7年後ー暁を目指した者たちー 作:野生のムジナは語彙力がない
第7話ッッッッッッ!!!きたよッッッ!!!
(注、以下第7話に関するネタバレあり)
もう既に10回以上も7話を見返しているのですが、正直クォリティの高さに脱帽しました。そりゃ制作に数ヶ月もかかるわけです。
ムジナは6話が公開されてから1ヶ月くらいで禁断症状になり、それから毎日投稿されたかなーってニコ動を開いて、1日3回は作者様のページを確認して、寂しさを埋めるために1〜6話を見返してっていう日々が続いていました。なので第7話が投稿されているのを見たときには、飛び上がるほど驚いたし嬉しかったです。(実話)
内容についてですが、先に述べたように戦闘シーンのクォリティが非常に高く、凄く良く作り込まれているなと思いました。制作には、さぞかし苦労なされたことでしょう……
異世界オルガでよくやるように獅電や希望の華に頼ることなく、あくまでもオルガ自身の力だけで強敵を打ち倒し、困難を乗り越えるというね……完璧なシチュエーション。それを構想し、そして実現に至った。それだけでも作者様は非凡な才能に溢れていると感じられます。
本当は前話(『あした』)で終わりにする予定だったのですが、7話を見た時の感動と興奮をどうにかして表現してみたく思い、ムジナも創作意欲を抑えられなくなり、当話の投稿に至りました。
正真正銘、これが非公式三次創作である本作:『7年後』のフィナーレとなっております。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
長くなってしまい申し訳ありません
(あとがきに続く)
それでは、続きをどうぞ……
エピローグー暁を目指した者たちー
そして、長い夜が明けた。
僅かに白みを帯びた早朝の空。静寂に包まれた世界、北風は音もなく住宅街を駆け抜け、冷え切った外気は窓ガラスを白く凍てつかせ、うっすらとした光がカーテンの隙間から部屋の中へと差し込んでくる。
「んぅ……」
朝の気配が差し込む薄暗い部屋の中、ベッドで眠る少女は小さな呻き声を上げ、そして徐々に意識を覚醒させた。薄いシーツ1枚に包まれた少女の体は窓ガラスから伝わるヒンヤリとした空気に晒されてはいるものの、少女の傍には熱を持った1つの抱き枕があり、温かなそれを抱いて眠る少女の体が冷えることはなかった。
ベッドの上に残る若干の汗臭さは微塵も気にならず、湯たんぽのようなそれを抱きしめ、少女は天にも上る心地良さを感じながら、おぼろげに瞳を開けた。
「……朝?」
窓際のカーテンから差し込む薄光を感じ取り、ベッドから身を起こさなくてはとは思いつつも、起床直後で思考が追いついていない少女は、空気の冷たさも相まって、全身を包み込むこの温かさにもう少しばかり身を寄せていたいと、抱き枕を深く抱きしめ顔を埋めた。
「……っ」
その時、どこからともなく息の漏れる気配。
微睡みに落ちる寸前でそのことに気づいた少女は重たい瞼を僅かに見開くと、そこには色黒の肌。ゴツゴツとした広い胸板、極限まで鍛えられたと称しても過言ではないほど、一切の無駄がない筋骨隆々な肉体。
そして少女は、今自分が温もりを求めてしがみついているものが抱き枕などではないことにようやく気づいた。
居心地の良い人肌の温もりを、少女が間近で感じている時だった。自分の後ろ髪を誰かに優しく撫でられる気配を感じ取り、少女は心地よさに身をよじらせた。すると、撫でた本人もそれに気がついたようでその体がピクリと反応した。
「ん、起きたか?」
「……んぅ?」
聴き馴染んだその声に気がつき、少女がゆっくりと顔を上げると、そこには少女にとって最愛の人の姿があった。優しさと恥じらいの色が浮かんだ彼の表情、2人の視線が空中で交わる。
「……あれ? お兄さん?」
「ああ、ティナ……おはよう」
オルガとティナは、お互いに抱き合うようにして小さなベッドの上で横向きになっていた。その事実に気づいたティナは、慌てて周囲を見回し、そこが自分の部屋の中であることを理解すると……勢いよく飛び起きた。
「え? え? 私……なんでお兄さんと!?」
