「ドルトンさーん!! 大変だ、大変なこと思い出しちまった!!」
雪の上に座り、ピンク色の雪を眺めるくれはとドルトン。そんな2人の下に、慌てた様子で駆けてきた男が見せたのは、ルフィの手配書であった。
「3千万ベリーの賞金首⋯⋯。彼らが⋯⋯」
「ほう、大した悪党じゃないか。ヒッヒッヒッヒ⋯⋯」
「あんたに報告するのをすっかり忘れてたんだが、“エース”って奴が麦わら帽子の男がやって来たら、『10日間だけアラバスタでお前を待つ』と伝えてくれと言ってたんだ。この手配書もその時にもらったんだ!!」
「なるほど⋯⋯だが、その伝言は伝えるまでもないさ」
ドルトンは、伝言のことを知っても特に慌てた様子は見せなかった。何故なら、ドルトンにはルフィ達の次の行き先がアラバスタであるという心当たりがあったからだ。
(どんな事情で海賊たちと一緒にいるのかは知らないが、何か考えがあってのことだろう⋯⋯。立派になられたものだ)
思い返すのは、“
「Dr.くれは、どうしたんです。ぼんやりして⋯⋯」
「⋯⋯お前達、ゴール・“D”・ロジャーを知ってるかい?」
「D? ⋯⋯ゴールド・ロジャーのことですか? それならば知らない方がおかしいですよ」
「ちげーよ、アタシの親父の名前はゴール・“D”・ロジャーだっての」
ドルトンの言葉を訂正した声は、何故か右隣に居るくれはではなく左から聞こえてきた。先程まで誰も居なかったはずの場所から声が聞こえたことで驚いて横を見たドルトンは、そこに胡坐をかいて座る真っ赤な衣装をまとったウマ娘を見つけ、さらに目を見開いた。
「な⋯⋯!? 君は誰なんだ? そして、いつからそこに⋯⋯!?」
しかし、そのウマ娘はドルトンの問いかけには答えず、くれはに向かって笑顔を向け、ひらひらと手を振る。
「よっす、くれはのばあちゃん! 10年ぶりくらいか? 相変わらず全然変わらねぇな~。教えてくれよ、若さの秘訣~!」
「⋯⋯なんだ、ゴルシかい。アンタの神出鬼没っぷりも相変わらずだね。ヒッヒッヒ!!」
会話を聞く限り、どうやら二人は既知の間柄らしい。しかし、ドルトンにとっては未だいきなり現れた不審人物には間違いないので、警戒態勢を整える。
「ヒッヒッヒ! やめときな、ドルトン。お前じゃどうやってもこいつには勝てないよ」
「おいおい、アタシをそんな危険人物みたいに言うなよ~。最近は犯罪行為もせずにせっせと割りばし畑で割りばしを摘んでいたんだぜ? ほい、おっさんにも割りばしやるよ」
そう言って、ゴルシと呼ばれたウマ娘がドルトンに差し出してきたのは、木製の2本の棒のようなものだった。いきなり謎のモノを渡されて困惑するドルトンに、ゴルシはさらに畳みかける。
「おい、何ぼさっとしてるんだ! 割りばしは取れたてが一番おいしいんだぞ!? 青春も割りばしの旬も、待ってはくれねーんだぞ!?」
急かすようにそう言われ、ドルトンは慌てて割りばしを口にくわえる。しかし、いくら噛んでも嚙み切れる気配はなく、木の味しかしてこない。
「な、なあ君、この割りばしって奴はホントに食べ物なのか⋯⋯? 食べられる気がしないんだが⋯⋯」
そう言ってドルトンがゴルシの方を見ると、ゴルシは口元に手を当ててわずかに後ずさっていた。
「え、お前何割りばし食べてんだ? 正気かよ⋯⋯。医者に診てもらった方がいいんじゃねえのか?」
「ヒッヒッヒ!! 医者ならここに居るよ。⋯⋯とまあ、冗談はさておき、ゴルシ、アンタなんでここに来たんだい? ここ数年表舞台に一切姿を見せなかったお前が、こうやって知り合いのあたしに顔を見せに来たんだ。どうせ何かやらかすつもりなんだろ?」
ゴルシにドン引きされて唖然とするドルトンは放置して、くれははそう問いかける。くれはがゴルシと出会い、過ごした時間は10年前に1週間弱というわずかな間ではあったが、それだけでもくれはの記憶にその破天荒っぷりは残り続けていた。それゆえに、確信をもってこの質問を投げかけていた。
