もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
エリーは、とてもすばらしい話上手でした。草のうえに腰をおろして耳をかたむけるうち、カスパールとゼッペルはまるで、百年もむかしからヴァラ・リーナのことをよく知っていたかのように思うのでした。
「それでね、ヴァラ・リーナはおどるポニーなのよ。音楽を聞くとね、たてがみをふって、あしを打ちならして、それはもう楽しそうにダンスするの。わたしが口笛をふいたら陽気に首をふるし、いつかおとうさんがヴァイオリンを弾いたときなんか、すばらしいワルツをおどったわ。」
それはすごいぞ、と二人は思いました。
おどる馬なんか、見たことも聞いたこともありません!——しかしすぐに、実は妖精だったスズガエルや特別にかしこい犬のバスティのことを思い出して、そういう馬がいてもふしぎはないな、と思い直しました。
「そうときたら、ホッツェンプロッツのところへひとっぱしりだな!どこでどんなふうにヴァラ・リーナを売ったか、聞きに行こうじゃないか。」
そうゼッペルが宣言して立ち上がりました。しかし、カスパールは立ちませんでした。
「おい。きみはなにか聞き忘れている、とは思わないのか?」
意味ありげにひくい声でそう言ったカスパールに、ゼッペルはわけがわからず正直に答えました。
「いいや、まったく。」
カスパールはため息を一つつくと、エリーに向き直って言いました。
「きみはぬすまれたポニーがかえってきたら、ホッツェンプロッツを許してくれるかい?…なにしろ、あのおじさんったらどろぼうをやめたんだ。二度とわるいことができないように、自分で火薬とピストルと短刀を始末した、なかなかえらいやつなのさ。」
エリーは目をパチクリさせましたが、ややあって口をひらきました。
「ええ。いいわよ。…もしもヴァラ・リーナがかえってきたら、ホッツェンプロッツを許してあげる。もしくは、料理店をおうえんしてあげたっていいわ。なぜって、おかあさんはいつだってわたしに、やさしい良い人でいなさいって言うんだもの。」
その返事を聞くと、カスパールはまんぞくそうにうなずきました。
「これで、ホッツェンプロッツを悪党だと思う人間を一人へらせたわけだ。…うん!よく言ってくれたよエリー!これが第一歩なんだ。こうして町じゅうの人々が彼をコックとみとめたとき、真に彼はどろぼうではなくなる!まあ、もちろん、そのためにはぼくたちがヴァラ・リーナを見つけ出さなければならないけどね。」
こうして二人はエリーと農場の牛たちにさよならをして、来た道を引きかえしました。エリーは別れぎわに、ちょうちょうかコマがくるくる回っているかような軽やかなバレエダンスをひろうして、二人のけんとうをいのりました。
「さあて、ホッツェンプロッツもそろそろ元気をとりもどしているといいな。」
と、モース川をよこぎりながらカスパールが言いました。
「ちょっとばかり、むかしばなしをしてもらわなくちゃあ。いったいどうしておどるポニーをぬすみ、どんなやつに売っぱらったのか。…もっとも、あいつのもじゃもじゃのひげにふさがった口が、開かなくなってなればのはなしだけどね。」
二人は森と町をおうふくしたのでつかれきっていましたが、「ぜったいにヴァラ・リーナをとりもどすぞ」という使命感に燃えていたので、あしどりはかろやかでした。そろそろ、〈どろぼうのねじろ亭〉の屋根が見えてくるころでした。
登場人物だけでなく、登場動物も個性的なのがホッツェンプロッツ。
ところで、一話分の文章量が短いのは原作に準拠しています。読みにくかったらご容赦ください。