もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
広場がシーンとしずまりかえりました。だれもが大どろぼうのおそろしいかぎ鼻におののいている———のではありません。
「…あれえ? ホッツェンプロッツって、ピストルで家中みなごろし、ぬすめるものはのこらずさらっていく悪魔じゃなかったの?」
「そうそう! 悪魔って、ピンクのエプロンしてるんだ。わたし、知らなかったなあ。」
まっさきにそうやって話しだしたのは、子どもたちでした。同時に、クスクスとあちこちから笑い声が聞こえてきて、あっというまにみんな笑いだしました。ホッツェンプロッツは爆発したような笑い声にとりかこまれて、困惑した顔をしました。それがおかしくて、みんなはもっと笑います。
真昼のカーニバルのようなやかましさの中で、カスパールが声をはりあげました。
「みなさん!今日から、このホッツェンプロッツにぬすまれたものの返却がはじまります!とくに食べ物をぬすまれたかたは、ぜひ森の料理店〈どろぼうのねじろ亭〉におこしください! ぼくらの記録にしたがって、無料で提供いたします!」
わっと歓声があがりました。
どろぼうに取られたものが、かえってくるのです。それどころか、ぬすまれたのより何倍もおいしい料理がかえってくるかもしれないのです。
「それでは、ダンス鑑賞会のつづきです! エリーたちと一緒におどりたいかたは、だれでも舞台へおいでください!」
ゼッペルの声かけで、十人くらい子どもたちがおどりでてきました。どうやらバレエ教室にかよっているエリーの友だちらしい女の子が五人。地域のわんぱくぼうずが五人。
みんないりみだれて、バレエに馬に宙がえりにものすごいアクロバットのはじまりです!
観客はサンドウィッチやソーセージを必死にもぐもぐさせながら、笑いあい、舞台を指さして感心し、今日という日のすばらしさをかみしめました。
ホッツェンプロッツは、その様子を遠まきに見ていました。
「どうですか? みんな、おじさんのお陰でたのしそうですよ。」
カスパールとゼッペルが近づいていって、そっと声をかけました。ホッツェンプロッツは、しずかにヒューッといきをついて言いました。
「おれは…はじめっからこうしてりゃあ良かったんだな。」
いつになく、ホッツェンプロッツの声はおだやかでした。——しかし、なんとなく不自然に思える気もしたのです。その声は、かすかに震えているようでした。
「ぬすむのはかんたんだが、かえすのは難しい。今日つくった料理では、何十年ものどろぼうの埋めあわせには到底たりんからな。…これからしばらくは料理店がいそがしくなるだろうが、かねはまったく手に入らんだろうな。つまり——」
…かねがないから、店は破産だ。
そう言おうとして、ホッツェンプロッツはひげをふるわせました。胸に石ころがつまったようで、言葉がでてきません。
なみだをにじませて、あわやしゃくり上げそうになったとき。
ホッツェンプロッツのかたに、やさしくふたつの手がおかれました。
「ねえ、ホッツェンプロッツさん! ぼくたち、さっきおばあさんと話しあってきめたんです。ぼくとゼッペルは、〈どろぼうのねじろ亭〉ではたらきます。給料については今はタダ、お店によゆうができてから、倍のお金をはらうということでどうでしょう?… おばあさんにしても、多少のおかねなら寄付してもいいと言いましたよ。」
カスパールとゼッペルの申し出に、ホッツェンプロッツはほうけたように立ちつくしました。そこへ、とおりすがりのリューベザーメン氏がうしろから声をかけました。
「やあ、フランク。わたしの工場からも、てつだいをさせてもらうよ。できあがったカラシはタダで提供、そのほか必要になるお金をいくらでもきみにはらう。そのかわり、従業員みんなに毎日昼食をとどけてほしいんだが、どうかな?」
しゅんかん、ホッツェンプロッツがおいおいと泣きだしました。
「ああ、なんてお前たちはいいやつなんだ!」
とホッツェンプロッツはしゃくりあげました。
「おれはやってやるぞ!もっともっとうまい料理をつくって、天使も悪魔も食べにくる料理店にしてやる!そうして国中、いや世界中、でもなくて宇宙中の生き物を笑顔にするんだ!」
カシワの木がゆれる森の中。まるくあいた広場のひとすみ。
とんがりぼうしとチロルぼうしのふたりぐみが、とてもほこらしげに笑いました。
だれもがしあわせで、みんながみんなだれとも——たとえ百万枚のあんずチョコをたべられるとしても、かわりたいとは思わないのでした。
これにて完結です!
二次創作を書いたのも、長編を書いたのも初めてでしたが、なんとか辿りつけました。
ハーメルンさまにおいてホッツェンプロッツという…ひとりでも気晴らしに読んでくれるならいいかな、というテーマでしたが、意外に多くの方が読んでくださったようです。あらためて、プロイスラーさんの生み出した泥棒の影響力を感じました。
この作品では第一巻で自分の世界に帰って行った妖精アマリリスを除き、今までの登場人物を全員勢揃いさせています。ホッツェンプロッツの素晴らしさと子供時代の思い出をすこしでも感じて頂けたなら幸いです。ありがとうございました。