『鳴上悠は鬼殺の夢を見る』   作:OKAMEPON

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『重ならない想い』

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 宇髄さんの所から始まった柱稽古ももう折り返しを過ぎて、次は不死川さんの所での訓練になる。

 

 最初は二百人以上で同時に始めた柱稽古だが、柱の下を回る内に段々と先に進める人数は明らかに減っていって。

 俺はどうにか一番順調に柱稽古を突破している中に何とか食らい付いていられているけれど、それでも本当にキツい訓練だ。

 無惨との決戦に向けて、少しでも隊士たちに鬼を相手に殺されずに鬼を殺せるだけの力を付けさせようとする訓練であるからこそ、どの柱も皆本当に容赦が無い。

 少しでも手心を加えれば、それが巡り巡って俺たちの命取りになりかねない事をよく分かっているからこそ、容赦なんてしていられないのだろうとはよく分かる。

 それに、そうやって柱稽古をこなしていく内に、昨日よりも確実に強くなっている事を実感出来るのは悪い事では無かった。

 柱の人たちの強さにはまだ全然追い付けていないけれど、俺たち一人一人がその小さな一歩をどれだけ重ねられるかで無惨を倒せるかどうかが決まるのなら、どんなに苦しい訓練でもやらないなんて選択肢は無い。

 

 ……なお、今までのどの訓練も本当に厳しいものであったけれど、やはり一番苦しかったのは甘露寺さんの訓練であった。

 伊之助程の柔軟性があるならともかく、俺たちの身体はそんな柔軟性には遠く及ばなくて。

 力技で身体を解された時には、本気で手足が千切れるんじゃないかと思った程だ。

 善逸なんて、甘露寺さんに触れて貰った時にはデレデレとした顔をしていたのに、身体を解された瞬間に地獄の責め苦にあっているかの様な顔をして、喜んでいるのか苦しんでいるのかよく分からない顔をしている程であった。

 数日経てば力技の解しによる柔軟性の向上の効果も出ていたけれど……。蝶屋敷での機能回復訓練の際に施される解しはとても優しいものだったんだなぁ……と皆で遠い目になってしまった。

 その後に向かった伊黒さんの下でも、無事に合格の判定が出たので今は不死川さんの所へと向かっている最中である。

 

 

「不死川さんの所には悠さんも居るんだよな」

 

 一緒に横を歩いている善逸の言葉に、「ああ」と頷く。

 俺たちが柱稽古で其々の柱の下を順番に回っている間に、悠さんも柱の人たちの間を回って手合わせをしているらしい。

 俺たちと入れ違いになる様に次の柱の所へ行っている様だったが、まだ暫くは不死川さんの所に滞在する予定なのだと手紙が返って来ていたので、ちょっと久し振りに悠さんに会える筈だ。

 

「カミナリも居るのか! カミナリとも手合わせ出来んのか!?」

 

「ええー……次の不死川さんの所の訓練って確か無限打ち込み稽古だぜ。

 悠さんを相手に手合わせ出来る様な余力なんて残らないんじゃないの?」

 

 ワクワクして来たとばかりに伊之助は声を上げ、そんな伊之助に善逸がちょっと信じられないとばかりに引いた様に言う。

 元々強い相手との力比べや手合わせが大好きな伊之助は、柱稽古を柱たちと手合わせ出来る機会だと考えていてそれはもう大喜びで参加している。

 多くの隊士の人たちは、風柱の試練が「無限打ち込み稽古」だと知った時にこの世の終わりの様な顔をしていたけれど、伊之助だけは寧ろ大喜びだった程だ。

 今までの柱稽古の内容を考えるとこの「無限打ち込み稽古」も非常に厳しい訓練になるのだろう。気を引き締めてかからなければ。

 

 そんな事を考えながら鎹鴉たちの案内に従って歩いていると、大きな屋敷が見えて来た。

 此処が風屋敷だと鎹鴉たちに教えられたそこで待っていたのは、不死川さんと悠さんと、そして俺たちよりも少し早く伊黒さんから合格を認めて貰っていたカナヲだった。

 カナヲと不死川さんは打ち込み稽古の最中で、激しい嵐の様な打ち合いが繰り広げられている。使っているのは木刀なのだが、油断すると蝶屋敷送りになりかねない激しさだ。

 それを見た善逸は「嘘でしょ!」と顔を青褪めさせ、伊之助は興奮して「俺も」とばかりに飛び入り参戦しそうになる。

 そしてそんな俺たちを見て、二人の稽古を縁側に腰掛けて観察していた悠さんが軽く手を振ってくれた。

 どうやら悠さんは不死川さんとの手合わせもしつつ、万が一打ち込み稽古の中で大きな怪我をした場合はその場で治療出来る様に待機しているそうだ。

 

 今の打ち込み稽古に一区切り付けて休息を取った後から、俺たちも打ち込み稽古に参加する様にとカナヲの攻撃を捌いている最中だった不死川さんから指示が飛び。それを聞いた善逸はこの世の終わりだと言わんばかりの顔をする。だが喚こうが嘆こうが訓練からは逃げられないので、死にそうな顔になりながらも善逸はその場に踏み止まるのだが。

