7年後ー暁を目指した者たちー 作:野生のムジナは語彙力がない
後悔はしていません。そう、例え訴えられたとしても
(その際には、潔く削除します)
行こう、俺たちの居場所はここじゃない。
……うん、そうだよね。
誰だって、知らないところへ行くのは怖いよね。
俺だって、本当は怖い……
けど、俺は1人じゃないから……
俺の中には………………そして…………
だから…………………………。
ああ、俺たちは必ず辿り着いてみせる。
俺たちの、本当の居場所に……
ここじゃない、どこかへ……
………………
…………
……
ーーーーー
……
…………
………………
朝の台所に、米を研ぐ音が響き渡る。
米粒同士が擦れるシャカシャカとした涼しげな音色は、やがて研ぎ汁を流す音へと変化し、間も無く白い粒だけが残ったお釜の中に水が注がれ、再び米を研ぐ音が響き渡った。
「〜♪」
白みを帯びた早朝の空、薄暗い台所、シンとした静けさの中で鼻歌まじりに食事の支度をしているのは、1人の青年だった。
銀髪、色黒の肌、高身長、引き締まった体つき、服装は黒のワイシャツに臙脂色のスラックス姿と、どこか反社会勢力的な職業を彷彿とさせる、凄みのある出で立ちだった。
だが、シャツの上から可愛らしい花柄のついたエプロンを着用しているおり、ミスマッチではあるものの、それが彼の強面なイメージを少しだけ緩和していた。
米研ぎの為にシャツの袖は折り曲げられ、筋肉質な色黒の二の腕が露わになっている。
やがて米研ぎを終えた青年は、お釜の中の米を一粒たりとも無駄にしないよう慎重に研ぎ汁をこぼして水気をきった後、きっちり分量を測って水を入れ、重くなったお釜を炊飯器の中に入れた。
ご飯が炊けるまで30分。
その30分の間に、青年は慣れた手つきで味噌汁の準備を始める。具材はワカメに豆腐とシンプルなもの、出汁をとって味噌を溶かしたスープの中に乾燥ワカメと切った豆腐をいれ、一煮立ち。その間にフライパンを取り出し、目玉焼きの準備をする。
目玉焼きを仕上げてお皿に移すと、今度は冷蔵庫から取り出したベーコンとウィンナーを少し多めにフライパンの上に落としていく。
食べきれない分は、弁当に入れるつもりだった。
「……っ」
青年はベーコンから弾けた油に呻き声を上げつつも、肉がカリカリになったタイミングで加熱をやめ、先ほどの目玉焼きに添えるような形でベーコンとウィンナーをお皿に盛り付けた。
その時、炊飯器からお米の炊き上がりを意味する軽快なブザー音が鳴り響いた。
炊飯器を開けると、充満していた蒸気が解放され、中から艶のあるふっくらとした炊きたてのご飯が顔を出した。しゃもじを使って熱々のご飯をお茶碗に盛り、それから美味しそうな湯気を立てる味噌汁と、別で用意していたほうれん草の炒め物を器に入れてテーブルへと運ぶ。
食卓に2人分の朝食が並べられた。
青年は小さく息を吐いて自分の椅子に座り、リモコンを操作してテレビの電源を入れ、しばらくの間、対面に座る人の到着を待った。
『……続いてのニュースです。世界各地に未曾有の被害をもたらしたガストレアとの戦争が終結して7年目となる今日。人類に残された数少ない生存圏の1つであった東京エリアでは、大規模な慰霊祭が開かれる見通しです』
「…………」
チャンネルを切り替え、行き当たったニュース番組の女性アナウンサーが発した言葉に、チャンネルを操作する青年の手がピタリと止まった。
『慰霊祭には現国家元首ら新政府重役と共に、当時の東京エリア統治者であった3代目聖天子も参列し、ガストレア大戦で亡くなられた多くの方々に向けて哀悼の意を……』
「そうか……もう、そんなに経つんだな」
青年は誰に言うでもなくそう呟き、テレビから目を背けるかのように自分の手に視線を落とした。それから何かを振り払うかのようにため息を吐き、開いた両手を頬に打ち付けた。
「遅いな……」
気を取り直して壁に掛けられた時計に目をやり、青年はいつまで経っても同居人が姿を現さないことに疑問を抱いた。仕方なく椅子から立ち上がり、エプロン姿のまま部屋のリビングを出て、彼女へと声をかけるべく2階へ上がる……
「おーい、朝飯の準備できてんぞ」
「…………」
青年はドアをノックしてそう呼びかけるも、しかし、彼女からの返事はなかった。
「おーい? どうしたー?」
「…………」
「オイオイ……まさかまだ寝てるのか?」
「…………」
「ったく……しょうがねぇな。ティナ、入るぞ?」
青年はそう告げてドアノブを回し、彼女がいる部屋の中へと足を踏み出した。
