不明ネクストとカラードランク28位・ノーカウントによって占拠された同地を奪還するため、インテリオル・ユニオンはネクスト機の派遣を決定する。
ランク8位・マイブリスの僚機に選ばれたのは、旧ピースシティの激戦から生還したあるオリジナルであった。
某オリジナルリンクスの機体(内装は変更)でキタサキジャンクションに行ったら、意外と楽に立ち回れたので小説化してみました。AC4時代の機体でACfAのステージを駆けまわるのもなかなか楽しいです。
重く垂れこめた雲の下、ハイウェイは緩やかな曲線を描き、複雑に絡み合っている。
北アメリカ大陸、キタサキジャンクション。インテリオル・ユニオンが管理するこの立体交差路は交通の要所の一つであり、物資を満載した輸送車輛が昼夜を問わず行き交うのが常であった。
しかし連日の賑わいが嘘のように、今日のハイウェイは静まり返っている。
風が強い。一足早くアスファルトに降り立った男は、耐Gジェルを注水されたコクピットの中で目を細めた。統合制御体がパイロットの動きを忠実に反映し、電光掲示板めいた複眼が青く明滅する。
旧アクアビット製のFCSは近距離戦闘に特化しており、本来長距離の索敵には向かない。だが僚機マイブリスとのデータリンクによって、男は敵の位置情報を正確に捉えていた。
正面に一機。向かって右上にもう一機。
道路に遮られ、目視での確認は叶わない。が、二機のネクストが砂塵の彼方で手ぐすね引いて待ち構えているのは確かだった。
「パッチのノーカウントに、正体不明の四脚か。あんまり気は進まねぇな」
苦り切った声音でロイ・ザーランドがごちた。
ロイの乗機マイブリスは、HILBERTフレームを採用した重量二脚機である。エネルギーと実弾の双方に高い防御力を誇るが、重装甲の代償として動きは鈍い。砂漠で四脚や逆関節のような機動力に優れた敵を相手取るとなれば、どうしても後手に回ってしまうのであった。
「他の連中は出払っているんだ。俺たちでやるしかあるまい」
ぼやくパートナーをなだめ、男は苦笑を浮かべた。
このところアルテリア施設への襲撃が続き、インテリオルの上層部はネクストの運用に慎重になっていた。現在最高戦力たるウィン・D・ファンションは戦列を離れ、クラニアムを始めとした要所の警備に回されている。彼女が抜けた穴は大きく、彼を始めとした他のメンバーがその穴を埋めるべく奔走していた。
とはいえ、とても社の専属リンクスだけでは手が足りず、こうして外様のロイに協力を仰ぐ羽目になったわけだが。
正面上方に視線を凝らす。レーダー情報に更新あり。敵を示す赤いマーカーが、こちらを目掛けて一斉に動き出した。
マイブリスとのデータリンクを切断。レーダー情報がGA製長距離FCSから自前の旧アクアビット製FCSへと塗り替えられ、近距離高速戦闘仕様に変更される。
先頭の敵が交戦距離に入るまで、あと数秒といったところだろうか。突撃ライフルとレーザーライフルを油断なく構えながら、彼は僚機に通信を繋いだ。
「例の四脚は俺がやろう。そちらはノーカウントを頼む」
「了解だ、旦那。早いとこさっさと終わらせちまおうぜ」
戦場でも飄々とした口調を崩さない様が、いかにも色男のロイらしい。そうだな、と笑って男は高架橋を勢いよく蹴った。
ツイてねえ。
今日はツイてねえ日だ、本当に。
グローブに覆われた手が震えている。軽量逆関節機ノーカウントを駆るリンクス、パッチ・ザ・グッドラックの顔は今や蒼白だった。肌からは血の気が失せ、普段の赤ら顔は見る影もない。
キタサキジャンクションを占拠し、やって来たインテリオルのネクストを叩く。今回パッチが非正規ルートから請け負った任務は、至極単純なものだった。
