広間にて対峙する少年と魔王。
少年の後ろには折り紙で作られたような魔法使い。
ふわふわと浮かぶ壺の中から対峙する二人の様子を眺めるナニカ。
少年の仲魔である初級シキガミとアガシオンが控える。
先達であり少年をこの場まで導いたセンパイは、魔王が発生させた異界の歪みから召喚される悪魔と戦い始めており。
少年と魔王との戦いに手助けを出せそうにない。
少年の倍以上もの巨体の魔王は少年を見下ろし、少年は魔王を睨みつける。
殺気が物理的な圧力に変換され二人の間でぶつかり合いバチバチと火花を散らす。
弾かれたように両者が動く。
そして、嵐の如く吹き荒れる。
戦いには相性というものがある炎の属性が強い悪魔は氷の属性に弱くなる。
少年の手には冷気を纏う氷の如き美しき小太刀が二振り握られている。
合体剣と呼ばれる悪魔の力を宿した刃。
その再現を試みた武器型の試式シキガミ七星氷刃村正。
『ブフ』
剣から機械的な声が響き氷でできた槍が魔王に突き刺さり、
間髪いれず小太刀の刃が魔王を切り裂く。
シキガミであるからこそ魔法で主人を援護できる。
武器型であるからこそ主人の攻撃を妨げず同時に攻撃ができる。
普通の仲魔ではできない濃密な連携こそ武器型の最大の魅力だ。
「小癪な、コップ一杯の水が燎原の火を消せると思っているとは片腹痛い」
魔王が吠え、炎を噴き上げる。
「マハラギオン」
炎が津波のように広がり少年たちを飲み込む。
炎が肌を焼き、熱によって筋肉が萎縮する。
「メディア」
「メディア」
それに抗う祈りの声が響き渡る。
シキガミとアガシオンの魔法が少年たちを癒す。
焼けた肌が新しく生まれ変わり熱で炙られた筋肉が活癒する。
初期の配布品であるシキガミとアガシオンはレベル20近辺でレベルがストップしてしまった。
だが物理耐性と火耐性を付与して即死しないようにして回復に徹するならば十分に有用だ。
なにせ、自分の手数を攻撃に費やせるのだから
次の瞬間、重力の束縛を無視するように少年は両足を揃えて飛翔。
宙返りで魔王の頭上を取るとその両腕をまるで鋏のように振るって魔王の首を刈りにかかる。
魔王もその飛翔にあわせて己の拳に黒いオーラを纏わせて小癪な小僧を撃ち落とすべく振り上げる。
『黒龍撃』
正にその一撃は天に昇る龍そのもの。
龍のいななきのような轟音を響かせながら少年の迅雷の如き斬撃と激突する。
魔王の一撃は、弱点属性なぞ何するものぞと少年を吹き飛ばし嵐のように打ちかかる。
地面を転がりながら体制を整た少年は歯を食いしばり負けるものかと立ち上がる。
魔王と人間、たった二人が嵐を巻き起こす。
少年が床を切りつけて蹴り上げることで作り上げた即席の壁を魔王の拳が粉砕する。
まるでクッキーのように壁がボロボロと崩れ去り。
巻きあがった粉塵ですら拳の軌跡で穴だらけとなる。
『暴れまくり』
その言葉の通りの乱撃は幾重にも少年を殴打し、少年は防御した腕の骨を砕かれては仲魔の魔法で癒される。
常人であれば、いや超人であっても負傷と治癒の繰り返しに気が狂いそうな攻防。
吹き飛びそうな意識、それを手放した瞬間に息絶える事を確信している少年は意識を保って全身に気を巡らせる。
拳の流れ弾で斜めに傾いだ柱を蹴り壁を蹴る。
三角飛びの要領でジグザクに飛び少年の刃と魔王の拳が火花を散らす。
嵐に舞う木の葉のようでありながらも少年の斬撃は魔王の体に新たな斬線を刻み付ける。
