〇〇家の兄は勇者だった 作:四国在住 勇者部
「ヒナタさんヒナタさんこれなんてどうですか!」
「んー、それならこっちの方が好きかな俺は」
「確かにそっちもいいかもしれませんねっ」
今日は亜耶ちゃんと2人でショッピングモールで買い物に来ている
いまは途中見かけた服屋であれこれと服を吟味している亜耶ちゃんに付き合っている形だ
「いいのあった?」
「まだ少し……」
「悩んでるか。いいよ、今日はこのあと特に予定もないしいくらでも付き合うよ」
「本当ですかっ! ありがとうございます!」
我慢していたのだろうかそう言うとあっという間に奥の方へと引っ込んでいってしまった
あんな亜耶ちゃんを見てると最近よく思う。あぁいうふうに気兼ねなく返答を返してくれるようになったのはいつからだったかな、とか
優しくて人のことをよく考えてくれるのは昔から変わりはしないが、会って初めての頃は俺には近付かず遠慮を良くする子だった。
なんというか、腫れ物を触るような慎重な警戒するような扱いをされていた気がする。まぁ、突然現れた歳上の異性が急に家に上がり込んでくるなんてことが起きればその反応も当然なんだろうけど
「ヒナタさん決まりました」
「おっ、どれどれ。いいね可愛い似合ってるよ」
「……そ、そうですか?」
「おう。んじゃ、一旦貸して」
「……嫌です」
服の入ったカゴを力ずくでも渡してなるものか、そう聞こえてきそうなほどガッチリとホールドする亜耶ちゃん。
……バレたか
「ヒナタさん、自分で払わさせてください」
ジトーとした目で睨まれる。いくらか心を許してもらえたかと思ったが、まだまだかもしれないな。
「ここは男のプライドってやつだよ。少しはお兄さんに甘えなさんな」
「で、でも……。本当によろしいんですか?」
「いつもお世話になってるからね。たまには恩返しさせてくれよ。ほら部屋の掃除とか」
「ふふふ、お部屋のお掃除は私が好きでやってることですよ。それならお言葉に甘えさせていただきます」
「おう」
亜耶ちゃんから服を受け取りレジへと持っていく。総値段を見て少し目を逸らしたことは許して欲しい
服って高いね……
その後、服屋に行ったあとは雑貨屋を覗いたり本屋によって本を買ったり
そんなことをしていると時間もちょうどいいお昼頃になり俺の腹時計が鳴った
「もうこんな時間か。亜耶ちゃんどっかで食べて帰ろうか。なんか食べたいものとかある?」
「そう、ですね……私はヒナタさんが食べたいものでしたらなんでも」
少しだけ考えた末に俺に選択権を委ねるよう、少し決めてもらった方が有難かった気持ちも無いわけではないが
「俺に行くところを任せたらうどん屋は行かないぞ?」
「大丈夫ですよ」
にこにことしながら俺の横を歩く亜耶ちゃん。なんというかかんというか。本当に良い子だ
「よーし、それじゃあいまからデザート店巡りに行くぞー!」
「そ、それはちょっと勘弁してくださいー!」
いまが少し楽しい。楽しくて仕方なくて、ズキリと心が痛んだ。
── ──
時間もすぎて日も暮れて夕方に近付いて来ていた。
リビングでボーとテレビを見ていると置いていた携帯が鳴る。
「誰からだろ」
スマホの画面を見ると見覚えのない電話番号と、見覚えのある名前が浮かんでいた。何事かと電話をとる
「もしもし、どうしました三好さん。はい、はい……」
どうやら少し話がしたいようで、電話越しじゃなく直接会って話がしたいようだ。
亜耶ちゃんの方を見るとまだ夕御飯は作り始めていないようで座ってお茶を飲んでいる
亜耶ちゃんは俺が見ていることに気付いたようで目線を合わせてくる
「どうしました?」
「仕事先の上司? の人からいまから会えないかって話が来てるんだけど、行ってきても大丈夫かな」
「ん? はい、大丈夫ですよ。お夕飯はどうしますか?」
「ごめん今日はいいや。話ついでに奢ってくれるらしい」
「そうですか、了解しました。あまり遅くらないうちに帰ってきてくださいね?」
「了解、ありがとう。……はい、大丈夫です行けます」
── ──
「今日は来てくれてありがとう」
「いえ、これからもお世話になる人のお誘いは断れませんよ」