主力が他の任務に当てられている今、派遣されるのはランク21位のヴェーロノークか24位のバッカニアだろう、というのがクライアントの見解だった。どちらも遠距離からの実弾攻撃には弱く、距離を取って複数機で叩いてしまえば完封できる。莫大な報酬と強力な支援機の存在もあって、パッチはつい先ほどまで意気揚々と任務に臨んでいた。
ところが、今彼の前に立ちはだかっているのはそんな生易しい相手ではなかった。
先陣を切る藍色の04-ALICIA。レイレナードの突撃ライフルと旧メリエスのレーザーライフルを腕に携え、背中に大型のPA整波装置、肩にASミサイル、という機体構成は国家解体戦争当時から変わっていない。
その後方に続くのは鈍色のHILBERTだ。右腕にGAのガトリング砲、左腕に双発型ハイレーザーライフル、そして背中と肩にはミサイルを装備している。ネクスト一機どころか、複数機を相手にしても余りある強力な武装がこれでもかと積まれていた。
「ラフカットにマイブリスだと!?聞いてねえぞ、こんなこと!」
旧ピースシティの激戦を生き残ったオリジナルと、独立傭兵にも関わらずカラード一桁代に食い込む腕利きの男。いずれも、ランク28位のパッチからすれば遥か格上の相手だ。
唇を戦慄かせ、後方に控える味方機にがなり立てた。とんだ見込み違いではないか。
「不測の事態も承知の上で、大金を受け取ったのは貴様だろう。傭兵の端くれなら、受けた任務くらい全うしろ」
「けどよ──」
なおも不平を口にしようとして、パッチは口を噤んだ。
カメラ性能に優れたノーカウントのヘッドパーツは、砂塵の彼方で四脚機がスナイパーキャノンを展開するのを見逃さなかった。これ以上食い下がれば、対ネクスト用徹甲弾の無慈悲な一撃がノーカウントを襲うだろう。
畜生、こうなったらやるしかねえ。半ばヤケクソになりながら、パッチは高架橋の影から飛び出した。
「わ、わかっている。やることはやるさ、ブッパ・ズ・ガン」
旧レイレナードの高出力ブースターが、鋼鉄の巨体を軽々と宙に浮かばせる。
連続でクイックブーストを叩き込み、ラフカットは空中を高速前進。途中、慌てたように飛び出してきたノーカウントとすれ違ったが、攻撃は牽制弾数発にとどめ、先を急ぐ。
後方から大気を焼き焦がすような発射音。マイブリスの双発型ハイレーザーライフルによる援護射撃だ。
こちらにスナイパーライフルの照準を合わせようとしていたノーカウントから、「ヒッ!」と引きつった悲鳴が上がった。レーダーの動きを見るに、どうやら辛うじて回避に成功したらしい。パッチ・ザ・グッドラックの名の通り、悪運の強い男である。
頼もしい味方機に背中を任せ、ラフカットは環状連結点の上空に差し掛かった。
途端に鳴り響くロックオンアラート。統合制御体が発する警告に、ザンニは即座に反応した。高度を落としながらジグザグにクイックブーストを吹かし、回避行動に移る。
数瞬前までラフカットが存在した空間を、対ネクスト用徹甲弾が風切り音を立てて通り過ぎた。深々と突き刺さった弾丸が高架橋に亀裂を入れたのだろう。橋の一部が崩落し、辺りにはもうもうと砂煙が立ち込めた。
「なるほど、スナイパーキャノンか」
なかなか腕の良い狙撃手だ。弾丸が飛来した方角、砂地ばかりが広がるエリアを睨み、ザンニは小さく呟いた。
リンクス戦争の折、狙撃を得意とするBFFのリンクスとは何度も組んだことがある。故に、その特性も把握していた。
ネクストの武装中最高クラスの弾速を誇るスナイパーキャノンだが、リロード時間に難がある。その隙をついて、一気に近づいてしまえばこちらの距離だ。
オーバードブーストを起動。コア背部でプラズマ化したコジマ粒子が弾け、爆発的な推力を得たラフカットが亜音速で飛翔する。
襲いかかる凄まじいGに、ザンニは歯を食いしばって耐えた。