「……ああ、やっぱりな。だと思ったよ」
「…………すぅ……すぅ……」
そして、部屋の片隅に置かれたベッドの上に少女の姿を見つけ、青年はほんの少しだけ呆れたような表情になり、思わず銀髪を掻きむしった。近くにあった窓から朝の穏やかな光が差し込み、彼女の表情を明るく照らし出している。それにもかかわらず、毛布にくるまった少女は安らかな寝息を立て、一向に起きる気配がなかった。
「おーい、もう朝だぞ」
「んぅ……?」
ベッドへと近寄り、青年が少女の肩を軽く叩いて声をかけると、可愛らしい呻き声と共に彼女はゆっくりと身を起こし、うつらうつらとした瞳をうっすらと開いた。
さらさらのプラチナブロンド、碧眼、クラスメイトたちから『お人形さん』と評されるほどの整った顔立ち、そしてメリハリのある体つき。彼女の頭にはいくつか寝癖がついてしまっており、さらにパジャマを大きく着崩して、服の襟から華奢な白い肩がはみ出てしまっている。
「ああ……おはようございます。お兄さん」
眠たそうに目を擦って、その少女……ティナ・スプラウトは微睡みが含まれた笑みを青年に送った。
「おはようさん。朝飯できてんぞ」
「はい……いつもありがとうございます♪」
「気にすんなって、冷めちまうから早くな」
「はい♪」
眠たそうな目を懸命に開き、ふんわりとした笑みを浮かべて返事をするティナを見て、その青年……オルガ・イツカは、思わず優しげな微笑みを浮かべるのだった。
今から7年前……
長きに渡るガストレアとの戦いは終わった。
死闘の末に、かつて地球全土で猛威を振るっていたガストレアウィルスの脅威は去り、それに伴って『呪われた子供たち』の問題も解決し、人々は本来あるべき平和な日常を取り戻した。
しかし、人類が支払った代償はあまりにも大きかった。ガストレアのいなくなったこの平和な世界が、自分たちの家族、友人、そして名も知らぬ誰かの犠牲によって得られたものであることを心に刻みながら、人々は今なお続く復興への道を歩み続ける……
そして、ここにガストレアとの血生臭い戦いを生き延び、争いのなくなった世界を懸命に歩み続ける2人がいた。
オルガ・イツカ
そして、ティナ・スプラウト
年若き青年は心身ともに目まぐるしい成長を遂げ、幼い少女は7年という時を経て美しい女性へと羽化した。
西暦2039年
これは、あり得たかもしれない未来のお話……
『鉄血・ブレット』外伝
非公式三次創作:「7年後……」
それから30分後……
2人揃って朝食を食べ終えると、オルガは朝食の残りを使ってティナのお弁当を用意してやり、さらに食器洗いを済ませた。それから自室に戻り、朝食の準備に邪魔だったネクタイを首に巻き、臙脂色のスーツに袖を通し、髪型を整えビジネスマン風な格好になると、部屋を出てそのまま2階へと向かった。
「おーい、ティナ」
再び、オルガはティナの部屋をノックして声をかける。
「準備出来たか? そろそろ家出ねぇと、学校遅刻しちまうぞー?」
「…………」
「ティナ?」
「…………」
「おい、まさか……」
「…………」
「ティナ、入るぞ?」
嫌な予感がして、躊躇いつつもドアを開けると、そこにはオルガが予想していた通りの光景が広がっていた。
「…………すやぁ」
ティナの姿はベッドの上にあった。
しかし、つい先ほどまで起きていた筈の彼女は、平日であるにもかかわらず堂々と二度寝を決め込んでおり、スヤスヤと可愛らしい寝息を立てて熟睡していた。
しかし、問題はそれだけではなかった。
「お……おまっ!? な、何て格好して……!?」
ティナの姿を見て、オルガは慌てた。
おそらく着替え中に眠ってしまったのだろう、ティナはパジャマのズボンを膝の位置まで下ろした状態で体を丸めて眠りについていた。そのため桃色の妙に色っぽいショーツと、それに包まれた肉付きの良いヒップが丸見えの状態になってしまっている。
「す、すまねぇ……見るつもりはなかった……い、いやそれよりもティナ起きろ! もうそんなに時間に余裕がねぇんだ、早くしないと学校に遅刻しちまう……!」
「すー……すー……」
オルガはすぐさまティナから目を逸らし、右手で目元を覆って彼女の姿を見ないようにして呼びかけた。しかし、熟睡していることもあってか、声をかけただけでは一向に起きる様子がなかった。
「くっ……仕方ねぇ」
オルガは躊躇しつつも部屋へと踏み込み、ティナの姿をなるべく見ないようにして彼女の元へ近寄り、小さな肩を掴んで激しく揺さぶった。
