──時は、ラパーンが雪崩を起こした頃に遡る。ビビと顔をパンパンに腫れ上がらせたウソップは、寒中水泳をしていたら雪崩に巻き込まれたというゾロと偶然遭遇していた。
「おいウソップ、お前の上着よこせよ。流石に寒ぃ」
「自業自得だろ。寒中水泳していたら森に迷い込むバカなんてお前くらいだ!!」
(ナミさんって精神的疲労で倒れたんじゃないかしら⋯⋯)
ビビがそんなことを思ってしまう程には、ゾロの行動はあまりにも阿保らしいもので。
だからこそ、そんなバカがもう一人居るということは、全く想像していなかった。
「⋯⋯ん? おい、あそこに埋まってるのって⋯⋯」
ウソップが真っ先にそれに気づき、指をさす。そこには、雪からひょっこりと飛び出た尻尾のようなものが冷気によってカチーンと直線状に固まっており、どこか見覚えのあるその形に、3人は思わず顔を見合わせたのであった。
「いや~、一般人に助けて頂くとは面目ございません!! 実は私、ある人物を探している途中だったのですが、ちょうどよく寒中水泳に適した川があったもので、ついバクシーン!! と飛び込んだところ、運悪く雪崩に巻き込まれてしまったようで⋯⋯。まあ、これもいい修行になったとポジティブに考えることにいたしましょう!! はっはっはっは!!」
3人が助け出したそのウマ娘は、先程まで雪に埋もれて凍りかけていたとは思えない元気さで、豪快に笑う。何故こんな場所で水着姿で寒中水泳をしようとしたのか⋯⋯などというツッコミは、すぐ隣に半裸のゾロが居るせいでできないビビとウソップであった。
「えーっと、その⋯⋯身体は大丈夫なのか? 名前なんていったっけ?」
「サクラバクシンオーですっ!!」
「お、おう。その調子じゃ問題なさそうだな」
ビシッと胸に手を当てるポーズ付きで力強く名乗ったバクシンオーを見て、ウソップは問題はなさそうだと判断する。
そして、2人目に出会うウマ娘がバクシンオーだったことにより、ゾロとウソップの中でウマ娘とは元気でうるさい奴だという認識が固まったのだが、これはなかなかの風評被害と言えるだろう。
呑気にそんなことを考えていた2人に対し、ビビはバクシンオーの名前を聞いて顔を青ざめさせていた。ここ最近アラバスタの状況を確認するために頻繁にニュース・クーの届ける新聞を読んでいるビビは、バクシンオーがどのような立場にいる人間なのか知っていたのだ。
「え、ええっと、バクシンオーさんは確か人を探しているんですよね。そちらの方は大丈夫なんですか?」
突然話題を変えたビビに、ウソップとゾロは怪訝そうな表情を浮かべる。しかし、ビビも必死なのだ。何とかゾロとウソップが海賊だと気づかれる前に、バクシンオーに立ち去ってもらう必要がある。そして、ビビのその願いは天に通じた。
「おお、そういえばそうでした!! 奴は神出鬼没、急がなければ折角足取りを掴んだというのに逃げられてしまうかもしれません!!」
そう言って、バクシンオーは走り出す構えを取る。どうやら行ってくれそうだとほっと息を吐いたビビ。しかし、バクシンオーは最後に爆弾を放り投げてきた。
「親切な方々、もし何かありました際は、この“海軍四皇”、『
「「か、海軍んん!?」」
ゾロとウソップが驚きの声を上げるが、その時には既にバクシンオーは雪煙をぼわっと巻き上げ、はるか彼方へと走り去ってしまったのであった。
〇〇〇〇
「⋯⋯とまあ、そんなことがあったってわけよ」
「なんと!? 私と同じウマ娘が海軍にも居るとは驚きですね~!! 是非お会いしたかったです!!」
「バカ、おれたちは海賊だぞ? 海軍って言ったら普通敵なんだよ」