「お、お前……覚えてないのか?」
ティナは顔を赤面させ、混乱したように目をぐるぐるとさせた。その際、恥ずかしさのあまり2人で被っていた薄いシーツを引っ張って独占してしまった為、体を隠すものを失ったオルガは彼女の前で半裸を晒してしまう。
「え……えっと、その……はい。あんまり詳しくは思い出せないです。お兄さん……昨日、ここで一体何があったんですか?」
「え?! な、なんで……っていうかオ、オレに聞くんじゃねぇよ……いや、その、なんつーか…………それ、めくってみれば分かるんじゃねぇの? 多分……だけどよ」
「え……?」
彼の言う『それ』とは、このシーツのことだろうか? オルガが示したシーツを見て、ティナはここでようやく足元の違和感に気づいた。正確には、つい先ほどまで自分の体があったその場所の……
ティナはシーツに隠れたその場所をめくった。
「あ……」
そして、ティナは全てを思い出した。
それが本当のことなのか確証を得るべくオルガの方に目を向けるも、彼は頬を赤らめ彼女から視線を逸らして、気まずそうな表情で明後日の方向を見つめるばかりだった。
「そっか……私…………お兄さんと……」
そんなオルガの様子を見て、ティナは自分の頬が猛烈に熱くなるのを感じた。朝が苦手であり、なおかつ夜更かししていたとはいえ、流石に今回ばかりはすっかり目が冴えてしまっていた。
「お、お兄さん……どうして目を逸らすんですか?」
「いや、お前こそ……目逸らしてるじゃねぇか」
「これは……照れ、です」
「い、今更か……?」
まともにティナの顔を見れなくなってしまったオルガは、そこで何気なく散々な状態になってしまったベッドに視線を向けた。しかしその瞬間、ティナは元狙撃手としての能力を活かしてオルガの視線を敏感に辿り、超人的な思考と判断の下、目にも留まらぬ速さで毛布を蹴り飛ばし、ベッドシーツに染み付いたそれを毛布で覆い隠した。
「あー……シーツ、洗わないとな」
「それは私がやりますッ……そ、そんなことよりも……その、ごめんなさい。昨日の私は、本当にどうかしていました」
「い……いや大丈夫だ、オレはあんまり気にしてないからよ。いや、全く気にしてないってワケじゃねぇが……もちろん、いい意味でな。それよりもオレの方こそ、その……悪かったっていうか」
「な、なんでお兄さんが謝るんですか?」
「それは、なんつーか……その……」
チラチラと顔を見て話したのは一瞬のこと。そうして言葉を交わすたびに気まずさと罪悪感、そして羞恥で心がいっぱいになってしまい、両者は再び、お互いに顔を見れなくなってしまった。
気まずさに耐えかね、ティナは思わず自分の胸を抱き……そこで、ようやく自分がちゃんと洋服を……常日頃から愛用しているパジャマを着ていることに気づいた。
「私……服、いつのまに……?」
「いや、まあ……俺が着せといた。その、体冷やしちゃまずいだろうって思ってな。余計なお世話だったか?」
「…………お兄さんが、ですか?」
「あ、ああ。い……いや、勘違いするな!? 見ないように……出来るだけ見ないようにしたからな! だからあんまり気にするな、というか気にしないでください」
「…………」
ティナは思わず自分の足に目を向けた。
パジャマだけではなく、いつのまにかズボンとショーツを履いてる。その下は綺麗に処理されているのか、多少の違和感こそあるものの、特にこれといって気持ち悪いという感覚はなかった。
自分でそうした覚えはない。
つまり、そういうことなのだろう
「……いえ、ありがとうございました」
「そ、そうか……」
そんな言葉を交わして、2人は押し黙った。
それからしばらく、部屋の中が沈黙に包まれる。
「…………」
「…………」
「あ、あのさ……」
「な、何ですか……?」
居ても立っても居られなったのか、先に沈黙を打ち破ったのはオルガの方だった。突然の言葉に、ティナがピクリと反応する。
「いや……今日はいつもより少し早めに起きたんでな。ティナが起きるまでの間に昨日のこと、オレなりに少しばかり考えてたんだが」
「……!」