 訓練の開始までには少し時間があるとは言え、それまでの間を何もせずにのんびりと過ごすなんて訳にもいかなくて、俺たちは見取り稽古の様に二人の打ち合いをじっくりと観察する事になった。

 

 禰豆子を刺した事に関して、俺は正直今も不死川さんの事を認めていない。幾ら禰豆子が人を襲わない事を証明する為にはああする必要があったとは言え、あんな風に何回も刺す必要は無かった。それに、一言位は禰豆子に謝って欲しかった。

 とは言え、不死川さんが柱として恐ろしく強い人なのだという事は、カナヲとの打ち込み稽古を見ているだけで伝わってくる。

 物凄く目が良い上にしのぶさんの継子として鍛えられているから素早い動きなどを見切る事が得意なカナヲであっても、隙の無い動きで反撃してくる不死川さんの攻撃をかなりギリギリで避けている。

 今までに柱稽古の中で手合わせをして貰った煉獄さんや時透くんや伊黒さんのそれも本当に強かったし凄かったし、呼吸の型は使っていなかったのを見るに手加減されていたのだろうに、合格基準に到達するのが精一杯で一本取る事も出来なかったのだが。

 こうして観察しているだけでも、今まで手合わせをしてきた柱たちに勝るとも劣らない不死川さんの強さが分かる。

 俺たちとカナヲの四人で挑み掛かっても、果たして一撃入れる事が出来るのかどうかも難しいかもしれない……。

 柱の強さを実感する度に、上弦の鬼たちと戦って生きて勝ち抜く事が出来た事がどれ程に実力以上に幸運に恵まれた結果である事なのかが分かる。

 そして、だからこそ。

 上弦の鬼以上に遥かに強い鬼舞辻無惨を討ち滅ぼす可能性を上げる為に、少しでも鍛え上げなければと意気込みを新たにするのだ。

 

 そして実際に無限打ち込み稽古が始まったのだが、想像していた以上にこれがとても厳しい。

 攻撃を回避する事は出来るのだが、いざ此方が打ち込もうとすると手痛い反撃が襲いかかって来る為、中々有効な一撃を入れる事が出来ないのだ。

 四人で連携しても、不死川さんの反応と攻撃はそれを上回る。

 そして不死川さんは人数が増えたからなのか呼吸の型を使って攻撃してくる様になったのだが、それがまた暴風の様に激しいものなのだ。

 防御しようとしても或いはどうにか受け流そうとしても。その上から吹き飛ばされる程の威力と速さだ。

 しかも回復の呼吸に充てる為の僅かな隙を完全に潰そうとして襲われるので中々疲労が抜けない。

 しかも、「一区切り」が非常に遠い。

 体力が尽きて反吐を吐くと共に倒れて漸くそこで暫しの「休憩」になる。本当に辛い。

 

 何度も倒れては暫し「休憩」して、と繰り返していると。

 不死川さんがふと「テメェらはそこで休んどけェ」と、稽古場になっている庭の端に転がっていた俺たちに声を掛けて打ち込み稽古を一旦休止させて、今度は縁側に座っていた悠さんを呼ぶ。

 どうやら、今度は悠さんとの手合わせをするらしい。

 

「嘘でしょ……あのおっさん正気かよ……散々俺たち相手に暴れて、まだ余裕があんの……」

 

 一時的な失神からは回復した善逸が、信じられないとばかりに震える声で呟いて。

 体力の限界まで動いた事でもう動けない伊之助が、仰向けに倒れたまま「俺だって……!」と闘志を燃やして。

 俺たちよりは少し余裕があるカナヲは、身体を休めながら二人をジッと観察する様に見ている。

 強い人同士の戦いは見ているだけでも物凄く学ぶべき部分を見付けられるし、吸収出来ればそれは間違いなく自分の力になる。

 里では時透くんと悠さんとの戦いを観察したり、或いは全員で悠さんに挑み掛かった事もあったけれどどれも本当に凄い経験になった。

 だからこそ、悠さんと不死川さんがどんな風に戦うのかはとても気になるのだ。

 

 俺たちが見守る中、悠さんの合図で二人の手合わせが始まった。そしてその瞬間、凄まじい速さで斬撃が幾重にも周囲を切り刻む。

 それを見た伊之助が、「六つ目鬼の技みてぇだ」と驚いた様に呟く。どうやら、悠さんは上弦の壱の戦い方を再現して手合わせしている様だ。

 無数の斬撃に襲われた不死川さんは、それを正確に見切って斬撃と斬撃の僅かな隙間に躊躇いなくその身を滑り込ませて悠さんを狙う。が、低い位置から狙おうとしたその刀身を悠さんは素早く踏み付ける事で阻止する。

 その瞬間、互いの視線に火花の様なものが飛んだ気がした。

 刀を踏まれて攻撃を阻止された不死川さんは、今度はそれを捻じる様に振り払いつつ風の呼吸の型で悠さんの足を狙う。

 それを軽く跳んで避けた悠さんの首を目掛けてさらに鋭い突きが放たれたが。

 悠さんは目にも止まらぬ速さで突き出されたその切っ先を掴んで、思いっきり地面に向かって押し下げて。瞬間的に無防備になった不死川さんに向かって再び無数の斬撃を放つ。

 自身を襲うそれを回避する為に、不死川さんは咄嗟に固く握り締めていた木刀を手放して地を蹴って一気に後退する。

 結果として斬撃を全て回避する事は出来たが、悠さんの手に奪われた木刀はスッパリと切断されてしまう。

 そして、武器を喪った為手合わせは一旦そこで中断する事になった。

 

