渓流のせせらぎを聞きながら、ミレイたちは下流へ向かって歩を進めていた。
道中には小型モンスターや大型モンスターの姿もあったが――
ジャギィ『なんだてめぇら!ここは俺らのナワバリだ、勝手に入って...』
トール『邪魔。』
バリッ――!
一閃の雷光が走り、ジャギィ達はものの数秒で蒸発した。
ジャギィ達『ぐぎゃああ!?』
続いて現れたのは群れの主、ドスジャギィ。
ドスジャギィ『子分が世話になったな〜? 落とし前はつけさせて...』
アクア『退くのじゃ。』
ズドン!
口元に水の玉を蓄えたかと思えば、次の瞬間にはドスジャギィが吹っ飛んでいた。
ドスジャギィ『ぐぼああ!?』
さらに現れたのは青い毛並みを持つアオアシラ。
アオアシラ『ハチミツ寄こせ!!』
トール『電撃でも食ってろ。』
アオアシラ『しびべべべ!?』
ことごとく、敵は現れては散っていく。
トールとアクアの強さの前には、すべてが無力だった。
その後方――のんびりと歩くミレイとアクセル。
ミレイ「ん〜、モンスターいないなあ。」
アクセル「え?モンスターならさっき……」
ミレイ「シラナアイ、ボクミテナイ。」
アクセル「ニャ〜・・・」
まるで何も起きなかったかのような顔で歩いていた。
それから15分が経過した頃。
密林を抜けた先、開けた場所に出ると、木造の建物と湯煙の立ち昇る村が見えてきた。
ミレイ「よっしゃあ! 村が見えたぞ、やっと人に会える!」
アクセル「ここまで長かったニャ〜。」
喜びを噛みしめる二匹。だが、そのとき背後からトールの声が響く。
トール『じゃあ、俺は住処に戻ってるぜ。』
ミレイ「住処? ああ、確か出身地がこの村の近くだって言ってたっけ。」
トール『ああ。人間に姿を見られると厄介だからな。明日また会おうぜ。』
そう言って、森の奥へと戻ろうとするトール。
ミレイ「アクアはどうする?」
その問いに、アクアは一瞬だけ考え込んだが、すぐに答えを出した。
アクア「それなら妾もトールと一緒に行こうかの。」
トール『何でてめぇと一緒に行かなきゃならねえんだ!?』
アクア「なんじゃ、嫌か?」
トール『当たり前だ! 悪いな兄弟、先に行かせてもらう。朝には戻る!』
バチバチと帯電させながらも、足早にその場から立ち去っていくトール。
アクア「全く冷たい奴じゃのう、レディを置いていくとは……オスとしてどうかと思うが、主や?」
ミレイ「僕に聞くなよ……」
アクア「ふふ、冗談じゃ。妾も人目を避けて休むとしよう。主らも、ゆっくり休むがよいぞ。」
ミレイ「その“疲れ”の原因のひとつが君なんだけどな。」
アクア「おっと、急用を思い出したのじゃ! ではまた明日!」
そう言い残し、今度はアクアが音もなく去っていった。
ミレイ「逃げたな……さてと、僕たちも行こうか。」
アクセル「はいですニャ!」
そして、二匹は村の入口へと足を踏み入れた。
〜ユクモ村〜
温泉の湯煙が立ち上り、穏やかな雰囲気が広がる山間の村――ユクモ。
ミレイ「これでようやく、まともに休めそうだな。」
アクセル「ですニャ……ニャ!? 忘れてた事があるニャ!」
ミレイ「ん、どうした急に。」
アクセル「僕、メラルーだから……村に入れないんじゃないかニャ?」
ミレイ「心配するな。お前が“いいやつ”だって、僕が保証する。」
アクセル「で、でも……」
ミレイ「任せとけって。」
そんなやり取りをしていると、村の出入口に立っていた女性ハンターが声をかけてきた。
女ハンター「あら、アイルーとメラルーだけ? 珍しい組み合わせね。どうしたの?」
ミレイ「はい、実は今日一泊できる場所を探してまして。村で泊まれるところ、教えてもらえませんか?」
女ハンター「それなら村長に聞いてみるといいわよ。中央の広場にいらっしゃるはずよ。」
ミレイ「ありがとうございます。行くぞ、アクセル。」
アクセル「分かりましたニャ!」
二匹が村の中心へと歩いていくと、背後で女ハンターが呟く。
女ハンター「……ちょっと待って。あんなに流暢に喋るアイルー、いたっけ?」
中央の広場、温泉の湯気がかかる木造の庁舎前。
そこに、白髪で背筋の伸びた竜人族の村長が座っていた。
ミレイ「すみませーん! 泊まれる場所を探してるんですけど……」
村長「おお、これは珍しい。アイルーとメラルーが連れ立って旅とはな。泊まるのなら、あちらの温泉宿を使いなさい。」
ミレイ「ありがとうございます!」
だが、そのとき。
アクセル「う……うう……兄貴のお陰ニャあああ!!」
突然、アクセルが声を上げて泣き始めた。
ミレイ「おい、こんな所で泣くなよ……」
村長「ふむ、“兄貴のお陰”……ということは、何か大変なことが?」
ミレイ「あ、いや、それは――」
村長「大丈夫。私に話してごらんなさい。誰にも言わぬ、約束しよう」
ミレイ(……この人、見た目は厳ついけど、悪い人には思えないな。よし、話すか)
ミレイは、ミラルーツのことや太古の剣・古代の盾のことは伏せつつも、トールやアクアとの出会い、アクセルの過去、旅の経緯について包み隠さず話した。
村長は一通り聞き終えた後、深く頷いた。
