もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる   作:へびのあし

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魔法の失敗

「そんなバカな!」とホッツェンプロッツは両手をひざのうえで打ちならしました。

「時計のねじ一本……!」とさきほどのセリフをさいしょからくり返そうとしたので、カスパールがいそいでホッツェンプロッツの口をふさぎました。

 

「今はそんなことを言っているばあいじゃないですよ!はやく火をけさなければ家がなくなってしまいます!」

 

三人はほんとうにいそいでいたので、二メートルもあるブナの枝からジャンプしてとびおりました。

 

「バケツ!バケツ!」とゼッペルがうでをめちゃくちゃにふり回しながら倉庫へとっしんしました。三人で川へいって水をいっぱいにくんできて、いそいでもときた道をかけもどります。ふうふうあせをかきながら〈どろぼうのねじろ亭〉にふたたび到着したとき、三人はぼうぜんと立ちつくしました。

 

もう、手がつけられません。

火の粉はまるで流星群がいっぺんにふりそそいでいるようにパチパチはじけていて、料理店のちょうどお客さんがすわるためのテーブルのまうえあたりに、クリスマス・ツリーよりおおきなほのおが燃えあがっています。

 

「お、おれの家……。」と、ホッツェンプロッツが泣きそうな顔でヘナヘナとじめんにすわりこみました。「燃えてなくなっちまう!」

 

「いえ、そうはならないようですよ。」

カスパールが、冷静にホッツェンプロッツをはげましました。

 

「ほら、消防車のサイレンがきこえてきませんか? これがちがったら、ぼくの耳は十年前にロバの耳をくっつけたものだ、と言われてもかまいませんよ。」

 

ほんとうに、そうでした。

まっ赤にぬったしかくい車が、森のでこぼこみちを飛びはねるように走ってきたのです。いつか消防ポンプおきばに閉じこめられたとき——(まだホッツェンプロッツがどろぼうだったころのはなしですが、ホッツェンプロッツと二人のなかよしは、おたがいを閉じこめあった経験があるのです)——三人がいやというほどまじかで見た消防車でした。

 

 

車のドアがばたんとひらいて、黒と黄色の線のはいった消防服の人たちが、二、三人でてきました。そのなかにまざって、ガウンすがたで犬のバスティをだいじそうにかかえたシュロッターベック夫人、ディンペルモーザー警部、そしてカスパールのおばあさんまでがころげでてきたのです。

 

「火事だなんて!ああ、あなたたちは無事だったのね!」

と、三人を見ておばあさんはかすれた声でさけび、安心のあまりあやうく気をうしないそうになりましたが、ディンペルモーザー氏に肩をささえられてなんとかこらえました。

 

到着してからの消防自警団のうごきは、たいへんはやいものでした。

あっというまに火を沈静化して、ヘルメットをぬいだ団員の一人がこちらへあるいてきました。それは、消防自警団の団長、リューベザーメン氏その人でした。

 

「やあ、こんにちは。わたしとしては、さいきん火事がさっぱりおこらなくて仕事がらくだったのですが、いったいどうしたわけですかな?魔法の行使と料理の火を消しわすれとには、十分な注意をおねがいしたいとだけ、言っておくべきでしょうか。」

 

リューベザーメン氏がそう言うと、部下の団員の一人が何かをもってきました。「どうやらコイツが火種らしいぜ?」と言いながらみんなにむかってさしだしたのは、カスパールとゼッペルもよくしっている、肉屋のおじさんでした。つまり消防自警団の団員には、みんな ”本職“ というものがあるのです。…それにしてもなんでしょう?この、まっ黒な消し炭みたいに焦げて、まんなかがくり抜かれたように灰になってふきとんでいる、丸いかたまりはいったい。そのしゅんかん、ホッツェンプロッツたちは、あっとさけんで手を頭のうえに打ちあわせました。

 

「かぼちゃだ!外がわはスイスチーズ、中のほうは酢づけのニシン巻きの味がするかぼちゃ。ぼくとゼッペルがかごに入れてもってきたやつですよ。これがお酢のうちにふくまれるなんて、いったい誰が予想できるというんでしょう?」

カスパールがシュロッターベック夫人に弁解の言葉をのべました。夫人は悲しそうに顔をショールでおおいながら言いました。

 

「ええ、だからわたくしは言ったのよ。とくべつしんちょうになることをおすすめしますって。…それにしても、わたしは魔法にのろわれているのかしら。バスティをワニに変えるつぎは、料理店を火事にするなんて!…ええ、決めました。二度と魔法なんかつかわないとわたくしはちかいます!」

 

失敗に打ちひしがれる夫人をなぐさめるよりまえに、カスパールたちには聞かねばならないことがありました。

 

「あのう、シュロッターベックさん。ヴァラ・リーナのいばしょはわかりましたか? エリーのポニーです!魔法はききましたか?」

 

「それが、」と夫人はすすりなきながら言いました。「どんなにささいなことでも、条件を満たさないとほかの魔法に変わってしまう———つまり、火事がおきたということは、魔法の失敗とおなじことになってしまうんですわ。」

 

そのばにいる人たちは、ぼうぜんと立ち尽くしました。それは、この失敗によってポニーが見つかるのぞみがぐんと低くなったことを、理解したからでした。

 

 

 




第一話で登場したカボチャが火種でした。
この伏線…というかこじつけに、気付けた人は凄いです。

ちなみに消防自警団の団長、リューベザーメンさんは、原作の二巻で一瞬登場する人物ですね。みなさんも、魔法の行使と料理の火の消しわすれには十分ご注意ください。(リューベザーメン氏より)

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