滅竜魔導士とアーサー王伝説   作:ジャガイモ

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人口1,700万の永世中立国。

そこは魔法の世界。

魔法は普通に売り買いされ 人々の生活に根づいていた。

そして、その魔法を駆使して生業とする者たちがいる。

人々は彼らを魔導士と呼んだ。

魔導士たちは さまざまなギルドに属し、依頼に応じて仕事をする。

そのギルド国内に多数。

そして、とある街にとある魔導士ギルドがある。

かつて、いや、後々に至るまで数々の伝説を生み出したギルド。

その名は……フェアリーテイル。



の、はずだった。


序章
ナツ・ドラグニルという少年


 気が付いた時にはもう遅い。

 そんな言葉を身に沁みて理解できたのは何歳の頃だっただろうか。下を見れば草木の生い茂る地面が広がり、横を見渡せば見た事もない雑木林の中にいる。

 俺は一介の男子学生だったはずだ。それもビルやマンションが立ち並ぶ都心部に住んでいた記憶がある。そんな人間が、このような場所に見覚えがあるはずもない。当然、帰り道なんてものは知らない。一体どうしてこうなったのか、自問自答を繰り返すも答えは出なかった。

 

「おいナツ、何をボーっとしている」

 

 俺が呆然と突っ立っていると、上から声が聞こえた。

 そう上からである。

 見上げてみれば、これまた見覚えのない赤い()が、俺をアリンコでも観察するように見下ろしていた。

 

「————————は?」

 

 喉から迫り上がってきた言葉なんてそんなものだ。存外、人間は予想もつかない出来事に遭遇した時、このように呆けた声を漏らすらしい。

 俺を見下ろしている赤い竜も、とうとう様子がおかしな事に気が付いたのか、目をぎょろりと回した。

 

「頭でも打っておかしくなったか?」

 

 そう言われてみれば…………さっき頭を打った記憶がある。どうやら俺は本当に頭を打っておかしくなったらしい。

 ともすれば、その衝撃で前世の記憶でも蘇ったのか? いや、それだと目の前にたたずむ赤い竜の説明ができない。俺の頭に浮かぶ記憶に、そもそもこんな竜はファンタジーの世界でしかいなかったはずだ。

 

「……なぁ、どうも頭の中がぼやぼやするんだが、俺は誰で、お前は誰だ?」

「本当におかしくなったのか」

 

 赤い竜は唸るように喉を震わせた。そして数瞬、何かを思案するように目を閉じると、その長い鉤爪で俺のことを指さす。

 

「オレの名ははイグニール。そして、お前の名は————————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツ・ドラグニル。それがイグニールの語った俺の名前。

 聞き覚えのある名前だった。いや、聞き覚えがあるなんてどころの話じゃなかった。

 前世の記憶? と思われるモノの中に、ナツ・ドラグニルという名前は存在する。

 FAIRY TAIL(フェアリーテイル)という少年漫画に登場する主人公の名前。竜に育てられたその少年は、桜色の髪と竜の鱗で編まれたマフラーが特徴的だった。

 仲間思いで、人一倍熱い男だ。前世の記憶である俺も、そんな彼を好き好んでいたような気がした。そんな人間に俺は成ってしまった……いや、正確には違うか。俺は一応、部分的ではあるがナツ・ドラグニルとしての記憶も残っている。俺がナツになったのではなく、ナツと前世の俺が混じり合ってしまったようなものか。俺はナツであり、また俺である。

 うーん、我ながら意味がわからなくなってきた。もうこれについて考えるのはよそう……。

 

 とにかく、問題があるとすれば未来についてだ。なんとなく漫画フェアリーテイルについては知っているし、どのように展開されていくのかは予知できるだろう。当然、その中にはイグニールがある日を境に姿を消すという記憶もある。

 

 どうにかイグニールが消えるのを回避できないだろうか。

 