「あーっ、クソ。

 あの突きは決まったと思ったんだがなァ」

 

「いえいえ、警戒してなかったら防げなかったですよ、あれは。

 それよりも、やはり武器を狙われた際の対応が問題になるかもしれませんね」

 

「だなァ。相手が元は鬼殺の剣士だってェなら、こっちの日輪刀をどうにかしようとしてくる可能性はたけェ」

 

 そう言って先程の手合わせについての感想を述べ合う二人に、俺たちは次元の違う強さを見せ付けられて絶句していた。

 正直俺には不死川さんの様に最初の斬撃の嵐を避けられる自信は全く無いし、悠さんの様に木刀とは言え目にも止まらぬ程の速さで突き出された軽く岩を砕く威力が込められたその切っ先を掴んで止めるなんて絶対に無理だ。

 上弦の鬼を討つ為に、そして鬼舞辻無惨を討つ為に、その対策を見付ける為の、まさに次元の違う戦いだった。

 余りにも速過ぎる攻防をちゃんと目で追えているだけ自分の成長を感じられるけど。しかし自分がこの攻防を実際に出来る様になるまでどれ程の鍛錬と時間が必要になるのかと思わず慄いてしまう程だ。

 不死川さんの凄い所は瞬時の状況判断能力が恐ろしく高い。柱として長く様々な鬼たちと戦ってきた経験で培われた感覚によるものなのか、それは思考するよりも早く身体が動いている様にすら見える。それでも、悠さん……正確には上弦の壱に一太刀入れる事は本当に難しいのだろう。

 

 お互いに感想を言い合って反省点を見付けて一息吐くと、二人は再び手合わせを行う。

 今度は武器の破壊を狙った悠さんの一撃を、その隙を狙った攻撃で不死川さんが返した事により激しい打ち合いになって。

 悠さんは激しい暴風の様な不死川さんの攻撃を臆する事無く正確に捌き続けるが、不死川さんの怒涛の連撃を前に防御と回避に専念しているかの様であった。それを好機と見た不死川さんがより一層激しさを増して攻撃を叩き込んでいると、悠さんの身体が瞬時に消えた様に沈み込み、僅かに隙が生まれていた足元を払う様に不死川さんの足を刈り取る様な足払いを決める。

 体勢が完全に崩される事はその強靭な体幹で何とか耐えたが、しかしより大きな隙が生まれた事には変わらない。そして当然そこを悠さんは狙う。

 しかし、その悠さんの一撃を、不死川さんは驚く程身軽に身を反らせて避ける。

 更にはそこに反撃の一撃を喰らわせようと周囲を根こそぎ薙ぎ払う様な型を信じられない様な体勢から繰り出した。

 だがそれを見切った悠さんは危うげもなく回避する。

 そして、無理な体勢から反撃した為どうしようもない隙が一瞬出来てしまった不死川さんの胴を狙って一撃入れる。

 その一撃は跳ね返された様に不死川さんを傷付ける事は無かったが、もしこれが実戦ならその一撃で胴を割られていたのだろう。

 その為、手合わせは再び中断された。

 

 どうやらそんな感じで、俺たちが来るまで二人はずっと手合わせをしていたらしい。多分、時透くんや甘露寺さんや伊黒さんの所でもそうだったのだろうけれど。

 目の前で次元の違う攻防を繰り広げられて、すっかり回復した伊之助は興奮した様に「俺も俺も」と木刀を掴んで飛び込む気満々になっている。

 善逸はあまりの激しさに驚いている様だったが、それでもその手合わせから何かを感じ取った匂いがした。

 カナヲはと言うと、どんな動きも見逃さないとばかりにジッとそれを二人の手合わせを観察している。

 そして、此方のやる気を見たからなのか、或いはこれも良い訓練になると判断したからなのか。

 不死川さんは俺たちにも手合わせに参加する様にと声を掛ける。

 無惨との決戦では、無惨以外にも上弦の鬼たちとの戦いが待ち受けている事は確実であるが、その時にどんな状況下で戦う事になるのかは未知数で。

 当然、柱の人たちと俺たちの様な隊士が一緒に戦う可能性だって大いにあるだろう。だからこそ、柱と共に戦う際の立ち回りなどを予め理解しておく事は大いに意義がある……と言う事なのかもしれない。

「足を引っ張ったらブチ壊す」と不死川さんに脅され、善逸は小さく悲鳴を上げて、伊之助は「寧ろ俺が真っ先にカミナリに一太刀入れるからな!」と奮起し、カナヲは静かに頷いて、俺は勿論だと頷く。そしてそんな俺たちを、相手する側である悠さんはちょっと苦笑いしつつ見ていた。

 

「武器を喪ったら離脱、一撃喰らっても離脱。

 その条件は絶対ですからね」

 

 本気で危ないから武器を喪ったからといって捨て身の攻撃はしないでくれ、と悠さんは言う。実際の戦いの場では、武器を喪ったからと言って諦められる訳では無いけれど、手合わせの場なのでと強調されては頷くしかない。

