人間らしい巫女と脇役の魔法使い(喜怒哀楽が激しいのは魔理沙がいるから的な)〜未完結〜 作:B CAST
それは八雲紫にとって、これほどまでも無い誤算だった。これまで自分が努力をし、途中から180°折れ曲がり積み重ねてきたものを、こんないとも容易く破るのかと
妖怪の賢者である彼女は、あくまでも妖怪の賢者であり、人間の賢者ではない。その差が今なのだろうと感じた
「おっす霊夢ー、また来たぞー」
声の主の少女が目指すは博麗神社ーーーーーーーに居る一人の少女。その神社は東の際の果てにあり、歴代一人の巫女が管理している
現在の巫女は博麗霊夢と呼ばれ、人里の人からも「霊夢」「霊夢さん」と、下の名前で呼ばれるほどに親しまれてはいる
しかし今代の巫女は、人間よりも妖怪に好かれやすいらしい
異変解決をする度に妖怪が集まり、宴会を開く。そうでなくとも妖怪や力のある人間が時々やってくるような神社であり、普通の人はなかなかやってこない
その中で声の主、霧雨魔理沙は人ながらにして幻想郷の中でも群を抜いての長い付き合いであり、異常な程博麗神社へと赴く。冷かしとして『付き合ってる』などと烏天狗に囃されたのは、つい先日の話だったか
魔法使いである彼女は、その証と言わんばかりの箒を肩に担ぎ、本来の箒の使い方をする少女の元へと向かう
「おっす、調子はどうだ?」
いたずらっ子のような笑み。少女とはいえ既に月の周期は来ている年頃だ。しかしそんな魔理沙は子供のような振る舞いを変えることはしなかった。それが自分だと言わんばかりに
「んー、まあそこそこいいかしらね。悪くは無いわ」
返すのはこの神社の巫女をしている、博麗霊夢。縁起のいい赤と白の2色で統一された服を着ている
割と外観の変化を楽しみたい2人は、たまに香霖堂に足を向かわせ、店主の霖之助にツケで服を頼む。それ以外に、魔法の森の人形遣い、アリス・マーガトロイドに服のアレンジをしてもらうこともある
主に霖之助には1から服を、アリスには原型のアレンジを頼んでいる。そのためか、割と服の種類はあり、気分によって着る服を変えていたりする
「調子がいいなら結構。私みたいに元気が一番だ」
「それあんた自身が言っちゃうのね・・・」
対比されるような、満面の笑みを見せる魔理沙と呆れたように目を細め、大きく息を吐く霊夢。そして霊夢はそれまでやっていた掃除を早々に切り上げることにした
箒を立て掛け、魔理沙は縁側に座り込み、霊夢は台所へ向かう。魔理沙は靴の代わりに特徴的な黒い高帽子を外し、霊夢の帰りを待つ
程なくして、霊夢がお盆を手にやってくる
お盆の上にあるのは、適度に注がれたお茶の入った湯呑みが二つと、急須、お茶うけとなる煎餅だった。いつものラインナップだ
魔理沙の隣に座り、お盆を間に置く。湯気の立つお茶に手を伸ばし、息で冷ましながら啜る。秋も深まり、冬の足音が聞こえる今は寒さをそこそこ感じる程であり、熱いお茶はうってつけだった
「いやー。寒さ感じたらこれだよな。格別さがある」
そう言いながら、寒さで悴んだ手を温めるように湯呑みを遊ばせる。隣の霊夢も同じように遊ばせる
「炬燵の時期ね・・・鍋もいいわね」
「炬燵・・・鍋・・・いいな。今日の昼はそうしないか?」
アリスの家や紅魔館にある暖炉とはまた違う特別さのある炬燵。魔理沙も霊夢も炬燵に浸りながらミカンを食べるのが好きであり、ダラダラとするのが至高のひとときだった
1人でも極上の安らぎになるが、2人揃えば天国のような心地よさへと昇華されていた
「そうねー。そろそろ準備しようとしてたし、そうしましょうか」
「よし来た。鍋の材料はあるのか?無いなら買い出しに行こうぜ」
双方言葉だけで行動力する気配はない。とりあえず一服と言ったようなていを見せていた
「んーと、ネギに白菜に・・・お肉あったかしら」
上目になり記憶の中を潜る霊夢に対し