そう言って俺は席に着く
三好さんに呼び出された場所は少し古めな居酒屋だった。古いからと言って汚いという訳ではなく、逆に落ち着かせる印象をもたらしていた
話し込むためか座席は個室の店の奥の方だった
「さて、話をする前に何か頼もうか……なにがいいかな?」
「いやいや、良いですよ。俺、お金持ってきてないし、何よりここまでのタクシー代だって……」
「あぁ、そんなことか。いいよいいよ、今日は僕の奢りだ」
「いやでも」
「お金の心配ならしなくてもいいよ。これでも大赦の一員金なら持ってる」
そう言ってメニュー表を渡してくる三好さん、そこまで言わせて何も頼まないのは逆に失礼に当たるだろうとメニュー表を受け取る
「そういえば……前に御会いさせていただいた時と随分」
「あぁ、様子が違うって言いたいのか。公私のオンオフくらい出来ないとやっていけないからね。国土くんも、もっと砕けた感じで来てくれてもいいんだぜ?」
「……目上の人への礼儀はマナーですよ。まぁ、三好さんがいいって言うならこっちも楽にさせてもらいます」
三好さんの言葉通り、若干姿勢を崩し気楽な体勢になる
メニュー表には一通り目を通し、取り敢えず簡単なものとソフトドリンク欄に目を付けて呼び鈴を押した
程なくしてお店の店員さんが来て注文を取ってくれる
「烏龍茶ひとつと、冷奴……あと、あっ揚げ鶏あるんですね」
「はい、当店の1番のオススメです。うち揚げ鶏屋じゃないですけど」
「どれくらいで出来ます?」
「少々お時間いただきます。大体、10分~20分……それくらいは」
「それじゃあ、足のブツとザンギを1皿ずつ。三好さんはどうしますか?」
「僕はとりあえず生ビール1つ、冷やしトマト1つお願いします」
「はい、ありがとうございます……失礼致します」
店員さんが部屋から出ていくと同時に気になる疑問を三好さんに問いかける
「アルコール入れるんですか?」
「あぁ、僕も仕事終わりだから飲まずにはやってられないってのもあるし、いまから話すことを考えれば素面でなんてやれないからね」
なんというか三好さんの出来る人っていう像が崩れていく音が聞こえるような気がする。思わずため息が出そうなのを我慢しつつ、当初からのもう1つの疑問を聞く
「そういえば、俺と話したいことってなんですか。ただご飯を奢ってくれるってわけじゃないんでしょ?」
「そうだった。そのことなんだけど」
「失礼致します。お待たせしましたー」
三好さんが話だそうとした直後店員さんが来て話が途切れてしまう
「とりあえず乾杯してからにしようぜ?」
「……はぁ、了解です」
俺は店員さんが持ってきた烏龍茶が入ったグラスを手に持ち三好さんの持つジョッキに軽く打ち付ける
「「乾杯」」
子気味のいい音と共に、三好さんはジョッキの中身を3割方飲み尽くし俺も少しだけ喉に流す
「ふぅー、仕事終わりすぐに飲む酒は退廃的だな。余計に美味く感じる」
「それで、さっきの続きですけど話っていうのは?」
いつまでも本題に入らない三好さんを少し急かしつつ、ドリンクと一緒に来た冷奴を口に運ぶ
「あぁ、そうだった。今日わざわざ呼んだのは君の過去のことを少し聞きたくてね」
「……俺の過去ですか」
少し眉間にシワがよる話題だ
いつかはどこかしらで聞かれるだろうとは思っていた話題だけど、思っていたよりも早かった
「俺の話なんて聞いても退屈なだけですよ」
「僕が少し、君のことを調べてるって言ったら話してくれたりするかな」
三好さんは少し、と言いつつ恐らく俺のことはほぼほぼ調べ尽くしていることだろう。三好さんが聞きたいことと言うのは恐らくあの件だ
「聞きたいのは乃木日向空白の2年間について……ですよね?」
「おっと、僕は君の過去の話を少しづつ聞いて言ってあわよくばその話も聞けたらいいなって思った程度なんだけどな」
「別にいいですよ。三好さんも大赦の上層部に居ればいつか聞く話でしょうし……じゃあ、少しだけ俺の過去の話を聞いてもらいましょうか」
もしかしたら三好春信さんの性格はこんなんじゃないと思う読者もいるかもしれませんが、今作に限ってはこれで行きます