洞窟を出てから約一時間。道なき森の中、三匹は黙々と歩き続けていた。
見渡す限り、生い茂る草木と太く高く伸びた大木たち。地面はところどころ苔に覆われ、踏み込む度に柔らかな感触が足裏をくすぐる。
ミレイ「まだ……何も見えないな」
トール『だな。肉も見当たらねぇ。ジャギィの一匹くらい出てもおかしくねぇ森なんだが……』
アクセル「お腹空いたニャ〜……」
ミレイ「黙れ、僕だって腹減ってる。言うなよ……余計に減るから」
アクセル「もう歩けないニャ……疲れたニャ〜」
(……もう少し頑張れよ)
ミレイは軽くため息をつくと、トールの方を向いて言った。
ミレイ「仕方ないな。トール、こいつ乗せてやってくれ」
トール『あいよ』
言うが早いか、トールは角を使ってアクセルをふわりと持ち上げ、背中にポンと放り乗せた。
アクセル「ニャぶっ!?」
ミレイ「そこで少し休んどけ」
アクセル「助かるニャ〜、これなら歩かなくて済むニャ♪」
トール『……ミレイ、こいつ喰っていいか?』
ミレイ「アクセル、疲れてるフリしてるならトールが“美味しく”いただくってさー」
アクセル「ニャ!? の、乗せてもらって感謝してますニャ!! そ、そうだ、食材が見つかったら料理するニャ!」
ミレイ「はっ……料理だと!? お前、料理できるのか?」
アクセル「はいニャ。昔、趣味で習ってたニャ。ほとんどの食材なら調理できるニャ。……実はもう手元にないけど、料理コンテストで優勝したことがあるのが僕の自慢ですニャ♪」
(マジかよ……それは良い事聞いた!)
食材を見つけても料理ができなければ意味がない。でもアクセルが作れるなら、話は別だ。生焼け肉だけの生活とはおさらばできる!
ミレイ(……くくくっ……ふはははは!!)
トール『……ミレイ、なんか顔がにやけてないか?』
ミレイ「トール!これより食材確保を最優先とする!狩りに出るぞ!!」
トール『は、はぁ……?』
ミレイ「黙ってついて来いッ!!」
突然テンションが爆上がりしたミレイに戸惑いながらも、トールはその背中を追う。
20分後――
ミレイ「……何処だ!何処にいるんだ俺の獲物は〜!!」
その姿はまさに狂人。目がギラギラと光り、地面を這い回る勢いでキノコや木の実を探している。
アクセル「ニャニャ……僕、何か変なこと言ったかニャ……?」
トール『お前が料理できるとか言ったからだろ!』
アクセル「ん〜、でも何がそんなに引っかかったのか分からないニャ〜」
トール『やれやれ……』
トールは呆れたようにミレイを見たが、ついには痺れを切らした。
「ドカンッ!!」
トールの雷が、ミレイに直撃した。
ミレイ「アビビビビ!?!?」
倒れるミレイ。
アクセル「ミレイ兄貴〜!? しっかりしてニャ!!」
トール『中に溜まってた電撃を全開でぶつけたから、しばらく動けねぇはずだが……』
しかし、ミレイはわずか数秒後に目を覚ました。
ミレイ「あれ? 何してたっけ?」
トール『えぇぇぇ!?』
ミレイ「確かアクセルが料理できるって聞いたのは覚えてるけど、その後の記憶が曖昧で……」
アクセルが飛びつき、安堵の声を上げた。
アクセル「良かったニャー!! 正気に戻ってくれて!!」
ミレイ「っとと、近いって。少し離れろ!」
その後、トールに向き直る。
ミレイ「悪かったな。手間かけた」
トール『あ、ああ……無事ならそれでいい』
――静かな時間が流れる。
が、再びミレイが声を上げた。
ミレイ「ちょ、ちょっと待て!? 俺、今雷喰らったのか!? しかも平気って……おかしくね!?」
トール『それが俺の方が聞きてぇわ!! どうなってんだお前の身体!?』
