長我部刑部の日常   作:カレータルト

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ちなみに一人称が小説調なのとただの独り言がごちゃごちゃになるのは仕様と考えてもらって構わない、常時小説調で物思いにふける器用さは私にはないのだ。


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私の名前は長我部刑部、花の女子高生。

 

好きなものは一人旅、一人飯、一人遊び

嫌いなものは人間、人助け、人付き合い

 

ちなみにこの自己紹介は私の一人登校中の暇つぶしである。

私は人と話をする事は嫌いだが、こうして心中思っていることを文章形式で認めることが趣味である。

学校生活という煩わしいにも程がある苛立ちしか産まない日常の中での唯一の癒しポイントであり、この時間を邪魔されることは万死に値するため

 

 

「長我部さん!おはよう!」

 

 

万死に、値するため

 

 

「長我部さんおはよー」

「おさっち、おいっす」

「今日もいい匂い~」

 

 

挨拶が、人の波が、私の心をかき乱す。

興味のまるで湧かない生き物の群れが私に視線を向ける。

私の思考の邪魔をする、私を放っておいてくれない。

 

静まり返った湖畔のような心に、波紋が何度も何度も何度も広がって。

私は後ろから声を掛けたり、抱き着いてくる人間たちに振り返って微笑んだ。

 

 

「おはよう、みんな」

 

 

極めて、嫋やかに、穏やかに。

完璧な、大人しい優等生の皮を被って。

出来る限りお淑やかで、廻りのことを尊重出来て、頼りになる同級生の皮を被って。

やりたくもない、学生の姿になった。

 

 

 

とても、疲れる

 

 

 

 

 

「長我部さん、昨日のテレビ見た?」

「うん、あの芸人のさ……」

 

 

したいしたくないに関わらず、あらゆる生物は群れなければ生きていけない。

そして同時に、群れから少しでも違う行動を取るものを排斥する傾向にある。

意識がバラバラである群れは全滅の危険性が極めて高くなるからだ。

群体は統一されているほど強く、生き残る確率が上がる。

 

 

「長我部さん、あいつどう思う?」

「ちょっと最近調子乗ってるよね」

「だよね~」

 

 

生存こそが自然の絶対正義、あらゆる要素は此処へと繋がる。

そして人間というのは群れるものだ、群体こそが人間のあるべき姿だ。

群れることで初めて生存できる人間という種は、従って群れを乱す存在を極めて強く嫌う。

 

 

「長我部さん、あのさ……」

「その髪型めっちゃイケてるじゃん!」

「あは、ありがと~♡」

 

 

嫌悪感を社会性で覆い隠せるようになった人間たちの社会ならともかく、画一化こそが正義である学校という環境においてその傾向は最大限に高まる。

群れから逸れたものは淘汰される、正義の御旗のもとに見境なく一方的に叩かれる。

 

群れに入ることで発生する問題と、群れに入れないことで発生する問題は後者の方が断然大きい。

なので大変煩わしいことだが、出来る限りやりたくはないが。

 

 

「長我部さん」

「うん、そうだね。私もそう思うよ」

 

 

簡単なことだ。

いつも微笑んで、相手のことを肯定してあげて、言いたいことを理解してあげればいい。

それ以外のことをしなければ、群れの中でそこそこの地位に居られる。

 

私はこいつらに興味がない。

私は、私を囲むこいつらに一切の興味がない。

その表情、その感情、その心情、その矜持、一切合切がどうでもいい。

だから平等に優しくできる、無限に浅い付き合いことが全てだ。

私のことを都合のいい存在だと思えばいい、薄っぺらい存在だと思うといい。

 

何を思っても良いから、私に必要以上に近づくな。

 

 

「「「長我部さん」」」

 

 

人の波が、押し寄せる。

見上げれば人の顔が、顔が、顔が、笑っている。

中身のない会話を繰り返すだけの人間が、私を見ている。

 

呼吸しているはずなのに、どうしても息苦しくて。

 

 

 

 

「どけよ、オウ」

 

 

私の前に聳えていた人の波が、一気に割れた。

燻っていた景色を一瞬で振り払うのはセミロングでぼさっとした黒髪に、着崩した制服。

青いメッシュの入った髪に、射殺すような鋭い視線。

 

 

「刑部ゥ」

「……来木(くるき)さん」

「お前、相変わらず人気者なのな、ウケる」

 

 

ぎゃは

 

