地獄の三十分とは、龍脈と異界を遮断して異界が崩壊するまでの平均時間である。
異界が崩壊すれば異界内に存在する悪魔達は魔界に送還される事になる。
それを嫌った悪魔達が出口を目指して暴走する事を指して地獄と呼ぶ。
原作、真・女神転生にそんな現象ないじゃないかと思った転生者の皆様。
それは正しい。
精鋭によって異界に突入し、暗殺じみた手法で異界の主を討伐すれば大半の悪魔達は、それに気が付かず異界と運命を共にする。
ゲームの主人公達がとっているのは概ね暗殺にあたる。
これが、第二次世界大戦で敗北しほぼ全ての退魔組織を解体されたこの世界の日本では数か月から数年。
長いと一生かけて祈祷・封印・祈願を繰り返して異界を枯れさせる。
もしくは異界の主である【神】や【物の怪】に【生贄】やら【供物】を渡して、元の世界に帰ってもらう。
帝都周りは、首都を守る結界をいじれば例え異界であろうと、すぐに封印する事ができる。
これってつまり封印済みとはいえ無数の異界が帝都周りにあるし今後も増え続けるって事で・・・。
まぁ、都内ガイア連合組員の小遣い稼ぎ及び、丁度良い退魔行チュートリアルになっている。
では、何故?大量の悪魔を異界の外へ逃がしてしまう可能性のある危険な事をするのか?
こんなブラックジョークがある。
「ヘイ、ジョニー。
俺は、霊を見たり、話したりすることができるようになりたいのだが。
どうすれば良いと思う?」
「HAHAHAHA。
簡単さ、戦場に行って三日ほど塹壕戦をすれば良いよ。
自然と死んだ敵や味方の兵隊が話しかけてくれるぜ。
もっとも皆は病気だって言うけどね」
これ、実に効果的だから困る。
いつの時代も英雄や超人は戦場で生まれる事が多い。
そして、対終末戦争を考えると戦争の訓練はしておいた方が良い。
そう、つまり修行である。
強くなる為であれば、多少のリスクは飲み込むガイア連合、及び五島歩兵師団。
術式を敷設する為に一週間前から自衛隊とガイア連合員有志が大隊規模である600名以上で異界に踏み込み。
プレハブ工法で術式の起点である五稜郭を参考にした星型陣地を構築。
八杭の標杭を設置(異界の山道を戦いながら徒歩で走破するのは超人でも数日かかる)するついでに集魔の水を撒いて悪魔を陣地に誘引。
設営二日の要塞に5日間籠って波状攻撃してくる悪魔の群れを相手に籠城戦である。
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「六時方向、悪魔の群れを確認。
推定数30オーバー」
今日も悪魔の群れが、この要塞を目指してやって来る。
あるモノは空を飛び、あるモノは木々や設置された地雷のトラップを踏み越えながら我々を貪り食おうとやって来る。
私は支給された自動小銃の弾倉に銃弾を叩き込み、この数日で慣れてしまった動作に従い照準を悪魔に合わせて銃弾を撃ち込む。
そして、思い出すのだ。
このような戦場に放り込まれる事になった一年ほど前の事を
私は漫画家で、現代に転生した主人公が、現代の闇に潜む悪魔を退治する物語を書くためのネタを集めていた。
そして、あの掲示板に出会ってしまったのだ。
『転生者雑談スレ』
初めは、そういうロールプレイをするスレなんだろうなと思い周りのノリに合わせて書き込んでいた。
メシア教という一神教の一派が、人間を浄化すべしと降臨した天使に支配されており。
アメリカに広く浸透したその一派が政治家、軍人となり核による人類浄化と洗脳支配を企んでいるというものだった。
ガイア連合は、前世の知識からその陰謀を察知しており。
核攻撃をしのぎ切って、文明的な生活を維持しつつ。
いかにメシア教の侵略を防ぎきるかという議論が行われていた。
漫画家という職業柄、そういった悪魔の知識や戦争戦略の知識を相応に持ち合わせていた私は彼等と共に色々な案を出したものだった。
そして、彼等が話し合っていた結界を敷設された核シェルターや多脚装甲車。
シキガミと呼ばれる使い魔のデザインを『こんな感じかな?』と書いて掲示板にアップしたりしていた。
そうやって楽しんでいると、絵柄から『ガイア出版の〇〇先生じゃね?』と身柄を特定されてしまったが笑って誤魔化した。
そうしているとガイア出版の編集者から、思いもかけぬ言葉をかけられたのだ。
『先生、転生者だったんですね。
教えてくれれば良かったのに……好評ですよ先生がデザインしたシキガミのアーキタイプと装甲車。
シェルターの施工班からも呪術的な基礎を正しく踏まえた上でカッコイイデザインだって。
今度、正式に仕事として依頼しますから担当者と話してくださいよ』
割とガチめの言葉に耳を疑った。
『いや、アレは趣味みたいな活動ですから仕事にするのはちょっと』
『ははは、まぁウチは身内重視の組織ですからねぇ。
先生は、正式に転生者登録してないでしょう?
