嵐に紛れる形で、ゴーイングメリー号に乗り込んだ少女、マチカネフクキタル。そんな彼女は今、甲板の上でグルグル巻きに縛り上げられていた。
「おい、お前、いつからこの船に乗り込んでやがった」
「んぎゃあああ!!! どうかお助けをぉぉぉ!!!」
剣の刃先を向け、ぎらりと鋭い目つきで尋問するのは、三刀流の剣士、ロロノア・ゾロだ。このような状況に陥ったのは勝手に船に乗り込んだフクキタルが100%悪いのだが、顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら命乞いする、そんな女性を見過ごすことはできない男がこの船にはいる。
「おいクソ剣士、レディにそんなもん向けるんじゃねぇよ!」
フクキタルとゾロの間に割って入ったのは、麦わらの一味のコック、サンジである。彼は、『女性は死んでも蹴らない』という騎士道精神の持ち主であり、何よりゾロとは犬猿の仲であった。
「あぁ!? なんだバカコック。邪魔するんじゃねえ!」
「てめぇはもっとレディに敬意を払いやがれ!」
いつの間にか、フクキタルそっちのけで喧嘩を始めた2人。ゾロの威圧から解放されたことで、ほっと息を吐くフクキタルであったが、今度はあの麦わら帽子の青年が目の前に来ていたので、驚きに耳と尻尾をぴーんと跳ね上げた。
「ふぎゃあああ!? び、ビックリしました⋯⋯。いきなりそんな近くに来ないでくださいよぉ。心臓飛び出ちゃうかと思いました」
「ああ、わりぃわりぃ。ところでおれ、ずっと気になってたんだけれど、なんでおまえ耳と尻尾生えてるんだ?」
「ああ、それはですね、私が『ウマ娘』という種族だからでして⋯⋯あ、そういえばシラオキ様の御使い様、あなたの名前を伺っても?」
「なんだ、そのシラオキ様っての。おれはルフィ。海賊王になる男だ!」
「おお、なんとも御利益のありそうな名前ですね!! ありがたや~」
フクキタルがようやくこの船の船長の名前を知った一方、少し離れた場所では、麦わらの一味の航海士、ナミが窓の外を見て目を見開いていた。
「しまった⋯⋯。あの耳の子に気を取られて気が付かなかった。
「
ナミの呟きに首を傾げるのは、長い鼻が特徴的な狙撃手のウソップ。しかしナミは、そんなウソップの問いかけには答えず、必死の形相で全員に指示を出す。
「あんた達、その子のことは一旦置いといて、早く帆をたたんで船を漕いで! 嵐の軌道に戻すの!!!」
ナミがここまで慌てるのには理由がある。
「海王類の⋯⋯巣なの⋯⋯」
ザバァンとゴーイングメリー号ごと持ち上げ、姿を現したのは、大型の海王類たち。その圧巻の光景に、皆が度肝を抜かれる。
「さ、さっきから何事ですかぁ!? わ、私に占いをさせてくださいぃぃ!! 何か不吉なことが起きる予感がしますぅ!!」
そんな中、1人船内で縛られたままのフクキタルだけが状況が分からず混乱していた。その声は甲板に居た全員に聞こえ、そこでナミは、とっさにある判断を下す。
「ゾロ! あの子の縄斬っちゃって! この緊急事態よ。あの子にも手伝って貰いましょう!」
「お、おお!」
幸いにして、まだ海王類は動く気配はない。おそらくだが、あまりにも巨大すぎて船の存在に気付いていないのだろう。
「いやー、ありがとうございます。腹巻きのお方。怖い顔しているけれど、意外に良い人だったのですね! 私は人相占いは出来ませんが、何となく分かっていましたよ!」
「いいからお前は黙ってこのオールを持て! そして俺が合図したら思いっきり漕げ。いいな!?」
「了解しました! ⋯⋯あ、この目隠しは外しても?」
「絶対やめろ」
海王類を見てパニックを起こさないよう、目隠しをして連れてこられたフクキタルは、1人だけ緊張感の足りない様子でオールを構える。ただ、これで人員は確保出来た。
ゴーイングメリー号を鼻の先に乗せた海王類。これが海へ戻る瞬間に思いっきり漕ぐつもりで、皆が息を呑んでその瞬間を待つ。
しかし、ここでとんでもないハプニングが起こった!
「「「「「なに~~~!!!?」」」」」
なんと、海王類がくしゃみをしたせいで、船が空中に吹き飛ばされてしまったのだ。
「むむむ!? これが合図ですか!? ならば漕ぎますよ~! どっせ~い!!!」
そして、未だ目隠しのままのフクキタルは合図があったと勘違いし、空中でオールを思いっきり漕ぐ。そのスピードは目を見張るものがあったが、勿論空中では何の意味もなく、ただ邪魔なだけである。
「うわぁ、ウソップが落ちたぁーー!!」
「ぎゃあああーー!! ⋯⋯ぶへぇっ!?」
しかし、幸運にもフクキタルの漕ぐオールに押し返される形で、船から落ちそうになっていたウソップが甲板に戻ってくる。その反動で今度はフクキタルが落下しそうになっていたが、文字通り救いの手が伸ばされる。
「耳のやつー!!」
まだ名前を覚えていないのか、変な呼び名を叫びながらルフィが伸ばした手は、フクキタルの胴体をしっかり掴み、無事救出に成功。そしてその直後、ゴーイングメリー号は再び嵐の中へと戻ったのであった。
「ふ、ふう⋯⋯。なんか途中で身体が空に浮いたような変な感覚がありましたけれど⋯⋯私、お役に立てましたでしょうか?」
「なあ、耳のやつ」
「耳? ああ、私ですね! 耳のやつ、マチカネフクキタルです!!」
「おまえ、おれの仲間になれよ!!」
ルフィはそう言って、フクキタルににっと笑いかける。
何がルフィの琴線に触れたかは定かではないが、こうしてルフィに認められた以上、フクキタルがこれ以上縛られる理由はなくなった。ただ、フクキタルはまだ目隠しのままだったため、この時のルフィの満面の笑みを見るのはもう少し先になるのであった。
少し話の進み遅いかな? とか思ったり。まあまだ2話だし、多少はね?