 そして、悠さんと俺たち五人との手合わせが始まる。

 

 手合わせを目で追っていた時も本当に凄かったが、実際にこうして相対するとなるとその緊張感は先程までの比では無い。

 悠さんの武器は木刀では持たないからと言う事で何時も使っているあの大きな剣なのだけれど、ちょっとでも殺傷力を抑える為に鞘に納めた状態で抜けたりしない様に頑丈な縄で厳重に縛っている。

 相手は悠さんだし此方を殺す気で掛かって来る事は絶対に無いから、実際に上弦の壱に相対する時よりはずっとマシなのだろうけど。それでも、悠さんから感じるその威圧感はビリビリと身を震わせる程のものであった。

 

 そして、不死川さんの合図で手合わせが始まったと同時に、一切の容赦が無いかの様な速さで周囲一帯が一瞬で斬り刻まれる。

 目で追っていては絶対に反応出来ないそれを避ける事が出来たのは、先程までの手合わせを観察していた事でそれを予測出来ていた事と、里で散々悠さんと手合わせをしていた時に身に付いた経験が培った「勘」のお陰だ。

 それでも、二撃三撃と信じられない様な速さで続けざまに放たれる斬撃の嵐を避ける事は本当に大変で。

 それに集中しなくては一瞬で一撃を喰らって離脱しなくてはならなくなる事を肌で痛い程に感じる。一瞬でも気を反らせば終わりだし、そして斬撃は縦横無尽に蹂躙してくるので全方位に常に気を張り詰め続けなければならない。

 一度でも判断が遅れれば、或いはそれを誤れば、即座に終わる。

 悠さんが相手だから良いものの、実際に上弦の壱を相手にしていたならその時点で即死するだろうというのがよく分かる。

 上弦の肆の分身を相手にしていた時に感じた以上の理不尽過ぎる攻撃の嵐だった。

 五人全員で掛かっても、悠さんに接近する事すら儘ならない。

 近付けたかと思っても、即座に怒涛の斬撃で距離を離される。

 そして、どうにか全員で囲んだと思えば、今度はその至近距離を殲滅せんとばかりの斬撃の嵐だ。

 

 悠さんは実際に戦った上弦の壱のそれを再現しているそうなのだが、こんなにも滅茶苦茶な相手にどう勝てたのかと本気で思ってしまう程だ。

 しかも悠さん曰く、自分の剣術自体は上弦の壱のそれと比べたら全く以てなってないのを、その身体能力や反射神経などでどうにかそれらしく取り繕ってやっているだけだと言うし……。

 本当に、上弦の壱は規格外の存在だ。それは、上弦の壱だけに留まらず、今残っている残りの二体に対しても言える事であるし、無惨はこれですら比べ物にならない力を持っているという事も言える。

 そう、上弦の壱は乗り越えなければならない相手ではあるが、あくまでも通過点で。逆に上弦の壱程度を倒せなければ無惨を倒すなど夢のまた夢である。

 だからこそ、この手合わせは何としてでも乗り越えなくてはならない。

 それに、上弦の壱は間違いなく強大無比な敵ではあるけれど、その手の内は既にほぼ完全に明かされている相手である。

 周囲一帯を斬り刻む斬撃の嵐だって、恐ろしく広い範囲を薙ぎ払う連撃だって、周囲を擂り潰すかの様な一撃だって、既にそれは実際に戦った悠さんや時透くんや煉獄さんや伊之助たちが見ているし、それを俺たちに教えてくれている。

 悠さんが放つ攻撃の全ては、それらを可能な限り忠実に模している。だからこそ「知っている」のだし、それに対応する事が出来ている。

 予め相手の手の内は分かっているのだ、後はそれに対応出来るかどうかだけの話だ。

 

 不死川さんが凄まじい勢いで型を出して悠さんの動きの選択肢を狭める。

 そこに伊之助が加わって広範囲を斬り刻み、悠さんにそれに対応する為の僅かな隙を作り出そうとする。が、それでもまだ足りない。

 善逸が双方の斬撃の応酬の僅かな隙間を抜けるかの様に思いっきり身を低くした状態からの霹靂一閃を放って悠さんを狙うが、その一閃は頸に届くよりも前に悠さんに片手で止められる。が、善逸が掴まれた木刀ごと投げ飛ばされかけた直前に、カナヲがその首を狙ってきた事でその反撃の為に善逸の木刀を掴んでいた手を放して鋭い斬撃を飛ばした。

 自分を襲った斬撃をギリギリで回避したカナヲは、更に一歩勢い良く踏み込む。

 俺はカナヲの僅かな視線で狙いを悟って、それに合わせて意識の死角になっているだろう反対側からヒノカミ神楽で悠さんの体勢を崩そうと狙った。

 が、俺たちの木刀の切っ先が届く直前に。一気に爆発する勢いで、根こそぎ纏めて薙ぎ払われて。その攻撃に全員が吹き飛ばされて、手合わせが終了した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「実弥さんと一緒に戦うのは初めての筈なのに、凄い息が合っていて驚いた。

 こっちもヒヤッとした瞬間は沢山あったし……皆本当に強くなっているな」

 

