麦わらの一味『占い師』マチカネフクキタル   作:赤葉忍

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この話がずっと書きたかったです。フィーネ・ダカーポ戦、決着。


菊の舞台に福来たる

「“舞台名優の再公演(リピート・アクター・ユー)”!!」

 

 ダカーポは華麗なステップを挟みながら、フクキタルが動きにくい体勢になった瞬間を見極めて顔の横で手を打ち鳴らし能力を発動、“リピリピの実”の力で強制的にその体勢と動作を反復させ、無防備になったところを容赦なく攻めていく。

 

「ぐぎぎぎぎ⋯⋯! 私も負けませんよぉ!! “八卦発勁(はっけはっけい)”!!」

 

 対するフクキタルは、“クジクジの実”の能力で運勢を操作し、時折幸運を引き当ててダカーポの攻撃をかわしては反撃を入れている。

 

 しかしながら、状況は明らかにフクキタルが劣勢。“クジクジの実”による回避は運がよくなければ発動しないため、ダカーポの能力を完全に無効化することは出来ない。それに、能力の術中にはまると回避が不可能なフクキタルに対し、ダカーポはフクキタルの反撃を回避することが出来る。

 

 フクキタルの方が受けているダメージが多いのは、外見からも明らかであった。フクキタルがいつも背負っている招き猫のバッグは肩紐が千切れて今にも落ちそうだし、服もボロボロ。それでもなお、フクキタルの瞳には闘志が燃えたぎっていた。

 

「分からないな。何故君の瞳からは闘志が消えない? 何がそうも君を奮い立たせるんだい?」

 

「皆を幸せに導くのが、占い師の務め! ここで私が倒れたら、大切な仲間の幸せが壊れてしまうから!! だから、私は⋯⋯この手で勝利と言う名の幸福を招いてみせます!!」

 

 ぐっと拳を握り締めたフクキタルの想いに応えるように、“クジクジの実”による幸運回避が発動、そのままダカーポの懐に潜り込み掌底を叩き込むことが出来た。

 

「速いっ⋯⋯!? くっ、回避は間に合わなかったか。でも、俺と君はウマ娘。このままでは舞台の幕は一向に下りないだろう。俺はそれでも構わないが、互いにそこまでのんびりしている暇はない⋯⋯。だから、ここで“奥の手”を使わせてもらおう」

 

 ダカーポは、ふぅーと息を吐いて全身の力を抜く。フクキタルは、ダカーポの言った『奥の手』という言葉と、全力で集中している様子を見て、いつでも迎え撃てる体勢で構えを取る。

 

「⋯⋯ヴィヴァーチェ、アレグロ、ラルゴ。繰り返し、加速する拳⋯⋯! “鼓動は止まらない(リピートビート)二重奏(デュオ)”!!」

 

 それは、瞬きする間も無い程の、一瞬。先程までとは比べものにならない速度で迫り来るダカーポが放った拳は、2重の衝撃を持ってフクキタルに襲いかかった。

 

「⋯⋯!?」

 

 その衝撃に耐えきれず、フクキタルは吹き飛ばされ、そして石造りの壁へと激突する。激突の衝撃で崩れた壁は、フクキタルの身体を飲み込んで砂煙を巻き上げる。

 

「俺は、“リピリピの実”の反復人間。自分の動きもまた、その能力の対象だ。一瞬の間に動作を反復させることで、速度・威力共に大幅に向上できる。⋯⋯まあ、身体への負担もその分大きいから、あまり使いたくない“奥の手”なんだけれどね」

 

 ダカーポは、瓦礫に埋もれたフクキタルを一瞥し⋯⋯そして、この戦いの幕を下ろすべく、パチンと指を鳴らした。

 

「⋯⋯さらに、俺の能力は、生物のみならず、無機物もまた対象だ。さあ、終わろうか。“舞台名優の再公演(リピート・アクター・ユー)”!!」

 

 ダカーポが指を鳴らして反復させたのは、崩壊した壁の動き。既に瓦礫の下に埋もれているフクキタルに、更なる崩壊の衝撃が襲いかかった。

 

 ダカーポは、数十回ほど瓦礫の崩壊を繰り返し、指を鳴らしてその動きを止める。先程までの豪快な瓦礫の音も止み、静寂があたりを包む。

 

 一切の容赦なくトドメを刺したダカーポは、まさに名優と呼ぶに相応しい戦いを魅せた。しかし、舞台の幕はまだ下りない。ダカーポの誤算は、フクキタルの幸運と、そして⋯⋯ウマ娘の秘めた、大いなる可能性。

 

「ぶはぁーーーっ!! し、死ぬかと思いましたよぉ!? いや、にゃーさんが居なかったら私、確実に潰れて圧死していました!!」

 

 静寂を破り、ドゴォンと音を立てて瓦礫の中から飛び出したフクキタルの両手には、潰れてぺしゃんこになってしまったフクキタルの招き猫型バッグ、にゃーさんがいた。その中に入っていた数々の幸運グッズが緩衝材となり、幸運にもフクキタルを瓦礫の山から守ってくれたのだ。

 

 そして、フクキタルが助かった原因は、それだけではない。フクキタル本人は気付いていないが、瓦礫から出てきたその瞬間、ダカーポはフクキタルの手足が黒く染まっていたのを見ていた。

 

(本格化、その2段階目を迎えたウマ娘のみが使える妙技、“体鉄(ていてつ)” ⋯⋯!! 尻尾を切り落とした俺では絶対にたどり着けないその領域に、君はこの舞台の最中にたどり着いたというのか⋯⋯!?) 

