〜遺跡平原【崖下の洞窟】〜
ミレイ(む……まだ明るいな。ってことは、そんなに時間は経ってないか)
うっすらとした光に照らされる洞窟の天井を見つめながら、ミレイはゆっくりと体を起こそうとする――が、その瞬間。
アクセル「兄貴〜!目が覚めたのニャー!」
ズドン!
ミレイ「ぐへ!」
いつものように、というよりも前にもあったように、全力で体当たりをかましてくるアクセル。しっぽを振って目を潤ませながらミレイに抱きついてきた。
ミレイ「……覚めたよ。だから退いてくれ」
アクセル「嫌ニャ!」
ミレイ「なんで!?」
アクア「お主がまた無茶をするからじゃないかのう」
呆れたように言うアクアの声を背に、ミレイは半ば無理やりアクセルを引き剥がし、体を起こした。
ミレイ「その点は大丈夫だ。ミラルーツに念入りに怒鳴られたからな……もう懲りた」
アクア「本当かのう? 信用は半分しかできぬが」
ミレイ「まあ、信じてくれ。2竜に頼らせてもらうさ」
周囲を見回して、ミレイはすぐに気付いた。
ミレイ「……そういやトールは? どこかに出かけたのか?」
アクア「ふん。あの様な虚け者、知らぬ。『1竜にしてくれ』などと言って、洞窟には来なかったわ」
アクセル「僕達が洞窟に向かおうとしたのに、違う方向に歩いて行ったのニャ……」
ミレイ(……バルファルクの件で、落ち込んでるんだろうな。勘だけど……ったく、しょうがないな)
立ち上がろうとしたその時、アクアが声を上げる。
アクア「待て、主様。まさか、あの者の所へ向かう気ではあるまいな」
ミレイ「そのまさかだよ。アイツを呼び戻す」
アクア「主様は優しすぎる。彼奴を甘やかしてはならぬ」
ミレイ「優しい、か……。分かった、甘やかさずにぶん殴ってくる」
アクア「そういう意味では――いや、もうよい」
その時だった。
――ドォン!
爆発音とともに、森の方角から咆哮が響く。
アクセル「な、なんニャ!?」
ミレイ「……アイツに爆発系の攻撃はなかったはずだ……まさか!」
ミレイは洞窟の外へと走り出す。
アクア「ふう、世話を焼かせる主様よ。妾に乗るのじゃ」
ミレイ「分かった! アクセル、お前はどこかに隠れてろ!」
アクセル「分かったニャ!」
ミレイはアクアの背に乗り、空へと舞い上がった。
〜遺跡平原〜
トール『はぁ……はぁ……っ』
荒い息を吐きながら、トールは追い詰められていた。向かい合うは、二人のハンター。
ハンター1「弾の装填終わったか?」
ハンター2「おけおけ。後は大タル爆弾起爆すればいけるだろ」
ハンター1「罠があれば楽だったけどな。まあいい。これは“狩猟”だ、文句ないだろ」
トール(くそっ……何で、ハンターが近くにいるなんて……! 俺が……たった二人に……!)
電撃を放ち反撃に出る――しかし。
ハンター1「はい残念~。大人しく寝てろ」
トールの電撃を軽く躱し、ハンター1はハンマーを振るう。
――ガンッ!
トール『ぐっ……!』
まともに顔面に喰らい、ぐらつく意識。
その間にも、ハンターたちは淡々と準備を進めていた。
ハンター2「よし、設置完了っと」
ハンター1「こっちは爆破準備オーケー!」
だが――
ミレイ「アクア!あいつらにブレスだ!」
アクア『任せるのじゃ!』
アクアの水ブレスが炸裂し、爆弾を設置していたハンター2を直撃する。
ハンター2「うわっ!?」
ハンター1「避けろ!爆弾が……!」
ドォンッ!