「ティナ! 起きろ、起きてくれ……!」
「んぅ…………お兄さぁん、だめですぅ……」
「な、何がだめなんだ……?」
「私……起きれません…………すごく眠くて」
「そこを何とかしてくれよ……それよりもほら、早く着替えてくれ。何というかその……め、目のやり場に困るというか……」
「むりです……代わりに、お兄さんが着替えさせて下さい」
ティナの言葉に、オルガは激しく動揺した。
息を呑み、色黒の頬が少しだけ赤く染まる。
「は……はぁ!? 何でオレが……!?」
「お願いしま……すぅ…………すぅ……」
「ね、眠るんじゃねぇぞ……! そ、そうだ! ティナ、カフェインは……カフェインはどこにある? アレさえあれば、その場しのぎでも多少は目が覚めるだろ!」
部屋を見渡し、机の上にカフェインの容器を見つけたオルガはそれを手に取ってみるも、容器は思いの外軽く、振ってみても中から何の音もしなかった。蓋を開けて中を確かめてみるも、タブレットの1つすら残っていない……
「か、空っぽじゃねーか……」
「そういえば……使い切ったの、わすれてました」
「勘弁してくれよ……」
オルガはティナへと視線を送った。
ベッドの上で眠る少女は僅かに言葉をあげるだけでそれ以上に覚醒する気配はなく、そして残されたタイムリミットは刻一刻と迫っている。
「ああ……分かったよ!」
選択を迫られたオルガは意を決してベッドの上に腰掛けると、ティナの体を後ろから抱き起こし、その辺りに落ちていた制服のスカートを拾い上げた。
「ほら……足入れろ」
「んぅ……」
オルガは着替えすら出来ないほど眠いと語るティナに、まずはスカートを履かせてあげることにした。触れただけで壊れてしまいそうな、彼女の細くて長い足をなるべく触らないように素早くスカートを通し、色っぽいアピールをするショーツとヒップを紺色の生地で隠した。
「というか、なんでそんなに眠たそうにしているんだ? 確か、頑張って夜型は直したっていう話じゃなかったか?」
「ぅぅん…………昨日は夜遅くまで起きていろいろと準備してたんです……ついでにカフェインも飲んで、そのせいで寝不足なんです」
「なるほどな。ところで準備ってなんだ?」
「それは…………秘密です」
「なんだよ。勿体ぶらずに教えてくれよ……よし、スカートの方はこれでいいな? いいよな? いきなり落ちたりしないよな?」
慣れないスカートの調節に四苦八苦しながらも、なんとかティナにスカートを履かせることに成功し、オルガは小さく息を吐いた。
しかし、本当に大変なのはこれからだった。
「ほら、オレはもう出て行くから、早くパジャマを脱いで制服に着替えろよ。言っとくけどな、もう時間が……」
「ふぁい…………zzz」
ティナは大きな欠伸と共に返事をすると、パジャマのボタンを外そうと自分の胸元に手を伸ばした。しかし、その指が第3ボタンをもぞもぞとさせたところで、ティナはピタリと動きを止めた。
「いや、止まるんじゃねぇぞ……」
「すー……すー……」
「くっ……ああっ! まったく、せめて木更さんか延珠でもいてくれたら……」
しかし、いくら願ったところで状況は変わらない。
このままではティナが学校に遅刻しかねないし、自分にだってこれから仕事がある。最早、一刻の猶予もなくなりつつある今、オルガは覚悟を決めざるを得なかった。
「ああ、分かったよ! やるよ!」
半ばヤケクソ気味に決意を口にして、オルガは倒れかかったティナの前に移動して体を支えつつ、パジャマのボタンに手をかけた。
キツイからと、1番目と2番目のボタンは彼女によって既に開け放たれ、ティナはパジャマの胸元を大きく開いたような形となっており、綺麗な胸の谷間がオルガの眼前に広がった。
「うっ……」
それを見て、恥ずかしくなったオルガはティナの背後へと回り込み、後ろから腕を伸ばしてパジャマのボタンを外しにかかった。
そして、パジャマを脱がせようとし……
「お、おいティナ!?」
そこで、ある事に気付いたオルガは顔を思いっきり赤らめ、パジャマを脱がす手をピタリと止めた。
「うーん……?」
「な、なんで下になんも着けてないんだ!?」
「ふぁ……?」
オルガの言葉に、うっすらと覚醒したティナは視線を下に向けた。ティナはパジャマの下に何も着けておらず、このまま脱がしてしまっては丸裸同然になってしまうからだった。
「窮屈なので、寝る時にはブラジャーをしないようにしているんです。お兄さん、こっちの方が開放感があって眠りやすいんですよ?」
