麦わらの一味『占い師』マチカネフクキタル   作:赤葉忍

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今日は父親の誕生日なので最新話投稿します。


ビビの涙

 宿屋で一夜を明かしたルフィ達は、反乱軍が向かったという“カトレア”を目指し、早朝から出立の準備を始める。

 

 そんなルフィ達を見送りに来たトトおじさんは、ルフィに小さな樽に入った水を手渡した。

 

「うわっ、水じゃん! 出たのか!?」

 

「ああ、昨夜君が掘りながら眠ってくれた直後にね。ファルコンちゃんも手伝ってくれたおかげで湿った地層まで辿り着いたんだ。なんとかそいつを調整して水を絞り出した」

 

「おおーっ! なんか難しいけれどありがとう。大切に飲むよ!!」

 

「あれ、そういえばそのファルコンさんは今どこにいるんですか?」

 

 そう言ってキョロキョロとあたりを見渡すフクキタル。その視界の端の方から、何やら荷物を背負ったファル子が駆け足でやってきた。

 

「ビビちゃん、ちょっと待って! ファル子も一緒に行くよ!!」

 

「え!? そんな、危険よ。反乱軍は私たちで何とかするから、ファル子はトトおじさんと一緒に居てあげて」

 

「もー、そんなこと言わないでよ! この国のことが心配なのは、ファル子だって同じ気持ち。それに、お友達のビビちゃんが頑張っているんだもん。ファル子だって何か手伝いたいの!!」

 

「ビビちゃんも、仲間は一人でも多い方がいいだろう? 私は一人でも大丈夫だから、連れて行ってあげてくれ」

 

「⋯⋯うん、わかった。よろしくね、ファル子」

 

 ビビは、少しためらう様子を見せたものの、ファル子の協力を受け入れ、笑顔で握手を交わす。ファル子が臨時加入した一同は、トトおじさんに手を振り、目的地へと出発したのであった。

 

〇〇〇〇

 

 

「ねえねえ、そういえばまだ名前聞いてなかったよね、教えてよ!」

 

「そういえばそうでしたねぇ。私の名前はマチカネフクキタル、占い師です。以後お見知りおきを!!」

 

 カトレアへと向かう道中。同じウマ娘ということもあり、ラクダのマツゲには乗らずに、自然と隣り合って歩いていたファル子とフクキタルは、早速和気あいあいとお喋りを始めていた。

 

「へ~、占い師なんだ! 凄いねー!! どんな占いができるの?」

 

「一番得意なのは、水晶を使った占いですね! あとは、“クジクジの実”の能力を使ったおみくじ占いなんかも得意です。タロット占いも、やり方は知っているのですが⋯⋯あまり得意ではないですね。あ、そうだ! 休憩の時に占ってさしあげましょうか?」

 

「ファル子でいいよ☆ うん、占ってほしいかも!! ファル子の夢のこととか、ちょっと気になるし」

 

 はんにゃか、ふんにゃかと水晶玉に手をかざすポーズをしながら占いをすることを提案したフクキタルに、ファル子も顔の横でピースサインを作りながら笑顔で答えた。そんな2人のやり取りを後ろで見ていたサンジが、「フクちゃんにファル子ちゃん、ウマ娘ちゃんが2人並んでいるのを見るのは最高に素晴らしいぜ!」などと、どこぞのウマ娘オタクが聞いたら全力で同意しそうなことを口走って目をハートにさせていた。

 

 一方、サンジが後ろで勝手に興奮していることなど知らないウマ娘2人は、まだまだお喋りが止まらない。こんな灼熱の砂漠の中でも元気なのは、流石のウマ娘のスタミナであった。

 

「ファル子さんの夢⋯⋯歌が好きとおっしゃっていましたよね。それに関係があったりするのですか?」

 

「うん! ファル子はいつか、アラバスタ王国で歌手デビューするのが夢なの! 今はこんなことになっているけれど、この反乱が収まればきっと、皆の心にもゆとりが戻ってくると思うの。そしたら皆、ファル子の歌を聞いてくれるんじゃないかな~って。だから、ファル子が付いていくって決めたのは、自分の夢をかなえるためでもあるの!!」

 

「おお、それは素晴らしい心がけですね~! 私もファル子さんの夢をじゃんじゃか応援しちゃいますよ!!」

 

 ウマ娘2人がそんな会話をしていたその時、前を歩いていたルフィが突然、木にもたれかかって座り込んだ。

 

「どうしたの? ルフィさん」

 

 ルフィの謎の行動に困惑したビビは、そう尋ねる。他の面々も足を止めてルフィを見つめる中、ルフィは唐突にとんでもないことを言い出した。

 

「んん⋯⋯やめた」

 

「やめたって⋯⋯ルフィさん、どういうこと!?」

 

「おいルフィ、こんなとこでお前の気まぐれにつきあっている暇はねぇんだぞ!! さァ立て!!」

 

 反乱を止めるために急がねばならないというのに、座ったまま動こうとしないルフィに対し、サンジは声を荒げる。しかし、ルフィは動こうとはせず、どこか余裕のない表情を浮かべるビビの顔をまっすぐに見つめていた。

 

「なぁビビ。おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだよ。反乱をしている奴らを止めたらよ⋯⋯クロコダイルは止まるのか? お前はこの戦いで、誰も死ななきゃいいって思ってるんだ。⋯⋯甘いんじゃねえのか」

 

「⋯⋯! 何がいけないの!? 人が死ななきゃいいと思って何が悪いの!?」

 

「人は死ぬぞ」

 

 いつになく冷静な口調でそう諭したルフィに、感情を乱されたビビは思わずその頬を叩いていた。そしてそのまま、2人は殴り合いを交えた激しい口論を始めてしまった。

 

「ちょ、お2人ともやりすぎですよぉ!? 早く止めないと⋯⋯!」

 

「待って、フクちゃん。⋯⋯ファル子、船長さんの言っていること少しわかるんだ。だから、ここは2人のことを見守ろう?」

 

 慌てて仲裁に入ろうとしたフクキタルを止めたファル子は、ビビとルフィの様子を真剣な表情で見つめていた。

 

「お前なんかの命一個で賭け足りるもんか!!」

 

「じゃあ一体何を賭けたらいいのよ!! 他に賭けられるものなんて私何も⋯⋯!!」

 

「おれ達の命くらい一緒に賭けてみろ!! 仲間だろうが!!!」

 

 ルフィのその言葉に、ビビの目からは思わず涙がこぼれる。これまで国を思い、イガラムが犠牲になった時や、枯れ果てたユバを見た時でさえ泣かなかったビビが、初めて見せた涙であった。

 

「⋯⋯フクちゃんの船長さんは凄いね。ファル子が言えなかったこと、全部言っちゃった」

 

「⋯⋯はい。私たちの自慢の船長です!!」

 

 ビビの見せた涙に、昔からビビを知るファル子もまたもらい泣きしていた。そして、ルフィのことを褒められたフクキタルは、誇らしい気持ちで胸を張る。

 

「教えろよ。クロコダイルの居場所!!」

 

 ビビの涙を見て、その悔しさを改めて感じ取った一味の心は決まった。ルフィは、まっすぐ前を見据え、ビビに力強く尋ねるのであった。

 




次回、レインベース到着です。

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