起爆前に巻き込まれ、ハンターたちは吹き飛ばされた。
ミレイ「ギリギリ間に合った……ナイス、アクア!」
アクア『当然じゃ』
トールはその光景を呆然と見ていた。
トール『な、何が……兄弟!?』
ミレイはアクアの背から降りて、トールの前に歩くと――
ミレイ「すーっ……この馬鹿野郎!!」
トール『!?』
突然の怒声に身を震わせる。
ミレイ「アクアから全部聞いた。何が“1竜にしてくれ”だよ。バルファルクのことなんて、実力差があれば仕方ないだろ!」
トール『だけど……俺には、あんたを守る力が――』
ミレイ「だから?」
トール『え?』
ミレイ「それで、僕らを放って行くってのが正解だって言いたいのか?違うだろ。自分に足りないと思うなら、足りないままでも隣にいろよ!」
そして――
ミレイ「それでも……どうしても逃げたいなら、今ここで、僕に一発ぶん殴られてから行け!」
ミレイは拳で、トールの頬を撃つ。
トール『っ……!』
ミレイ「お前は、最初に言っただろ。僕を守るって。だったらその通りやれよ!情けねえ顔してんじゃねえ!」
拳を引いて、ミレイは背を向ける。
ミレイ「……あとは、お前が決めろ。逃げるか、俺達と進むか」
一方、ミレイとアクアはハンターに向き直る。
ハンター1「アイルーが……タマミツネとジンオウガの仲間だと!?」
ハンター2「ふざけた茶番だな、闇ギルドに渡す為に殺すしかない!」
ミレイ「お前らさ……今、闇ギルドとか口にしてたよな」
ハンター2「どうせここで死ぬんだ。お前らに話したところで関係ねえだろ!」
ミレイ(……闇ギルド。それって、アクセルの過去に繋がるかもな)
アクアがミレイの前に出る。
アクア『主様、ここは妾がやるのじゃ。勝手にいなくなった虚け者のことなど知ったことではないが、こやつらを生かして帰すわけにはいかぬ』
ミレイ「……やれるのか?」
アクア『愚問じゃ、主よ。妾を誰と心得る? 主の恋人、アクアじゃぞ♪』
ミレイ「誰が恋人だ!!」
アクア『ゆくぞ、下郎共!』
ハンター1「なめんじゃねえ!!」
ハンター2「俺たちは“上位”ハンターなんだぜ!」
ミレイ(……完全に死亡フラグ立ったな)
ー1分後ー
ハンター1「・・・」ビクピク
ハンター2「あ・・が・」
ハンター2人は、虫の息をしていた。
アクア『この程度か、所詮ニンゲンじゃの。』
ミレイ「攻撃全部避けて無傷とか凄いな。」
アクア『そうじゃろ?もっと褒めるがよい!』
アクアは得意気に誇っていた。
ミレイ「にしても、派手にやったなー。
……一応聞いてみるか。」
ミレイは、倒れているハンター達に近づいた。
アクア『何をするんじゃ?』
ミレイ「ちょっと、な。」
ミレイはハンターにある事を聞く。
ミレイ「おい、闇ギルドの場所は何処だ。」
ハンター2「……てめえが知ってどうすんだ……」
ミレイ「質問に答えろ。」
ズプッ
古代の剣をハンターの右脚を突き刺す。
ハンター2「がああああ!!」
ミレイ「もう1回だけ聞くぞ。
闇ギルドの場所は何処だ。」
ハンター2「くは…クソ猫に答える事なんざ……ねえよ」
アクア『主様を愚弄するか、ニンゲン!』
ミレイ「いい。もう用済みだ」
――シュッ!
ミレイは容赦なく、ハンター2の首を跳ね飛ばした。
アクア『……!?』
その凄絶な光景に、一瞬言葉を失うアクア。
だが、ミレイの目は冷静で、怒りに曇っていなかった。
ミレイ「おい、もう1人の方。何か知ってるんだろ?」
ハンター1「……」ピクピク
ミレイ「トール、少し電気浴びせてやれ」
トール『……了解』
――バチッ!
電撃により、意識を取り戻したハンター1は、目を開けるなり恐怖で目を見開いた。
ハンター1「ひぃ……!なんなんだよ、お前らは!」
ミレイ「闇ギルドの拠点は?」
ハンター1「……分からない。あいつら、拠点を頻繁に変えるんだ。俺達には詳しく知らされない」
ミレイ「……嘘じゃないな」
ミレイは冷静に見極めると、剣を下ろした。
ミレイ「じゃあもういい。消えろ」
ハンター1「た、助けてくれるのか!?ありがとう、ありがと――」
ミレイ「とは言ってない」
――ゴォン…
剣が再び砲形態に変形し、照準をハンターへと向ける。
だが、その時。
アクア『主様、待たれよ』
ミレイ「……何だ」
アクア『主様が手を汚すまでもない。後は妾に任せてくれ』
ミレイ「……分かった。頼んだ」
そのまま洞窟へ戻るミレイ。
アクアは、満面の笑みを浮かべながらハンターに近づいた。
アクア「さて……、これなら主様に見られずに済む。」
ハンター1「な、なんでモンスターが喋ってるんだ!?お前らはなんなん……」
アクア「そなたが今ここで起きた事は、一生知る事はない。何せ…妾に喰われてしまうからじゃ。」
アクアは口を大きく開きながら、ハンターに迫る。
ハンター1「や、やめろ!やめてくれ!!助けてくれ!!」
アクア「……妾に喰われて知るがよい、人の業と恐怖をのう」
――パクッ
悲鳴をあげる間もなく、アクアの口が開き、男を丸呑みにした。
アクア「げぷ……ふふ、ニンゲンは骨が邪魔じゃの。トール、終いじゃ。帰るぞ」
トール『……』
アクア「返事は?」
――バシッ!
