殴りガンナーのボーダー活躍記   作:コウタロー

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第四話

「うおお! すげえ、二宮さんに勝っちまった!」

 

 ロビーで見物していた誰かが声を上げる。二宮と真正面から戦って勝ち越せる人物はそう多くない。ぽっとでの男がその中の一人に入ったのだから、驚きは一入である。それにその感情はロビーの大体に共通のものであった。その声に文句をいうものなど一人としていない。

 

 ブース内で勝ち越しを喜ぶ久遠はベットに寝転がったまま両腕を上げていた。その口角は吊り上げており、見ただけでうれしいのだとわかる。

 

 そんな彼のブースの扉が開く。入ってきたのは先ほどまで戦っていた二宮である。彼の姿を認識した久遠は身体を起こすと、彼の前に立った。

 

「……最初の四本、いや二から五本目までは手を抜いていたのか?」

 

「いえ、手を抜いていたんじゃなくて動き方を見てたんです。最初の一本でまともに戦えないと思ったので守りに専念して動きを見ようと思って」

 

「お前、特殊なトリガーを使っているだろう」

 

「ええ、一応言っておきますけど本部長にも城戸指令にも許可は取ってありますからね」

 

「そうか……」

 

 久遠の話を聞いて二宮は納得したように目を瞑りながら声を上げる。

 

 沈黙が流れるブース内。そこにさらに足を踏み入れてくる存在があった。

 

「随分派手にやられちゃったみたいね、二宮くん」

 

「加古か。笑いに来たのか?」

 

 ブースにやってきたのは加古であった。二宮に声を掛けると久遠のほうに視線を向けた。彼女の存在に気づいた二宮は不機嫌そうに睨みつけた。

 

「それもあるけど……。今回はあなたを倒した隊員の顔を見に来たのよ」

 

 二宮の視線を気にも留めずに、久遠をじっと見つめ続ける加古は暫く彼を見つめたところで声を上げる。

 

「ねえ、私たちの部隊に入らない?」

 

「はい?」

 

「相変わらずだな。会って早々勧誘か?」

 

「あら、会って早々ランク戦の二宮くんに言われたくないわ。それに二宮くんに勝ち越せるほどの銃手。見逃さない手はないと思うけど?」

 

 加古の指摘にフイっとバツが悪そうに視線を逸らした二宮。そんな彼など気にしていないかのように、加古はニコニコと笑いながら久遠の返答を待つ。

 

「すいません。お気持ちだけでお願いします。防衛任務と本部職員の二足の草鞋に、ランク戦の三足はさすがに……」

 

 しかし、久遠の返答は決まっていた。さすがにボーダー内でこれ以上業務は増やせない。

 

「あらそう、残念」

 

 仕事という正当な理由で辞退された加古は引くしかない。勧誘を諦めると今度はランク戦の対戦相手として狙いを定める。

 

「じゃあこの後私とも十本どうかしら?」

 

「時間があればいいんですが……。それより先にあいさつ回りを終わらせてきてもいいですか」

 

「確か東さんの同期の子たちだったわよね。それならほら。みんな下で見てるわよ」

 

 加古が指さした通り、ロビーには既に個人ランク戦一位の太刀川慶や、広報部隊嵐山隊の隊長である嵐山准など同期の面々が揃っていた。

 

 それを見て久遠は手間が省けてこれ幸いと、ロビーから出て彼らのもとに向かって行き声をかけた。

 

「太刀川さん、風間さんお久しぶりです」

 

「久しぶりだな」

 

「久しぶりだな久遠。それよりこれから十本勝負どうだ?」

 

 まず最初に年上の二人に頭を下げながら声をかけると、好意的な声色を返してくる。

 

「それに准、ザキ。卒業式以来だな」

 

「久しぶりだな綾仁。元気そうで何よりだ」

 

「久しぶり。それよりお前、こんなに強かったんだな!」

 

 続いて同い年の同期二人に意識を向ける。彼らは同じ高校だったということもあり、ボーダー内でももっとも気安い存在と言えるだろう。

 

「で、三輪はいないのか?」

 

「ああ、あいつだったらさっきまでいたんだが、ランク戦が終わってどっかにいなくなっちまった。やっぱり顔合わせにくいんだろ」

 

 久遠の問いかけに太刀川が応える。その答えを聞いた久遠は後頭部を掻きながらぼやくように声を上げた。

 

「しょうがない。後で隊室に顔出させてもらおうかな……」

 

「そんなことより十本勝負どうだ?」 

 

「あら太刀川君。私が先に約束してたのよ?」

 