少年は魔王との間に無数の火花を散らしながら戦いつづける。
ひとつ、ふたつ ――― 一気にいつつ、みっつ。
火花のみならず体を打ち据えられ地面を転がりながらも少年は諦めない。
道具で、仲魔の魔法で、体を癒しながら立ち上がり続ける。
少年の攻撃は、魔王の体には届いている。
だが、命に届いていない。
地の利が取れていない。
少年が切りつけた傷跡は時間が巻き戻るかのように修復されていく。
敵の回復量に対して少年の攻撃力が足りていない。
絶望の壁とは、正にこのことか。
魔王は、愉悦の笑みを浮かべて少年を殴りつける。
少年を回復させているシキガミやアガシオンを先に打ち砕けば、より早く少年を殺せるというのにソレをしない。
少年が傷つき立ち上がる様子を楽しんでいるのだ。
そう、少年の狙い通りに
「マカカジャ」
「マカカジャ」
「マカカジャ」
先輩のパートナーであるシワンナと少年のシキガミ、アガシオンが一斉に魔法の威力を上げる補助魔法を詠唱する。
「なにっ」
一瞬、意識をそらした魔王に対して少年は飛びつき。
その頭に輝く掌底をぶち込んで『目潰し』をする。
その勢いで少年は飛びのき、波紋センパイの渾身の魔法が炸裂する。
『ブフバリオン』
異界において物理法則は力を弱め、我々現代人が信仰する科学という神の力は大きく減退する。
電子機器が動かくなり、それに制御されている、あらゆる機械が使用不能になる。
小さなネズミの妖魔が装甲車の突撃を受け止めてひっくり返す。
薄い紙で作られた人工の悪魔が機関銃の銃撃を受けて跳ね返す。
壺や指輪に住む影のような悪魔の念動力で車や人が浮き上がる。
だが、物質は気体、液体、固体の三形態により形成されるという法則は強固に存在を主張する、
魔法で生み出された強烈な冷気は魔王の周囲を急激に冷却し、
酸素や二酸化炭素まで水と変え固体と成す。
急激な冷却により周囲の気圧は急激に下がり魔王を中心に竜巻のような風が渦巻く。
風に纏わりつく酸素や二酸化炭素が凍り付き幾重にも螺旋を描く氷の柱が生み出される。
数秒後、竜巻の凍り付いた美しい螺旋を描く氷柱のオブジェが誕生し、
瞬く間に爆発的な衝撃と共に崩壊する。
大半が酸素や二酸化炭素で構成された氷にとって数度の外気ですら熱湯に等しい。
急激に気化し周囲に広がるソレは爆弾の爆撃と同等だ。
激戦によって砕かれた柱が吹き飛び、
七星氷刃村正によって切り裂かれ魔王の拳によって耕された床板が剥がれ飛ぶ。
転生者二人とその仲魔達は、それらを叩き落し油断なく魔王のいた場所から目を離さない。
中央から吹いてくる爆風の質が変わる、凍てつく冷気から肌を焼く熱気に。
解る。
異界に満ちている力が、魔王へ向かって流れ込む。
荘厳に飾り付けられていた神殿が急速に風化して装飾がボロボロと崩れ落ちる。
周辺が神殿から溶岩に溶かされた洞窟へと変貌してゆく。
その中心にいる魔王は噴火する噴火口そのものだ。
体は灼熱し真っ赤に輝いている。
生贄の小麦粉、雉鳩、牝羊、牝山羊、子牛、牡牛、そして人間の新生児が入れられる棚からは噴煙と炎が吹き上がる。
周囲にはシンバルやトランペット、太鼓のような凄まじい音が鳴り響き、
あらゆる悲鳴を打ち消している。
メルトダウン、自然とそんな感想が浮かび上がる。
熱で溶け落ちようとしている体、過剰な力の奔流に耐えきれていないのは明白だ。
「見よ!