ガイア系列の社員は保護対象ですからシェルターは確保されていますけど、助けたい知り合いなどもいるでしょうし転生者枠のシェルターも貰っておいた方が良いですよ。
デモニカも無料配布されますしね。
今月の原稿も頂いた事ですし、近場のジュネスへ登録とデモニカや簡易シキガミの受け取りに行きましょうか?
丁度、自衛隊と共同で異界攻略の募集がありますから取材ついでにレベル上げとかどうです』
なんか、もうアレ、ロールプレイですとか言えない空気になっていた。
そして、都市郊外に建設されている大型ショッピンモール『ジュネス』へと連れていかれる事になる。
書類などの類は編集部で用意してくれたらしい。
受付では、アナライズという検査を受けてつつがなく登録が完了してしまった。
登録が完了してしまった・・・・・。
そこから先は、開いた口が塞がらない。
驚愕、その一言だった。
地下1000メートルを掘りぬいて地下水脈を引き込んだ一辺数キロメートルの規模を持つペンタグラム(五芒星)型・核シェルター。
高さは50メートルに及び立ち並んだビルが柱のように屋根を支えていた。
地下を流れる川や湖、公園や住宅街を備えたその場所は地下都市という言葉が相応しい。
そして、否が応でも目に入るのが高さ十数メートルの巨大シキガミとかいう巨大ロボ。
私が書いていたモノって結構大人しかったんだなーとか。
そうか、これが現実なら、物語はもっと盛っても良かったんだな。
とか現実逃避しながら、この中ならどれでも良いですよというシェルタールームを貰った。
『では、来週に自衛隊でデモニカ講習が二日と実戦講習が五日がありますので着替えだけ用意しておいてください。
お休みの間、悪魔に体を乗っ取られぬようおきをつけて・・・』
ヤベェ、ガチでアンダーグラウンドに踏み込んでしまった。
ずっしりと重い、デモニカという装甲服の重みが、呆けるな戦えと訴えかけてきているようだった。
そして私は、超人達が鎬を削る悪魔との戦場にいた。
今回の襲撃が終了したのを確認して、要塞の外にいる担当編集に声をかける。
「配給のカレードリンクが来ていますよ。
休憩しませんか?」
「ああ、そうですね。
張り切りすぎて新人さんのレベルアップを邪魔してはいけない」
担当編集は、ハルバードという2メートルはあろうかという斧のついた槍を使い棒高跳びの要領で5メートルほどある防御壁を軽々と飛び越える。
戦闘中は、コレを小枝のように振り回して悪魔達を薙ぎ払っていた。
よし、原稿の締め切りは絶対に守ろう。
「ふむ、先生もレベル10を超えたようですね。
そろそろデモニカを脱いでも良いのでは?」
「いえ、扱いに慣れてきた装備から着替えるのは不安で・・・・。
それにコレに載せられてるパソ、明らかに仕事で使ってるパソより高性能で使いやすいし。
掲示板アクセスしたりアナライズで敵の弱点調べたり便利で・・・」
担当編集は、その言葉に納得したように頷き、他の人にも聞いたのであろう意見を付け加える。
「ああ、よく聞きますね。
覚醒してもデモニカを愛用し続ける人たちは結構いますから。
肉眼で見るよりモニターごしの方が怖くないとか、ステータスが表示されるからゲームっぽくて現実を忘れられるとか。
あと、デモニカを脱ぐと魔法が使えなくなるから戦術から構築しなおさないとならなくなって面倒とか。
ガチで魔法を覚えるには天才的な閃きか地道な勉強かの二択ですからね。
ついてしまう弱点も霊装を重ね着できるようになって補えるようになりましたし成長の仕方では耐性もつきますからねぇ」
