別に良いですよとの事で筆を取らせていただきました。
暇つぶしになれば幸いです。
交通事故
実にありふれた事故だった。
ボクら家族を乗せた車が山道で『野生動物』に接触して崖から落ちたのだ。
ボクは車から投げ出され、奇跡的に生き延びた。
入院先の病院の大部屋で隣の患者が見ているテレビから流れてきたジュネスのCMソングを聞いて
「ペルソナかよ!!」
と頭を抱えたボクは、前世の記憶という胡乱なモノを取り戻していた。
ペルソナとはココロの形を悪魔の形に表現した仮面であり、ソレをつけることで様々な力を振るえるようになるというココロが生み出した自らを護る鎧のようなモノ。
ヒトのココロの澱みが生み出したシャドウと呼ばれる人の業が生み出したバケモノを戦う物語。
それからの日々は散々である。
死にかけた影響かノイズのはしった何かが見えるのある。
最初はシャドウかと思った。
けれど違う、あれは己の仮面としてプレイヤーが身に着けていた悪魔に似ている。
「おいおい、ここはペルソナじゃないのかよ」
デビルサマナーという悪魔を操る機械を使って悪魔と戦うシリーズのプレイ経験があったボクはソッチかと思い。
再び頭を抱える事となる。
無視をきめこみ、悪魔に気が付かれないように生活するのには限界がある。
年々、見かける回数が増えてきたソレを避けながら生活するのに限界を感じたボクは対抗手段を探し始める。
そう、シリーズを代表するチートツール「悪魔召喚プログラム」だ。
だが、前世ほどネット回線が整備されておらずパソコンの普及率も低い。
パソコンは高額でネットを引くにもかなりの金がかかる。
ボクは、近場にあるジュネスのネットカフェに吸い込まれるように導かれ ある掲示板を発見する。
『転生者雑談スレ』というストレートかつ釣りとしか思えない題名に目を疑った。
だが、ここ最近は悪魔達もボクが見えている事に気が付き始めているようで、目の前を飛び続ける妖精族や袖を引っ張ってくる幽鬼たちと後が無い。
藁にも縋る思いで近況やペルソナ、デビルサマーについての話題を書き込み。
悪魔達に追い込まれつつある自分の窮状を訴えた。
話を聞いてくる安心感やペルソナ、デビルサマナーのプレイ中のあるあるネタなどを書き込み。
ソレを知っている者しか返せないレスをみて、初めて得た仲間に心強さを感じていると・・・
画面からバァと紫色をした何かが現れ、画面からのけぞったボクは後ろに倒れ込む。
「〇〇様ですね。
お迎えにあがりました」
と倒れそうになった所をメイド服を着用した恐ろしく顔の整った女性に受け止められ声をかけられた。
そのことに軽く悲鳴をあげて振り返り、何者だと声をあげて問いかけると
「アガシオンを視認できることから、すでに覚醒されているご様子。
スレの書き込みとも矛盾しておらず対処が必要であると判断されてワタシが派遣されました」
対処という言葉に冷や汗をかきかながら、周囲を見回す。
何人も客が入っているというのに誰もこちらを気にしていない。
この場所は、仕切り板で仕切られただけの場所で店員がいるフロントや他の利用者からも丸見えな所。
だが『誰も気にしていない』。
震えた声で「ボクをどうするつもりだ」と問いかけると
彼女は、スカートの裾を掴み、深く腰を曲げてこちらに挨拶をする。
「ガイア連合、裏ジュネス所属、警備部のシキガミでございます。
我が主がお待ちです。
どうか、ご同行ください」
仕草は丁寧で、こちらに同行を問うているものであるが、本能が目の前のイキモノは自分を遥かに超える力を持つモノであると訴えかけている。
そんなイキモノの要請にNOなどと突きつけられるはずもなくボクは連行されることになった。
そうして、連れてこられたジュネス本館の屋上。
そこでは中年の男性がコーヒー缶を片手に赤く塗られたベンチに座ってボクを待っていた。
「はじめまして、この地域の裏ジュネスの担当をしております。
ああ、名刺ですどうぞ」