彼我の距離が急速に縮まっていく。一見黒い点としか思えなかった敵機が見る見るうちに大きくなり、やがて青い複眼がはっきりと四脚の敵ネクストを映し出した。
アンテナのようなTYPE-JUDITHのヘッドパーツに、コアは03-AALIYAH、腕はLINTSTANT。脚こそBFFの中量四脚だが、全体的に軽量フレームが採用されている。機体本体の重量を抑え、その分をコジマキャノンやスナイパーキャノンといった背部武装に回したのだろう。
そろそろ敵のリロードが終わる頃だ。オーバードブーストをカットし、メインブースターでの滞空に切り替える。細かくブーストを噴射し、ザンニは狙撃砲の死角となる頭上へ機体を潜り込ませる。
距離500を切った。両腕のライフルを下方に向け、トリガーを引く。
マズルフラッシュが弾け、45ミリ徹甲弾とレーザーが雨のように降り注いだ。
いくらプライマルアーマーが厚いとはいえ、至近距離でこうも連射を浴びさせられてはたまらない。最大出力でメインブースターを噴射し、四脚機は右に左に機体を振った。距離を開けてラフカットが照準可能な角度に入った瞬間、右背部のコジマ兵装でケリをつけるつもりだ。
そうはさせじと、ザンニは猛然と四脚を追った。
上空から敵の動きを冷静に見極め、常に死角から間断なく射撃を続ける。旋回性能では勝っているというのに、四脚機のパイロット──ブッパ・ズ・ガンは一瞬たりともラフカットを捕捉できていなかった。クイックターンで振り返ったとき、既に敵はその場にいない。逆関節機特有の強烈な三次元機動と、歴戦のパイロットによる先読みが、ワンサイドゲームを展開していた。
ろくに照準もつけぬまま放たれたコジマ砲を容易く躱し、ザンニは眼下の四脚ネクストを静かに観察する。プライマルアーマーは頼りなげに揺らぎ、深緑の装甲にはいたるところに穴が開いていた。
あともう一押しだ。気息奄々になりながら動き回る四脚機目掛けて、ラフカットを急降下させる。
その意図がわからぬブッパ・ズ・ガンではない。彼とていくつもの戦場を潜ってきた猛者である。しかしこの時、乗機ビッグバレルのプライマルアーマーは既に剥がれ落ちていた。
オーバードブーストによる緊急離脱──コジマ粒子の欠乏により不可能。
アサルトアーマーによる迎撃──通常型のオーバードブースターであるため不可能。
いずれの選択肢もビッグバレルには残されていなかったのだ。
ラフカットを中心として、コジマ粒子の暴風を解き放とうとしたその刹那。
「敵増援確認。三機目のネクストです!」
オペレーターの警告。それとほぼ時を同じくして、横合いから飛び込んできた緑色の輝きに、ザンニは息を呑んだ。
柔軟かつ安定したAMS適性を持つ彼は、インテリオルの技研で新作パーツのテストパイロットも務めている。故に、ネクストの武装に関する造詣は深かった。あれは確か、トーラスの──
「コジマミサイル!?」
アサルトアーマーの発動を急遽中断。主の意を受け、藍色の巨体が急旋回した。
速度はそれほどでもないが、ミサイルは猟犬のようにしつこく喰らいついてくる。ぎりぎりまでそれを引き付けると、逆方向にサイドブースターを吹かし、ラフカットは大きく跳躍した。切り返しと急な上下運動に対応しきれず、獲物を見失ったコジマミサイルは大地に着弾。周囲一帯にコジマ粒子をまき散らした。
「すまねえ、旦那。新手の重逆関節がそっちに行った!」
ロイ・ザーランドから通信。四脚機の動きに注意を払いながら、複眼のみを動かしてザンニは周囲を見渡した。
マイブリスらの交戦地点付近から、オーバードブーストで接近する影が一つ。アルドラのSOLDNERフレームを多用した茶色い重逆関節だ。ミサイルをばら撒きつつ、こちらに向かって一直線に突き進んでくる。
すかさず後を追うマイブリス。その後方、ハイレーザーを警戒して一定の距離を保ちつつ、ノーカウントが続く。
