屈だった。俺が食らい尽くしに行っても尚、胸やけがするほどの極上の相手が目の前にいるというのだ――!

 

「――槍月」

「む」

「後で相手するから少し待っていてくれ」

 

 ………………うぅむ。

 

「仕方ない」

「あぁ」

「いやいやいやいや待てヤメロこの後何をする気だおいちょっと」

 

 この後は久しぶりに、燃えるような一戦に興じられるだろう。楽しみだ。良し、ちょっと体を動かして解しておくか。治療後のコイツはエンジンがフルでかかった状態だ。そんな奴と拳を交えるのであれば、此方もやる気が出てくるというモノだ。

 

 

 

 

 

 

「……解せん」

 

 あの後、約束通りホークと思い切り競り合っていたら『頼むからちょっと外に出ていてくれ飲み代は全部こっちで持つから許して』と土下座された。あんな殊勝な態度をされたのは初めてで、思わずして頷いてしまったのだが。

 何が悪いというのか。別に周りを巻き込むような場所でやっていた訳でも無い。ビルの屋上位で何をそんな怯える必要があるというのか。

 

「……」

 

 まぁいい。いい勝負が出来た。久しぶりに良い酒が飲める気がする。飲み屋でも探して静かに飲ませてもらうと――

 

「――おお、先生。今日も来て下さったんで」

「あぁ。どうだ。その後の調子は」

 

 ふと、足を向けた先の酒屋の軒先に、デカいハゲが立っていた。

 とっさに路地の隙間に身を隠す。別に何かやましい事がある訳でもない……無いが。

 

 その、なんだ。俺がいる事で、治療の邪魔になるやもしれん。というか間違いなく邪魔になるだろう。俺が敬遠されるのは、そもそも暴力的とか関係なく、顔が怖いというのが一番の理由らしい。その辺りは奴との付き合いで、自然と学んだ。

 ……自分が避けられている自覚はあったが、しかし理由が若干違った事に関しては、何とも言い難い複雑な気分になったが。まぁ、それは良い。

 

 兎も角、奴の仕事の邪魔をする程、奴との友情をおろそかにしている訳ではない。しかし折角の飲む機会をフイにする、というのも些かと。

 

「(……どうする)」

 

 咄嗟とは言え、奴を見た時点で気配は消した。流石に気づかれてはいないとは思うがしかし……動けば間違いなくバレる。そして、辻斬りの如き健康診断が始まる。

 

 奴の悪い所だ。如何なる時も誰かの健康を祈らずにはいられん。故に、町中で出くわそうものなら『肝臓の調子をチェックさせて欲しい』と怒涛の勢いで迫ってくる。後ろから気配を消して突撃してきた時など、久しぶりに血の気が引いた。

 

「(……隠れておくか)」

 

 流石にこの往来で、いきなりの健康診断は御免被りたい。

 

 仕方ない。些か面倒ではあるが、このまま気配を消して、話が終わるまで隠れている事にしておく。

 ……立ち聞きする形になるが、まぁ、それは酒を飲むのを邪魔された駄賃として受け取っておくとしよう。

 

 




なんだこの相反するタイトル!?(困惑)
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