〇〇家の兄は勇者だった 作:四国在住 勇者部
日も沈みかけている夕方、自転車を手で押して帰っていたとき
「──でねー、そのとき……って聞いてないでしょ〜?」
自身の隣から声がかかる
俺の方を機嫌が悪そうに見上げる女の子。実際話を聞いていなかった俺は少しだけバツの悪いといった顔をして誤魔化すように彼女の頭を撫でる
「わわっ……! ってちょっと〜誤魔化されないんだけど〜?」
同じ表情を見せる彼女
何故か彼女は怒っているのに俺はそんな彼女を見て心が不思議と暖かくなった
彼女とこうして何もないただの日常が俺は幸せだった
この時間がずっと……そうずっと続けばよかったのに
「あっ、そろそろ家に着いちゃうねー」
彼女は俺の隣から離れ、俺の前に立った
「じゃあ、またねお兄ちゃん!」
彼女はそう言って俺の目の前から歩いていなくなった
あぁ、待ってくれ。俺も一緒にお前と行かせてくれ
兄ちゃんを置いていかないでくれ
……■■
俺の手は空を掴むだけだった
── ──
目を開ければ自室の天井がぼやけて見える
開いているカーテンの隙間からは日差しが差し込んできているのに気がついて重い腰をあげて自室を出た
ここ最近の朝の目覚めは同じような状況がずっと続いている
いつもこうでは俺の精神がいつ潰れてもおかしくないな
「ヒナタさんおはようございます!」
朝から元気に話しかけてくる女の子
「おはよう、亜耶ちゃん」
彼女は俺がいま世話になってる人達の娘さん国土亜耶ちゃんで、今年で中学1年生になるらしい
年齢に反して落ち着きを持った女の子だ。大和撫子、と言ったか。ああいう言葉は彼女のためにあるのではないか? とも思う
「朝ごはんもう出来ていますから 早めに来てくださいね」
「あぁ、すぐいくよ」
洗面所で顔を洗い終えてから、ダイニングへと足を運ぶ
ダイニングにある机の上には亜耶ちゃんが言った通り既に料理が用意されている
卓上に並ぶ料理と、コーンポタージュのいい匂いに起きたばかりの身体がようやく動きはじめた感覚がする
亜耶ちゃんは既に席に座り込んでいるようだが、食事を始めてはいないらしい
「もしかして俺が起きるまで待ってた?」
「はい、どうせなら一緒に食べた方が美味しいですから」
そう難なく笑顔で言い放つ亜耶ちゃんに日差しとは別の光が見えた気がした
彼女を少し眩しく思いながらも俺も席に座る
「「いただきます」」
俺も亜耶ちゃんも朝の食卓風景はいつも2人だけだ。
亜耶ちゃんのご両親は仕事の都合上、朝も早く食事をすることなく家を出ることが多い
そのため、この家での料理は俺と亜耶ちゃんの交代制でやっている
この歳で料理もできて性格も良いこんな逸材世の中になかなか居ないなと、どうでもいいことを思いながら食事を済ませていく
「あっ……そういえば今日からでしたよね」
「ん? そうだよ、気乗りは全くしないけど」
「そうなんですか? でも、とても素晴らしいことじゃないですか。神樹様に仕えるなんてこと」
「末端の末端、雑用係だしそんな大層なものじゃないよ」
ゆっくりとスープを飲み干す
「ごちそうさま。亜耶ちゃんも学校遅れないようにね」
「え、あれ!? まっ、待ってください」
いつの間にか食べ終えていた俺に驚いているのか、急いで自分自身の食事も済ませて追いかけてくる亜耶ちゃん
「い、いってらっしゃい.」
それを言うためだけに急いで追いかけてきたのか、本当に真面目な子だなと思う
「いってきます」
そう言って外へと出て陽の眩しさに眉を顰め、俺の1日が始まる
国土 日向。年齢は16、高校生の傍ら四国の唯一神である神樹様を奉る大赦のアルバイトを今日から始める
元勇者だ