その瞬間、ティナの体がびくりと震えた。
「ティナ?」
「き、昨日のことは本当にごめんなさい」
「お、おい……急にどうした……」
「迷惑でしたよね」
戸惑った表情で見つめるオルガを尻目に、ティナは顔に暗い影を落として俯きがちになっていた。
「な!? いや、そんなことは……」
「お兄さんは優しいから、きっと私のことを傷つけないようにそう言ってくれてるんですよね? でも、いいんです……いきなり7年も前の口約束を持ち出してきて、お兄さんのことを困らせるようなことをして……ごめんなさい」
「だから、違ぇって……!」
「こちらから襲っておいてこう言うのもなんですが……昨日のことは、犬に噛まれたようなものだと思って忘れてください。もう2度と、こんなことはしません」
「ティナッ!!」
背を向けたまま部屋から立ち去る素振りを見せるティナに、オルガはそんな彼女の腕を掴んで引き止めた。ベッドの上で重心の変化が起こり、小さく軋む音が部屋の中に響き渡った。
「お兄さん、離してください」
「いいや、離さねぇ!」
「……ッ!」
力強い言葉に、ティナはハッとなった。
動きが止まったのを見計らい、オルガは両手に力を込めて彼女の体を引き寄せると、真剣な眼差しで彼女の碧眼を覗き込んだ。
「はぁ……そうじゃねぇよ。ただ……随分と、お前のこと待たせちまったなって、そう思っただけだ」
「え……?」
無理やり既成事実を作ってしまったことで、てっきりオルガの方から拒絶されるとばかり思い込んでいたティナは、彼のその一言に思わず目を丸くした。
「オレさ、前の世界で鉄華団の団長をやっていた時は、団員が食いっぱぐれないよう毎日仕事してばっかりで……こう見えて女遊びとか、他の奴らがやってたようなこととか全然知らねーし、そもそも女とそーいう関係になったことなんて生まれてこの方一度もなくてな」
「はい、それは知ってます」
「即答は何気に傷つくんだが……まあ、それはいいとしてだ。何というか……つまりオレはこういう色っぽい話ってのに全く慣れてねぇんだ。けど、ティナが勇気を出してオレに気持ちを伝えてくれたんだから、オレも勇気を出さなきゃ筋が遠らねぇよなって……そう思ってな」
「お、お兄さん……!?」
「こういうことはこっちから積極的に行かなきゃ、男が廃るって言うしな。それに、あの時ちゃんと約束したしな……お前のこと一生幸せにしてやる、大切にするって。そして、どこへでも連れて行ってやるって……」
「じゃ、じゃあ……!」
「もうお前以外となんて考えられねぇ! だから……こんな情けねぇ男なんかでよければ、オレとずっと一緒にいてくれ!」
「お兄さん……!」
その言葉に、ティナはうっとりとした表情でオルガを見つめ、彼の手をぎゅっと握りしめた。碧眼の淵からうっすらと嬉し涙の粒が頬を伝い、カーテンの隙間から差し込む朝日を受けてキラキラとした輝きを放った。
「はい……! 不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」
それ以上の言葉はいらなかった。込み上げてくる温かな感情の赴くまま、早朝のベッドの上で2人は熱い抱擁を交わした。
体温を交換するように密着し、心臓の鼓動を同調させ、耳元でお互いに息遣いを感じ合う。最早、早朝の肌寒さは微塵も気にならず、それどころか激しく燃え上がって、このままズブズブに溶け合って1つになってしまいたい気分に駆られるのだった。
「ごめんな、返事が遅くなっちまって」
「いいんです。それよりも私、お兄さんと両想いになれて……とっても嬉しいですっ! ふふっ……勇気を出して伝えてよかったです……本当に、よかった」
「ティナ……」
「お兄さん……」
名前を呼び合い、2人は鼻の先が触れ合うほどの至近距離で見つめ合った。ふとした時に出てきた照れ臭い感情に小さくほくそ笑んだ後、お互いに同じ気持ちであることを確認し、それから、どちらからともなく目を瞑り……
「〜〜〜ッ!!!」
「!?」
今まさに触れようとした、まさにその時だった。
密着した腹部に小さな振動、ティナの声にならない悲鳴、少しだけ2人の距離が遠ざかる。オルガは彼女の身に起きた異変に気付き、疑問符を浮かべた。
