もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
カスパールとゼッペルは、おおいそぎでホッツェンプロッツの家へ向かいました。モース川をひとっとびし、ふるい石の十字架にはめもくれずにかけぬけます。
見なれたチロルぼうしととんがりぼうしが走ってくるのをホッツェンプロッツは家のまどから目撃し、あわててでむかえました。
「やあ、どうした?いったいぜんたい、なんでそんなにいそいでるんだ?」
カスパールとゼッペルはお互いに自分でせつめいしようとして、同時にはなしはじめました。ひじょうにおおきな声で、しかも早口で。ホッツェンプロッツはそれをやめさせるために、フライパンをおもいきり打ちならさなければなりませんでした。
「しゃべるのは一人ずつにしろ!なにも聞こえない!なにもわからん!」
そういうわけで、二人はじゅんばんに説明をはじめました。シュロッターベック夫人が、ポニーさがしに協力してくれること。そしてそのために、ありとあらゆるお酢と、タバコと、時計を家のそとにださなくてはならないこと。
もちろんホッツェンプロッツはしょうちしました。
「もちろんいいとも。」とホッツェンプロッツは言いました。「たとえ千匹のハツカネズミが家じゅうなめまわしていったとしても、時計のねじ一本、タバコの粉ひとつぶ、お酢のしみこんだパンくずひとかけらもみつからない家にしようじゃないか。このおれさまも、火事や砂嵐やイモリの大群はごめんだからな。」
そうして三人は家じゅうをくまなくさがしまわって、さきほどの宣言どおり、時計のねじ一本、タバコの粉ひとつぶ、お酢のしみこんだパンくずひとかけらも見つからないようにすべてを家のそとへはこびだしました。
「よし、これでじゅんびばんたんですね。」
シュロッターベック夫人のいうとおりにできているか、きっちり10ぺんかくにんしてから三人はそとにでました。それでかねてからとりきめていた合図として、ゼッペルが口笛をみじかく三回、ふきならしました。こうすれば、水晶玉をのぞいているシュロッターベック夫人やディンペルモーザー警部が気がついて、魔法をはじめるでしょう。
そう、夫人が使おうとしているのはついせきの魔法です。二年前にどろぼうがポニーをぬすんでサクラ大通りへつれていった足あとから、今どこにポニーがいるのか追いかけるのです。
たいへんにむずかしい魔法でしたが、国家試験合格千里眼者のシュロッターベック夫人にとってみれば、こういうたぐいのものがいちばんかんたんなのでした。じぶんに合っている、と夫人がつねづねから思っている魔法なのです。
「さて、ここまでくれば僕たちにできるのは、せいぜい家に立ち入らず魔法のじゃまをしないようじっとしていることくらいですね。」
とカスパールはきげんよく言いました。
「魚つりか木のぼりでもして、のんびり森の料理店〈どろぼうのねじろ亭〉のあたらしいメニューでもかんがえませんか。」
ホッツェンプロッツも、この案にさんせいしました。
三人は家のまえをあとにして、森のなかでいちばんのぼりやすいとホッツェンプロッツが保障したブナの木にのぼってみました。ホッツェンプロッツはからだがおもいので、ブナのえだをさんざんにゆらして二人をこわがらせましたが、無事にのぼりきりました。
「おぼえてますか?」とカスパールが言いました。「ぼくたちが、思いつくかぎりのバカな職業を言い合いっこしたときのことを?」
ホッツェンプロッツはうなるようにわらいました。
「ああもちろんだとも!小石のマーガリンをつくろうとか、たべられる毒きのこを栽培しようだとか言ってたな!“クナルピルツの中毒“とありもしない毒キノコによっていっぱい食わされた経験のあるおれとしては、けっこうみりょく的な提案だったんだがな。」
「ぼくとしては、ベラドンナ(ナス科の有毒植物) ジャムとか、シギのくそもつ焼きとかのほうがみりょくあるようにおもいましたがね。」
そんなこんなで三人がたのしくはなしあっている最中、なんだか焦げくさいような匂いがただよってきました。
「おい。」とホッツェンプロッツが言いました。「だれかがバーベキューをやってるのか?それとも、おれのはながおかしくなったのかな?」
「たいへんです!」とカスパールが立ち上がり、あやうくブナの木からころげおちそうになりました。
「家がもえています!おじさんの家がジャンジャン火事のまっさい中です!」
はい、魔法をかけたら火事になりました。
火事にしたかったから魔法をかけたと言っても過言ではありません。
ジグソーパズルみたいにぴったりとはまる展開、児童小説と侮るなかれ。…そんな名作、実はいっぱいあるんですよね。小さい子に読み聞かせをしている間、思わず唸りたくなる場面が何度もありました。