本格化に関しては、シンデレラグレイやワンピの世界観なども混ぜた独自の設定としております。原作そのままの本格化ではありませんので、ご了承ください。
「“本格化”? それって一体何ですか? すいません私、あまりそういうの詳しくなくて⋯⋯」
「いえいえ! 知らない方が教えがいがあるというものですので、お気になさらず! ⋯⋯はっ!? つまりフクキタルさんの初めてをあたしが貰えるということですかぁ!? なんというご褒美! たまりませぬなぁ~!!」
「で、デジタルさん、落ち着いてください。フクキタルさんが少し引いていますぅ⋯⋯」
自称ウマ娘オタクのアグネスデジタルは、フクキタルの知らない知識を教えるという状況に思わず興奮し、頬を上気させる。麦わらの一味もだいぶ個性的だが、これまでに会ったことがないタイプの変人であるデジタルに、フクキタルの笑顔も若干引きつっていた。
「す、すみません。つい興奮してしまって⋯⋯。それでは、改めて説明いたします。ウマ娘の“本格化”と呼ばれる現象、それは具体的には3段階存在しまして⋯⋯。まず1段階目。この段階での“本格化”とは、体格の変化、そして身体能力の大幅な向上を指します」
ドトウに注意されたデジタルは、いつの間にか垂れていたよだれを拭き取り、どこからか取り出した眼鏡をかけると、きりりと表情を引き締めて“本格化”の説明を始める。フクキタルは、ドトウと並んで座り、ふむふむと頷きながらその説明に耳を傾ける。
「これに関しては、全てのウマ娘ちゃんに年頃を迎えると必ず起こることで、例外はありません。“本格化”を迎えるとひと月ほどで急激に身体が成長し、身体能力も通常の人間の何倍にも跳ね上がるわけですね。ついこの間まで幼女だったウマ娘ちゃんが数か月後にはナイスバディの美女に変貌していたりもするわけです。ウマ娘の神秘、ですねぇ⋯⋯」
いつか見たウマ娘の姿を思い出しているのか、どこか遠くを眺めたままうっとりとした表情を浮かべるデジタル。慌ててドトウが顔の前で手を振ることで、何とか妄想の世界から戻ってきた。
「はっ! 危うく仰げば尊死するところでした⋯⋯。さて、“本格化”の話の続きでしたね。フクキタルさんも見る限り1段階目は終えられているようなので、重要なのはここからです。“本格化”2段階目は、さらなる身体能力の向上と、ある技術の取得を可能とします。⋯⋯よっ!」
デジタルが軽い掛け声と共に拳を握りしめると、その拳が一瞬にして黒く染まった。その現象に驚いたフクキタルは、反射的にデジタルの拳をぺたぺたと触っていた。
「ななな、なんですかこれぇ!? なんか黒くなっていますし、それに鉄みたいに固くなってますよぉ!? これって“悪魔の実”の能力じゃないんですか!?」
「ふ、フクキタルさん落ち着いてください⋯⋯! デジタルさんが死んじゃいますぅ⋯⋯!!」
「う、ウマ娘ちゃんからの熱烈なお触り⋯⋯。デジたんの生涯に一片の悔いなし⋯⋯」
「で、デジタルさぁぁん!!?」
──閑話休題。
昇天間近だったデジタルは、ドトウのハグにより魂を現世に戻し、未だ鼻血が止まらない鼻に紙を詰めながら、先程見せた現象について解説していた。
「えーっとですね。先程あたしが見せたのは、“
「つまり、“悪魔の実”の能力ではないということですね。でも、私はそんな風に身体を黒くできませんし、まだ“本格化”の2段階目は迎えていないということでしょうか?」
「デジたんの鑑定眼によれば、まだですね。この2段階目は全てのウマ娘ちゃんが迎えることの出来るものではありません。2段階目を迎えることのないまま一生を終えるウマ娘ちゃんの方が、総数的には多いです」
デジタルは、そう説明した後、ただ⋯⋯と言って、こう続けた。
「ただ、この海で名を挙げているウマ娘ちゃんならば、必ず迎えている段階でもあります。逆に言えば、2段階目を迎えていないウマ娘ちゃんは、戦いの土俵にすら上がることが出来ないとも言えます。1段階目で終わるウマ娘ちゃんと、2段階目を迎えたウマ娘ちゃんの身体能力は、天と地ほどの差があるんです」
「そ、それなら、私にその2段階目を迎える方法を教えてください! 私、もっと強くなって、ルフィさん達のお役に立ちたいんです!!」
「安心してください。さっきも言ったように、ちゃんと方法も教えます。“本格化”の2段階目を迎える方法にはいくつかありますが、最も手っ取り早い方法、それは、自分より格上の相手と戦うことですね!!」
仲間の役に立ちたいと、身を乗り出してデジタルに詰め寄るフクキタル。そんなフクキタルに提示された手段は、シンプル故に難しいものであった。
「格上の相手との戦い、ですか⋯⋯。言うだけならば簡単そうですが、実際にやるとなると難しそうですね⋯⋯」
「まあ、もちろんそれ以外の方法もあります。デジたんは数か月ほどウマ娘ちゃんへの愛を叫びながら感謝の正拳突きを続けたら自然と迎えることができましたね!」
「わ、私はなかなか2段階目を迎えられなかったのですが、オペラオーさんと勝負した際になんとか迎えることができましたぁ⋯⋯」