「そ、そうなのか……」
「はい…………一応、夜用のナイトブラというものもあるにはあるんですが、学校の友だちが私にはまだ早いって買うのを止められて……ふわぁぁぁ」
「お……おう、ってちょっと待て!」
ティナは男であるオルガがすぐ後ろにいるにも関わらず、何でもないといったような様子でパジャマを脱ぎ、オルガが止めるよりも早く素肌を晒した。
「……ッ!」
そして、オルガは言葉を失った。
上半身だけ生まれたままの姿になったティナの背中はスベスベで、肌はきめ細やかでシミひとつなく、陶器のように美しく魅力的だったからだ。
うなじからお尻の付け根にかけて真っ直ぐに伸びる背骨の筋は色っぽく、そして、両脇からチラチラと存在をアピールする大きく育ったそれは、かつてビグザムと称した木更のそれにも匹敵するほどだった。
より大人の体つきに近づいた彼女の体。
ひと回り近く歳が離れているだけあって、今までずっとティナのことを子ども扱いしていたオルガにとって、この成長は驚愕に値するものだった。
子どもの成長って早いんだな……
ティナの背中から目が離せなくなったオルガが、しみじみとした様子でそんな事を考えていると、ティナが僅かに後ろへ振り向いた。
「お兄さん、そこのブラジャー取ってください」
「え? お…………おう」
ティナの視線を辿ると、ベッドの隅に……毛布の中に埋もれるような形でブラジャーが落ちていた。ショーツと同じ桃色をした、カップ数が大きめのやつである。
「う…………ほら、これだろ?」
「お兄さん、初々しいですね」
「わ……悪いかよ!」
「いえ、何でもありません♪」
気恥ずかしそうにしているオルガに礼を述べ、ティナはブラジャーを受け取ると、オルガの見ている前でそれを胸に当て……後ろ側のホックを止めようと手を回した。
穏やかな朝の陽光が差し込む部屋の中、ベッドの上には寝起き直後の眠たそうな表情のティナ。うっすらと頬を赤く染め、彼女は下着の位置を微調整し、後ろ手に留め金をはめ……
それはまるで事後のような……
「ハッ!? 」
そこでオルガは、自分がティナの生着替えを前に思わず魅入ってしまっていることに気づき、勢いよく飛び上がってティナの後ろ姿から視線を逸らした。
(くそっ! ロリコンのマクギリスじゃあるまいし、オレは一体何を考えてやがる!? 血は繋がらないとはいえ、ティナは俺にとって家族同然のような子で、妹みたいなものなのに……)
……好色的な目で見るのはダメだ、絶対に!
心の中でそんな事を考え、大きなため息を吐いた。
「お兄さん? どうかしましたか……?」
「い……いや! というか、目ぇ覚めたんならもうオレが着替えさせる必要はないな? だったらオレはもう出て行くぞ?」
「お兄さん……もしかして」
「な、なんだよ……?」
「恥ずかしがってます?」
「な……!?」
扉を開けて部屋の外に出ようとしたところでティナにそう言い当てられ、オルガはギクリとなった。オルガのそんな様子を見て、ティナはクスクスと笑う。
「な、何笑ってやがる? いや……だって……っというかお前さんだって嫌だろ? いくら家族とはいえ、自分のそんな姿を……その、裸を見られるのは……」
「大丈夫ですよ。私は、お兄さんに裸を見られるのは嫌じゃありません。というか、裸を見せているのは私の方なのに何でお兄さんが恥ずかしがっているんですか?」
目を瞑って背を向たまま声を絞り出すオルガに、学校の制服を身につけ、上から1つずつボタンをかけながらティナはそう答えた。
「これは……ちょっと熱っぽいだけだからよぉ。それで……まあ、そういう家族のあり方もあるのかもしれないなって、そう思ったっていうか……」
「そうですか。まあ、そういうことにしておきましょう」
落ち着きのないオルガの様子に、ティナは小さく笑った。からかわれているのは分かるが、彼女の笑顔を見ていると、どうしても怒る気になれないオルガ・イツカだった。
「はぁ……それじゃあ、オレは先に下で待っているから早く来いよ? 二度寝……いや、この場合だと三度寝か? とにかく眠るなよ! あと、髪についた寝癖もちゃんと鏡見て直せよ? それと靴下に鞄も忘れるな、そうだ上着もだ!」
「お兄さん、なんだかお母さんみたいです」
「やめろ……思い出しただけで寒気がする」
今日この日、
世界は歴史上、何度目かの争いのない朝を迎えた。
言いたいことは色々あると思いますが、訴える前にどうか『お詫び』を先に読んで頂けると幸いです。