トール『あだ!?』
尻尾で叩かれ、ようやく正気に戻ったトールは頷きながら、アクアと共にその場を後にした。
〜遺跡平原【崖下の洞窟】〜
アクア「今帰ったぞ、主よ」
洞窟の入口で尻尾を軽く振りながら声を掛けたアクア。その呼びかけに応じるように、奥からアクセルが姿を現す。
アクセル「お帰りなさいニャ、アクアさん」
アクア「主様は何処じゃ?一緒ではないのか?」
アクセルは少し困った表情を浮かべながら、洞窟の隅を指差した。
アクセル「兄貴、さっきからずっと1人でいたいって…僕が近づいても何も言わないのニャ」
アクア「……そうか。アクセルよ、主様の居場所へ案内してくれんか?話をしたいのじゃ。直接、この目で見ておきたい」
アクセルは迷うように首をかしげながらも、アクアの真剣な目を見てすぐに頷いた。
アクセル「……こっちニャ」
アクセルが前を歩き、アクアが静かに後を追う。静かな遺跡平原の空気に、二匹の足音だけが微かに響いていた。
アクセル「この先ニャ。兄貴はあの岩の裏にいるニャ」
アクアは歩みを止め、アクセルに目で合図する。
アクア「ここから先は妾に任せてよいぞ。声をかけるにしても、お主の気持ちを尊重してやりたい」
アクセル「……分かったニャ」
そう言い残し、アクセルは静かに戻っていった。
アクアは一度深く息を吸い、落ち着くように整える。
アクア(主様……)
そして、ゆっくりと岩の裏手に足を進めた。
アクア「主様、そこにおるのか?」
しかし返事はない。
アクア「……そっちに行ってもよいかの?」
やはり、返事はなかった。
アクアは目を細め、小さく「すまぬ」と呟くと、体を屈めて岩の影に回り込んだ。
そこに居たのは、顔を伏せ、膝を抱えたまま震えるミレイの姿だった。
アクア「!? 主様……!」
驚きに目を見開くアクア。ミレイの頬を伝うもの、それは紛れもなく涙だった。
アクア「どうしたのじゃ、どこか痛いのか……?」
ミレイはそっと首を横に振った。小さく、小さく。
ミレイ「……怖いんだ」
アクア「怖い……?」
ミレイ「この世界に来て……初めて人を殺した。それも……さっきで、二人目だ。僕の行動は、間違ってなかったのか……本当に正しかったのか、分からないんだ」
アクアはゆっくりと膝をつき、ミレイの視線と高さを合わせた。
アクア「主様……“正しい”とは、誰が決めるのじゃろうな」
ミレイ「……」
アクア「妾はな、正しいか否かより、主様がどう感じるかを重く見る。もしも主様が、あれは間違っていたと思うのなら、それが答えなのじゃろう」
ミレイ「……」
アクア「だが、妾はどんな主様でもついて行くと決めた。主様が何者であろうとも、妾にとっての“正しき者”じゃ。それだけは、疑いようのない真実じゃぞ」
ミレイは口元を震わせながらも、アクアの言葉をひとつひとつ、胸の奥に刻むように聴いていた。
アクア「主様、少し……妾と一緒に休まぬか?」
ミレイ「……」
アクア「冗談じゃ、今のは。ただ、言ってみたかっただけだ」
ミレイ「……いいよ」
アクア「!?」
ミレイはそっとアクアに身を寄せる。小さな体が、アクアの胸元にぴたりとくっついた。
ミレイ「少しだけ、甘えさせて……」
アクア「も、勿論じゃ!好きなだけ甘えるがよい!(あああ〜!? 主様が妾の胸に!?これは、妄想じゃない!夢じゃないっ!んぐぐぐ!)」
目を泳がせつつも、必死に理性を保つアクア。
アクア(これが……“幸せ”というものかの……)
〜その頃、洞窟の入口にて〜
アクセルは、洞窟の外からじっと様子を見つめていた。
アクセル「兄貴……アクアさん……」
ふと、風が吹き、アクセルのスカーフがふわりと揺れた。
アクセル「僕も、強くならないとニャ……」
彼は誰にも聞かれないように、そっと小さく誓った。