 

 ダカーポは驚愕するも、それを声には出さない。本人が気付いていないならば、その力を自覚する前にもう一度“奥の手”を叩き込むまで。そう思い、再び全身の力を抜く。

 

「あ、またそれするつもりですかぁ!? 痛いから止めて欲しいところですけれど⋯⋯。たぶん、それをする間は私の動きを繰り返すことは出来ないですよね? ⋯⋯ならば、私も全力、幸運パワーフルマックスでいかせて貰います!!」

 

 フクキタルの指摘は正しい。自分に能力を使用する“奥の手”を発動するには、フクキタルに能力をかけ動きを固定する戦法は使えない。

 

「⋯⋯まあ、工夫しようはいくらでもあるよね!!」

 

 ぐっと脚に力を込めたフクキタル。その瞬間を狙い、ダカーポはパァン!と手を打ち鳴らす。確かに同時に発動は出来ないが、“奥の手”を撃ち込む直前にフクキタルにかけた能力を解除してしまえば問題ない。

 

 勝利という名の幕引きへの台本はできあがった。あとは、その台本通りに舞台の上で演じるのみ。

 

 ──そう確信していたダカーポは、舞台の上を走る漆黒の閃光を見た。

 

「⋯⋯っ!? “鼓動は止まらない(リピートビート)四重奏(カルテット)”ォ!!」

 

 気付いた時にはフクキタルがすぐ目の前まで迫ってきており、ダカーポは動揺しながらも、反射的に“奥の手”を放つ。それは、一瞬にして4度の拳を繰り返す、今のダカーポが出来る最高の技。その拳がフクキタルの肩に触れたその瞬間、ダカーポは悟った。何故、“リピリピの実”の能力を発動させたはずのフクキタルが、自分の元まで駆け寄ることが出来ているのか。

 

 フクキタルは確かに、能力にかかっていた。地面を踏みしめたその瞬間、フクキタルはもうその動作しか出来なくなっていた。しかし、その動作たった一回で、フクキタルはダカーポの元まで接近していたのだ。

 

「ふんぎゃろーーーーー!!!」

 

 フクキタルが魂の叫びと共に、両手を前へと突き出す。黒く染め上げられたその両手は、ダカーポの攻撃の威力にも負けず、全身全霊の力を込めてダカーポの腹部へと叩き込まれた。

 

「がふっ⋯⋯!!」

 

 ダカーポは口から血を吐き、膝を地面につく。フクキタルの攻撃を受けた箇所は、まるで大輪の花が咲いたかのように、くっきりと両手の痕が残っていた。

 

 ダカーポは、どこか愛おしげにその痕をさする。そして、身体を酷使して限界を迎えたのか、ぜぇぜぇと息を吐きながら仰向けに倒れるフクキタルを見て、ふっと笑みを浮かべた。

 

「ふ、ふふ⋯⋯。こんな見事な花を贈られては、舞台の幕を下ろさずにはいられない、ね。なあ、この花の名前を、俺に教えてくれないかい⋯⋯?」

 

「ぜえ、ぜえ⋯⋯。は、花の名前、ですか? いや、私も必死だったので、特に名前も考えずに全力でやっただけですが⋯⋯」

 

「⋯⋯ならば、俺がこの花の名前を贈ろう。君に贈るのは、菊の花。真っ赤な、真っ赤な、菊の、華⋯⋯」

 

 ダカーポは、そう言って、力尽きたようにどさりと前に倒れた。その横で仰向けになりながらしばらく息を整えていたフクキタルであったが、やがて息が落ち着くと、すっと立ち上がった。

 

「菊の花⋯⋯。“菊花掌(きっかしょう)”ですね。良い名前を、ありがとうございます」

 

 フクキタルは、途中で脱げてしまっていたシルクハットをダカーポの頭の上にそっと置くと、ふらふらとした足取りでその場を去って行った。

 

 

 繰り返し、繰り返し、砂の国で2人の名優によって幾度となく繰り広げられた名も無い舞台は、投げ込まれた一輪の花によって名前を得、その幕を下ろした。

 

 戦いの舞台の名は、菊。勝者の名は、フクキタル。

 

 ──菊の舞台にも、福が来た。

 




赤い菊の花言葉は、『あなたを愛します』
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