そして、時は戻って現在。ワポルは無事ルフィが倒し、ロープウェイで登ってきたウソップたちと合流し、フクキタルは麓で会ったというウマ娘の話をゾロとウソップの2人から聞いているのであった。
「おいお前らも話してないで探すの手伝えよ!! おれは絶対あのトナカイを仲間に入れるんだ!!」
そして、3人の近くに居るルフィはというと、先程からチョッパーのことを大声で呼んでいる。そんなルフィを、ゾロは親指でくいっと指し、フクキタルに話しかける。
「なあ。あれ、お前の能力で探してやった方が早いんじゃねぇのか?」
「いいえ、その必要はありません。あのトナカイさんなら既に⋯⋯」
フクキタルは視線をある方向へと向ける。そこには、ようやく姿を現したチョッパーの姿があった。
しかし、いっしょに海賊をやろうというルフィの言葉に対し、チョッパーはなかなか首を縦には振らない。目に涙を浮かべながら叫ぶその姿には、チョッパーの心の葛藤が見られた。
「おれは“人間”の仲間でもないんだぞ!! バケモノだし⋯⋯。おれなんかお前らの仲間にはなれねェよ!! ⋯⋯だから、お礼を言いに来たんだ。誘ってくれてありがとう⋯⋯。おれはここに残るけれど、いつかまたさ! 気が向いたらここへ⋯⋯」
「うるせェ!!! いこう!!!!」
しかし、チョッパーのそんな葛藤を吹き飛ばすかのように、ルフィはシンプルにそう告げる。その力強い言葉は、チョッパーの迷いを打ち消すのには充分だった。
「お゛お゛!!!」
チョッパーは、ルフィの言葉に叫ぶように応える。麦わらの一味に、新たな仲間がまた一人増えた瞬間であった。
「うう、やはりルフィさんは凄いですね⋯⋯!! 私が仲間に入った時のことを思い出します⋯⋯!!」
「いや、お前は割となりゆきで仲間になっただろ」
チョッパーの涙にもらい泣きするフクキタルに、冷静にツッコむウソップ。言われてみれば確かにその通りである。
くれはにルフィと共に海に出ることを告げたチョッパーだったが、そんな勝手は許さないと包丁を投げつけられ、逃げるようにしてソリを引き、ルフィ達を乗せて山から降りる。
しかし、そんなくれはの行為は、不器用なりの親からのエールだったのだ。そのことを証明するかのように、今ドラム王国の山々はライトによって照らされ、素晴らしい光景をルフィ達に見せていた。
「ウオオオオオオオオオオ!!!!!」
その光景を見て、慟哭するチョッパー。彼の脳裏に思い浮かぶのは、恩師ヒルルクの言葉であった。
『やったぞチョッパー!! おれの研究は成功した!! これでこの“冬島”に桜を咲かすことができる!!!』
その光景に感動しているのはチョッパーだけではない。ルフィ達もまた一様に見惚れている。その中でも特に大きな反応を示しているのはフクキタルだ。普段から輝いている瞳をさらにキラキラと輝かせて、両手を目いっぱい広げてこの奇跡の光景を全身で感じようとしていた。
「雪国に咲く桜⋯⋯!! これはまさに奇跡です!! 今、私たちの運勢が最高潮になっているのを感じますよー!!」
煙突のようにそびえ立つドラムロックの山々に、ピンク色の雪。その2つが重なり、まさに桜が咲いているかのような奇跡の光景を産み出していた。
そして、ヒルルクからこの“奇跡”を託され、チョッパーの旅立ちにその奇跡を実現させたくれはは、目に涙を浮かべながら、激励の言葉を贈る。
「さァ、行っといで。バカ息子⋯⋯」
──後に語り継がれるこの“ヒルルクの桜”は、まだ名もなきその国の自由を告げる声となって夜を舞う。
ちょうどこの土地でおかしな国旗をかかげる国が誕生するのは、もう少し後の話⋯⋯。
次回は1話閑話を挟む予定。存在だけ示唆し続けたあのウマ娘が出てきます。