 今回の手合わせに関しての感想や反省点などを其々に話し合って。

 激しい攻防に流石の不死川さんも疲れたのか、長めの休息を取りに屋敷の奥へと入っていった。

 それを見送った悠さんは、鍛錬場に転がっている俺たちに水やお茶と共に疲労回復の為のちょっとした甘味として団子を振舞ってくれて。

 その団子を皆で食べながら、色々と話し合う。

 悠さんが沁々とそう言ってくれて、伊之助などは「親分だからな!」と鼻高々に喜んでいた。

 実際、柱稽古が始まってから随分と更に強くなれている気が物凄くする。

 それでも全然追い付けない柱の人たちの凄さには圧倒されるけれど、こうして強くなれている事を実感出来るからこそ、心が折れたりめげたりするよりも、「もっと頑張ろう」と心から思えているのだろう。

 

 そして先程の戦いに関して、上弦の壱についての話になる。

 最後の爆発する様に周囲を薙ぎ払う斬撃は、どうやら頸を斬られかけた事に反撃するかの様に放って来たものであるらしい。そして、そうなってしまったら正直手に負える状態では無いとも。

 

「刀を振る事すら辞めて、無制限に斬撃だけを発生させられたら正直もうどうしようもないと思う。しかも、斬撃を放ってくる刃自体は、黒死牟自身の肉体から幾らでも生えてくるからな……。

 剣山みたいな状態になられたら、近付くのはほぼ無理だと思う」

 

 どうにか斬撃を掻い潜って接近しようとしても、幾重にも幾重にも周囲を斬撃で蹂躙されたら、どんなに回避能力や反応速度が高くても勝ち目が無い。

 そうなってしまったらその場に少しでも長く足止め出来るようにするしか無いのだけれども……。

 

「ただ……黒死牟自身は、刀を振るう事にはそれなり以上に拘りがあるらしい。

 ……まあその拘りは、頸を落とされかけたら投げ捨ててしまえるものの様だが。

 だからこそ、あの頸を落とすならその機会は一度きりだと思った方が良い。

 そして、もし首を落とす事に失敗したらあの斬撃の爆発で即死するしかないだろうな」

 

 本当に難しい相手だ、と。そう悠さんは呟いて、それを憂う様に目を伏せる。

 斬撃自体は血鬼術が主体で発生させているのだろうから、何らかの方法で血鬼術を封じる事が出来るのなら良いのだろうけれど……残念ながら未だ血鬼術自体を封じる方法は無い。

 とは言え、その圧倒的な力にただ一方的に蹂躙されるだけではなくて、どうにか出来る可能性は決して多くはないが存在している。

 やはり複数人で相手をする事は有効であるそうだ。

 全員を徹底的に意識し続ける事は出来ないのだし、複数人で掛かればその中の誰かが突破口を開けるかもしれない。……まあ、ちゃんと連携を取る為の特訓をしなければ、却って足を引っ張る結果になりかねないと言う問題もあるが。

 蟻の一穴という言葉もある様に、些細な事が思わぬ結果を齎す事もある。

 俺たちは柱に比べれば出来る事はまだまだ少ないし、戦力としてもまだ頼り無いだろうけれど。だからこそ、その蟻の一穴を作り出す事が出来る手札にも成りえる可能性はあると思う。

 上弦の肆と戦った時だって、俺たちがもし柱だったらきっと早々に強力な分身を生み出して俺たちを潰そうとしていただろう。

 良くも悪くも俺たちは決して圧倒的な強者ではないからこそ相手の驕りや油断を誘えるのだし、実際に甘露寺さんと宇髄さんが救援に駆け付けて来てくれてからは上弦の肆の意識の大きな部分は二人に割けられていた。その隙を狙って、『本体』の頸を落とせたのだと言っても過言ではない。

 そして、そんな俺たちが少しでも強くなれれば、出来る事はもっと広がる筈だ。

 そんな事を言うと悠さんは「そうだな」と頷いて、善逸たちも確かにと頷いた。

 

「そう言えば、ちょっと気になってたんだけど。

 不死川って事は、風柱と玄弥って兄弟か何かなの?

 目つきとかかなり似てるし」

 

 ちょっと重くなった空気を変えるかの様に、気楽な雑談として善逸がそう言うと。

 悠さんは「ああー……」とそれはもうかなり悩んでいる様な溜息を零す。

 そんな風にどう見ても悩んでいる様子の悠さんを見るのはかなり珍しくて、どうかしたのかと全員で驚いていると。

 

「いや、確かに玄弥と実弥さんは実の兄弟だ。

 ……ただ、今あの二人は物凄く拗れていて……かなり難しい状態なんだ」

 

「難しい状態って?」

 

 正直上手く想像出来なくて、そう訊ねてしまう。

 以前里などで玄弥と話していた時に玄弥は自分には兄が居るのだと語っていたし、そしてその表情はとても穏やかなものだったので、てっきり仲が良いのかと思っていたのだけれど。

 

「何と言うのか……お互いに相手の事を大事に想っているのに、お互いに物凄く頑固だからすれ違っていると言うか……拗れてしまっていると言うか……」

 

 俺たちよりも深く事情を知っている悠さんは、どう説明したものかと難しい顔をする。

 そして。

 