 挨拶を終え、太刀川が久遠に十本勝負を持ちかけようとしたとき、ブースから出てきた加古が割って入ってくる。太刀川に割り込まれたくないらしい。

 

「いいじゃんか、たった十本だけだ」

 

「そういって太刀川君が十本で終わった試しがないじゃない」

 

「ここは同期ってことで譲ってくれないか?」

 

「ダメよ。順番通りにやれば誰も不幸にならないわ」

 

 二人はなぜか言い争いを始めてしまう。いい大人が何をやっているんだと思いながら、久遠は二人のやり取りを嵐山たちと眺めていた。

 

 そんな久遠の腕が引かれた。腕のほうを見てみると彼の腕を引いていたのは風間であり、ブースに引きずり込もうと力を緩めない。

 

「いいんですか? 抜け駆けして」

 

 彼らを飛ばして先に始めてしまおうという魂胆の彼に対して声を上げる久遠。

 

「言い争いをしている奴らが悪い。それに俺も少しお前の戦い方が気になっているからな」

 

 しかし、風間はどこ吹く風。ぐいぐいと引っ張りブースに久遠を叩き込むと、自分もブースに入ってしまった。

 

 こうして五本先取のランク戦を始めた二人。相対した二人の内、風間は両手に近接武器であるスコーピオンを展開し駆けだした。

 

 先ほどの戦いを見て、シールドが無意味であることを彼は理解している。ならばもはや防御は不要。先に近づいて叩ききったほうが早い。それに近づけば自分のほうが有利になるのは明らかである。そう考えた風間は牽制に撃たれたギムレットを躱しながら素早く久遠との距離を詰めると、スコーピオンを振った。

 

 しかし、彼の手に走ったのはトリオン体を切り裂く感触ではなく、弾かれる鈍い感触であった。何が起こったのかと考えながらも風間はもう片方のスコーピオンを振るった。

 

 すると彼の目に銃本体で斬撃を受け止める久遠の姿が映る。先ほどの一撃もこうやって防がれたのか。そう考えた彼の目の前を弾丸が通り抜ける。斬撃を受け止めた久遠が至近距離で引き金を引いたのだ。

 

「ガン=カタか!」

 

 ロビーで二人の戦いを見る帽子をかぶった青年が思わず声を上げる。左右の拳銃を抜き、引き金に指をかけながら構える久遠を見て、風間は『面白いことを考えるな』と内心感心しながら再び斬りかかった。

 

 近距離で斬り結ぶ二人。しかし、さすがに近距離職である風間に分がある。最初の一本の勝利者は風間になる。

 

 続けて二本目。距離を詰められる前に仕留めてしまおうと久遠は両方の拳銃を乱射する。右でなければ当たってもある程度大丈夫だと判断されているらしい。左に大きく注意を割きながら風間は距離を詰めていく。

 

 彼の目論見は正しく、左の拳銃では何発かはあてられてもうまく躱され致命傷にはならなかった。一回目と同じように距離を詰められた久遠であったが、副作用(サイドエフェクト)の効果もあり最初の一回である程度スピードに慣れることができていた。

 

 風間の斬り下ろしを躱した久遠はバックステップと同時にトリガーを引く。右の拳銃の高威力な一発は風間の左腕をもぎ取った。

 

 右腕を失った風間は長期戦は不利だと判断し、自身の切り札であるカメレオンを起動する。周囲と同化し、不可視の状態になった風間に混乱し対応不能になった久遠は、背後からスコーピオンで突き刺され二敗目を喫する。

 

 しかし、この二戦で風間の情報を掴んだ久遠の動きが風間の戦闘スタイルに合わせたものに変化する。

 

 三戦目。距離を詰めようとする風間の動きを読み切って弾丸の雨を浴びせハチの巣にして一本取る。

 

 四本目。距離を詰められてしまうが、風間の怒涛の連撃を見事に捌ききり、一瞬の隙をついて供給機関を打ち抜き同点に持ち込む。

 

 五本目。斬り結んでいるところを足を払われたところにモールクローを合わされてしまい供給器官を破壊されるが、ギリギリのところでギムレットが間に合い、風間の供給器官を破壊。相打ちに終わる。

 

 六本目。カメレオンで奇襲を仕掛けようとした風間であったが、見えているかのごとき正確な射撃で防御もできずに敗北。初めて久遠が優勢を取った。

 

 七本目。斬り合いで久遠の左腕が斬り飛ばされるが、右の拳銃で左腕と右の脇腹を刈り取る。しかし、スコーピオンを手のようにして使える風間のほうがその後の斬り合いで優勢を取り、首を斬り落とし久遠がベイルアウト。再び同点へ。

 

