アイルー憑依希変物語   作:ラン乱

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渓流の激突、変態モンスターの懺悔

渓流の奥――

 

湿気を帯びた空気に苔の香りが混じり、足元を流れる水音が絶え間なく響く。岩肌に滴る水と、木漏れ日に照らされた葉の揺らぎ。そこを、四匹の影が歩いていた。

 

ミレイ「ったく、せっかく休める場所を見つけたってのに、面倒事ばかり……。こうなりゃ腹いせにミツネ野郎をぶっ飛ばすしかないな」ブツブツ

 

トール『おい兄弟、何をブツブツ言ってるのか知らんが、要するにそいつを倒せばいいって話だろ』

 

ミレイ「……まぁな。けど、戦うにしてもまずは話を聞く。何故アイルー達を攫ったのか。その理由を知らなきゃ始まらない」

 

そう口にしながら、慎重に足を進める。

 

それから約20分後――

 

ニル「着きましたニャ! あそこですニャ!」

 

ミレイ「着いたか。さて、どれどれ……」

 

木々の隙間から視線を向けたその先には――

 

タマミツネ「そなたら、さっさと動くのじゃ! 妾のためにきびきび働くのじゃ!」

 

アイルー(若)「ニャ、んニャ……」

 

見渡す限り、アイルー達が酷使されていた。手に道具を持ち、重い荷を背負いながら石を運ぶ者、水を汲む者、そして疲労で崩れ落ちる者。

 

アイルー(爺)「も、もう限界ニャ……」

 

その場に倒れ込んだのは、年老いた村長格のアイルーだった。

 

アイルー(若)「村長! しっかりして下さいニャ!」

 

アイルー(爺)「ハァ……ハァ……」

 

タマミツネは音もなく近づいてきた。

 

タマミツネ「何をサボっておる」

 

アイルー(若)「お願いですニャ! 村長を少し休ませて下さいニャ!」

 

タマミツネ「休ませる、か。良かろう」

 

アイルー(若)「あ、ありがとうござい……ニャ!?」

 

次の瞬間、子供のアイルーがタマミツネに鷲掴みにされた。

 

アイルー(子)「ニャッ!?」

 

タマミツネ「そやつを休ませる代わりに、こやつを妾の腹の中で休ませてやろうかの」

 

アイルー(若)「止めて下さいニャ! そんな……!」

 

タマミツネ「代償じゃ。そこのジジイを休ませたいのならば、命の一つくらい差し出して当然じゃろう?」

 

アイルー(若)「酷いニャ! やめてニャー!」

 

タマミツネ「では、ご馳走になるかの。1名様ごあんなーい」

 

アイルー(子)「ニャーーーーー!?!?」

 

その瞬間だった。

 

ミレイ「トール! タマミツネに電撃を落とせ!」

 

トール『任せろ!』

 

トールが雷を纏い、そのままタマミツネへと向けて雷撃を放った。

 

「ズドン!!」

 

タマミツネ『があああ!?』

 

雷撃が命中し、衝撃でアイルー(子)は解放された。

 

アイルー(若)「ニャ!? 今のは……!」

 

ミレイ「おい、アイルー達! すぐにそこから離れろ!」

 

アイルー(若)「あ、貴方達は!? ってジンオウガ!?!?」

 

ミレイ「コイツは味方だ。いいから、今すぐ村長と子供を連れて退避しろ!」

 

アイルー(若)「わ、分かりましたニャ!」

 

ミレイ「アクセル、まだ逃げ遅れてるアイルーがいる。助けてやってくれ!」

 

アクセル「はいニャ!」

 

二匹は連携し、瞬く間にアイルー達を安全圏へ導いた。

 

ミレイ「さて、問題はお前だよ、タマミツネ」

 

タマミツネ『そなたら……何者じゃ!? 妾の邪魔をするとは……許せぬ!』

 

ミレイ「黙って子供が喰われるのを見てろと? そんなの……僕には無理だ」

 

トール『俺もだ。見て見ぬふりなんてできねぇよ!』

 

タマミツネ『なんじゃと……無礼者共が! 食い殺してくれるわ!!』

 

「ギャアアアアアア!!」

 

怒りの咆哮を上げるタマミツネ。

 

ミレイ「その前に聞かせろ。なぜアイルー達を攫った?」

 

タマミツネ『理由など決まっておろう? 妾の下僕、すなわち奴隷じゃ。使い潰すまで労働させる……簡単なことじゃろう?』

 

ミレイ「……最低だな」

 

タマミツネ『ふふふ……使い物にならなくなれば、妾の血肉となるだけじゃ。光栄に思うがよい。高貴な妾の腹の中で消えるのじゃ。カッカッカッ』

 

その言葉を聞いたミレイの顔が静かに怒りに染まる。

 

ミレイ「命を……なんだと思ってるんだ……!!」

 

ミレイは腰から手をかざし、空間から太古の剣を出現させた。

 