「……例えばの話ではあるけれど、あの日禰豆子ちゃんが鬼になる事は無くて一命を取り留めて。それでも炭治郎には鬼舞辻無惨を追い掛けなくてはならない理由があって、危ない事には巻き込めないから禰豆子ちゃんを置いて鬼殺隊に入ったとする。

 それで何年かしたら、炭治郎を追い掛けて禰豆子ちゃんが鬼殺隊に入ってきてしまった。

 炭治郎は禰豆子ちゃんに危険な目に遭って欲しくないし明日の命の保証も無い鬼殺隊に居て欲しくはないからどうにかして鬼殺隊を辞めさせたい。

 禰豆子ちゃんは、自分が知らない所でずっと戦い続けていた炭治郎の力になりたいし幸せになって欲しい、だから鬼殺隊を辞める気は無い。

 その状況で、炭治郎ならどうする?」

 

 そんな仮定を問われて、俺は少し考えてしまった。

 ……正直、もしあの日禰豆子が鬼にされる事無く一命を取り留めていたら……多分俺は鬼殺の道を選ぶ事は無かっただろう。

 だって、あの日の俺は戦う為の力なんて何も無いただの炭焼きだったし、家族が惨殺されて一杯一杯で……禰豆子をどうにかして守って食っていこうとして、それまでの日々をどうにかして続けようとするのではないだろうか。

 鬼の存在を知って、夜の闇に鬼の気配を感じてそれに怯え、決して消える事の無い血塗られた記憶に一生苛まれるのだとしても。

 それでも、俺は長男としてたった一人残された妹を守ろうとしただろうし、そして俺以外に頼る者が居ない禰豆子を置いて何処かに行く事なんて出来なかっただろう。

 それに、今まで生きて来たその生き方を変える事はとても難しいし、知らなかった生き方を急に選べと迫られてそれを選ぶ事も難しい。

 それ以外に選択の余地が無くて、学も無く伝手も無い俺には、鬼になってしまった禰豆子を助けられるかもしれない道はそれしかなかっただけで……。そうでなければきっと選ばなかった道だろうとは思う。

 正直、俺よりも気丈で思い切りが良い禰豆子の方が、自分で鬼殺の道を選ぶ可能性の方がある気がする程だ。

 それなのに、禰豆子を置いてでも鬼殺を選ぶ事情というのは……想像するのが難しいけれど。まああくまでも仮定の話だし主題はそこじゃないので、「そういう何かが在った」のだとして考えて、そしてその難しさに頭を悩ませる事になった。

 鬼殺の剣士として戦う事は、死と隣り合わせの日々になる。それはどんな甘い言葉でも誤魔化しようの無い事実だ。

 俺は偶々運良く此処まで生きてこれたけれど、正直危ないと感じた事は何度でもある。本来なら守らなければならない禰豆子に逆に守られた事も一度や二度では無い。……今の禰豆子は鬼だから、負った傷は直ぐに治る、正直俺よりもずっと強い存在でもある。でも、傷付いたその痛みを禰豆子は覚えているのだし、そしてもし禰豆子が鬼でなかったら……人間であったらと思うとゾッとする程の傷を負っているのだ。そんな場所に何よりも大事な禰豆子を飛び込ませる訳にはいかない。

 たった一人残された大切な家族なのだ、絶対に喪いたくなど無い。

 それが禰豆子自身の意志なのだとしても、それでも俺はきっとどうにかして鬼殺隊以外の道を探して欲しいと願うだろう。

 その結果、言い合いになるのだとしても……。

 

「俺は……多分、禰豆子に鬼殺隊を辞める様に説得しようとすると思います。

 他の道があるなら、禰豆子にそれを選ばせたくは無いから。

 だって、禰豆子は器量良しだし手先は器用だし、鬼殺の道を選ばなくても生きていける。俺を助けたいって……そう禰豆子が思ってそう決めてしまったのだとしても、俺は禰豆子が笑って幸せに生きてくれるならそれだけで幸せなんです。

 だから……頑張って話し合うと思います。俺も禰豆子もとても頑固だから、お互いに中々折れないかもしれませんけど、でも何度でも話し合ってでも、俺は禰豆子が危ない目に遭わないで済む様にしたいです」

 

 それが正しいのかは分からなくても。でも、やっぱり禰豆子には幸せになって欲しいのだ。鬼殺の道を選んだからと言って不幸になるという訳では無いけれど。

 でも、もっと違う幸せの形はきっとある。それしか選べないのではなくて、もっと選択肢があるのなら。禰豆子自身の幸せを一番に考えて欲しいと思ってしまうのだ。

 そんな俺に、悠さんは優しい目で静かに頷いた。

 

「……炭治郎はとても優しいし、禰豆子ちゃんの事を心から考えている。

 だからこそ、認められないものもある。それは、決して間違ってなんかいない。

 ただ、炭治郎の様に『話し合う事』を一番最初に選べない事だってある。

 話し合う事は……ちゃんと相手に向き合ってその言葉を受け止める事は、そんなに簡単な事じゃない。

 そんな心の余裕が無い時だってあるだろうし、そうやって向き合う事自体から逃げてしまう事もある。

 そして、相手を大事に想っているからと言って、本当にその相手自身を見詰める事が出来るかどうかもまた別の話になってしまうんだ。

 どうしたって人間は主観でしか相手の事を見れないし、そしてそれは『相手の事をよく知っている』と思い込んでいると、容易に『自分がそうだと思い込んでいる相手』を見てしまう事に繋がってしまう」