ミレイ「俺って……化け物?」
トール『そこまでは言ってねぇ!! でもよ、前のこの身体の持ち主は戦いなんて知らなかったんだ。お前、マジで……何者だよ』
騒ぐふたりを見て、アクセルは木の陰に隠れて震えていた。
その時――
「ドスン……ドスン……」
森の奥から、重々しい足音が響いてきた。
ミレイ「聞こえたか?」
トール『ああ。……間違いねぇ』
ミレイ・トール「『獲物だ!!』」
(う、うわぁ〜、二人共怖いニャ……)
アクセルの怯えもどこ吹く風、二匹は音のする方へ駆けていく。
ミレイ「今度こそ、飯にありつける!」
トール『だが、油断するなよ! それと一つだけ聞かせろ』
ミレイ「ん?」
トール『その剣……なんか変な感じ、しねぇか?』
ミレイ「特にないけど?」
トール『……そうか。ならいい』
疑問を残しつつも、辿り着いた先で彼らが見たのは――
ミレイ「……!?」
トール『な……なんであんなもんがここに……!?』
《恐暴竜:イビルジョー》
全てを喰らう災厄の象徴。巨大なその姿が、木々をなぎ倒しながらうろついていた。
トール『今すぐ離れるぞ、ミレイ!』
しかしミレイは、無言で剣を両手に握り直した。
ミレイ「……自然環境を破壊すんじゃねぇーーー!!!」
トール(自然関係ねぇだろ!?)
ミレイは叫びとともにイビルジョーへと突撃し――
「ズバァッ!!」
その一撃で、あの分厚い尻尾を、真っ二つに切り落とした。
トール『しっ、尻尾を一撃で!? お前の剣、どう見ても短いのにどうやって……』
その時、トールは目にする。
ミレイの持つ龍封剣――先端がまるで鞭のように伸び、軌道を自在に操っていたのだ。
トール(何なんだ、あの武器は!?)
激怒したイビルジョーは「怒り喰らう」状態に変貌し、ミレイに向かって龍属性ブレスを放った!
トール『ミレイ、避けろ!!』
だが、ミレイはその場で剣を振り、大木に鞭を巻き付け――
シュンッ!
一瞬で上空へ跳び上がり、逆方向へ急降下!
ミレイ「迷惑なんだよ! くたばれッ!!」
【龍封剣:鞭斬りの舞】
幾重にも重なる斬撃。血飛沫と共に、イビルジョーは無残にもその巨体を断ち切られ――絶命。
トールは、ただ呆然とその光景を見つめていた。
トール(ミレイ……お前、何者だ……)
だが、次の瞬間。
ミレイ「が、あ……あああああッ!!」
ミレイの身体に、突如激痛が走った。
トール『ミレイ!? どうした、ミレイ!!』
――それは、イビルジョーの血だった。
その猛毒の血が、ミレイの毛皮に付着し、じわじわと体内に侵入していたのだ。
ミレイ「ぐ、がはッ!!」
トール『くそっ!! どうすりゃいい!? 何も……出来ねえのか……』
兄弟を目の前に、無力さを噛みしめ、膝をつくトール。
トール『……また、俺は守れねぇのか……』
だがそのとき――
ミレイの剣が、赤く輝き始めた。
トール『! ミレイの剣が……!?』
剣が、まるで意思を持つかのように、ミレイに付着した血を吸い取り、取り除いていく。
トール『こ、これは……!?』
しばらくして、光が収まり、ミレイの苦しみも落ち着いた。
ミレイ「……っ、助かった……のか……?」
トール『ミレイ!!』
駆け寄ったトールに、ミレイは弱々しく微笑んだ。
ミレイ「……あんなの……毎日だったら嫌だな」
トール『ははっ……バカヤロー……』
力ない笑みを浮かべながらも、ミレイは気絶するように意識を手放した。
トール『……アクセルのとこに連れて行かねぇと。こいつの剣も……一緒にな』
ミレイを背に乗せ、龍封剣を咥え、トールは急ぎ足で森を駆け抜けていった。