ラフカットの決して広くない索敵範囲内に、自機を含め計5機のマーカーが表示される。第三の敵の参戦により、戦局は大きく動こうとしていた。
「手ひどくやられましたね、ブッパ・ズ・ガン」
装甲値は既に一万を割り込んでいるだろう。ぼろぼろになった同志の姿を認め、重逆関節機を駆るリンクス・PQは率直な感想を口にした。
彼の援護射撃もあって、ビッグバレルはラフカットの制圧射撃から何とか抜け出すことに成功していた。レイレナードの重量級ジェネレーターがコジマ粒子を供給し、風前の灯だったプライマルアーマーは元の輝きを取り戻しつつある。
とはいえ、かなり危うい状態であることに変わりはない。ハイレーザーでも直撃しようものなら、今度こそビッグバレルは墜ちるだろう。
それを防ぐのがPQの役目だった。ラスターに続き、計画の初期段階で貴重な同志を失うわけにはいかないのだ。
「ミサイルカーニバルです。派手に行きましょう」
優先目標は高火力兵装を有するマイブリス。背部のミサイルランチャーから、次々に垂直ミサイルが撃ち上がる。
PQの射出タイミングに合わせて、ビッグバレルも両腕のハンドミサイルを発射。すぐさま武装を背部兵装へと切り替えた。コジマ砲がチャージを開始し、不気味なほど明るい緑色の光が砂煙の中で煌めく。
二機から放たれたミサイルは空を埋め尽くした。先刻のコジマミサイル着弾によって索敵機能に障害が発生する中、これだけの量にフレアなしで対処するのは困難だ。並みのリンクスならば弾幕を捌ききれず、あっという間にプライマルアーマーごと装甲を消し飛ばされて終わりだろう。
しかし、ここにいるのはカラードでも最上位クラスの実力者たちだ。
「おいおい、こっちばかり狙うなよ!」
旋回性能の高いミサイルと見るや、ロイ・ザーランドは迎撃を選択。ガトリング砲が唸りを上げ、迫りくるミサイルを次々と叩き落とす。迎撃が間に合わない分は崩落した橋を盾にとり、最低限のダメージで乗り切った。
一方のザンニ。ノーカウントとビッグバレルから狙撃を受けるも、タイミングを読み切った彼はサイドのクイックブーストを吹かしてこれを回避。素早く空中で機体を捻り、先ほど仕留め損ねたビッグバレルに突撃をかけようとする。
「流石に一筋縄ではいきませんか」
ラフカットの鼻先に空中から牽制のスナイパーライフルを撃ち込み、PQは乗機・鎧土竜を旋回させた。今の攻撃でプライマルアーマーは剥がせると思っていたのだが。
「このままでは埒が明かん。一気に仕掛けるぞ、PQ」
「ええ、了解しました。でも巻き込まれないでくださいよ?」
両機は再びミサイルを発射した。
「同じ真似が何度も通用するわけ──」
マイブリスが硬直した。ハンドミサイルを放った直後、ビッグバレルが狙撃砲を撃ち込んだのだ。並外れた耐久力を誇るHILBERTフレームはその一撃にも耐えきったが、衝撃を殺しきることはできなかった。
乱戦ではその一瞬が命とりになる。
上空から鎧土竜が急降下。マイブリスの直上でアサルトアーマーを発動した。
「うおっ!?」
緑色の暴風にプライマルアーマーを吹き飛ばされ、鈍色の装甲がむき出しになる。
GA製重ジェネレーターはKP出力がやや低い。レーダーに障害が発生し、ミサイル回避が困難な中、マイブリスは複数の敵を前に致命的な隙をさらけ出してしまっていた。
その影から、先ほど仕込んだとっておき──垂直コジマミサイルが忍び寄る様を見て、PQは笑みを浮かべた。インテリオルグループのネクストはいずれもエネルギー防御に優れるが、装甲にコジマミサイルの直撃を受ければ、重量級のHILBERTとて大ダメージは免れまい。
背後から迫る脅威の存在に、遅まきながらロイ・ザーランドも気づいたのだろう。懸命に回避を試みるが、トーラスの猟犬は喰らいついて離れない。僚機のラフカットは少し離れたところで三方から狙撃に追い立てられており、今からでは援護は不可能だ。