哄笑するかのような笑い声に、その隣に居たクラスメートの視線が険しくなるがきっと何も言えないだろう。

パッと見で不良の彼女は、学外で数々の暴行事件を起こす本物の不良だった。

隣町を含めて数多くの舎弟を従え、警察ともやりあったと噂されるアウトロー。

それがこちらを見下ろしてくるとなれば、こちらも少し怯えた顔をせざるを得ない。

 

 

「…………」

「オウ、刑部」

「なんでしょうか」

「放課後面貸せな」

 

 

じゃあな、と手のひらを振って。

彼女はさっさと立ち去ってしまえば、本当にそれだけのために来たらしい。

後にはシンと黙った一同が居るだけで。

あれほど騒いでいたというのに、たった一言二言で水を打ったように静まり返ってしまった。

 

 

「マジで最悪」「さいてー」「大丈夫だった?」「タイホされないの?」

 

 

口から口に控えめな文句を言いつつも、時計を見れば授業前。

私の傍に居た集団は解散し、授業前の静けさが場を支配する。

窓の外は青空が広がっていて、誰もいない校庭と、その外に広がる町並みは人通りもなく。

 

ひゅぅ、と息を吸えば。

窓から入ってくる新鮮な酸素が肺に広がる、人ごみフィルターを通していない美しい空気。

 

人は煩わしい、人は見苦しい、教室の中は人がいっぱいだ。

なんだか無性に、学校をサボりたくなってきた。

 

 

 

 

 

 

「先生、ちょっと体調がすぐれません」

「そうか、保健室へ行くように」

「はぁい」

 

なので、サボった

 

保健室に用意してあった私服へと着替えて、学校の塀から抜け出して外へ。

私は体が弱いということにしてあるし、小細工を加えて書類を用意してもある。

保険医とは交渉済みなので私を留める者は誰もいない。

 

自由だ、完全に自由だ。

 

昨日の夜に面倒なことがあった分、今日は気ままに一人で散策だ。

駅近くは警察が目を光らせているので多少気を使うが、郊外であれば遭遇も少ない。

走る足は軽く、口笛でも吹きたいほどに気分は浮ついて。

 

 

「あ」

「あ」

 

「あっ」

 

 

昨日の夜の二人組が、こちらを見るのが見えた。

この時点で高調に急ブレーキが掛かるどころかすでに下がり始めた私の気分は二人がこちらへ近づいてきたことで一気に急下降を迎える。

 

どうしよう逃げたい

 

でも逃げたら多分、いや間違いなく追い掛けられるだろうし。

いつまで続くかわからない不毛な追い掛け合いはしたくないし。

そもそも私の所在が割れてたら学校まで来られるかもしれないし。

そしたらサボるどころか学外に抜け出していることも知れ渡るし。

 

どうしよう、凄い逃げたいけど

逃げられない

絶対逃げられない

 

チラッと、最終確認で二人の表情を見てみる。

ここで二人の表情が何らかの疑いを持った顔ならばワンチャンある、つまりは自分に用がないけれど顔を知っている仲なので声を掛けましたという確率が高い。

逆に笑顔だった場合……明らかに、自分に用がある、逃げられない。

私は二人が諦めないかと一縷の望みをかけて、視線を向けた。

 

 

「長我部さんですよね!」

 

 

笑顔だった、それはもう満面の笑顔だった。

逃げることなんて考えもしていないような、どことなく安堵した笑顔だった。

 

 

「………うわぁ」

 

 

か細い声、関わりたくねぇとの表情をかろうじて抑えることが精いっぱい。

明らかな厄日だ、それもかなり深刻な仏滅、その類である。

「授業を抜け出した報い」、ちらと浮かんだ考えを追い払うようにして、私はこれからどう切り抜けるかに思考を移していく。

 

………

 

どうしようもない、積みである。

そもそも私は通りすがりの一般人Aであり、あの夜はさっさと帰っていいと言われた身。

怪異だか何だかわからないが、こうして再びあの二人に声を掛けられる理由はさっぱりと思いつかないわけで。

即ち、私からできることはない、何もない、一切ないということだった。

 

嫌になる

 

 

 

 

ひとまず、近くにある喫茶『ライラック』で腰を下ろそうと提案したのは私だ。

それは民家の中にポツンと存在する店であり、相当気を付けていても住居と区別がつかない外見をしている。

まるで誰かにその存在が知られなければ死んでしまうような、何かの間違いでなければふらっと入ろうとする気すら起きない店は、外見こそそんな調子だが中身は落ち着いた雰囲気の、至って普通の喫茶店であった。