ジュネス本館屋上に設置されている巨大な観覧車や遊具の出す賑やかな音の中。
男は数十メートルの距離を一瞬でつめて現れたかと思うとにこやかな顔で名刺を差し出してきた。
ありがとうございますと答えて名刺を受け取ると男は裏ジュネスとやらについて説明をしてくれた。
「ジュネスは、私たちガイア連合の組織の一部でしてね。
地域の霊的な安定、転生者及び異能者達のサポートをする為の拠点でもあるのですよ」
ほら、と男はジュネス本館まで真っ直ぐに伸びる四車線の太い大通り、四車線を跨ぐように入口に設置された屋根つきの陸橋。
陸橋とジュネスを囲むフェンスは色鮮やかな赤と白で塗装されている。
次に目につくのが、碁盤の目のように整備された多くの車が止まる駐車場。
「まぁ、見る人が見ればすぐに分かると思いますが京都を参考にした結界が敷設されていましてね。
本館を頂点に立像、ペットショップ、ネットカフェ、温泉、雑貨屋を五芒星に配置してあります」
そう言いながら指を動かす男の先には先ほどまでいたネットカフェ、ガイアアニメーションが原作のロボットが等身大で作られた立像などがある。
特に立像については、動いたのを見たことがある。
日によってポーズが変わっているなど、学校の教室でも話題になっていたのを覚えている。
「まぁ、後は市内のビルを買ったり建てたり結界の基石にして八陣を組んだり。
主要電線の配線を九字に整えたりと色々してはいますが、いかんせん。
龍脈の力が増せば漏れる力も増えて、それを目当てに雑霊が集まる」
男は、市内の方を指差し、特に学校とかは若者が多い分マグネタイトの生産力が高いですからねー。
と天気の話をするかのように不吉なことを呟く。
マグネタイトと言うと悪魔を呼び出すのに使うアレですかと聞くと
「ええ、悪魔達は本来この世界の生き物ではなく、異世界からやってきた侵略者です。
彼らはある種の『情報生命体』と呼ばれるべき存在で、こちらで実体化し力を振るうには自らの体を構築する為の媒体が必要なのです。
強力な悪魔ほど大量のマグネタイトを必要としますね。
人の生命活動や感情によって多く生み出されるコレは磁力に強く反応します。
鉄に貯まりやすく人が多く多様で強い感情の生み出される場所。
学校やスポーツ、イベントで使うスタジアムなどに多く残留する傾向がありますね」
割とどうしようもなく絶望的なことを聞かされる。
「まぁ、これ以上は込み入った話になりますし場所を変えましょうか」
そう言うと男は、こちらの手を握り『トラポート』と唱える。
その瞬間、目の前の景色がモザイクでもかけたかのようにぼやけてエレベーターで下に降りる時のような浮遊感に包まれる。
視界のぼやけが戻り、周りを見回すと屋上にいたボク達は校長室のような応接間を備えた立派な部屋にいた。
魔法、その衝撃に言葉を失っていると男は応接間に座り電気ポットから茶を用意する。
「ここはジュネス地下、シェルター内の私の執務室です。
まぁ席に座ってください。
覚醒して弱いまま放置しておくと悪魔たちの美味しいエサですからね。
同朋が、悪魔たちのメインデッシュ、周りの人々がデザートにされるのは此方としても良くない」
そうして、強くなった悪魔を処理しないといけないのは我々ですしね。
と続けて着席を促す。
ここまでされて、どうしてソレを拒否できようか、と言うか詰んでないかボク。
「では、改めまして。
来る大破壊に備えて転生者同士が互助する為の組織『ガイア連合』
その支部を任されている者です。
どうぞ見知りおきを」
大破壊という嫌な予感しかしないパワーワードに対して質問をするとニコリと微笑み答えが返ってきた。
「大破壊というのは、全ての女神転生シリーズの原点と言える真・女神転生に出てくる言葉です。
ストーリーを大雑把に説明しますと
日本政府とアメリカ政府が手を組み、『ターミナル』と呼ばれる物質転送装置の開発をします。
これは、物質を遠くの場所に一瞬で転送する夢の装置でした。
