もと大どろぼうホッツェンプロッツ四たびあらわる 作:へびのあし
カスパールとゼッペルが、ディンペルモーザー警部をたずねたとき、警部はおそい昼食をたべおわるところでした。カスパールとゼッペルが事情を説明し、バタつきパンの最後のひとかけらがきっちり彼のおなかにおさまると、すぐにディンペルモーザー警部はイスから立ち上がりました。
「じゅんすいな市民の悩みごとを解決するのは、われわれ警察の神聖なつとめであるからな!」
警部は口ひげをひとひねりすると、いさましく出発しました。
三人がシュロッターベック夫人の家のベルをならしたときには、夫人の庭の〈ひる咲き花〉はしぼみはじめていました。——ところで、シュロッターベック夫人が家のそとへ出てくるのには、まいど、たいへん時間がかかるのです。
「ディンペルモーザーさん。ぼくたち、ちょっとバスティにあいさつしてきます。ベルを鳴らす役割はたのみましたよ!」
そう言って、二人は犬小屋のほうへまわりました。
いつもなら、バスティが訪問者に気がつくころです。二人をえんとつのてっぺんまでふきとばすいきおいでかけよってこないのは、いったいなぜでしょう? のぞいてみると、バスティは犬小屋から鼻づらだけつき出してねむっているようでした。カスパールは、彼をそっとしておいてやろうと思いました。
「おい、バスティは…いったいいつ楽隊をけっせいしたんだろう?」
ゼッペルはカスパールのそでを引いてひきとめると、とつぜんそんなことを言いました。…ゼッペルはいったい何を言っているのでしょうか? ここはあれはてた庭のどまんなかで、つめたい風がヒューヒューふくばかりの最高にさびしい場所だ、というのに。
「なんだって?トランペットや、たいこや、アコーディオンや、それを演奏するたくさんの人が、ここにあつまってるっていうのかい?」とカスパールがキョロキョロ庭を見まわしながらたずねました。
ゼッペルは首をふりました。そしてバスティの犬小屋を指さしました。
カスパールは目をみひらきました。
「おや!はねてるぞ。あれは…コオロギとバッタ?キリギリスもいるのか?」
いずれにせよ、それは楽隊というよりは野外劇場にちかいものでした。
バスティの犬小屋のまえに、くろい小さなつぶみたいな虫がたくさんならんでいます。そして一匹ずつとびはねながら、リリリッとはねをこすり合わせているのでした。
「…ワフッ、ヴァグ、ヒュック……!」
あれはなんのおと?…そうです、かすかに…バスティのほえる声もきこえてきたのです。——しかし、どうにも変です。バスティの声はあんなにかすれてくぐもった声だったでしょうか?
ちょうどそのときシュロッターベック夫人が、ディンペルモーザー氏が六、七回もベルをけたたましく鳴らしてから、ようやっと特大のあくびをしながらげんかんへ出てきました。
「今日は、どんなごようじかしら? あいにくと、うちのバスティが鼻かぜをひいてしまって。鼻づらボールや追いかけきょうそうで遊ぶのはむりという状態なんですの。」と夫人は言いました。
「なるほど。」
とカスパールはうなずきました。
「それであいつ、虫なんかあつめてひまつぶししてたのか。犬が鼻かぜをひいてガラガラ声になるなんて、ぼくは知らなかったな。」
二人がひくくかがんでバスティの小屋をのぞきこんでみると、たしかに目をトロンとさせたダックスフント犬が毛布にくるまってねそべっているのが見えました。バスティは二人をみると、はずかしそうにカフッとかすれた声でほえました。
「やあ、とんださいなんだったな!まあ、かぜはじっと毛布のなかで夢でもみてればなおるから、安心さ。」
りこうでちいさなダックスフントは、二人にうんうんとうなずいてみせたようでした。
そこで二人は、あらためてシュロッターベック夫人にむきなおりました。
「バスティの鼻かぜについては、もんだいありません。——つまりきょうは、バスティに会いにきたのではないんです。ホッツェンプロッツが二年前にぬすんだポニーのいばしょを、あなたにうらなってほしくて。協力していただけますか?」
夫人はずり落ちそうになったガウンをくろうして引きあげてから、とじそうになっていた目をあやうくといった調子でひらきました。
「水晶玉にできうるはんいなら、もちろんようございます。もしくは、千里眼によってですがね…。」
夫人は、三人を家のなかへ招きいれました。カーテンはすべてしまり、うすぐらいへやの中心のテーブルでは、ろうそくの火がともっています。夫人は葉巻をふかしながら、ふかふかのクッションのついた肘かけいすにこしをおろしました。そして片めがねを右の目にはさむと、「どなたかこの事件について、くわしく知っていますか?」とききました。
バスティは鼻かぜをひきました。暇にあかして楽隊を結成しました。
個人的に、黒毛のふわふわ小さなダックスフント(しかし優秀な警察犬)が毛布にくるまっているところ、書いていてホワホワ癒される場面でした…。
また、虫の鳴き声を音楽として感じるのは日本人特有の感覚だそうですが、ここは飛び抜けて優秀な犬なので。つまりそれを理解するふたりのなかよしも、優れた国際的な感覚の持ち主なんです。
西洋にも「アリとキリギリス」で虫がヴァイオリン弾いてたりするので、多分大丈夫だと思います。