 

 誰もが、ずっと同じでは居られない。時の流れの中で、或いは誰かとの出逢いや何かの出来事を切っ掛けにして誰もが大なり小なり変わっていく。

 だからこそ、こうだと思い込んでいると、今目の前に居る相手の事が見えなくなってしまう事もある。

 今目の前の相手が何を考えているのかなんて、本当の所はちゃんと向き合って話し合わないと分からないのに。話し合う事を放棄して、「自分に都合の良い相手」を見てしまう事は少なくは無い。

 そう言って、悠さんは少し困った様な顔をした。

 

「……玄弥と不死川さんがそうだって言うんですか?」

 

「実弥さんと玄弥の間の事はもっと複雑だから、そう簡単には言えないけどな……。

 ……実弥さんは優しい人ではあるんだけど、それ以上に余裕が無くて不器用な人なんだと思う。

 誰もが自分の過去に囚われる様に、実弥さんもまた過去に囚われているんだろうな……。

 実弥さんは、拒絶するしかやり方が分からなくなっているし、そしてそのやり方に囚われてしまっているみたいなんだ。

 傷付いて欲しくないから傷付けて、本末転倒みたいな事になっているけれど。……そうやって傷付けて拒絶して、自分が嫌われたりしても良いから守りたいって、そう頑なになっている。

 でも、それじゃあ少なくとも玄弥との事に関しては上手くはいかない」

 

 玄弥だって生半な気持ちで鬼殺隊飛び込んで来た訳では無いのだし、寧ろ自分の気持ちは絶対に譲らない覚悟でそれだけを胸に戦っている。

 幾ら拒絶されようが傷付けられようが玄弥が自分の思いを変える事は無いし、その程度で変わるものならとっくの昔に諦めて鬼殺隊を去っているだろう。

 そして何をされようと何を言われようと、玄弥は不死川さんの事が大好きだし、だからこそ鬼殺隊に留まり続ける。

 玄弥のそんな想いを蔑ろにする様に自分としての「最善」を一方的に押し付けていても、それで上手くいく筈もなくて。

 だからどうしようもなく拗れているのだ、と。

 そう悠さんは難しそうな顔をして言った。

 

「何だそれ、意味わかんねーな。

 普通に玄米の事が嫌いなんじゃねぇのか?」

 

 正直そう言った難しい心情の機微にはとても疎い伊之助は、理解出来ないとばかりに首を捻る。

 そんな伊之助に悠さんは少し苦笑した。

 

「好きで好きで堪らないと、相手の事が逆に分からなくなってしまう事もあるんだ。

 本当に好きじゃないならそもそも無関心になってしまうし、態々鬼殺隊を辞める様になんて言わないからな。

 例えば伊之助だって、炭治郎たちが山でとても危ない所に行こうとしてたら止めるだろう?

 でも、炭治郎たちにはどうしてもそこに行かないといけない理由があったら、伊之助が普通に言っても止まってくれないかもしれないし、それで言い合いになってしまう事はあるかもしれない」

 

 まあ、今のあの二人は言い合いすら出来てないけど、と本当に困った様に悠さんは言う。

 そして伊之助は悠さんから言われたその状況を考えてみたのか、ウンウンと考えた後に、ちょっとしょんぼりする。

 

「炭八郎も忠逸も親分である俺の言う事はちゃんと聞く筈だろ……」

 

 しゅんとなってしまった伊之助を、全員でよしよしと撫でた。

 暫く大人しく撫でられていた伊之助は、ふとした時に「俺をホワホワさせんな!」とちょっと噛み付く様に言ってきたけど、でも手を振り払ったりはしない。

 

「そんな複雑な事になってるなら、それこそ話し合った方が良いんじゃ……」

 

 善逸はそう言うが、悠さんはそっと首を横に振る。

 

「俺もそう思うし、どうにかして実弥さんと玄弥がちゃんと話し合える様にはしたいんだけど……。

 ただ、実弥さんは本当に頑なになってしまっていてな、そう簡単には上手くは行きそうにないんだ。

 下手にそれを押し付けると恐らく逆効果になるだけだろうし……。

 それに多分、話し合うにしても彼処まで拗れてしまっていると誰かが立ち会った方が良いんだけど……それも多分難しい」

 

 不死川さんがどうしてそこまで頑なになってしまっているのかは、流石の悠さんにも分からない事で。ただ、長く鬼殺隊で柱を務めている事や、玄弥と別れてからもう何年も経っている事もあってかなり複雑な事情や出来事が背景にある可能性もあるので、その事情を知らない者たちが無理矢理正論を叩き付けても恐らくは逆効果なのだと言う。

 そして、拗れに拗れてもうどうにもならなくなっている状態では、一対一でまともに話し合いが出来る可能性は非常に低く、誰かが立ち会って仲裁した方が良いのだけれども。

 しかし、二人の事をある程度知っていて、更には二人からの信頼も厚く、極めて私的な事情に立ち入る事を許せる程の相手である必要がある。そして、何よりも大事な事は、出来る限り二人に対して公平に接する事が出来るかどうかだ。