「ティナ?」
「言わないでください」
「お、お前……もしかして」
「言わないで」
「お、おう……」
顔を真っ赤にしてお腹に手を当てるティナを見て、空気を読んだオルガは彼女をフォローするべく慎重に言葉を選ぶことにした。
「ま、まあ仕方ないよな……昨日の夜、あんだけ激しくしたんだから、腹減っちまうのも仕方が……」
「フォローになってませんッ!」
不器用なオルガの発したそれは、意図的なものではないと分かってはいたものの、2つの失態を同時に上げられたことで、ティナは堪らなくなって思わずそう叫んだ。
「わ、悪い……そんなつもりはなかった!」
「〜〜〜ッッッ……もう、せっかくお兄さんといい雰囲気になってたのに、私って駄目ですね……」
「気にすんなよ。可愛かったぜ? ティナのお腹の音」
「お兄さぁんッ!? もー!」
「はは、密着してたからよく聞こえたぞ? まあアレだ、昨日オレもお前にお腹の音聞かれて恥ずかったから、お互い様ってやつだ……ぐおっ!?」
「わ、忘れて下さい! 忘れるまで叩くのをやめません!」
羞恥に悶えたティナは、そう言って近くにあった枕を手に取ると、必死な様子でオルガに向けてブンブンと振り回し始めた。ふかふかの枕がオルガの腕や頭にぶつかり、空気の漏れる音が響いた。
「ティナ……やめっ!?」
「もー! もー! お兄さんにお腹の音聞かれてしまいました、恥ずかしすぎです。うぅ……もう私、お嫁に行けません……」
「いや、そんな大袈裟な……っていうかそんなことで悩むなよ。お嫁に行くなんて、そもそもオレがいるだろ……」
オルガがそう言った瞬間、枕を振り回すティナの動きがピタリと止まった。オルガが恐る恐る目を開けると、先ほどまでの怒った様子は何処へやら、枕を抱え、クスクスとした笑みを浮かべている彼女の姿があった。
「な、なんだよ……!?」
「ふふっ……何でもないです。ただ、幸せだなって」
「ああ……そっか、オレもだよ」
それから2人は、部屋の目覚まし時計が鳴り響くまでベッドの上で仲良く寄り添い、朝のゆったりとした時間を共に過ごした。
「とりあえず、朝飯にするか」
「はい♪ でも時間もあんまりないので、昨日の残りを使ってパパッと作っちゃいましょう! 私もお手伝いしますよ?」
「いや、いいよ。ティナはゆっくり休んでてくれ」
「いえ、私も……きゃっ!?」
「うおっ!?」
身支度を整えているオルガの目の前で、突然ティナがバランスを崩して前のめりに倒れかけてしまう。しかし、オルガが慌てて身を乗り出して彼女の体を抱き止めたことで、辛うじて転倒だけは免れることとなった。
「どうした? どっか痛めたのか?」
「ご、ごめんなさい……ちょっと腰が抜けちゃって」
「あー…………まあ、無理すんな」
自分はともかく、ティナは今から学校に行かなければならない身であることから、あまり無理はさせられない。そう考えたオルガは、1人で朝食の支度をしようとベッドから離れた。
「うっ……!」
しかし立ち上がった瞬間、これまで経験したことのない足腰の奇妙な脱力感に晒され、うめき声と共に壁に手をついてしまった。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「ああ……なんとかな。つーか、オレも腰抜けちまったみたいだな、こりゃ」
「ふふっ……お揃いですね♪」
「いや、笑ってる場合じゃねーぞ。どーすんだこれ」
「それじゃあ……ご飯の準備、一緒にしましょう!」
「ん……そうだな」
お互いに支え合い、2人は部屋を後にした。
『鉄血・ブレット』非公式三次創作
エピローグ:ー暁を目指した者たちー
1時間後……
朝食を食べた後、オルガは仕事に行くため、ティナは学校へ行くための準備を終えた。目的地はそれぞれ別々の場所にあるが、改めて恋仲となった2人は少しでも長く一緒にいたいと、途中まで歩いて行こうという流れになり、同じタイミングで家を出ることとなった。