PQとブッパ・ズ・ガンが必中を確信した瞬間だった。
二人の放ったものではない第三のミサイルが、コジマミサイルにするりと絡みつく。
予期せぬ攻撃を受け、マイブリスの装甲に到達する前に弾頭は爆発。大規模コジマ爆発が発生し、辺りはシーグリーンの光に包まれた。
ほとんどの機体がシステムリカバリーを終えていない中、いち早く動いたのはラフカットだった。
フォーミュラカーを思わせる流線形の機体が跳躍する。毒々しい緑の霧を切り裂き、ビッグバレルに急接近。
ブッパ・ズ・ガンが視界不良から回復したときには、何もかもが遅かった。
コクピット目掛けて、青く塗装されたレイレナード製突撃ライフルが叩きつけられた。
他社のライフルと異なり、04-MARVEには分厚い装甲板が取り付けられている。そのため、近接戦闘において銃剣のように運用することが可能だった。
突撃の勢いを乗せた一撃が、容易くコアブロックを食い破る。無残にひしゃげるダークグリーンの装甲。ビッグバレルのカメラアイから光が消え、全ての機能が停止した。
まずは一機。
四脚機を仕留めたザンニは、横眼でマイブリスの様子を窺った。コジマ爆発に巻き込まれた装甲は少なからぬダメージを負っているが、直撃でないのが幸いした。充分戦闘行動が可能なコンディションだ。流石はアルドラの傑作、HILBERTである。
──なんとか間に合ったか。
安堵の息を吐く。
会敵したときの仲間を庇うような行動から見て、あの重逆関節機は四脚機にとっての一番の脅威──すなわちマイブリスを真っ先に狙うだろうと考えていた。故にコジマミサイルを警戒していたのだが、さすがに三方からの射撃に晒されては援護に向かえず、ASミサイルで間接的に援護するしか手がなかったのである。
ともあれ、これで互いの頭数は同等だ。
「残り二機だ。やれるな、ロイ?」
おう、と力強い声がそれに答えた。
「マイブリス、行けるぜ。旦那ばかりに良いとこ持ってかれるわけにはいかねえしな」
四脚機の撃墜を目の当たりにして恐れをなしたのか、ノーカウントはさらに大きく距離をとって引き下がる。目下の脅威である重逆関節機を目掛けて、二人は愛機を走らせた。
近接信管ミサイル、高速ミサイル、連動ミサイル。先ほどのお返しと言わんばかりに、マイブリスが背部と肩のハードポイントからミサイル群を発射する。獲物を捕捉したMSACの猟犬たちは、獰猛にターゲットを追いかけた。
空中で回避行動を取る鎧土竜。その死角となる真下から接近したラフカットが、猛烈な対空砲火を浴びせかける。減衰したプライマルアーマーを貫き、レーザーと実弾が茶褐色の装甲を深く抉った。
「くっ……!」
足元のラフカットから逃れようにも、続々と飛来するミサイルがそれを許さない。右手のレーザーライフルを迎撃に当てながら、PQは必死に活路を探す。
ここで僚機が的確な援護を行っていれば、鎧土竜は体勢を立て直すことができただろう。しかし下手に近づけば即座にラフカットが両腕のライフルを連射してくるため、ノーカウントはすっかり尻込みしていた。一応スナイパーライフルで最低限の仕事はしているが、散発的な攻撃では雀の涙ほどの効果しかない。
機動力ではラフカット、耐久力と火力ではマイブリスに軍配が上がる。この二機を同時に相手取った時点で、勝敗は決していた。
近接信管ミサイルが着弾し、鎧土竜の動きが僅かに鈍る。その巨体が傾いだ刹那、左側面のサイドブースターをハイレーザーが貫いた。
空中を舞うネクストのブースターを的確に撃ち抜くなど、そこらのリンクスにできる芸当ではない。己の腕一本でのし上がってきただけあって、ロイ・ザーランドは凄まじい技量を有していた。
「まだまだ、まだまだで……」