 

「とりあえず自己紹介しますね、俺は戸塚司(とつかつかさ)って言います」

「よろしくね」

 

 

学生服を着た男子が何か挨拶をしているが、その中身については一切興味がないのでこの店の紹介を続ける。

座席はボックスが3、テーブルが1、カウンターが4、そのうち私がいつも座るのは一番奥のボックスだが現在はテーブルを使用している。

今この状況で落ち着く気などなく、話が終わり次第解散する予定であるからだ。

 

 

「そしてこっちが」

南海陽(みなみ ひなた)、よろしく」

「よろしくね」

 

 

パーカーを着た女子の方が何かぶっきらぼうな挨拶をしてくるが、その中身についてはもうこれ以上ないぐらいどうでもいいので続ける。

メニューについては主にコーヒーだが私は苦くて飲めないので紅茶を頼む。

マスターはその度に何やら圧を掛けてくるような気がするが、何を飲むかは私が決める。

喫茶店で必ずコーヒーを飲まなければいけないという法律はないのだ、メニューから紅茶が下げられようと私はコーヒーを頼む気はない。

 

 

「それで、私に何の用?」

 

 

使うのはなるべく、出来るだけ、可能な限り避けたいことだった。

マスターは不愛想で、目立たない場所にあるため利用者も少なく、席はゆったりとしている。

利益に頓着していないのか席料もないこの店は、私のような孤独を愛する者にとってはいわば”聖域”であり、招かれざる客を通していい場所ではないからだ。

可能な限り知っている人は少ない方がいい、限られた人間でこの空間を独占したい、そう思うのは必然だろう。

店の利益なんて知ったことではない……とは言わないけれど。どうにもこの店はマスターの趣味の様子である、となれば余計に気を遣う心配がない。

 

私が学校をさぼってる状況でなければ、あのまま話を聞いてさっさと逃げてきたのだが。

見るからに学生の3人がまっ昼間からなにか怪しげな話をしているとなれば、どんな噂が立つか分かったものではないのだ。

近くに隠れられる場所がここしかなかったことを恨むし、この事態を想定していなかった自分を恨む。

いや、そもそもこいつらが私を探していなければ問題にはならなかったのではないか。

 

 

「現地の人と協力するのも大事なことですよって、諸角さんが言ってたから」

「私たち、この場所に来て一週間しか経ってないの。あなたぐらいしか知ってる人いないし」

 

 

訂正

全部あの爽やかイケメンが悪い

 

 

「私は別に、協力できることないと思うけれど」

 

 

ひっそりと、距離を置く。

これ以上近寄ってくれるなと、直接ではなく。

けれどもそこで寄って来たのは意外にも男の方だった。

 

 

「そうだとしても。長我部さんも他人事じゃないんだ」

「そう、怪異って関わった人から優先的に狙うのよ。つまり……」

「現場を見てしまった私の前にもやってくる可能性がある、ってこと?」

「理解は遅くないみたいね、諸角さんもだからあんたに色々話したんだろうし」

 

 

ふふんと、少女の方は口元から雨を取り出してニヒルに笑みを浮かべる。

何が楽しいかはわからないが、ともかく私はあの殺人現場を見たことでこの件の関係者になってしまったということらしい。

 

 

「餌になりたくなければね、私たちを頼った方が良いってこと」

「南海、そういうことはないだろ」

「しょうがないじゃない、事実なんだから」

「確かにそうだけど、長我部さんを怖がらせる必要はないだろ」

「なに、惚れちゃった? あ、可愛いもんね長我部さん」

「惚れてないから!」

 

目の前で痴話喧嘩をされるモブの気持ちを存分に味わっている。

惜しむらくはこの経験が1銭にも替えられないことだ、人の惚気を見て楽しい奴はいない。

 

……というかさらっとこいつ私のことをダシに使いやがったな。

 

 

「ねぇ、ひとつ聞いていい?」

「なんです?」「なに?」

「貴方たち、そう言うけどどれぐらい強いの?」

 

一瞬の沈黙の後、二人は顔を合わせて目を細め、こちらを向く。

 

 

「ひょっして」「何も聞いてないんですか?」

 

 

こんな時ってどう言い表すのが的確か。

そう”ヤブヘビ”だ。

 

 