しかし、家の戸締りを確認したところでティナが忘れ物に気き、慌てた様子で家の中へと戻ってしまう。1人、待たされる形となったオルガは肩をすくめて彼女の背中を見送ると、玄関先の塀にもたれて小さく息を吐いた。
「まだ、見えるな……」
空を見上げ、オルガはその存在を確認した。
暁の色に染まった東の空、その反対側には薄っすらとした光を放つ三日月。そして白い輝きの中には、紅い煌き放つ一輪の華があった。
塀を背にして佇むオルガは、リラックスした状態で腕を組んだ。風の音色、木々のざわめき、鳥のさえずり、周囲から聞こえてくる自然の音に耳を傾け、それらを慈しむように小さく微笑むと、急に襲ってきた微睡みに身を任せて目を瞑った。
次の瞬間……
紅い華が、ひときわ強い煌きを放った。
それと同時に、世界から音という音が消える。
『…………』
「…………ん」
ふと、隣に何者かの気配を感じた。
しかし、オルガは目を開けない。
「ミカ、そこにいるのか?」
『…………いるよ』
聞こえるはずのないその声が、静寂の中に響き渡った。
『……ねぇ、オルガ』
「なんだ?」
『俺は辿り着いたよ。俺の……いや、俺たちの本当の居場所に。だからオルガも、オルガの辿り着くべき場所に、ちゃんと辿り着いてね』
「……分かってるよ」
目を瞑ったまま、オルガは小さく頷いた。
「なあ、ミカ」
『なに?』
「あの時、ティナを助けてくれてありがとな」
『そんなの当たり前。だって俺たち、家族なんだから……それにオルガには俺よりも、あの子が必要だって思ったから。だから、ティナのことずっと大切にしてあげてね』
「ああ、分かった」
『うん……それじゃあ、俺はもう行くよ。オルガ、手を出して』
「こうか?」
オルガは組んでいた腕を解いて右拳を隣に向けると、すぐさま手の先に何か硬いものが……三日月の打ち出した左拳がぶつかる気配を感じた。
『例え、どれだけ離れていても』
「俺たちが家族であることには変わりねぇ」
最後にそんな言葉を交わし、
やがて打ち合わされた拳がゆっくりと離れた。
「お兄さん……?」
「ん……ああ、ティナ」
突然聞こえてきた声にオルガが目を開けると、いつのまにか目の前にティナの姿があった。彼女は、少しだけ心配そうな眼差しでオルガのことを見つめている。
「お兄さん、今……誰かと話してました?」
「え、オレが?」
問われ、オルガは周囲を見回した。
しかし、いくら周りに注意を向けても、そこに広がっているのは普段と何ら変わりない、争いのなくなった世界の平凡な朝の風景そのものだった。
「おかしいですね……」
「ん……夢でも見たんじゃねーの?」
「いえ、でもそんな筈は……」
「そんなことより、忘れ物は見つかったか?」
「あ、それは大丈夫です」
「じゃあ、早く行こうぜ? 遅刻すんぞ」
「そうですね、行きましょう」
それから、2人は並んで歩き始めた。
そのまましばらく歩いていると、隣を行くティナが寒さにかじかむ手を擦り始めたのを見て、オルガは照れ臭さを感じつつも静かに右手を差し出した。
ティナは差し出された右手の意図に気づくと、少しだけ顔を赤らめつつも、オルガのことを受け入れるように手を握った。オルガは冷え切った彼女の手を温めるように優しく握り返した。
手を繋いで歩く2人
2人の表情は、幸福に満ち溢れていた。
「そうだ……お兄さん! 私たちせっかく恋人同士になれたので、今度の休日、どこかにお出かけとかしませんか?」
「お出かけ?」
「はい! つまり、デートというやつです!」
「デートか……いいな。どこか要望はあるか?」
「いえ、お兄さんと一緒にいられるなら、どこでも楽しくなれると思います。でも強いて言うなら……買い物に行ったり、遊園地に行ったり、海に行ったり、それと温泉に行くとかどうでしょう?」
「温泉? ああ……風呂のことか」
「いえ、温泉とひとことに言っても実は色々あって……例えば、この国には足だけ温泉に浸かる、足湯という文化があるそうですよ。これだったらお兄さんと一緒に温泉に入ることが出来ますね!」
「お、そりゃあいいな。足だけだったら、前みたいに木更さんに怒られることもないしな」
「ふふっ……そういえばそんなこともありましたね」