ところが、事故がおきます。
この物質転送装置の原理は、我々が存在している空間に穴をあけ、別の空間を経由し、此方の空間に戻して転移、すなわち物質転送を行うというものでした。
プロジェクトは空間に穴を開ける段階に到達し、これによって生じた穴から、外の世界にして魔界の住人。
各地で神や悪魔と呼ばれる存在をこの世界に招いてしまったのです。
両政府は、予想外の事態を協議しプロジェクトを同時進行しつつ、悪魔を招き入れ研究し軍事利用しようというプロジェクトを立ち上げました。
悪魔達は情報体とでも言うべき、電子的に解析や結合のできる不思議な存在でした。
この特性を利用して『悪魔召喚プログラム』という悪魔を契約し制御する為の装置『COMP』を開発。
まぁ、当時はハンドヘルドコンピューターというモニターつきのゴーグルと腕につけたキーボードといったビジュアルの携帯コンピューターみたいなモノでしたが、時代が進んで携帯とかスマホに代わっていきましたね。
そうした、研究を進めたのですが、相手は人間より賢く、強い生き物です。
反乱をおこし、研究所を占領し次々と仲間を呼び寄せ日本とアメリカを橋頭保に世界を侵略していきました。
そして、悪魔達は核兵器に目を付け核保有国の首脳陣を殺害、巧妙に入れ替わっていきました。
人間側もクーデターを起こしたりして入れ替わられた首脳陣を排除しようとしたりするのですが、時すでに遅く。
悪魔達は核戦争を起こさせる事に成功して文明は滅びてしまいました。
この一連の事件を大破壊と呼んでいます」
この世界は滅びる。
そんな衝撃的な言葉を受けて言葉を失っていると男は現在の状況を話す。
「とは言え、現在。
この世界で『ターミナル』及び『悪魔召喚プログラム』は確認されていません。
ですが、ペルソナ、神取グループ、月光館学園、タルタロス、メメントス。
悪魔勢力の組織であるメシア教会、ファントムソサエティなどは確認されているので魔界からの侵略は確実に進んでいると考えて良い状況に至っています」
上げて、落とす。
この世界に救いなど無かった。
「我々は基本的に悪魔という異世界からの侵略者を信用していません。
スライムを利用してシキガミという拘束術式でガチガチに縛ったシキガミ式悪魔。
こちらで、生み出した人造悪魔アガシオン。
これらのレベルを上げてスキルをカスタマイズしたモノで悪魔に対抗しています。
あとは、こちらの世界で生まれて育った管狐や狗神ですかね。
レベル1の犬や猫も探せば結構いますよ。
貴方の家がペットOKならば、後でペットショップで紹介しましょう」
悪魔召喚プログラムは無いのですかと質問すると
「ああ、我々の技術部も開発しようかという意見は出たのですが却下されました。
何が悲しくて、あの罠アプリを開発しなければいけないのかと
作品によっては、あのプログラムが原因で悪魔が湧き出してきたり。
召喚、契約、使役が容易になりハードルが下がった事で悪魔事件が多発、プログラムの暴走で魔界の穴が開くなんて例も女神転生ではテンプレですしね。
何故、破滅に向かってジェット噴射するようなアプリを制作せねばならぬのかと、お叱りを受けまして」
それに、ソレが出回り始めた場合。世界を破滅させようとしている存在がいるという証明になり。
カウンターで殲滅できる可能性がありますからね。
と、彼らの中では『悪魔召喚プログラム』はトロイの木馬級の厄ネタらしい。
彼は姿勢を正し、背後にはメイド服姿の自分のシキガミを立たせてコチラに笑いかける。
「ようこそ、女神転生の世界へ。
我々は、地獄の底まで転生者に付き合いあなた方をサポートいたします」
そう言って歓迎する彼の顔は、共に地獄の道を歩む同士の誕生を喜んでいるようであり。
余計な事を思い出し、余計な力を手いれてしまったコチラを憐れむようであり。
菩薩のように悟りを開いて全てを諦観してしまったかのような笑みだった。
こうして、ボクの女神転生の物語は、第一歩を踏み出すことになる。