力が溢れかえって、おかしくなりそうな程だ。
我ら悪魔の偉大さを知るがいい」
魔王モロクの獣の目が眼光を放つ。
「モト劇場かっ!!」
波紋センパイが叫ぶ。
モト劇場とは、獣の眼光というスキルで行動回数を増やした敵がこちらに行動させる事無く攻撃を繰り返して、こちらを瞬殺してくるという即死技の通称だ。
「マハラギオン」
「マハラギオン」
「マハラギオン」
目にも止まらぬ速さで繰り出される火炎魔法は火山の噴火で噴出した火砕流そのものだ。
シキガミが、その濁流を受け止めて数舜の間に燃え尽きる。
その数舜を使ってアガシオンが念動力でボクとセンパイ達を突き飛ばして濁流にのみ込まれる。
「シキガミ! アガシオン!」
覚醒してから一緒に修行してきた二体が別れを告げる間もなく燃え尽きる。
防御の姿勢を取るも目蓋の下からですら目を焼く獄炎がボクとセンパイ達を飲み込む。
炎に包まれて、ボクの意識が一瞬落ちる。
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鬼門の出口を護る北斗ニキは腕を組み不動の構えで異界の主がいる中央を睨みつけている。
足元は、ミステリーサークルのように草がなぎ倒され。
巻きあがった砂によって四角く区切られ、紋章のような砂紋が刻まれる。
それは砂と草によって出来上がった曼荼羅であり鬼門の出口に布陣するデモニカ部隊や初心者異能者を護る結界だ。
『テトラカーン』
ゲーム的に言えば1ターンの間、物理攻撃を撥ね返すという強力な効果であり。
維持するのに仲間の手を一つ使い続けなければいけないという微妙に使い勝手の悪い魔法である。
コストも効果相応に重く数ターン使い続ければ魔力が枯渇する。
魔法は『マカラカーン』という別の魔法で跳ね返さないと素通りしてしまうなどの欠点がある。
相手の方に先に動かれると意味が無かったりもするので速が早いのが絶対条件でもある。
色々な意味で使うのに戦略やテクニックを必要とする魔法である。
脚の遅い、物理主体の敵であればいくら来ても無敵になれる魔法であり。
初心者達のレベリングを支援するには丁度良い魔法でもある。
結界に跳ね返されるスライムやゾンビ、グール、餓鬼などのレベル1~10くらいの集団を銃撃で一方的に殴殺していると流れが変わる。
「むっ、スライムやゾンビが溶けていく・・・・。
いや、これは周囲の力が弱まっていく」
ひび割れていた空はボロボロと崩れ、現実を侵食し張り付けられていた世界が剥がれ落ちていく。
「異界が枯れていく。
決着が近いな」
北斗ニキは、力の気配が増大する異界の中央を睨み。
弟子である少年や友人である波紋ニキの無事を祈る。
だが、それは神にでは無い。
我々を弄ぶ事が大好きな神になど祈る気すらしない。
此処が女神転生の世界であると知った大半の転生者達から祈るべき神は死んだのだから。
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焼け焦げた大地に少年は一人立つ。
体は、宝玉という生命力を大きく回復するアイテムで回復し全身からジュウジュウと煙が上がっている。
「お前らニンゲンは文明に溺れ。
地上を楽しく作りすぎた。
だから、死を恐れる!
快楽を失うまいと、泣き叫ぶ!」
魔王モロクは眼光を輝かせながら悠然と少年に向かって進む。
「古人のような死への潔さなど無く。
ニンゲンは焼き尽くされていくのだ!
