フクキタルの掌底をダカーポはひらりと寸前のところでかわし、カウンターで肘打ちをきめる。咄嗟に腕を前に出して防御したフクキタルは、1度距離を取るために後方へと下がるが、ダカーポはすかさず距離を詰め、脚を振り上げてフクキタルを宙へと蹴り上げた。
「くっ⋯⋯!!」
腕を交差させての防御は間に合ったが、蹴りを食らった箇所がヒリヒリと痛む。フクキタルは顔をしかめて呻き声をあげた。
「ふふふっ! 流石はウマ娘だね。その身体能力はやはり侮れない!」
「そう言うあなたもウマ娘じゃないですか!!」
痛みが引いたことを確認し、フクキタルは再びダカーポへと詰め寄る。そして、ふっと一瞬腰を落とした直後、力強く地面を蹴って宙へと跳びはねた。
先程同じような動きで下からの突き上げ攻撃をしていたこともあり、虚を突かれた形となったダカーポの対応が一瞬遅れる。その一瞬の隙にダカーポの真上を取ったフクキタルは、太陽の光を背に強烈な一撃を放った。
「太陽の光は幸福の象徴!! 早寝早起き毎日参拝!! “
「うっ⋯⋯! これは効くね⋯⋯!!」
先程の蹴りの仕返しとばかりに放たれたフクキタルの踵落としは、ダカーポを仰け反らせるには十分過ぎる威力であった。
そして、この一連のやり取りで、フクキタルとダカーポは、お互いの実力が拮抗していることを悟った。身体能力はほぼ互角。それならば、勝敗を分けるのは時の運と⋯⋯そして、能力の差。
「⋯⋯うん、やはり君を俺と同じ舞台に上げて正解だった。ウマ娘である君を倒してこそ、俺の舞台は完成する!!」
拳を激しく打ち合わせながらも、ダカーポは口を動かし続ける。一方、戦いに集中しているフクキタルは、ダカーポの独白を聞き流すので精一杯であった。
「なあ、産まれた時から配役が決まっている舞台ほど、虚しいものはないと思わないかい?ウマ娘に産まれたその瞬間、“女”を演じ続けることを決められた。俺がこの人生という名の舞台に絶望したのは、その事を悟った時。そして、否応なしに女らしく変わっていく自らの身体を見た時だ⋯⋯!!」
感情と共に、ダカーポの動きも苛烈さを増し、フクキタルは押し負けて突き飛ばされてしまう。だが、素早く立ち上がりダカーポの追撃は許さない。
「ウマ娘とは何とも奇妙で、俺にとっては残酷な生き物だよ。本格化の1段階目、それを終えたその日、俺は尻尾を切り落とし、仮面を被り、ただのフィーネからフィーネ・ダカーポという名の舞台役者となる道を選んだ!!」
「⋯⋯⋯⋯!!」
尻尾を切り落としたという衝撃な言葉に、フクキタルは目を見開く。確かに、本来尻尾が生えているはずのその場所に、ウマ娘のシンボルとも呼べる尻尾は生えていなかった。
「君と俺とでは、舞台にかける熱が違う! 主演の座は譲らない。ウマ娘というしがらみを打ち破り、俺はさらに大きく羽ばたくのさ!!」
「⋯⋯あなたにも事情があるのかもしれませんが、こっちだって負けたくない理由はいっぱいあるんですよ!!」
くるりと身体を捻ってダカーポが放った回し蹴りを、フクキタルはしゃがんでよける。それを見たダカーポは追撃を入れることなく1度距離を取り、それに合わせてフクキタルも体勢を整える。
先程までの激しい攻防から一転、静かに見つめ合う2人。はじめより息を荒げつつも、決着の目処はまだ立たない。
そんな膠着状態を打ち破ったのは、ダカーポであった。
「⋯⋯君との舞台は、俺の気持ちを最高に昂ぶらせてくれる。でも、物語に終わりが来るように、舞台にも幕引きの時が来る。せめてその時までは君と2人、
大きな身振りを交え、高らかとそう歌い上げたダカーポは、勢いよく両手を広げ、能力発動のトリガーを入れた。
「“
そう声に出し、ダカーポはパァン!と顔の横で手を叩く。しかし、少し経っても何も起こらない。ダカーポが一体何をしたのか疑問に思ったフクキタルは、首を傾げてこう言った。
「えっと⋯⋯それ、何をしたんですか?」
⋯⋯そしてこの瞬間、フクキタルはダカーポの能力の罠にはまってしまった。
「えっと⋯⋯それ、何をしたんですか? えっと⋯⋯それ、何をしたんですか?」
フクキタルの口から飛び出るのは、先程と全く同じ言葉。しかも首を傾げる動作までもが繰り返されている。フクキタルは慌てて止めようとするが、口は止まらず、首もずっとこてんこてんと傾げる動作を繰り返すことをやめてはくれない。
そして、そんな無防備な状態のフクキタルにゆっくりと近づいたダカーポは、力強く横腹を蹴り抜いた。
衝撃で吹き飛ばされたフクキタルであったが、ここでようやく身体の自由がきくようになったので、咄嗟に受け身を取りダメージを抑える。しかし、防御することも許されず横腹へと与えられた一撃は重く、痛みで顔を歪ませながらフクキタルは立ち上がった。
「う、うぐぐ⋯⋯。今のは、あなたの悪魔の実の能力ですか?」
「その通り!! 今のは俺の悪魔の実、“リピリピの実”の能力!! 俺は、触れたものの動きを、任意のタイミングで固定、反復させることができる反復人間なのさ!!」
「⋯⋯それ、私に言ってよかったんですか? 能力は秘密にしておいた方がいいのでは?」
「こっちの方が舞台は盛り上がるだろう!? それに⋯⋯能力をバラしたところで、君にはもうどうすることも出来ないのだからね!! さあ、“
「ふんぎゃあああ!? またですかぁぁ!?」
ダカーポは再び手を打ち鳴らし、フクキタルは今度はふんぎゃろぉと驚愕した表情と叫びを繰り返す羽目になる。そしてまたしても、動けないフクキタルへダカーポが蹴りを放ち、フクキタルは吹き飛ばされる。
「ぐはっ!? あ、あれをなんとかしないとこのままじゃやられてしまいます⋯⋯。そ、そうだ!!」
ぴこーんと閃いて耳を立てたフクキタルは、腰を低く落とし、地面を踏みしめる。そして浮かび上がった八角形の陣は、フクキタルの能力発動の印であった。
「当たるも
「何をするつもりか知らないが、好きにはさせない! “
「のこった!! そちらの方角は吉、運勢最高! つまりは福の道!! 来ます来てます来させます!!」
ダカーポは能力発動のため手を叩くが、フクキタルもまた“クジクジの実”の能力を発動。幸運にもダカーポの立つ方角が吉と出たため、能力の影響を回避して動くことが出来た。
動けないと油断していたダカーポは、フクキタルの猛ダッシュに対処しきれず、鋭い掌底を脇腹に喰らって吹っ飛ばされ、建物の壁にぶつかり背中を強打した。
「よし、これでおあいこですね!! サンキューシラオキ、またきてハッピー!!」
「⋯⋯成程。そう簡単に舞台を降りる気はないってことか。面白くなってきたじゃないか!!」
お互いにダメージはあるものの、その瞳から闘志は消えない。悪魔の実の能力をぶつけ合う第2幕が今、始まろうとしていた。
次回、決着。