もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
カスパールとゼッペルがもどってきたとき、ホッツェンプロッツはきつけ用のかぎたばこをどっさり嗅ぎ、特大のくしゃみをしたところでした。
「ハアックション!!」
森じゅうの眠っているフクロウをたたきおこす勢いで、ものすごいくしゃみがひびきわたりました。ビリビリと料理店のガラスまどがふるえました。ホッツェンプロッツはいくらか気分がよくなって、シャキッと目がさめたそうかいな朝の空気をすいこんだようなすばらしい心地になりました。
「ホッツェンプロッツさん!ぼくたちの鼓膜をはれつさせるつもりですか?」
ちょうどとうちゃくしたばかりのカスパールが、耳をおさえながらさけびました。ゼッペルも、ガンガンなる頭をかかえています。
「やあすまない。」とホッツェンプロッツはあやまりました。
「だがこの行為はおれにとってひじょうにじゅうようなんだ。ぬすんだ馬のはなしが聞きたいんだろう? だったら、おれがかぎたばこをかぐことくらい大目に見なくちゃあならない。」
ぜんぜん反省していない、という顔でホッツェンプロッツは言いました。
そしてカシの切り株にドカッとこしをおろすと、サングラスのずっとむこうを見るような表情で話をはじめました。——それは、ながいながいむかしばなしでした。
「おれはほんとうは、どろぼうなんかじゃなくてカウボーイになりたかったんだ。」
とホッツェンプロッツはしんみりと言いました。
「こどもの時分は、ピストルと短刀をもって馬をのりまわし、何百もの牛とともにたびをする……そんなすがたにあこがれたもんだ。おなじ夢をもってしょうらいをちかった、しんゆうだっていたんだぜ。」
それを聞いたとたん、ゼッペルがおどろきと感心をもって目をぐるぐるさせました。ホッツェンプロッツに、そんなりっぱな夢があったなんて!どろぼうに、友だちがいたなんて!
しかし森がおだやかでのんびりした空気にみたされたのもつかのま、ホッツェンプロッツがとつぜんおこったような声でギリギリと歯をくいしばりました。
「だが、そいつはやくそくをやぶった!」
ホッツェンプロッツのかぎ鼻はしわがよっておそろしい形相です。ホッツェンプロッツはきょうあくなどろぼうづらになってわめきました。
「先祖代々、ひいおじいさんのころからつづく歴史ある工場をつがなければならないなどと言って、工場長になっちまったんだ!」
どんどん声が大きくなって、もうこれ以上はだせない、というところになりました。ホッツェンプロッツはとつぜん力がぬけたようにヒューと息をはきました。そして、つかれたように口を開きました。
「で、おれは晴れてどろぼうになった。そりゃあそれで、ゆかいだったがな。まいにちまじめにどろぼうしてりゃあ、それなりにうまいもんが食えるんだ。…だがな、おれはやっぱり心のどこかでカウボーイにあこがれていたのかもしれん。」
「…と言うと?」
とカスパールが先をさいそくしました。
ホッツェンプロッツは大きくためいきをついてうなだれました。
「ああ、それで、おれは農場のポニーをぬすんじまったんだ! …だがすぐにこうかいした。やつがあんな役立たずだと、わかっていれば!そうすればおれはやつをぬすむことも、売っぱらうことも、今日になって料理店のお客をがっかりさせることも、なかったんだだろうに!」
ゼッペルは首をかしげました。
「あのう、ホッツェンプロッツさん? 役立たずって、どういう意味ですか? ぼくらの得たじょうほうによれば、ヴァラ・リーナとかいうポニーは、ずいぶんゆうしゅうな馬のようですが。」
それを聞いたとたん、ホッツェンプロッツはひげをふるわせて否定しました。
「そんなことがあるか!」
と大きな声でどなり、こぶしでひざをドンとたたきました。
「あんちくしょうめ!おれがせなかに乗ったとたんにペチャンコにつぶれやがるんだ。それでしかたなしに火薬のたるをのっけてみたら、二秒とたたないうちにふりおとして、ごろごろどこまでも……それこそ、そこなし黒ぬまの巣へ転がしていくときた。あれでおれはすくなくとも火薬をひとたる無駄にしたんだぞ!」
ホッツェンプロッツはワアワアわめきたてました。
カスパールはまあまあ、と彼をなだめました。
「それでけっきょく、どこで売ったんですか?」
ホッツェンプロッツは、深呼吸でかろうじて、といったちょうしでいかりをおさえながら口をひらきました。
「サクラ大通りだ。たしか南の町へカラシを売りにいくとかいう商人に、うまいこと言って売りつけたんだったかな。もちろんおれはへんそうし、南の町からはるばる旅してきたあわれな旅人のふりをした。へんそうとひとくちに言っても、おまえたちのような手ぬきじゃないぞ?帽子のこうかんなどと安っぽいものではなく———まあおれもぼうしのこうかんくらいはしたが——とにかくおおどろぼうホッツェンプロッツだとは夢にも思わないかっこうでやつに売ったわけだ。」
「つまり、そのカラシ商人を見つければいいわけですね?」
とカスパールが言いました。
「もしもそいつがその役立たずポニーをまだもっていたら、のはなしだがな。」
ホッツェンプロッツはいまいましそうにそう言うと、立ちあがってドシドシと足をふみならしながらどこかへ行ってしましました。
かぎたばこ。
ホッツェンプロッツのキャラクターを際立たせるためには、これ以上ないアイテムですよね。
くしゃみして、いびきが大きくて、……世界中の子供たちが愛するどろぼうはどこか違います。
つくづく、プロイスラーさんは天才です。