アイルー「……何処だ?此処は……」
ぼんやりとした視界の中、目を開けると見慣れぬ天井があった。いや、天井というより粗末な木の板、所々に穴が空いて光が漏れ込んでいる。
それよりもまず、異様な感覚に戸惑った。手足が短い。身体が軽い。そしてなにより――
アイルー「な、なんだこれ!?」
自分の声が高く、どこか猫のような語尾がつく。さらに、前足――いや、手のようなものを持ち上げると、そこには毛が生えた丸っこい肉球のような掌が。
アイルー「え、嘘だろ……」
鏡は無かったが、自分の姿はなんとなく分かってしまった。これは……アイルー。モンハンに出てくる、あの猫の姿だ。夢か? いや、これは……現実味があり過ぎる。
しかも、よく見ると身体には無数の傷跡があり、手足には縄のようなものが巻きつけられていた。まるで奴隷のように、粗雑に縛られている。
アイルー「意味が分からん……なんで、どうして、僕が……」
頭が混乱している最中、奥の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
大柄な男「オラ!ぐずぐずしてんな、さっさと歩け!」
その怒声と同時に、軽い体が転がる音が響いた。
メラルー「ギニャ!?」
猫のような声。覗き込むと、奥から大柄な男と、彼に蹴飛ばされたメラルーが現れた。体は小刻みに震えていて、口からうっすら血が滲んでいる。
メラルー「ぐ……痛いにゃ……」
大柄な男「ったく、ちんたらしやがってノロマが!さっさとそこにくたばったクソ猫を片付けろ!!」
――くたばった?
その言葉に脳内の思考が止まった。まさか、僕が今いるこの身体……元のアイルーは、殺された? それに僕が憑依した……?
アイルー「……ッ!」
胸の奥から沸々と怒りが込み上げてきた。だが、今の僕はただのアイルー。人間の頃の力もない。ただでさえ小さな体、戦えるとは到底思えなかった。
その時、また怒声が飛ぶ。
大柄な男「おい!アイルーがいないだと!?どこ行きやがった!!」
メラルー「血の匂いで、よく分からないニャ……」
大柄な男「口答えすんじゃねぇ!!」
メラルー「ニャガッ!!」
容赦なく蹴られるメラルー。その体が床に叩きつけられたのを見て、胸の奥で何かが切れた。
アンダー(クソッタレが……ッ!)
必死に周囲を見回すと、ひとつの古びた剣が目に入った。
アイルー(これは……龍封剣? なぜこんな所に……いや、今はそんなことはどうでもいい!)
心の奥に火が灯った。助けなければ。たとえ自分が死ぬとしても。
気配を殺し、静かに忍び足で大男の背後に回り込む。
大柄な男「ガハハ、死ねー!」
メラルー「いやニャ、助けてニャ……!」
――今だ!
アイルー「死ぬのはてめえだーー!!」
怒声とともに、両手に持った龍封剣を男の首に突き刺した。
大柄な男「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?!?」
勢いよく噴き出す血。その感触に思わず震える。
アイルー「……これが……命を奪うってことか……」
首を切断し、男はその場に崩れ落ちた。
アイルー「はぁ……はぁ……」
震える手。血の匂い。吐き気をこらえる。
その時、後ろから弱々しい声が聞こえた。
メラルー「ニャ、あニャたは……?」
アイルー「わからない。目が覚めたらここにいたんだ。」
それが嘘偽りない僕の真実だった。
メラルー「助けてくれて、ありがとニャ……う、ニャ……!」
メラルーがぽろぽろと涙をこぼしながら、僕の体にしがみついてきた。
メラルー「うニャー!怖かったニャ〜!死ぬかと思ったニャ〜!」
思わず声を上げて泣き出すメラルー。しかし、声に反応するように――
男性1「おい、なんだ騒がしいぞ?」
男性2「なんか声聞こえなかったか?」
――しまった!
アイルー「おい、泣くな!今すぐ泣き止め!」
メラルー「ニャ!?」
頬を軽く叩き、メラルーの口を押さえる。
アイルー「……男たちがこっちに向かってきてる。逃げるぞ。」
メラルー「に、逃げるって、どうやってニャ……殺されるニャ……」
アイルー「いいから黙って付いてこい。走れるか?」
メラルー「……足だけは少し自信あるニャ。」
アイルー「なら上等。あそこの樽を使う。隠れながら出口まで行くぞ。」
メラルー「わ、分かったニャ……!」
気配を殺しながら、樽の影に身を隠して進む。
やがて男の一人が部屋に入る――その瞬間。
アイルー「行くぞ、今だ!」
メラルー「はいですニャ!」
二人で一気に走り出した。四足で駆けるメラルー、二足で追う僕。
アイルー(……人間の癖が抜けないな。四足の方が速いのに……)
そう思いつつも、息を切らしながら出口が見えた。
メラルー「で、出口ニャ!」
光が差し込むその向こうへ。――走り抜けた。
そして、ようやく森の奥深くに到達する。
メラルー「やったニャ……今度こそじゆ……」
アイルー「バカ、黙れ!!」
反射的にメラルーの口を両手で塞ぐ。
アイルー(此処で大声出すな!人間に見つからなくても、モンスターに見つかったら終わりだ!)
メラルー「ご、ごめんニャさい……」
アイルー「いいさ、助かったんだ。とりあえず朝までここで休もう。」
メラルー「はいニャ……」
数分歩くと、小さな洞窟が見えた。中に入り、少し登った先に開けたスペースがあった。
アイルー「……あ〜、もう疲れた。足が棒になる……」
メラルー「同感ですニャ……」
その場に座り込み、眠りにつこうとする。
アイルー「……また明日な。おやすみ。」
メラルー「おやすみなさいだニャ……」
目を閉じようとしたその時――
メラルー「あの、さっきは本当にありがとニャ。命の恩猫ニャ。」
アイルー「……死にたくなかっただけだよ。礼はいい。さっさと寝ろ。」
メラルー「はいですニャ……」
洞窟の天井を見上げる。
アイルー(まさか、アイルーの身体で洞窟泊から始まるとはな……)
あまりにも非現実的な現実に、僕は乾いた笑いを浮かべながら静かに目を閉じた。