〜遺跡平原〜
遺跡平原の陽光は柔らかく、空には一筋の雲もなかった。静かに風が吹き抜け、草花が揺れる。そんな中、いつもの調子でアクセルの声が響いた。
アクセル「今日は良い天気だニャ〜。」
ミレイ「炭酸飲みてえ。」
トール『なんだそれ。』
ミレイは空を見上げながら、懐かしい味を思い出すように目を細めた。
ミレイ「炭酸飲料水って言ってな、口に含むとシュワシュワ弾けて美味しいんだよ。」
アクセル「聞いたことないニャ。それも前の世界の飲み物なのかニャ?」
ミレイは「そうだよ。」と頷いた。すると、隣にいたアクアが小さく問いかける。
アクア『話を聞くに……主はこの世界の者ではないのか?』
ミレイは足を止め、トールの背中から静かに降りた。
ミレイ「……よし、この際だから改めて話そうか。実は、今のミレイって名前は仮のもので、本当の名前は『暁(あかつき)』って言うんだ。」
アクセル「人助けの話ニャ!? 本当にしてたのかニャ?」
トール『へぇー、人助けねぇ。……なんか今の印象とはちょっと違うけどな。』
アクア『別の世界……そこはどんな世界だったのじゃ?』
ミレイは少し遠くの空を見つめながら語り出す。
ミレイ「地球って星だよ。人間が中心で、動物もいるけど、喋る猫や巨大なモンスターなんて存在しない世界だった。……大昔に、隕石が落ちて恐竜が絶滅したって話はあるけどね。」
その言葉に、トールは顔をしかめた。
トール『うげぇ……人間だらけって想像しただけで頭が痛くなるな。』
アクア『ほぉぉ……妾の知らぬ世界があるとはな。主がそこに住んでいたのか……。』
アクセル「ニャニャ! 平和な世界ってすっごく気になるニャ!」
ミレイは、ふと静かに目を伏せた。
ミレイ(……平和、か。僕にはそんなもの……)
―回想―
〜とある学校・教室〜
教室の窓際、眠るフリをしながら外を見ていた。
誰にも話しかけられず、誰にも興味を持たれず、ただ時間だけが過ぎていく。
それが、かつての「暁」の日常だった。
同級生「暁、暇ならバスケしようぜ!」
暁「……今はそういう気分じゃないから、他をあたってくれないか。」
同級生(男)「いやいや、スポーツ得意なんだろ? ちょっとでいいからさ、体育館行こうぜ?」
――仕方ない。たまには人と動くのも悪くないか。
暁「……分かったよ。けど、あんまり期待すんなよ。」
そのまま体育館に向かった彼らの前に、現れたのは年上の生徒たちだった。
先輩学生(男)「ここは俺らの貸切だ。帰れ。」
同級生(男)「貸切って……皆で使う場所じゃないのか?」
突然、先輩が蹴りを放つ。倒れ込む同級生。
その瞬間、暁の中で何かが切れた。
――バッ!
先輩学生(男)「ぐっ……!?」
躊躇なく突き飛ばしたそのとき、はっきりと理解した。
暁(……やっぱり。
どこにいたって、力を振るう奴はいる。
だけど、それを止めなきゃいけない時もあるんだ。)
〜遺跡平原〜
アクア『……主や!』
現実に引き戻され、ミレイは目を瞬かせる。
ミレイ「!?」
アクア『どうしたのじゃ、深刻な顔をしておったぞ。』
ミレイ「……昔のことを思い出してただけ。」
アクア『人間だった時のことかの?』
ミレイ「……ああ。」
耳をぺたりと垂らし、視線を落とすミレイ。
それを見て、アクアは首をかしげる。
アクア『……主の耳が垂れておるぞ?』
ミレイ「……そっか、今の僕はアイルーなんだな。」
ふっと笑って耳を立て直す。
ミレイ「よし、この話はおしまい! 次の目的地に向かうぞ!」
アクセル「了解ですニャ!」
トール『おう! なんか元気戻ったな、兄弟。』
アクア『主が元気なら妾も満足じゃ。』
〜遺跡平原・峠越え〜
遺跡平原の空は晴れ渡り、吹き抜ける風が石畳の古道をなぞるように通り過ぎていた。
その後も道を進む中、アクセルがふと空を見上げた。
アクセル「……あれ、なんですかニャ?」
ミレイ「ん?」
アクセル「赤いお星様みたいなのが流れているのニャ。」
ミレイ「……昼間に星?」
ミレイも空を見上げた瞬間、顔色が変わった。
ミレイ「違う! あれは星じゃない――バルファルクだ!」