 しかし、その条件を満たせる相手は非常に少ない。

 更には、不死川さんは今の柱の中でもそこそこ古株の部類である事も、立会人になれる相手を狭めている要因になっている。

 岩柱の悲鳴嶼さんは決して玄弥を過剰に贔屓する事は無いだろうけれど、それでも玄弥は弟子なのでそちらの肩を持ってしまいがちになる。

 義勇さんは……まあそもそも不死川さんとの相性はあまり良くないらしいし、第一に玄弥の事はあまり知らない。

 他の柱の人たちは基本的に皆柱稽古で忙しい事もあって、二人の立ち会いが出来るかどうかは怪しい。

 不死川さんが心から信頼している相手としてお館様の事も勿論考えるが……それだと玄弥が萎縮してしまう可能性が高いし何よりお館様を前にして腹を割って話し合えるかと言われると難しいものがある。

 

「俺は実弥さんの想いも玄弥の想いもどっちも出来るだけ尊重して、少しでも良い結果を得られる様には尽力したいけれど。

 でも、実弥さんにとって俺は『玄弥の友だち』だから……公平な立会人としてはあまり相応しい訳じゃないんだろうな」

 

 本当にもどかしい、と。そう悠さんは溜息を吐く。

 そもそも、立ち会う以前に二人を話し合いの席に着かせる事自体がとても難しくはあるのだけれど……。

 その時、ふとカナヲが「あ……」と小さく声を上げた。

 

「悠さん、あの……師範に相談してみてはどうですか?」

 

「しのぶさんに?」

 

 少し意外だったのか、ちょっと驚いた様に目を瞬かせて悠さんは首を傾げる。

 そんな悠さんに、カナヲは一生懸命に考えを言葉にした。

 

「風柱様は昔……カナエ姉さんが生きていた頃から蝶屋敷には何度も来ていて、師範の事もよく知っているし、師範も風柱様の事を知ってる筈で。

 それに師範は玄弥の事も知っているから……」

 

 そう言われて、悠さんは「成程……」と少し考えている様に頷く。

 

「そうか、しのぶさんか……。

 確かに、実弥さんとも関わりがあってもおかしくは……。

 それに、何か知っているかもしれないし……。

 うん、有難う、カナヲ。

 ちょっとしのぶさんに相談してみるよ」

 

 助かった、と。そう悠さんは微笑んだ。

 何かいい考えが思い付いたのかもしれない。

 

 

 それから翌日には獪岳が不死川さんの訓練に参加して、そしてその翌日には。

 伊黒さんの訓練に合格した玄弥が風屋敷に向かっていると、無限打ち込み稽古中にそう鎹鴉から報告されたのであった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆




【竈門炭治郎】
回避力が高まっているので無限打ち込み稽古でボッコボコにされるという事は無い。が、体力を使い果たして反吐を吐いて倒れるまで打ち込み続ける事になるのでキツい事には変わらない。
風屋敷でも炊き出し係に立候補。炭治郎の事を認めきれていない実弥も、炭治郎の炊いた米の旨さを認めずにはいられなかった。ちなみにおはぎを作るのも上手。


【不死川玄弥】
物凄く頑張って伊黒さんの柱稽古を突破した。
物凄く努力家でしっかりと鍛錬する意欲が非常に高かった為、稽古場に括り付けられる事は何とか回避出来た模様。
なお、実弥は玄弥の「鬼食い」の事を知らない。


【不死川実弥】
無限打ち込み稽古は、一応あまり酷い怪我は負わせない様には気遣っている。ほぼ最低限ではあるが、女性隊士にはちょっと優しめの対応。ただ、カナヲの回避力は凄まじいのでそれに合わせてハードルがどんどん引き上げられている。
総じて回避力や攻撃タイミングの判断が的確な死に覚えトレーニング参加者(炭治郎たち)に合わせて上がったハードルは物凄く高い。炭治郎たちの後から風柱の稽古にまで辿り着いた隊士たちは、余りの辛さに血涙を流す結果になるかもしれない。


【我妻善逸】
複雑怪奇に拗れた兄弟関係に驚く。
血が繋がってて互いに大事に想いあっている「家族」でも上手くいかない事はあるんだなぁ……と、何だかちょっと悲しい。


【嘴平伊之助】
情緒を順調に育てている。
ただ、人の心の複雑さを理解するのはまだ少し難しい。
書き取りはまだちょっと今ひとつ拙いが、最近は自分の名前や炭治郎たちの名前の字をしっかりと読めるようになった。でも炭治郎たちの名前はまだ15回に14回は言い間違える。


【栗花落カナヲ】
悠の料理だけでなく炭治郎の炊いたご飯も食べれてとても嬉しい。出来るなら毎日炭治郎の炊いたご飯を食べたい。


【鳴上悠】
風屋敷滞在中に、実弥の極上の稀血の事や、鬼になった母親を殺した後で鬼殺隊に入るまで何をしていたのかを実弥の口から語られたので知っている。そして頭を抱える事になった。
何でこんなに複雑怪奇に事情が絡まっているんだ……と余りにも悪意的な条件の積み重ねに呻くしかない。
なお、匡近の事までは悠は知らない。もし知ったら、更に頭を抱える事になる。



≪今回のコミュの変化≫
【刑死者(不死川実弥)】:6/10→8/10
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