もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
リューベザーメン氏の家の門には、りょうわきにイロハモミジが植えてありました。そこをくぐるとすぐに広い庭にでて、草のぼうぼうに生えている向こうがわに色あせた馬小屋が立っているのがすぐにわかりました。
「それじゃあ、あそこにヴァラ・リーナがいるんですね?」
とゼッペルが聞きました。
リューベザーメン氏は、「ああ、わたしはチョコレートとよんでいたがね。」とすこしさびしそうに言いました。リューベザーメン氏は、ポニーをもとの持ちぬしにかえすことを了承してくれたのでした。
まったく、リューベザーメン氏はひろい心をもっていました。ポニーを手ばなすだけでなく、エリーに直せつひきわたすことまでやくそくしてくれたのです。理由は、二年間でかわったヴァラ・リーナの食べものの好みを、エリーに教えてやるためでした。
「にんじんが大好物だったんだが、さいきんはかぼちゃが気にいったようでしてね。」とリューベザーメン氏は言うのでした。
「ほかにも、エリーさんがわたしに聞きたいことがあるかもしれない。やっぱり、わたしが直接いったほうがいいでしょう。」
となりをカッポカッポとすすんでいるヴァラ・リーナは、たいへんおとなしい馬にみえました。ただし、キャラメル色の体に、コーヒー色のたてがみがさんぜんと光かがやいているのです。ピカピカのちいさな体にぶらさがるしっぽは、つねにゆらゆらとリズムをきざむかのように楽しくゆれ続けていました。ときどき、ぴょこんとはねるようなしぐさをしました。
太陽が西のそらにしずむころになって、一行はようやくカエルの形をした古井戸を通りすぎ、エリーの農場に到着しました。
「エリー!」とカスパールとゼッペルが名前をよびました。農場には、はなし飼いにされた牛のむれがいます。しかしその中に、エリーの赤いリボンはみつかりませんでした。
「エリー!」
そのとき、向こうから聞きおぼえのある歌声がきこえてきました。
「ラララ、楽しいな!ララ、うれしいな…あらこんばんは。」
はじめてあったときとまったく同じ歌とおどりで、エリーがとびはねながら姿をあらわしました。黒い木靴とくつしたに包まれた足が、かんぺきなつま先立ちでぴょんと一回転をひろうしました。
「ええと…どろぼうさんとカスパールさん、それにゼッペルさんでしたっけ?」
エリーはなんでこんなにたくさんの人がいるんだろう、という困惑のひょうじょうをしていました。
ヴァラ・リーナがいることには、まったく気づいていません。それもそのはず、カスパールとゼッペルが、リューベザーメン氏とディンペルモーザー警部の大きなからだをおしやってヴァラ・リーナをかくし、見えないようにしていたのですから。
二人はリューベザーメン氏とディンペルモーザー警部に目くばせをし、タイミングをあわせて飛びのくよう合図しました。
「ジャジャーン!」
と二人がさけぶと同時に、ヴァラ・リーナがエリーの目の前にすがたをあらわしました。
「まあ!」とエリーはさけびました。「ああ!わたしのヴァラ・リーナ…!」それいじょうは、かんげきのなみだでなにも言えなくなりました。
エリーが、ヴァラ・リーナの首ったまにかじりつきました。そして、小さく口笛をふきはじめました。———するとどうでしょう? ぴょんとエリーがせなかに乗ると同時に、首をふってあたりをはねまわりはじめたのです!
ときどき、ハイヤー!とエリーがかわいらしくかけ声をはさみました。その陽気なことといったら、アザミのお花畑をとびまわるモンシロチョウのようにすばらしいものでした。
「これで、きみはホッツェンプロッツをゆるしてくれるかい?」
エリーがほおをまっ赤にして、これ以上はないというほどしあわせそうにもどってきたときに、ゼッペルはたずねました。
「ええ…もちろん!」とエリーは言いました。「それにわたしって、やくそくはぜったいまもるのよ。もちろん、料理店をおうえんしてもいい、といったこともおぼえているわ!」
「ほ、ほんとうか!」とよこからホッツェンプロッツはふるえるようにさけびました。「それじゃあ、森の料理店〈どろぼうのねじろ亭〉のお客がすくなくとも一人ふえるわけだ。そしてもっとふえるかもしれん!つまり、きみがきみの家族や友だちをそこにつれてきた場合だが……」
とそこまで言って、ホッツェンプロッツはじゅうだいなこと思いだしました。そして、頭のてっぺんからつま先の先っぽまできゅうりのように青くなりました。
「たいへんだ!〈どろぼうのねじろ亭〉は灰になってしまったんだった!キッチンはすべて無事だが、入り口とお客さん用のテーブルは、全部燃えてしまった!」
しかしカスパールは、うろたえるホッツェンプロッツのかたに手を置いて、ゆうゆうと言いました。
「大丈夫、これからどうするべきか、ぼくはぜーんぶ考えてあるんです!」
頭が切れるのはカスパール。
でも、あんがいゼッペルも鋭かったり。
全員を活躍させることは難しいですが、なんとか頑張りたいですね。めざすはプロイスラーさん!原作最終巻において、妖精の国にかえったアマリリスをカスパールの夢のなかで再登場させた手腕の鮮やかさは見事としか言いようがありません。