愚かなことよ」
魔王は拳を振り上げ少年を叩き潰しにかかる。
少年は跳ねるように動き身を捻って拳を回避する。
「お前の血で満たした祝杯を、我の胃袋に流し込んでくれる」
魔王の眼光が輝き、拳が分裂したかのように増加する。
拳の一つが少年のガードを弾き。
拳の一つが少年の顎を打ち抜いて脳を揺らす。
そして黒い気を纏った龍の如き一撃が少年を貫く。
その一撃は、少年のあばら骨を打ち砕き心臓を貫く。
手刀は少年を貫いて、その体に大穴を開ける。
手足が冷たくなり、急激に活力が失われていく。
大量の血が流れ落ちていき血圧が下がり筋肉から力が失われていく。
意識が朦朧として目の前が暗くなり急激に視界が狭まっていく。
それでも、倒れてなるものかと下半身に残った力を集中する。
壊れかけの肺に呼吸で空気を流し込み外部から取り込んだマグを全身に巡らせる。
バチバチと壊れかけの機械のように体から気が漏れ出す。
バツン、とモニターの電源が切れた時のように視界が暗転する。
そして、見えるのは『何時もの河原』。
キセルを吹かして機嫌が悪そうにしている渡し舟の船頭は、こちらを見ると
『またか』という顔をして興味を無くす。
男性とも女性ともつかない小柄なお坊さんは手を振る妹と手をつないで、
こちらに微笑みかける。
地蔵菩薩、終末が来れば過労死確定の仏様だ面構えが違う。
そして河原の鬼たちが、ボクにさっさと帰れと追い払うように手を振っている。
『サマリカーム』
頼もしくも力強い、波紋センパイの声がボクを現世に引き戻す。
このバンジージャンプような黄泉路にも慣れたものだ。
胸の穴が塞がり、蘇った心臓は全身に血液を送り出し体中の筋力が息を吹き返す。
バキバキと砕かれた肋骨が繋がり、肺に取り入れられた酸素が潰れた胸を膨らませる。
「生き足掻くかニンゲン!」
魔王は目の前のニンゲンを叩き潰す為に拳を振り上げる。
「ジオンガ」
雷の槍、いやビームと呼んで良い雷光が魔王を打ち抜く。
電撃の魔法は体を駆け巡り、一瞬ではあるが魔王の動きを止める。
雷系の魔法は、真・女神転生において持っておいて損は無い魔法として不動の地位を築いている。
『ジオはめ』と呼ばれる戦術は有名であり。
シリーズによって異なることもあるが耐性のある敵であろうともダメージが通るのであれば。
感電のバットステータスを押し付け動きを止める事ができたりもする優良魔法である。
氷系も氷結というバットステータスで動きを止められる場合がある。
だが、氷を得意とする悪魔は結構多く無効化されてしまう場合があるため。
雷系の魔法が優勢という感じだ。
動きを止められるのは一瞬であるが、その一瞬が珠玉に勝る価値を生むのが戦いである。
『気合』
血管が切れる程の圧を全身にかける。
心臓を通じて気を練り、血管を通して腕に力を収束させる。
毛細血管が弾けて血が散り、気の熱量によって汗が煙となる。
二つは混じり合い血煙となって腕を包む。
物理系の攻撃技に支払われるコストは生命力。
つまり、体に無理の無い攻撃は、どんな攻撃でも通常攻撃であり。
体に負荷をかけてリミッターを外し己の体すら破壊する勢いで放つのが物理技である。
バチバチと気が雷光となって腕を包み、踏み込んだ脚が地を砕く。
脳内のリミッターを全て外して無意識にかけられている安全装置を解除する。
七星氷刃村正が気に呼応して輝き冷気を纏った巨大な拳を形成する。
その姿は巨人の腕だけをこの場に召喚しているかのようだ。
『怪力乱神』
インパクトの瞬間、少年の足元が隕石が落ちてきたかのように陥没し。
魔王モロクの体が浮き上がったかと思うと目にも止まらぬ速さで壁に打ち付けられ。
その壁も隕石が衝突したかのように窪み、蜘蛛の巣のように放射状にひび割れる。
拳を受けた魔王の腹部は無残にへこみ、体中がひび割れる。
