もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる   作:へびのあし

15 / 16
ダンス鑑賞会のはじまり

森の広場には、ぞくぞくと人が集まってきました。エリーと同じくらいの年の女の子がむこうで集まってきゃあきゃあ笑っているかと思えば、市長さんや、印刷工場の所長さん、くだもの屋のおばあさん、町一番のわんぱくぼうずまでもが、おどるポニーとエリーのバレエを見物にやってきたのです。

 

そして、そのたくさんの見物人たちが今、まっすぐいちれつに並んでいました。いったいなぜ?……そのこたえは、列の一番まえをみればわかります。

 

「みなさん!ホッツェンプロッツにぬすまれたものがある方は、おさない、ぬかさない、あばれない、をまもって並んでください!順番におうかがいします!」

 

声をかぎりに、ゼッペルがさけんでいます。——そうです、今朝じゅんびしたばかりの立て札が立っています。二人のなかよしは、ダンス鑑賞会のまえに “どろぼう相談対策本部“ を開設しているのです。

 

(これは…おもったよりも多いぞ?)

 

カスパールは、書いても書いてもへらない“ホッツェンプロッツ被害者“ の数にひやあせをかきました。ありったけ用意した紙の束が、とぶようにへっていきます。カスパールが今つかっているペンのインクつぼも、これで三個目です。いったい、足りるでしょうか?

 

はたして——

 

カスパールが列にならんだ最後の一人の申告した、「デイビット・マイアー、牛肉と赤ワインの煮込みスープ大鍋いっぱい」を書きおわったとき、ちょうどのこりの紙が一枚もなくなりました。

 

「ひゃー!ホッツェンプロッツったら、ほとんど町中の家でどろぼうしてるんだな。」

とゼッペルがさけびました。

 

「まったくだ。ガチョウに、飾り包丁に、ザワークラウト、ソーセージ、焼きたてパン、ケーキ、ハト時計、豆スープ、ベルト、アップルシュトゥルーデル……こんなにぬすんでいたら、返すのもらくじゃないよ。」

と、“どろぼう相談対策本部“ を片づけながらカスパールがため息をつきます。そんなカスパールに、ゼッペルは落ちついた声で言いました。

「まあ、ひとつずつ返せば、いつかは終わるさ。なにせ、ひとつずつぬすんだものなんだからな。」

 

それを聞いて、カスパールもいつもの陽気さをとりもどしました。

 

「そうだな!なんなら、今日…たった今この瞬間からはじめようじゃないか。」

 

カスパールが、目をかがやかせてそう言ったちょうどそのとき、広場のまんなかにエリーとヴァラ・リーナが入場してきました。森のダンス鑑賞会のはじまりです!

 

エリーはつま先だちでぴょこんとおじぎをしました。となりのヴァラ・リーナも、それに合わせて首をふかぶかと下げました。と同時に、ヴァイオリンとフルート、そしてクラリネットの美しい音がきこえてきました。——これはエリーのお父さんとお母さん、それからなんと、リューベザーメン氏です。

三人はすこしはずかしそうでしたが、とてもすばらしい演奏をはじめました。

 

しゅんかん、ヴァラ・リーナがさっとたてがみをふりました。キャラメルやコーヒーそっくりの見事な茶色がキラキラとかがやき、広場にどよめきがひろがりました。

 

「ハイ、ホー!」

 

エリーがくるくるっとジャンプして、ヴァラ・リーナの背に飛び乗りました。木の葉のように体のかるいエリーだからこそ、できる芸当です。

 

「ハイヤー!」

 

さけぶと同時、エリーがせなかのうえでつま先立ち!それから白鳥のジャンプ!

エリーにあわせてヴァラ・リーナが前足をたかだかとさしあげ、いきおいよくエリーをくうちゅうに放りあげました。

わあ、あぶない!お客さんはもうハラハラです。

 

しかしエリーはあぶなげなく着地し、まっかなほおとキラキラひかる笑顔で、ヴァラ・リーナの手をとってゆうがにおじぎをしました。

 

「ブラボー!!」

 

お客さんは拍手かっさいでよろこびました。——と、そこへ食べ物でいっぱいにあふれた木箱を首にぶらさげた、カスパールとゼッペルが入場してきました。ディンペルモーザー警部やカスパールのおばあさんも、まったくおなじかっこうです。

 

「焼きたてライムギぱん!キャベツとニンニク入りのサンドウィッチはいかがですか? カラシたっぷり、パセリ風味のソーセージは大人のかたに特におすすめいたします!」

 

はじまる前はウェイター係をいやがっていたおばあさんが、ひとたび動きだすと、一番ノリノリで料理をくばりだしました。カスパールたちも、まけずに声をはりあげます。

 

「野外劇場はまだまだつづく!飲みものとごちそうをお忘れなく!」

 

ディンペルモーザー警部だけはどうしても声が出せなくて、金魚みたいにパクパクと口をあけしめしていましたが、やがてじぶんの役割に気がつきました。つまり、ホッツェンプロッツがたった今つくったばかりの料理を、個人的にくばりにいくことにしたのです。…それはどういう意味でしょう?

 

「エンドウの豆スープ…じゃがいもはうす切りで、トウガラシのこながふたつまみ。ここのコックから、あなたへのおわびである、ということらしいですな。」

 

ディンペルモーザー警部が料理をてわたしにいくたびに、うけとった人はみな目玉が両方ともとびでるほどびっくりしました。

 

「そ、そ、それじゃあ、ここのコックっていうのはまさか?」

 

ちょうどそのとき、木立のおくからだれかが歩いてきました。一人はリューベザーメン氏、では、もう一人は?

 

「ごしょうかいします!今日のごちそう大サービスの担当者…森の料理人、フランク・ホッツェンプロッツ氏です!」

 

 

 

 




作中、ホッツェンプロッツが盗んだものは、

・コーヒー挽き
・ガチョウ
・ソーセージとザワークラウト

…なんやかんや言って、食べ物ばっかりなんですよね。「凶悪犯だけどいい奴」という判断は結構妥当だったり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。