「肉がないだと!?それは鍋とは言わん。鍋であって鍋ではない別の存在だ」
肉がないかもしれないことに魔理沙が反応する。乙女であっても肉は大好物の部類に入る。それは霊夢も同じであり、むしろ99パーセントの妖怪は好物になるだろう。例外はあるものの
その為霊夢も「無いと困るわよね・・・」と返答したようで目標もない言葉を漏らす。魔理沙は憤慨したように
「肉がないとやっていけんぞ!今すぐにでも買いに行くか!」
手には湯呑みを持っており、如何せん本気か気にはなるが目と声は本気そのものだった
その魔理沙の様子に呆れた霊夢は、しかし内心では冷や汗をかいていた
肉がないと鍋ではないというのは霊夢も同じ考えで、霊夢の中では白米の無い昼御飯と同じことだった
博麗神社の主食は米であり、パンなどの小麦から作られるものは差し入れの時や外出した時の買い食い位でしか食べない。そもそもそこまで好きでもない為自分から食べることもない
それ程に米は霊夢の中で大きな存在だ
つまるところ鍋における肉も大きな存在であり
「調べてくる」
冷蔵庫を漁る選択をする事にした。その顔は真剣そのものであり、少し不安も浮かんでいた。魔理沙はといえば、「見届けなければいかん」などという謎理論で付いていくことにしていた
人里は今日も活気に溢れている。妖怪という闇の存在に怯えつつも、逞しく生きていた
「それで、お前は肉もないのに何をしようとしていたんだ」
「いや、ほんとごめん。無いとは思わなかったのよ」
不機嫌な魔理沙と申し訳なさそうな表情をする霊夢
周りを見ても着物や麻の服がデフォルトな人里で、白黒の服、紅白の服は目立つ。魔理沙は西洋風の魔女服、霊夢に至ってはそもそも巫女服であり、異質な雰囲気を放っている
そんな中堂々と道を歩く2人は、雑談をしつつも目的の食材を求め散策をしていた
「全く・・・お前は葱のない納豆を納豆と呼ぶのか?」
魔理沙は和食派であり、納豆は好物の部類に入る。ご飯のお供とも言える
「・・・・・・いや、あまり言いたくないわね・・・・・・割と好きだけど・・・」
「そうかー。私は言えるけどな」
「さっきの質問何だったの?」
右手で軽く抑えた頭の中で『それなら別に肉がなくても鍋でいいんじゃないのかしら』と考えるが、魔理沙の方をチラと見た時『それはそれで、これはこれ』と言ってるように見え、霊夢はため息をついた
霊夢が幾らまでお金を使おうかと考えるよそで、魔理沙は必要だと思う肉の種類を考えていた
「牛と鳥・・・猪も入れたいかな・・・」
思っていたことを口に出し、霊夢の反応を期待する。実質今回財布を握るのは霊夢のため、霊夢に金銭の類は任せることになる
霊夢は露骨に嫌そうな顔をする
「あのねぇ・・・そんなにお金は無いわよ・・・賽銭も殆ど無いんだから計画的に使わないと」
元々立地や巫女の印象等で少なかった参拝客は、妖怪を恐れる為に妖怪が集まると噂される神社にはほとんど来ることがない。代わりに来るのはお賽銭も落とさない、霊夢が好きな妖怪や人だけだった
その為お金はない。しかし
「その割には食料とかあるもんなお前ん家」
そんな妖怪や人は、お賽銭の代わりにお土産を落としてくれる。霊夢自身が人里からの人気もあり、何かと恵んでくれる
お金自体は無いものの、ものに困ったことはさほど無い。人里よりも裕福かもしれない生活を送ることが出来るのはその為だ
「ま、だからとそれだけに頼るわけにもいかないし」
言いながら、スカートから袋を取り出す。中には小銭がそこそこ入っていた
「うーーん。豚は欲しいし・・・そうねぇ・・・」
難しそうな顔で悩む。唸りつつも、言外で魔理沙にもう一種類材料を訊ねる
「そうだな・・・私なら鳥かな」
その雰囲気を感じ取った魔理沙が答える。霊夢も納得し
「それじゃ、豚と鳥ね。あと絶対に必要なものとかあったかしら」
「ふむ・・・無いんじゃないか?特に思いつくものはない」
「よし。乗り込むわよ」
「了解」