ミレイ「命をもてあそぶ奴に……情けは無用だ!! ここで倒す!」

 

トール『俺も行くぞ!!』

 

タマミツネ『……ん? お主は……』

 

ミレイ「ん?」

 

トール『なんだよ、知ってんのか!?』

 

タマミツネ『ふふふ、そなた……あのときのジンオウガの子か。なるほどな、実にそっくりじゃ』

 

トール『何が……!?』

 

タマミツネ『ユクモ村にいたジンオウガ……奴は妾がこの牙で喰い殺したのじゃ』

 

ミレイ「なっ!?」

 

トール『……!?』

 

タマミツネ『子を思うその姿……いいのう、だが無意味じゃ。あのときのジンオウガ、哀れで面白かったぞ。最後まで足掻いてのう。クックック』

 

トール『黙れぇぇぇええええ!!』

 

超帯電――トールの体に雷が走り、身体が発光する。

 

ミレイ「トール、落ち着け!」

 

トール『殺す! 親父の仇を討つ!!』

 

トールはそのままタマミツネに突進する。

 

タマミツネ『勢いづくのは良いが、足元が甘いわ!』

 

「バシャッ!!」

 

足元に広がる泡。その一つがトールの足を掬う。

 

ミレイ「トール!ストップ!」

 

トール『ぐっ!?』

 

タマミツネ『無鉄砲なところまで似ておるな。これでは話にならぬ。吹き飛ぶが良いわ』

 

トール『ぐ、ぐあっ……!』

 

その時――

 

ミレイ「させるかぁあああ!!」

 

「ビシッ!!」

 

太古の剣が鞭状に変形し、トールの胴へと絡みつく。そのままミレイはトールを後方へ引き寄せた。

 

トール『うっ、ごふっ!』

 

ミレイ「落ち着け! 頭に血がのぼって突っ込むなんて……らしくないぞ」

 

トール『……すまん』

 

タマミツネ『……そなた、ただのアイルーではないな。何者じゃ……? その剣も、妾は見たことがない』

 

ミレイ「ただのアイルーだよ。……これは、貰ったんだ」

 

タマミツネ『誰に……?』

 

その瞬間、太古の剣が大きく形を変え始めた。

 

ミレイ「いいから……お前は黙ってろ」

 

タマミツネ『!?!?』

 

剣の形は大砲へと変形し、銃口からは激しい光が放たれた。

 

ミレイ「撃てぇぇええ!!」

 

「ズドォォォオオオン!!!!」

 

放たれたのは、巨大な波動砲。タマミツネはすんでのところで回避する。

 

「ズザザザザ……!!!」

 

さっきまでタマミツネが立っていた場所は、黒く焼け焦げ、形すら残っていなかった。

 

ミレイ「お、おぉ……」

 

タマミツネ『なっ…、な……!?』

 

トール(……兄弟、怒らせるのはやめておこう)

 

 

アイルー村では、タマミツネに攫われていたアイルー達が戻り、村の復興に力を尽くしていた。だが――

 

ミレイ「……」

 

タマミツネ『……』

 

トール『……』

 

張り詰めた空気が三者を包んでいる。

 

ミル「何してるのかニャ?」

 

アクセル「何でもないニャ。あっちは兄貴達がなんとかしてくれるニャ」

 

そう言って、アクセルとミルは村の修復作業へと走っていった。

 

その一方――

 

ミレイ「ねえ『ヒィ!?』……まだ何も言ってないんだけど」

 

トール『いや、俺もさすがに恐怖を感じたわ。俺だったら逃げるな』

 

ミレイ「だって、あそこまで威力あるとは思わなかったし。それに、誰も死なずに済んだし。オッケーだよね?」

 

トール『……時々お前の発想が本気で怖いんだよな……』

 

その後もタマミツネは、地面に頭を垂れたままだった。

 

ミレイ「アンタがもう無意味に誰かを殺さないなら、僕は何もしない。だから顔を上げろ」

 

タマミツネ『……本当かの? 妾を木っ端微塵にせぬ? 消し飛ばさぬ?』

 

ミレイ「しないから。そんな物騒なこと、僕がするように見える?」

 

トール『さっきの波動砲は何だったんだよ?』

 

ミレイ「ん〜……分かんないニャ」

 

トール『今さらアイルーぶっても全然可愛くねえ』

 

ミレイ「やっぱり?」

 

トール『当たり前だろ』

 

ミレイとトールがいつもの調子で会話をしていると、タマミツネが顔を上げて口を開いた。

 

タマミツネ『ミレイと申したかの。妾から一つお願いがある』

 

ミレイ「お願い?」

 

タマミツネ『そなたらと、行動を共にさせてはくれぬか?』

 

ミレイ「……は?」

 

トール『ふざけんな! お前なんかと一緒にいられるかよ! 親父の仇なんだぞ!?』

 