「えっと、まず最初にですね。俺たちみたいな異能持ちというか怪異に対抗する力を持ってる奴って言うのは国家の承認を受けるんです。受けたい受けたくない関わらず受けないと違法って扱いですね、基本的に俺たちの力は国が把握してるってことです。その後で「国家公務員としての籍を置くか」「完全にフリーの立場になるか」って選択肢があるんですけど」

「国家公務員になれば私たちみたいに高校生をやりつつお給金ももらえるし、その後の就職先も確保できるの。まあ当然ながら何をしていても任務が優先になるからこっちの事情関係なくなるけれど、それにしたって悪くない条件でしょう? 先立つものは必要だしきっちりした身分だって確保できるんだもの、仕事は回されるけどそれって常に強くなれる環境にあるってことだし。だからよっぽどの事情があるか、それとも……あんま考えたくはないけど、よっぽどの変人でない限りこっちの道を取ることになるの、昇給だってあるし」

「ああ、諸角さんに教えてもらったと思うけど俺が四等、南海が準三等なんだ。大抵は七等から始まって貢献度が高かったり、有用な能力を持っていたりすると高い等級になる、四等だってわりとなれるもんじゃない……って言うけど。うん、正直俺は全然足りないと思ってるんだ、正直三等ぐらいまでは努力次第でなれるって言われてるから、それ以上の等級を目指すとなると……いや、まずは準三等、南海に並ぶことが目標なんだ」

「有用な能力を持っていても実力がなければ等級は上がらないのよね、寧ろ実力や実績の方に重きが置かれてるのが今の状況よ、私は……そんな特異な能力を持ってないけど、それでも並の奴には負けないわ」

「あ、俺は体の一部を獣にする能力持ちで南海の方は対怪異の剣術――氷雨一振流を修めてるんだ。この剣術をやってれば怪異と戦えるってわけじゃなくて、あくまで素養があって初めて学ぶことができる奴なんだけどさ。これでも流派の中だと指折りなんだぜ」

「これでもってなによ、これでもって」

「悪い、でも本当に俺、尊敬していて」

「司……」

「南海………」

 

 

嵐のように情報を叩きつけたと思えば二人して見つめ合って。

このような状況小康を固めれば、今の私が二人の物語の中に出てくる小道具、親密度を高める置物としての扱いしかされていなかったことはよくわかるだろう。

 

私が嫌いなこと第一位、「他人のために何かをすること、もしくは他人のために利用されること」

 

誰だってそうだろうに、体面で覆い隠しているだけで。

見ず知らずの他人のために、どうでも良い他人のために、自分を使われたくはないというのは

私は、私の目の前で誰かが利益を獲得するのが我慢ならないのだった。

 

 

「ねぇ、二人とも。私はそろそろ用事があるのだけど、その前に一つだけ」

 

 

それでも私は、煮えくり返る腹を隠して微笑む。

その方がこの場所から早く立ち去れるから、その方が面倒がない。

そして、その方が都合が良いから。

 

 

「私を狙っているかもしれない”怪異”について、どんなことが分かっているのかだけは教えてくださらない?」

 

 

 

 

 

 

 

勿論、私のささやかな願いはあっさりと受理された。

誰だって、自分に好意を持つ相手には好意を返したくなるものなのだ。

それが本当に腹の底から出た好意なのかは、さておくとして。

 

 

 

 

 

 

喫茶店を出て、私はふらふらと郊外に繰り出す。

 

廃病院

 

ビル街

 

小学校

 

住宅街

 

ふらり、ふらりと往く当てもなく、風のように。

人のいない場所を、好んで選びながら。

 

旅は好きだ、一人旅は大好きだ

人が関わらない限り、私は心穏やかでいられる。

 

そうしているうちに陽は落ちて、当たりは薄暗くなり

家に帰って風呂に入り、夕食を食べてからふと気づく

 

 

「あっ」

 

 

そう言えば呼び出されてたんだったと気づいた時には背中に流れるひやりとした感触。

やべえとスマホを覗けば、羅列される数十件の『着信アリ』の通知に眩暈がしたのでベッドに倒れた。

要は現実逃避である、明日の私が何とかする、きっと、なんとかしてくれる。今は勇気がない、気力がない、なんにもない。

偶に何とかならない時もあるけれど、それは今日だって何ともならないので、寝た方が生産的だから。

今もバイブレーションしてるけど知らない、電源オフしてまた明日。

 

 

 

 

また明日。

 

 

 

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