 八本目。開幕速攻で久遠はコネクターを起動。距離を詰めようと建物を使って移動する風間であったが、動きを読み切られ、建物越しの一撃を受け、爆散。久遠がマッチポイントとなる。

 

 九本目。距離を詰めているところで再びコネクターを起動する久遠を見た風間はスコーピオンを投げつけ、攻撃するが、スコーピオンがあたる直前久遠は接続している拳銃を放棄、同時にアサルトライフルを起動。スコーピオンを投げ、無防備な風間にアステロイドの雨を浴びせ倒した。 

 

 結果として五勝三敗一分けで久遠の勝利。勝敗数だけ見れば二宮より悪い結果になった。

 

 しかし、これは二人の戦闘スタイルの違いによるものである。二人とも技量があることを前提として、二宮は豊富なトリオン量を活かしたゴリ押し戦法を得意とするのに対して、風間はカメレオンを用いた搦手を得意とする。だが、再度エフェクトの関係でカメレオンは久遠と相性が悪い。しかし、二宮は久遠に対して自分が原因のマイナスの要素がなかった。その違いが、二人の間に一勝の差を作ってしまったのだった。

 

「ちょっと風間さん。抜け駆けされちゃ困るわ」

 

「そうだそうだ! 大人げないぞ!!!」

 

 ブースから風間が出ると抜け駆けされた二人が抗議の声を上げる。しかし、そんなの知ったこっちゃない。そんなことをしている二人が悪いと言わんばかりに風間は二人の声を流す。

 

「なに、言い合っているから譲ってくれたのだと解釈してな。それと太刀川。思い出したがお前確かやらなきゃいけないレポートがあったはずだが終わっているのか?」

 

 風間の声に加古は頬を膨らませ、太刀川は顔を青くさせた。それを見て終わっていないと判断した風間は腹部に一発入れ、体勢を低くさせると襟の部分を引きずり個人ランク戦のロビーから姿を消した。

 

「さ、太刀川くんもいなくなったし。次は私の相手をしてもらうわよ」

 

「その前に少し休憩させてください。さすがに二連戦の後はきついです」

 

「だったら私の隊室で休憩でもしましょ。風間さんと二宮くんとの二連戦で小腹も空いたでしょ? 私が炒飯をご馳走してあげるわ!」

 

「でしたらごちそうになります」

 

 加古の提案に乗り、彼女の炒飯をごちそうになることに決めた久遠。その一方でそれを聞いた二宮は彼らのほうを向き、瞳を剝いていた。彼女の炒飯にははずれがあり、それは味覚が一生感じられなくなると感じてしまうほどの圧倒的なまずさを誇っている。既に犠牲者が何人か出ており、太刀川もその内の一人である。

 

 しかし、二宮はそのことをあえて指摘しなかった。今指摘すればこちらに意識が向きかねない。そうなれば炒飯がこっちに飛んできかねない。そう考え、彼は気配を消すことに専念することに決めた。のこのこついていく久遠の無事を祈りながら、彼の背を二宮は見送るのだった。

 

 しかし、彼の考えるような悲劇は起こらなかった。その後、加古隊の隊室に向かった久遠であったが、携帯に届いた呼び出しに阻まれ、命拾いしたのだった。

 

 彼に向くはずだった料理は異形の姿へと変化を遂げ、太刀川に襲い掛かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーで久遠の戦いを見ていたギャラリーたち。そのうちの一人の少女が彼の顔を見て声を上げる。

 

 彼女がランク戦会場にいたのはたまたまであり、隊室にいたならばわざわざここに足を運ぶこともなかっただろう。

 

「あいつ、まさかね……」

 

 最初こそ、二宮と同等に戦う久遠をイライラしながら見ていた彼女であったが、見ていくうちに男の顔に見覚えを感じるようになっていた。

 

 それと同時に少女の脳裏にかつて自分たちを助けてくれた存在の顔が浮かぶ。奇妙なほど合致する男と久遠の顔にそんなことがあるのだろうかと、考える少女であった。

 

 しかし、少女は自らその考えを否定する。そんな偶然があるはずがない。世界はそんなに都合よく出来上がっていないのだ。そう自分の中で結論付けると少女はロビーを後にした。

 

 

 

 

 





 いかがだったでしょうか。第二位だけでなく第三位にも勝ってしまいました。

 同時にタイトル回収です。彼は攻撃手相手に銃で殴るというケルディムガンダムのようなことをします。だから殴りガンナーなんですね。拳銃の生成に多めのトリオンを用いているため、スコーピオンなど威力の高い近距離武器の攻撃も軽々と受け止めることが出来るのです。

 さて、今回はここまでです。次回は思いついたら上げます。




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