 前世の記憶にも、結局イグニールがどこに消えたのかまではなかった。前世の俺が途中で読むのをやめたのか、それともあえて思い出せないようになっているのかは知らん。ただ、思い出せるかも分からないものに頼るほど、俺も馬鹿じゃない。思い出せないなら思い出せないなりに、イグニールの消滅を回避するだけである。当分の目標はそれを掲げていればいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実とは無慈悲なものだった。どれだけ警戒していようと、いつの間にかそれは起こっていた。

 壮大に広がる大地。上には雲ひとつ存在しない澄んだ青空。いつもなら俺の姿を微笑ましく眺めていた赤い竜は、その雄大な姿をかき消していた。

 前世の記憶が目覚めてから7年後、7月7日のことである。

 この日、イグニールは俺の目の前から突如姿を消したのだった——————。

 

 

 

 そこからの記憶は曖昧である。

 道なき道をかき分けて進み、前世の記憶を頼りに妖精の尻尾(フェアリーテイル)と言う魔導士ギルドを探し続けた。

 7年も経っているせいで曖昧だが、妖精の尻尾が存在するのはフィオーレ王国のマグノリアという場所だったはずだ。つまり、俺がいるのはフィオーレ王国のどこかだということになる。

 イグニールから教わった狩猟で食い繋ぎ、なんとか人がいるであろう場所へと目指して歩き続ける旅路。こんな心細い思いをしたのは初めてのことだった。いつもならイグニールがそばにいて、夜も一緒に語り合い、笑い合っていた。

 だけど、そんなイグニールももういない。

 

「会いだいよ、イグニール…………」

 

 ぼろぼろとこぼれ出る涙を腕で拭き取りながら、俺は今日狩った兎を食べる。

 その度に思い出すのはイグニールの言葉だった。

 

『泣くなナツ。悲しい時はどうするんだ?

 教えただろ。じゃあ、やってみろ。立ち上がるんだ』

 

 未来を語れ、いつもイグニールは俺にそう言っていた。

 楽しいことも、辛いことも、悲しいことも、全てひっくるめて未来を語れと教えてくれた。イグニールは俺に生きる力を教えてくれたのだ。

 だから、頑張れる。

 だから、生きようと思える。

 どれだけ悲しくても俺はまたイグニールと会うために頑張ろうと思えるのだ。

 

 俺は焚き火の暖かさに身を包みながら、マフラーを握りしめてそっと目を閉じた。

 明日も妖精の尻尾を探す旅は続く。

 前世の記憶にある俺も、イグニールを探すのを諦めていなかったのだ。俺が諦めなければいつか絶対に出会うことができる。そう信じて今は眠りにつくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは偶然だった。

 アルトリア(わたし)がそれに気がついたのは、馬に水を上げるため早朝に目覚めた時だった。

 森の方に狼煙のような煙が上がっているのである。私が住んでいる村からもそう遠くない。もし蛮族による敵襲を知らせるためのものであれば、急いで避難をしなくてはならない。

 私はぐっと身を引き締めると、近くに掛けてあった剣と馬具を取って馬に装着させる。近くの村村で蛮族の襲撃を受けたという急報は届いていないため、比較的に可能性としては低いが、もしものことというのはある。

 寝ている兄を起こし、一言だけ告げてから私は様子見を兼ねて森へ行くことにした。起こす際、兄は何やら嫌な表情をしたが、今は気にかけている場合ではないとそれを無視する。

 

 森に行き、立ち登る煙の近くまで寄れば私の耳に一つの寝息が聞こえてきた。

 見てみれば、そこには私と同い年くらいの男の子が白いマフラーを抱えながら眠りについている。

 どうやら煙の正体は、彼が野営するときに焚いた火が原因だったらしい。それにしても、よく燃えている……。

 

「んぁ…………?」

 

 馬の足音で目が覚めたのか、少年は目を擦りながら身を起こした。

 よく見てみれば、少年の目元に赤い腫れが見える。泣いていたのだろうか。

 

「おはようございます。起こしてしまいましたね」

 

「ふわぁ、おはようって、誰だオマエ…………?」

 