村長「……それが事実なら、村として調査する必要がある。ハンターギルドとも連携しよう」
ミレイ「ほんとに……?」
村長「ええ。君たちはよくやった。今は体を休めるといい」
ミレイ「……ありがとうございます」
ミレイは振り返り、まだ泣き腫らしているアクセルに声をかける。
ミレイ「……いつまで泣いてんだよ。さっさと行くぞ、宿が待ってる」
アクセル「……今行くニャ!」
目元を拭い、アクセルはミレイの後ろを追いかけていった。
〜渓流〘洞窟〙、泡と雷とユクモ騒動〜
トール『ここに戻るのは……暫くぶりだな。』
夕暮れが差し込む渓流の洞窟。トールはゆっくりと自分の住処へ戻ってきた。久々に静かな時間を過ごせるかと思ったその矢先――
アクア『妾からすれば久方ぶりじゃがの。』
トール『な!? どうやってここに来た!?』
アクア『どうも何も、一度来た場所だからに決まっておろうが。忘れたかの?』
トール『てめぇなんかと一緒にいられるか! 無断で入りやがって、どういうつもりだ!』
アクア『妾も休みたくての。少し厄介になるぞ?』
トール『くっ! だが、俺の近くに来るな、絶対にだ!』
プイッとそっぽを向くと、トールは洞窟の奥へ進んで行ってしまった。アクアは尻尾を揺らしながら、にやりと笑う。
アクア(頑固な奴じゃの……ふふ、そうじゃ。くふふふ……)
一頭のタマミツネ、なにやら悪戯を思い付いたようだった。
翌朝 〜ユクモ村・村中〜
ミレイ「やっぱりユクモには色んな物が揃ってるなぁ。」
アクセル「はいニャ! 調理器具も新しくなって、すっごく便利ニャ!」
ミレイ「最初お金なくて焦ったけど、イビルジョーの素材剥ぎ取っといて正解だったな。」
アクセル「でもあの時の店主さんの顔、忘れられないニャ~。」
二匹が笑い合っていると、村の中央で人だかりができていた。何か事件の気配を感じ、ミレイはそっと近づく。
ミレイ「すいません、何があったんですか?」
村人「渓流に大型モンスターが現れてな。ハンターたちが狩りに向かったが、みんな返り討ちに遭ってるんだ。」
ミレイ「……大型?」
村人「ジンオウガと……もう一頭はタマミツネだって話だ。」
その一言で、ミレイの顔が凍りついた。
アクセル「に、兄貴……」
ミレイ「……何やってんだアイツら……」
二匹は渓流へ向かって全力で走り出した。
渓流・騒動発生現場
トール『ゴラァ! 待ちやがれ!!』
アクア『ほれほれ、どうしたのじゃ? 妾はここじゃぞ?』
朝日が差し込む中、怒りの電気を纏うトールが泡まみれでアクアを追い回していた。
トール『俺の顔に泡を塗りたくりやがって……! ぶっ飛ばしてやるからな!!』
アクア『朝の目覚めに顔を綺麗にしてやったというのに、無粋な奴じゃなぁ。妾の“泡サービス”、ありがたく思わんか?』
そこに運悪く居合わせた2人のハンターがいた。
男ハンター「なんだあれ!? モンスターが……こっちに来る!?」
女ハンター「ひぃっ……ぶ、ぶつかる……!!」
その時、空気を切り裂く声が響いた。
ミレイ「おい、何やってんだお前ら。」
アクア『おお、主様。よう休めたかの?』
トール『兄弟! 丁度いいところに来た。コイツを捕まえてくれ!』
ミレイの目が細まり、太古の剣が手元に現れる。形状は即座に大砲に変形し、二頭に向けられた。
ミレイ「……な・に・を、やってるのかって聞いてんだよ。」
トール・アクア『!?!?』
即座に動きが止まる二頭。
ミレイ「トール、昨日自分が何て言ったか覚えてるか?」
トール『人目につかないようにするって言いました……。』
ミレイ「アクア、あんたは賢そうだと思ってたけど、これは酷いぞ。」
アクア『す、すまぬ主や……。つい、出来心でのぅ……。』
ミレイ「つい、か……。顔、貸せ。」
トール・アクア『……え?』
ミレイ「ふざけるのも大概にしろーー!!」
パンッ!バンッ!ビシィッ!!
ミレイの太古の剣【鞭型】による百裂張り手が開始された。
トール・アクア『ギャアアアアア!!』
その光景に、震えるハンターたち。
男ハンター「た、助かったのか……?」
女ハンター「け、けど何か……怖かった……」
ユクモ村・裏庭
騒動から数十分後、ミレイは村長の元へと再度足を運び、深く頭を下げた。
ミレイ「この度は、僕の仲間がご迷惑を……。賠償として、この鱗を……」
後ろにはボロボロになったジンオウガとタマミツネが、正座して項垂れている。
村長「いやいや、お気持ちだけで十分です。村に被害はありませんでしたから。」
ミレイ「はあ……でもあいつらのせいで信憑性がガタ落ちです……」
ミレイが鋭く振り返る。
ミレイ「おら。謝罪の一言くらい、したらどうだ。あ”あ”?」
トール『す、すみませんでしたぁ!』
アクア『申し訳なかったのじゃああ!』
村長は静かに頷いた。
村長「珍しい組み合わせですね……アイルー、メラルー、そして大型モンスターが二頭。旅の道中、どうかお気をつけて。」
ミレイ「ありがとうございます。僕たちは、次にバルパレを目指します。」
アクセル「本当に、ありがとうございましたニャ!」
そして、四匹はユクモ村を後にした。