この耐性というものが非常に厄介で有用なのだ。
ノーマル耐性を基準として、弱点、耐性、無効、吸収、反射の六つの属性が存在する。
敵の攻撃が、弱点でノーマルの倍のダメージ、耐性でノーマルの半分のダメージという極な仕様。
できる限り、多くの耐性を揃えて、弱点を打ち消しておくのは基本と言える。
これは攻撃にも言えて、相手の弱点を突く事によって驚くほど戦いやすくなる。
そして、厄介なのが無効と反射、吸収だ。
その名の通り、無効はその種類の攻撃が全く通用しなくなる。
見えないバリアが張られているような感じで、その種類の攻撃が全く通用しなくなる。
さらに厄介なのが吸収、その攻撃を吸収して回復するのだ。
味方の撃つアギという火炎の魔法を同士討ちを気にする事なく諸共に燃やそうとしてきたり、吸収を持った味方に撃ち込んできて回復したりと非常に厄介だった。
反射は最悪と言っていい。
その種類の攻撃が全て反射されるのだ。
何も考えずに戦えば跳ね返ってきた自分の攻撃で全滅する可能性すらある。
そうやって雑談していると、今回のイベントで一番の見せ場と言える神楽舞が始まる。
巫女装束を纏った美しい女性が軽やかに舞を踊り、唄を奉ずる。
「彼、基本は男で悪魔変身で自分の祖神である女悪魔の加護を貰った女性体に変身するんですよねぇ」
綺麗な神楽舞だなーと見ていると担当編集が、衝撃情報を叩きつけてくる。
ヤベェな日本、私が考えているより未来に生きている。
いや、シェルターを見た時点でSFかよと思ったけれど。
舞が終わり、リンという音叉の音が響くような空気を震わせる音が周辺に突き抜けて伝播していく。
空気が振動を強めていき大地が共鳴するように鳴動する。
これこそが世界の終わりの正しい姿であると主張するように空に歪みが生じて、その光景はまるで空がひび割れていくように見えた。
自然と周囲の緊張が高まっていく。
銃を持つ者は銃弾を補給して何時でも弾を打てるように弾を装填する。
近接用の武器を持つ者は武器を抜き放ち。
錬気の剣というライトセイバーじみた剣を持つ者は剣から輝く気の刃を伸ばす。
森からラともアともつかない叫び声が鳴り響く。
それは、悪霊たちの金切り声であり、知性ある獰猛な獣達の雄たけびに相違なく。
大気には殺気が満ちて世界を滅ぼさんとする者たちへの怒りを向けていた。
要塞に向かって進軍してくる無数の悪魔。
それを見た担当編集はメガネの位置を押し上げて整えると手に持ったハルバードをまるでバトンのように回転させて腰だめに構える。
「フィーバータイムですね。
入れ食い状態ですよ。
テンションを上げて参りましょうか!!」
彼の言葉に呼応するかのように近接戦闘に自信がある面々が軽々と壁から飛び出し土煙を上げながら切り込んでいく。
通常の何倍も大きく奈良の大仏が持つような巨大な独鈷、五鈷杵を装備した僧侶。
ローブのような服を着た光剣を携えた剣士達。
竜でも切り倒せそうな身の丈を超える鉄塊のような巨大な剣を振り回す狂戦士。
何処かで見たような英傑やヒーローが悪魔の群れの中に飛び込んでいき。
まるで無双ゲームのように雄々しく悪魔と切り結ぶ。
ここに黙示録の予行演習が開始された。
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余談ではあるが、彼はこのツアーが終了した後。
ショタオジの面会と修行を受ける事になる。
生死の狭間で絵を描き続けた彼は無事、前世の記憶を蘇らせ。
今世にはまだ無い作品の絵を描かされる事になる。
めでたし、めでたし どっと払い。