「別に大したことはねーよ。アタシにとっちゃこの海は狭すぎてつまんねーけれど、最近なんか面白い奴が増えてきただろ? だから、そいつらにちょっかいかけてやろうと思ってんだ。この夏休みに昆虫採集してそうなワンパク坊主もおもしろそーだな。こんなの被る奴シャンクスぐらいだと思ってたぜ」
ゴルシは、くれはが持っていた手配書を手に取り、空いた方の手を顎においてニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ヒッヒッヒ!! この“
「おいおい、ばあさんいつ息子作ったんだよ。人体錬成は禁忌って学校で教わらなかったか? ちなみに必要なのは水35リットルに炭素20キロ、アンモニア4リットルに石灰1.5キロ、追いソイソースにカブトムシ3匹な!!」
「ヒッヒッヒ!! 意味わからないね。全くアンタは全然変わらないよ」
ゴルシのよく分からないトークも笑って受け流せるのは、流石くれはの年の功といったところか。先程から蚊帳の外のドルトンたちには全く踏み込めない領域であった。
そして、そんなドルトンにさらに追い打ちをかけるかの如く、カオスは加速する。
「ん? ちょっと待てよ⋯⋯。レーダー受信、レーダー受信。バクシンセンサー反応中。⋯⋯っておい、なんでアイツがここにいんだよ! ふざけんな!!」
唐突に謎の動きを始めたかと思えば、いきなり憤慨するゴルシ。その視線の先から、何やらバクシンバクシーンという声が徐々にこちらへと近づいてくる。
「バクシンバクシーン!! 山を全制覇してようやく見つけました!! 観念しなさいゴールドシップ!! 年貢の納め時ですよぉーー!!」
そして姿を見せたのは、ウソップたちが雪崩から助けたウマ娘、サクラバクシンオーであった。水着から海軍のコート姿へと着替えたバクシンオーは、ゴルシをビシッと力強く指さす。そんなバクシンオーに対し、ゴルシはげんなりとした様子で肩を落とした。
「ゴール・“D”・シップだっつーの! てかお前何でアタシいつも追っかけてくるんだよ。このゴルシちゃんが最近働いた悪事なんてせいぜいニュース・クーの新聞を焼き魚に変えたくらいだぜ?」
「それは!! 私がガープ中将の1番弟子であり、あなたがロジャーの義娘だからです!! 私があなたを追う理由などそれ1つで十分!! 最近加わった可愛い弟子のためにも、あなたをひっとらえてみせます!! バクシーン!!」
バクシンオーは、そう宣言すると爆発的な速度で一気にゴルシへと詰め寄るが、先程までゴルシが居た場所に既にその姿はなく、いつの間にか崖のすぐそばへと移動していた。
「じゃーな、くれはのばあちゃん!! 100年後、暇だったらラフテルにデートでも行こうぜ!!」
ゴルシはそう言って笑顔で手を振ると、後ろに倒れるようにして崖から飛び降りる。バクシンオー、そして崖から落ちたように見えたゴルシを心配したドルトンが慌てて駆け寄るも、ゴルシの姿は既にどこにもなかった。
「ぐぬぬ⋯⋯! またしても逃げられてしまいましたか。流石“ワプワプの実”の能力者、瞬間移動はお手の物というわけですか⋯⋯。しかし!! だからこそ捕まえがいがあるというもの!! あなたは絶対このサクラバクシンオーが捕まえてみせますよ!! バクシンバクシーン!!」
サクラバクシンオーはバクシンバクシーンと大声で繰り返しながら、全速力で駆けていく。そしてそのまま崖から離れ、
「⋯⋯彼女らは、一体何だったのですか?」
取り残されたドルトンは、どこか疲れた様子でくれはにそう尋ねる。くれはは、ぐいっと酒瓶を飲み干してから、こう答えた。
「さぁね⋯⋯。ウマ娘ってのは、変なやつばかりさ。そして強いやつばかりだ。“D”の名を持つ麦わらといい、あのウマ娘といい⋯⋯どうやらウチのトナカイは大変な奴について行っちまったらしいね」
こうして、嵐のように現れたウマ娘、ゴール・“D”・シップは、同じく驀進的速さでやって来たバクシンオーと共に、この地を去った。
この時のことをきっかけにルフィに興味を持ったゴルシが、彼らに会いに行くのは、まだ先の話である。
次回からアラバスタ編突入。オリジナルキャラも登場する予定ですのでお楽しみに!!