「ああ……何もしてねぇってのに、オレが死なない体なのをいいことに散々ボコボコにしやがって、まったく何勘違いしてたんだか」
「でも、これからは一緒に入れますよ?」
「え?」
「だって私たちもう恋仲なんですから、足湯だけと言わず、一緒にお家のお風呂に入るなんて普通のことです。その時には私が、お兄さんの大きな背中を流してあげますよ♪」
「お……おう」
「ふふっ……お兄さん、一緒にお風呂に入るって聞いて、何かいかがわしいことでも考えていませんか? お顔が真っ赤ですよ♪」
「そういうお前だって、顔赤いじゃねーか……」
「お兄さんほどじゃないですよー」
「そ、そうか……ところで、もうオレのこと名前で呼ばないのか?」
「え?」
「いや、ほら昨日……オレのことお兄さんじゃなくて、オルガって呼んでたしよ……珍しいなって思ってな」
「それは……そのっ……! あの時は感情の高ぶりのままつい口走ってしまったと言いますか、うう……お、お兄さんのこと名前で呼ぶのは、やっぱりまだ少し恥ずかしいので、もう少しだけお兄さんって呼ばせて下さい……///」
「そっか、まあ……気長にな」
「でも、いつかは……お兄さんと気軽に名前で呼び合えるほど、お兄さんに見合った立派な女性になりたいです。だから、その日が来るまで待っていてくださいね? お兄さん」
「ああ、待ってるよ……ずっとな」
かつて世界の終わりを乗り越えた2人は、こうして新しく生まれ変わった世界を共に歩み始めるのだった。
天高く浮かび上がった月の表面に、
紅い華の放つ煌きは、もう見えなかった。
ーENDー
あとがき
それにしても序列3位は本当にたまげたなぁ……
三日月がラストに狙撃したのもそうですが
(変更点は後で年表に反映しますね)
以下、考察です。
最高アクセス権であるレベル12の鍵は序列30位から取得可能であることから、物語冒頭の時点で序列30位であるオルガと三日月は、既に、この世界の『真実』に辿り着いているということを表しています。
(何やらかしたらそーなるの!?)
それに対し本家BBでは、まだ序列1000番の蓮太郎は襲い来る強敵を打ち倒し、功績を重ね、この世界の『真実』を知るために最低限必要な序列30番を目指して成り上がっていくことが目標の1つとなってきます。
(今後明かされるアルディ・ファイルの件から)
物語の整合性を保つ的な意味でも、オルガたちは蓮太郎や木更さんたちに自分たちの本当の序列を伝えていないのではないか?
そもそもオルガたちは今まで自分が序列30番だと名乗ってない(ティナは今回の件でオルガたちの高位序列を知ることになるが)。また以前、蓮太郎も伊熊将監の1584位(ですら)に驚愕していた→すぐ隣に30番がいると知らなかったからこその反応
ではなぜ、家族と呼ぶほど親しいはずのオルガたちは蓮太郎に自分たちの序列とこの世界の『真実』を伝えないのでしょうか?
ただ単に最重要機密だから?
IISOから厳しく口止めされているから?
……いや、それだけではあるまい。
異世界出身者であるオルガたちにとってBB世界の政治的なイデオロギーは無縁であり、守る義務はないはず。
では、情に熱いオルガが家族に隠し事をしてでも語ろうとしない『この世界の真実』とは一体何なのか? それは恐らく、オルガたちにとっても伝え難いものがあったからなのではないでしょうか?
→この考察はまた別の機会に
最後に3つだけ……
そろそろBB史上最大級の戦いが来ますが、流石のオルガも獅電使うのかな? あとハシュマルは……?(出番あってもなくても期待大!)
本作の存在が作者様に認知されたということで、ムジナはかんづめマン氏の後方腕組み彼氏面してもいいということなのですね!ですよね!? ずっと応援しております!
本作はこれで終わりですが、気が向いたら短編作品をいくつか作ってみたいと思います。舞台は2031年、鉄血ブレットでは表現できない(素材不足により)終わった世界を生きるオルガたちの日常を描けたらなと
そう、第8話が公開された暁には……!
それでは、また別の作品でお会いしましょう
ムジナでした。