「え、船長と副船長勝負したことあったんですか!? なにそれ詳しく!!」
お宝エピソードの予感を敏感に察知して食いついたデジタルは、鼻息荒くドトウへと迫る。デジタルの圧にたじたじなドトウの隣で、フクキタルはむむむ⋯⋯と頭を悩ませていた。
「うーん、私もルフィさんに勝負を挑むべきでしょうか? いやいや、流石にそれはおこがましいですね⋯⋯。ん? そういえば、デジタルさん、確か最初に“本格化”には3段階あると言っていましたよね? 2段階目でも大変そうなのに、3段階目となると一体どうなってしまうのですか!?」
「そういえば、3段階目の説明がまだでしたね。3段階目は⋯⋯お察しの通り、これを迎えることの出来るウマ娘は本当に少ないです。3段階目を迎えたウマ娘は、“
「はぁ~、すごいウマ娘さんが居るんですねぇ~。ちなみに、お二方はどうなんですか?」
フクキタルは占いばかりしていて世情にあまり詳しくなかったので、“海喰”や“海軍四皇”などと言われてもあまりピンとこなかったが、とにかく凄く強いウマ娘であるということだけは分かった。そして、興味本位で2人は3段階目を迎えているのかと尋ねてみたところ、返ってきたのは予想外の答えだった。
「恥ずかしながら、私
「いやいや、副船長は“悪魔の実”の能力があるじゃないですか! デジたんはウマ娘ちゃんには手を出さない主義ですし、“覇王海賊団”のツートップは揺るぎないですよ!!」
明言はせずとも、2人の会話のニュアンスからデジタルが3段階目を迎えているらしきことを理解し、フクキタルはこの日一番驚いたのであった。
〇〇〇〇
「いや~、本当にありがとうございました! お二方のおかげで、とても有意義な時間を過ごせました!! やはりシラオキ様のお導きは偉大ですね!!」
「私の方こそ、本当にお世話になりましたぁ。デジタルさんの居場所を占ってくれたのみならず、探し人の方も占ってくださって⋯⋯」
「いえいえ、大したことはしておりません。私の占いでは大まかな場所しか分からないので、本当にちょっと手助けをしたくらいです」
本格化の説明を聞き終え、フクキタルはその礼にと、デジタルの持っていた海図を借り、“クジクジの実”の能力でドトウ達の探し人の居る場所にざっくりとした印をつけた。とはいえ、占いで示した場所は何もない海のど真ん中で、これで手助けになったのかと不安になっていたのだが、ドトウとデジタルは思いのほか喜んでくれた。
フクキタルが印をつけた海図をじっと眺めていたドトウは、ぱっと顔を上げてフクキタルの顔を見つめる。それまでのどこかおどおどした態度からは考えられないほどまっすぐに視線を合わされ、フクキタルは思わずドキリとする。
「あの⋯⋯フクキタルさん、もしよろしければ、私たちの船⋯⋯“覇王海賊団”の一員になりませんか? 船員は皆ウマ娘ですし、きっとオペラオーさんも歓迎してくださると思うんです」
思いもよらない提案に、目を丸くするフクキタル。しかし、それが冗談ではないことは、ドトウの目を見ればはっきりと分かった。
だからこそ、フクキタルもまたまっすぐにドトウを見つめ返し、真剣な表情で答えた。
「いえ⋯⋯お言葉は嬉しいですが、お断りしておきます。何故なら、私は既にルフィさんに付いていくと決めましたので!! ルフィさんは、きっと海賊王になるお方!! そんなルフィさんに付いていけば、大大大吉間違いなしなんです!!」
「そうですか⋯⋯。それは残念です。⋯⋯ただ、一つだけ言わせてください。海賊王になるのは、オペラオーさんです」
お互いに譲れない主張がある。しかし、だからと言って、この短時間で培った友情が崩れるわけではなく、フクキタルとドトウは、最後に握手を交わし、そして別れを告げた。
「ではまた、いつかお会いいたしましょう!! シラオキ様のご加護があらんことを!!」
「次に会う時は敵同士かもしれませんが⋯⋯今日の御恩は忘れません。また、どこかで会いましょう」
「フクキタルさん!! 私次に会う時までにフクキタルさんを主役にした本を書き上げてみせますよぉぉ!!」
見知らぬ土地で偶然出会った、ウマ娘。フクキタルは、この偶然に感謝しながら手を振り、そして待たせているであろう仲間たちの下へと急ぐ。
そんなフクキタルの背を見送りながら、ドトウとデジタルの2人はポツリと声を漏らした。
「あーあ、ふられちゃいましたねぇ⋯⋯。デジたんの目の保養がまた一人増えるかと思いましたのに⋯⋯。それに、この能力。確かにざっくりとした位置しか分かりませんが、これだけ範囲が絞られれば、デジたんなら特定可能です。この付近には、確か海軍の駐屯地があったはず。既に海軍に捕まっていたんですねぇ⋯⋯。どうりで目撃情報が少ないはずです」
「残念ですが、仕方ないですねぇ⋯⋯。とりあえず、私たちも急ぎましょう。ウマ娘研究の第一人者⋯⋯アグネスタキオン博士を仲間に加えるために」
ドトウがポケットから取り出した写真に写るのは、白衣を纏い、不敵に笑うウマ娘の姿。目的地を定めた2人は、先程のフクキタルの倍以上の速さでその場を去っていったのであった。