怒気を含んだ声に、タマミツネは冷静に返す。

 

タマミツネ『お主に話しておらぬ。これはミレイとの対話じゃ。邪魔するでない』

 

トール『なっ!? てめぇ何様のつもりだコラ!!あんま調子こいてると……ぶっ飛ばすぞ!』

 

タマミツネ『あの時、泡に足をすくわれて吹っ飛ばされそうになったのは誰じゃったかのう?』

 

トール『あれは油断しただけだ! 今度こそ爪で八つ裂きにしてやる!』

 

タマミツネ『ふん、まだ実力の差も分からぬとは。愚かな……』

 

二頭の激しい口論の最中、ミレイは空中から太古の剣を出現させた。剣の形は大砲へと変形し、淡い光が充填されていく。

 

ミレイ「ねえ、君たち。ちょっとこの“試し打ち”してみたいんだけど、そこにいてくれる?」

 

ピタリ、と二頭は黙り込んだ。

 

静かになったのを確認し、ミレイは再びタマミツネに問いかける。

 

ミレイ「で、もう一度聞くけど。どうして僕達と行動を共にしたいんだ? 君だけでどこへでも行けるだろう」

 

タマミツネ『妾は生まれ落ちてより、ずっと独りで生きてきた。ハンターも他のモンスターも倒し、無敗を貫いてきた。じゃが……』

 

そこまで語ると、タマミツネはミレイを指さした。

 

タマミツネ『妾の実力を凌駕する者が現れた。それがそなただ、ミレイ!』

 

ミレイ「うん、まあ、それは分かる」

 

タマミツネ『そして妾は……そなたに一目惚れしたのじゃ!!』

 

ミレイ「……は?」

 

トール『はあ!?』

 

ミレイとトール、声を揃えて素っ頓狂な声をあげた。

 

ミレイ「え、ちょ、待て待て! なんでそうなる!?」

 

トール『そ、そうだ! いきなり何を言い出してんだ!?』

 

タマミツネはキラキラとした目で語り始めた。

 

タマミツネ『勇気、冷静さ、そして力――どれを取っても、妾が見てきた中で最も美しい。その眼差し……惚れぬ方が無理じゃ! 妾は命をもって償う覚悟じゃ。力を正しきために使いたい。じゃから――番になってくれぬか!? 今からでも間に合う! 頼む、聞き届けてくれ!!』

 

トール『勝手なことばかり言いやがって……ミレイ、こんな奴ほっとこうぜ!!』

 

静かに考えるミレイ。そして――

 

ミレイ「……本当に償うつもりがあるんだな? 僕達と来る覚悟も」

 

タマミツネ『ああ……妾はそなたのためなら、何でもする!』

 

ミレイ「ふーん、何でも、ね?」

 

タマミツネ『本当じゃ! 妾の言葉に偽りはない』

 

ミレイ「……じゃあ仰向けになって」

 

タマミツネ『!?ま、まさかこんな公衆の面前で!? 構わぬぞ、そなたの命令とあらば!!』

 

言われるがまま仰向けになるタマミツネ。そのまま首元に座り込んだミレイは、太古の剣を鞭状に変形。先端をトールの前脚ほどの拳大に丸めた。

 

ミレイ「じゃあ、取り敢えず――100回ぶん殴らせろ、この変態!!!」

 

「バギィィィィン!!!」

 

鉄拳――いや鉄鞭ラッシュが炸裂する。

 

タマミツネ『ぎにゃああああああ!!!』

 

トール『……当然の報いだな。ざまぁみろ』

 

鞭の連撃が響く渓谷に、誰も近づく者はいなかった――

 

〜10分後〜

 

ミレイ「ハァ……ハァ……」

 

トール『お疲れさん、兄弟』

 

地面にはボロ雑巾のように横たわるタマミツネの姿。

 

タマミツネ『アヘ、カ……』ピク、ピク

 

ミレイ「少し休む……今日はもう疲れた」

 

トール『アイツのことは俺が見ててやる。お前は宿で休め。ちょうどアクセルも来たしな』

 

村の奥から、駆け足でアクセルが近づいてきた。

 

アクセル「兄貴! 大丈夫でしたかニャ! ……って、あれ? タマミツネが倒れてるのは何でニャ?」

 

ミレイ「気にするな。暗くなる前だけど、先に休ませてもらう。何かあったら起こして」

 

アクセル「分かったニャ。宿屋はこっちニャ、ゆっくり休んでくださいニャ」

 

アイルー村・宿屋

 

ふかふかの布団に身を預け、ミレイは深いため息をついた。

 

ミレイ(この世界に来てから数日。ろくなことがなかった。アクセルとトールは良い仲間として救いだけど……あのタマミツネ、あいつの性格どうなってんだ? ただの変態? それとも――)

 

ミレイ「……っあー! もう今日は考えん! 寝る!!」

 

そしてそのまま、ミレイは眠りに落ちた。

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