突如として空から流星のように舞い降りる銀翼の古龍。轟音を伴って急降下し、まるで狙いすましたように彼らの目の前に着地した。
バルファルク『ヒャッハー!! こんなところで猫どもを見つけるとはな、幸先いいぜ!』
咆哮と共に地が震える。
ミレイ「おい危ねぇだろ、何の用で来た!」
バルファルク『猫が二匹……つまみ食いには丁度いいなァ?』
アクセル「にゃああ!? 僕たちを食べる気ニャ!?」
トール『ふざけんなよ!』
アクア『妾も許さぬ。主様に手を出すことは妾が赦さぬ!』
バルファルク『モンスターが猫を庇う?聞いたことねえなぁ。いいから退けよ、食うだけだからよ。』
ジリジリと距離を詰めてくるバルファルク。
トール『やらせるかよ!』
トールが超帯電状態となり、雷を放つ。しかし――
バルファルク『……なんだ、今の?』
ピクリとも動かない。
トール『なっ……!?』
バルファルク『お返しだァ!』
翼から噴出される紅蓮の龍気。一直線にトールへと放たれる。
ミレイ「バカかあいつ! また真っ先に突っ込みやがって!」
ミレイはアクアの尾に掴まり叫ぶ。
ミレイ「アクア!トールのところまで飛ばしてくれ! アクセルのことは任せた!」
アクア『主様、分かったのじゃ!』
アクアは尾を振り払うようにミレイを前方へと投げ飛ばした。
バルファルク『受け取れぇ!』
その瞬間、ミレイは空中で太古の剣を大砲の形に変え、砲撃を受け止める。巨大な衝撃波が発生し、トールは仰け反る。
トール『うおおっ!?』
アクア「童、こちらに!」
アクセル「はいニャ!」
ミレイは耐えながら叫んだ。
ミレイ「――ぐっ……ッ!!」
相殺。だが手応えはあった。
バルファルク『何だてめぇ!? 小さな猫が、俺様の攻撃を防ぎやがった!?』
ミレイ「こっちは大砲でぶっ放しただけだ。黙ってろ。」
バルファルク『俺様が負けるなんてありえねえ!』
バルファルクは空中へと舞い上がった。トールは呆然とそれを見上げる。
トール『くそ……!』
ミレイ「……ったく、仕方ないな。」
ミレイは剣と盾を重ねて構える。
(ミラルーツが言っていた……この剣と盾は対の武器……なら、俺が今から念じる力も――)
剣と盾が眩い光を放ち、ミレイの体を包み込む。
アクア『主様!?』
トール『な、なんだ!?』
そして次の瞬間――ミレイの背に、白銀の翼が現れた。
アクセル「ニャ!? 翼が生えたニャ!」
バルファルク『なっ……!? てめぇ、本当に猫かよ!?』
ミレイは構えた。
ミレイ「俺は堕天使だ!!」
バルファルク『何意味分かんねえ事、言ってんじゃねえ!!』
バルファルクが再び龍気の砲弾を放つ。
ミレイは翼を一閃させる。風が巻き起こり――巨大な竜巻が発生した。
ミレイ「――って、あれ!?」
バルファルク『ぐ、ぐあああああ!?』
そのまま竜巻に巻き込まれ、吹き飛ばされていくバルファルク。数秒後、竜巻は静かに収まり、地に叩きつけられた古龍が倒れていた。
ミレイ「この技、ちょっとヤバいかも……あっはっは!」
トール『……笑えねぇよ。』
アクセル「兄貴、やっぱり凄いニャ!」
アクア「……そなたはそれでよいのか。」
バルファルクがのろのろと立ち上がる。
バルファルク『何故だ……何故、俺様が……!?』
ミレイはため息をついた。
ミレイ「おいバルファルク。もうやめねえか?」
バルファルク『……え、てめぇ、俺の言葉が分かるのか!?』
ミレイ「さっきから話してるけど。」
その瞬間――バルファルクが首を垂れる。
バルファルク『すんませんしたあああああああ!!!』
ミレイ「ええええ!?」
バルファルク『まさか予言の者とは知らず……無礼を働きましたぁああ!』
ミレイ「ちょ、待って! 予言って何!?」
バルファルク『【この世が破滅に迫る時、異世界の者が現れ、太古の剣と盾を持って世界を救う】って古龍のじいさんが言ってたっす。たぶん、あんたです。』
ミレイ「いやいや、知らんし!」
バルファルク『……じゃ、報告してきまーす!』
ミレイ「待てええええ!」
……だが、既に遅かった。バルファルクは空へと飛び去っていった。
ミレイ「アイルーの俺に……どうしろってんだよーーーー!!!!」
空に叫ぶミレイの声が、遺跡平原に響き渡った。