 寝ぼけているのか、少々うわずった声で男の子がそう問いかけた。

 

「私はアルトリア。近くの村に住んでいる者です。貴方は?」

 

「俺はナツ。ナツ・ドラグニルだ」

 

 男の子はそう言って上体を起こした。

 

「そうですか。では、ナツ。申し訳ないのですが——服を着てくれませんか?」

 

「あっ」

 

 私がそう言うと、自身の上半身が裸なことにナツは気がついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひどく懐かしい匂いのするアルトリアに連れられ、俺は一軒の家屋に招かれていた。

 家の中には、俺より年上であるケイという男と、中年くらいの歳をしたエクターというおっさんがいた。二人は俺の体をジロジロと見回し、最後にアルトリアを見て苦笑いを浮かべていた。アルトリアはその反応が気に食わなかったのか、ジト目で「なんですか」と膨れっ面をかましている。

 とりあえず、そんなアルトリアを放置して俺は早速マグノリアについて聞いてみることにした。

 

「フィオーレ王国のマグノリア? はて、聞いたことがありませんな、そんな国は」

 

「俺も聞いたことがない。本当に存在するのか? そんな場所」

 

「私も知りません」

 

 だが、返ってきた回答はこのように全滅である。

 まさかフィオーレ王国が存在しないとは思わなかった。いや、もしかしたら俺の記憶違いということもあり得る。

 

「な、なら、妖精の尻尾という魔導士ギルドを知らないか!?」

 

「魔導士、ギルド? むぅ……魔術師が集う魔術協会なる組織ならば、耳にしたことはありますが、魔導士ギルドという組織は聞いたことがありませんな」

 

 渋い面で唸るエクターを見て、ケイも連鎖的に頷いた。

 

「そもそも魔導士とはなんだ。魔術師や魔法使いとは違うジャンルなのか?」

 

「そ、それは、俺もよくわかんねーけど……」

 

「はぁ、それじゃあ話にならない」

 

 ケイはそれだけを告げると、俺の話を聞く気がなくなったらしく部屋を出て行った。

 なんというか、子供のくせに気難しい性格をしている気がする。前世の記憶を持っている俺でもビビっちまうくらいには。

 

「ナツは何か魔術に準ずることができるのですか?」

 

 ケイを見送ったアルトリアが、俺の顔を見ながら問いかける。

 

「え? あー、魔術かは分かんねーけど、()()()()ってのをイグニールに教えてもらった」

 

「魔法を、ですか?」

 

「おう」

 

 へぇー、なんだか素敵ですね、とアルトリアは目を輝かせて言う。俺はそれがどうも気恥ずかしく感じ、頬を掻いた。

 

「ふむ……ナツ殿はこれから行く当てがあるのですか?」

 

 エクターは会話の軌道を修正するかの如く、俺の目を見て問うた。

 だが、当然のことながらその質問はノーと答えるしかない。妖精の尻尾、いや、魔導士ギルド自体がないと言うのは計算違いすぎるのだ。俺としては、妖精の尻尾に所属し、仲間達と冒険を繰り返しながらイグニールを探すつもりでいた。その算段が、根底から崩れ落ちてしまったのである。

 

「……」

 

「その様子ですと無いようですな」

 

「……はい」

 

 俺はズボンをぎゅっと握りしめてそう答える。

 

「よろしい。ならば、ここで住みなさい。アルトリアが貴殿を見つけたのも何かの縁があるのでしょう。一人前になるまで過ごすといい」

 

 エクターはそう言ってにこりと微笑んだ。その表情が、どこかあの時のイグニールに似ているような気がしてほろりと涙が出る。

 だめだ。最近はどうも泣きっぽくなっている。

 ぼろぼろと落ちる涙を拭き取りながら、俺は嗚咽まじりに感謝の言葉を述べた。

 

「アルトリア、彼に色々と教えてあげてください」

 

「分かりました、エクター。任せてください」

 

 そうして俺は、一人前になるまでと言う期限付きではあるものの、エクターの家で厄介になることとなったのだった。

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