ひび割れから灼熱し赤く輝いていた体はくすんだ黒色に代わっていく。
「我らの・・・・我らアクマの復讐は
こんなものでは・・・終わらぬぞ・・・。
ニンゲンが・・・ある限り・・・何度でも
アクマは・・・・生み出されるだろう」
魔王モロクは炎の柱となって砕け散る。
炎の柱は溶岩の洞窟を打ち抜いて天を貫き。
砕けつつある異界に止めを刺す。
ボロボロと現実に張り付けられた地獄の世界が砕けて剥がれ落ちていく。
この仮初の世界が崩れていく最中、魔王モロクに囚われた魂がひび割れた世界の隙間を通って見慣れた河原へと行く様子が見えた。
両親に抱き着く妹、その後ろでは、お地蔵様がこちらに向かってお辞儀をしている。
今度いったとき曼荼羅メロンとか持っていこう。
地獄の世界が完全に剥がれ落ちて木漏れ日の落ちる森の中に戻る。
こんな無謀な戦いに巻き込んでも文句一つ言わなかった仲魔のことが頭に浮かぶ。
「ありがとう。
勝ったぞ」
拳を高く空に振り上げる。
天高く、雲は流れ、空は嫌味なくらい青かった。
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「以上が、今回の大規模異界攻略レベルアップツアーの顛末ですお」
ガイア連合 山梨支部 シキガミ制作工場。
シキガミの生産ラインを5メートルほど上空のキャットウォークから眺めながら、少し小太りの青年が十代前半といっていい少年に報告している。
少し小太りな青年は、スライムニキ。
ガイア連合立ち上げ初期からいる覚醒者でマヨナカテレビを探索するペルソナ使い達のまとめ役である。
十代で覚醒する者たちが多いペルソナ使い。
心の仮面に悪魔を宿して戦う彼等は精神的、社会的に問題を抱えている者が多い。
そんな彼等に親身になって話を聞き。
常識や世間体に囚われて彼等を否定する事なく、そっと彼等の手助けをする。
ガイア連合に所属するペルソナ使いの多くが彼の世話になっており。
『チュートリアル先生』と第二の父のように慕われている。
もし、彼に何かあれば血の気の多い人員の多いペルソナ使い達が数十人一斉に復讐に動き出す。
前線に出ずに後方でサポートしていて欲しいなと願われる人材の筆頭である。
十代前半に見える少年はキャットウォークの手すりに腰かけ、面白そうに笑っている。
一見するといたずら小僧にしか見えないが、その雰囲気は常人からは明らかに外れており。
本能に訴えかけてくるような凄みを感じる。
それは、神を前にして無意識に跪くのに近しい。
彼こそがガイア連合の発起人であり、日本最大の霊地【星霊神社】の最後の神主。
ガイア、最強の男である。
皆からは、年に似合わぬ若い姿にショタオジと呼ばれている。
彼がいるからこそ転生者達は、女神転生の世界であると知っても冷静さを保っており。
彼の修行があるからこそ、現地の霊能者たちにザーコ、ザーコとマウントを取れる。
彼がいなければ一部の修羅を除いて転生者たちはアクマの美味しいエサとなっていたのは確実だ。
「いやぁ、豊作みたいで結構な事だね。
最近は、終末が近くて覚醒する野良覚醒者も増えてるみたいだから。
そういった人たちもツアーに参加して終末に備えて欲しいね」
そう言ってショタオジは眼下のシキガミ制作ラインを見る。
はじめの紙細工で始めたシキガミ制作とは大違いだねと笑いながら。
制作ラインには霊薬の川が流れて大中小、3Dプリンターで出力された骨格が流れてくる。
流れてくる骨格には術式に従ってスライムを加工した肉が張り付き。
血管、神経、臓器が模倣され、人体が形成されていく。
こうして出来あがった大小様々な素体は、職人によって胸が盛られたり。
さまざまな注文に合わせて顔や髪型などが作られる。
高級シキガミといってもガイア連合の創始であるショタオジが関わるのはコアの生成と魂入れの部分だけである。