サイドブースターから煙を噴き上げながら、それでも足掻く鎧土竜。垂直ミサイルをばら撒きながら離脱を図るが、さすがに分が悪かった。
二射目のデュアルハイレーザーがコア正面を直撃。更にそこへ近接信管ミサイルが飛び込み、融解した装甲に大穴を開ける。
空中でもがいていた鎧土竜の動きがぴたりと止まる。重力に引かれるまま、重々しい音を立てて鋼鉄の巨体は砂地に叩きつけられた。
重逆関節機の撃破を確認。これで残るは一機。マイブリスとラフカットはオーバードブーストを起動し、遠くで立ちすくむ軽逆関節機──ノーカウントのもとへと迫った。
不明ネクスト二機との交戦で弾薬を消耗したが、それでも装甲の薄いネクスト一機を葬る程度の火力は残されている。ノーカウントが逃亡と戦闘のどちらを選ぼうとも、追いついたラフカットが足止めしている間に、マイブリスがとどめを刺すだろう。
ところが、パッチ・ザ・グッドラックはここで二人が予想もしなかった行動に出た。
「ま、待ってくれ!降参だ!」
そうオープンチャンネルで叫ぶや否や、戦場のど真ん中で全ての武装をパージしたのである。レーダーやECM発生器までもがハードポイントから外され、砂地に転がって乾いた音を立てた。
これには二人も面食らった。
「……なんつうか、ある意味大物だな、こいつ」
呆れ半分、感心半分といった様子でロイがしみじみと感想を述べた。
「これは予想外だな……」
国家解体戦争以来長いことリンクスをやっているが、このような事態は初めてだった。ザンニの声にも呆れが混じる。しかし勝ても逃げ切れもしない状況である以上、パッチとしては生き残るために一番可能性の高い選択をした──ということなのだろうか。
ひとまず、上に指示を仰ぐとしよう。ため息を一つつき、彼は作戦本部への回線を開いた。
インテリオル情報部は捕虜にしたリンクス、パッチ・ザ・グッドラックに尋問を行うも、大した情報を得ることはできなかった。イレギュラーリンクスが金で雇った下っ端傭兵に重要な情報を下ろすわけがない。四脚機のパイロットがブッパ・ズ・ガンという名であったことだけは判明したが、不明ネクスト機の背後にある組織やその思惑に関しては相変わらず闇の中であった。
これ以降も不明ネクスト機による襲撃は続き、インテリオルはその対処に追われることとなる。無論ザンニも駆り出され、北はヨーロッパから南はオセアニアまで、様々な戦場を駆け巡った。
彼が数週間ぶりに自宅に戻ったのは、七月を目前にした、とある初夏の日のことであった。
ベッドに倒れ込むなり、泥のように眠ったザンニは未だ知らない。私用の端末にマクシミリアン・テルミドールなる謎の人物からメールが届いていることを。ましてリンクス戦争から十年以上経過した今になって、レイレナードの遺産を巡る争いへと自らが巻き込まれるとは予想だにしていなかった。
獰猛な深海魚は、今は夢の中を揺蕩っている。
【独自設定】
No.7 ザンニ/ラフカット
旧ピースシティの戦いを生き抜いた、元レイレナードのオリジナル。
リンクス戦争後はインテリオルに身を寄せ、現在は同社の主力リンクスの一角を担っている。非常に柔軟かつ安定したAMS適性を持つため、新作パーツのテストを任されることも多い。
彼は企業の政治力が絡むカラードのオーダーマッチには興味を示さず、専ら戦場と技研とを行き来している。そのため、インテリオル外部の人間が彼と接触を図るのは難しい。引き入れたいのは山々だが、接触の機会がまるでないため、ORCA旅団長マクシミリアン・テルミドールは頭を痛めていた。
【他のリンクスのカラードランクに関して】
No.6 スティレット
No.7 ザンニ
No.8 ロイ・ザーランド
No.9 unknown
No.10 王小龍
1~5位は原作通りで、あとは一個ずれている。