この辺り、大昔の仏像の作り方と大差ないと言える。
「デモニカの生産も順調ですお。
外部からの需要が多すぎて販売は抽選と予約で埋まっているのが現状で、
生産数を上げられないのかという声。
生産方法を公開して委託してくれという声が大きいですお」
「うーん、こっちで制御できなくなると本末転倒だし。
それは保留で、やっぱり非覚醒者に人気かな?」
「いえ、むしろレベル10~15の一流とか超一流と言われている霊能者の方が熱望してる感じですお」
これにはショタオジも『おや?』という顔をする。
「機械に頼るなんてと反発されると思ったけどなぁ」
「これに関しては、ガイア特撮、ガイアアニメーションが変身ヒーローの啓蒙を広めていたせいか
十代から三十代くらいの若手にはリアルヒーロースーツと好評ですお」
「ああ、世間一般的にはレベル25~30くらいはガチの英雄か」
「無効系の耐性とかも視野に入るレベルですお。
範囲系スキルも多数手に入るスキルメイクが楽しくなってくるレベルなのが大きいんじゃないかなと」
彼は資料をめくり視線を霊薬の川からロボットアームが鉄板を運び溶接する。
自動車工場のようなラインに目を向ける。
ベルトコンベヤーから流れてくるのは4メートルの人型の巨人。
軽自動車のような箱に六本から八本の脚がついた異形の車。
「4メートル級の巨大デモニカ、通称『レイバー』
重機の使えない避難所異界に建物を建築し、いざとなれば戦力になるよう鋳造された神の像」
ガイア連合は『終末後に文明崩壊しても文化的で安全に生活できる安地の確保』を不動の目標として掲げている。
終末後の魔界との融合によって動かなくなる電子機器を動くように改良。
防衛力の高い異界に食料や雑貨、家具などを生産するラインの構築。
現世には世界が魔界と融合したとしても問題なく稼働する核シェルター。
異界には、防衛力が高く快適な要塞兼住居の建築。
その為に非覚醒者でも異界で使える重機や大型農機具は必須であり、戦力として使えれば尚良い。
そして、目をつけたのが封神演義に出てくる仙人たちが使うロボである黄巾力士。
ギリシャ神話の青銅の巨人タロスの概念である。
「それはそれとして、皆ロボ大好きだおね」
「うん、まぁ男の子だしね」
便利なのは確かだが、趣味が入っていると言われると否定できない。
「そういえば、車輪で動くバイクとかの開発も順調だって?」
「コラボしたこともあるのだから必ずいるはずだと執念で首なしライダーの『デュラハン』さんを探し出した転生者の協力もあって順調ですお。
デモニカとバイクをセットにしたライダー派が燃えていますお」
「みんな、好きだねぇ」
呆れとも感心ともつかない顔でショタオジが笑う。
実のところ、この男は転生者以外にはかなりのコミュ障である。
故にショタオジ婚活トトカルチョにてハム子や事務のちひろは結構人気である。
「今回の異界攻略で魔王を打倒した彼のシキガミは早急に制作するよ。
まぁ実際そうなんだけど、彼。
ウチの秘蔵っ子に見えるしね」
「魔王モロクはゲヘナの主。
それを討伐したとあってメシア教穏健派の鼻息が荒いですお」
「そりゃぁ大変だ」
とショタオジは他人事のように笑う。
「それより、そろそろ現場に戻りたいお。
ペルソナ使いの新人も増えてるみたいですしお」
「いや、いや、ペルソナ使い用のデモニカやシキガミとか試験して欲しいものは、まだまだあるから。
じっくりとやっていこうよ」
転生者に対しては、過保護ぎみなショタオジとそれに顔をしかめる心スライムの青年。
「やっぱり、強くならなきゃ・・・・」
「いや、まって・・・まって」
世は移り変わり、時は止まる事は無い。
されど、この一時だけは平穏を・・・・・
終末の時は近い。
なんとか、年内に完成しました。
設定を貸してくださった「どくいも」さまに感謝します。
どうぞ、お納めください。
良いお年を