自称世界最速の天狗麦わら男に拾われる 作:油揚デラックス
本を読んでたら記憶失って異世界に赤ん坊として転生していた。
何を言っているか分からないし、誰かに同じ話を聞かされたとしても信じることが出来ないような出来事。
生まれた場所は治安最悪で、変な実を食ったら五歳ぐらいで両親に売られるというおまけ付き。
しかも売られた先が海賊船であり、そこで下っ端生活を強いられるという……。
「で、その海賊船から赤髪男に助けられて更に十年――現在絶賛遭難中」
耳を澄ませば波の音が聞こえるような何もない無人島。
背中に感じる砂の感触に今の今まで倒れていたことを再確認する。
羽が濡れて重いし、何より海水を飲んだせいか口の中が気持ち悪い……目覚めとしては最悪で、ランキングを着けるなら上位に入るだろうこの状況。
立ち上がろうにも暖かさと冷たさで違和感が凄くて、どうにもやる気が湧いてこない。
でも、このままでいる訳にもいかないのでなんとか立ち上がり周りを見渡せば、こっちに近付いてくる船が一つ。
「わぁお、ありゃ見事な海賊船」
見えるその船は全長二十メートルぐらいの物でかなり立派な作りである。
よく見てみれば甲板にはみかんの木が生えていて、船首が羊という結構特徴的な物だった。
「助けてくれるか交渉してみるか? なんか、こっちに向かってるぽいし」
船首は俺がいる無人島の方を向いてるし、何より風がこっちに吹いているのでもうすぐこの船はこの無人島に辿り着くだろう。あの船の奴らの目的が何であれ、ここで待っていれば話せるだろうしわんちゃん奪えば命は助かる。
見る限り豪華な船だし、食料もきっとある。
なら待つか……そう決めたのも束の間、何か人影がこっちへと飛んできたのだ。
「ん……誰だお前?」
「それはこっちのセリフだビックリ人間」
見間違えでなければ腕が伸びていたそいつは、やってきて早々そんな事を聞いてきた。
見覚えのある麦わら帽子を被ったその黒髪の少年。子供のような印象を初見で抱きつつも、そう返してみればししっと特徴的な笑いを漏らしてこう言った。
「おれはルフィ海賊だ」
「……俺はアヤト、世界最速の自由人だ」
まさかすぐに名乗れると思わなかった。
ついでに職も名乗られたから名乗り返そうとしたんだが、俺の肩書きとかは特になくその程度の事しか言えないのそう伝えることにする。
「世界最速って何言ってんだお前」
「だってそれしか肩書きがないし、仕方ないだろ」
だって会った中で俺より早いやつとか見たことないし、世界は広いと言えど俺より速い奴とか想像できないのでこう伝えるしかないのだ。
「変だなお前」
「さっき腕伸ばしてた奴には言われたくはないぞ? どうなってんだよ」
「ゴム人間だからな、腕ぐらい伸びるぞ?」
「……悪魔の実を食ってんのか、それにしてもゴムって変な能力だな」
ここら辺の海で悪魔の実を食ってる奴とか珍しいのに、さらにゴムって……。
悪魔の実――それは一口食せば悪魔に取りつかれ、人智を超えた能力を手に入れるという不思議な果実。
口にした物は能力者と呼ばれ、総じて常人離れの戦闘能力を手にしてしまうふざけた物だ。
ゴム人間って事は全身がゴムなのか、ちょっと引っ張ったら面白そうだな。
「お前も羽生えてるけど、なんか食ったのか?」
「まあな、トリトリの実を食った天狗人間だ。特技は飛ぶこと、あとちょっと変な術を使えるぞ」
「そうなのかぁ。で、なんでここにいるんだ?」
「遭難中だ。なんか数日前に変な爺に投げられてな」
あれは本当にビックリした。空飛んでたら砲弾投げられて墜落して、海軍の船に落ちたと思ったら海の中に投げられる。悪魔の実のせいで泳げないから、必死にイカダにしがみ付いて……どうしようか、思い出すだけでムカついてきたぞ? なんだあの爺、音速で砲弾投げてくるとかふざけてんのか。
「それにしてもルフィ。その帽子見たことあるんだが……シャンクスって奴知ってるか?」
「シャンクスの事知ってんのか!?」
「いや聞きたいのはこっちなんだが。でもその反応だと知ってるっぽいな」
さっきまで自然に動く俺の羽に興味を注いでいたこいつは、シャンクスの名前を出した途端に前のめりになって俺自身に興味を示してきた。
聞いて見ればこのルフィという少年は、シャンクスに助けられこの麦わら帽子を預かったらしい。
いいなと思いつつ俺もシャンクスが帽子を預けたこの少年に興味を持ってしまい話を聞いていれば色々知る事が出来た。ルフィは今五人で海を旅しているようでグランドラインを目指しているらしい。
「なあお前はどうやってシャンクスに出会ったんだ?」
「俺か? 俺はな、十年前にあの人に助けられたんだよ」
今も覚えているあの日の出来事。
下っ端生活で慣れない盗みや人が死ぬ光景を何度も見せられ、心が壊れかけていた時にあの人がやってきて救ってくれたんだ。
牢に繋がれていた俺の手錠を切ってくれて解放して数日間海賊船に置いてくれた。
その時に修行やらなんやらつけてくれた約二年は今も忘れない宝物。
「なんだお前もシャンクスに助けられたんだな」
「そうだな同じだ。なぁなぁ、もうちょっと詳しくルフィの話を聞かせてくれよ」
「いいぞ! ならちょっと待ってくれよ皆が来るからさ!」
俺の知らないあの人の事を聞いてみたくてそういえば、ルフィはすぐにそう言ってくれて迫る船に手を振りだした。そして船を待っている間、互いの事を話してみればいつの間にかこの少年と打ち解けていて船が来る頃には……。
「クハハハハ、海賊ってやっぱいいな! かっけー!」
「だろぉ! なぁなぁアヤトお前も来いよ。一緒に海に行こう!」
そんな会話をする程には打ち解けていた。
無邪気に笑うこいつといると自然と笑えてくる。
シャンクスの話題も合うし、一緒に行ってもいいと思えてくるが……俺にはやることがあるので断ることにした。
「すまんがそれは無理だ」
「えぇ何でだ!?」
「俺さ帰りたい場所があるんだよ」
記憶もないし、どんな世界だったのかも覚えていない元の世界。
そこに帰るのが俺の夢なのだ。
この能力で帰れるか分からないが、いつか絶対に帰るために俺は世界を旅している。悪魔の実とかいう摩訶不思議な力がある世界なんだから、きっと帰れる力があると信じて今もこの海を飛び続けているのだ。
「だから誘って貰って悪いが、俺はやることがあるから他当たってくれ」
「じゃあさ、おれが見つけてやるよ。そうすれば一緒に行けるだろ。だから仲間になれよ!」
……なんだこいつ。
屈託もない笑顔を浮かべながら、そう言うルフィは本心から言っている様で何故か分からないけどその言葉を信じたくなってしまう。
どうしようか? まだ会って少ししか経ってないのに、こいつの事が分かってきたぞ。
こいつは生粋の人誑しだ。
俺が今までで一番欲しかった言葉をサラッと言いやがる。
「本当に見つけてくれるのか?」
「あぁ、おれの夢は海賊王だからな。お前の夢ぐらい一緒に叶えてやるよ」
「凄い夢だな。海賊王か、それなら俺の夢を叶えてくれそうだ」
からからと眩しいくらいの笑顔で自分の夢を語るルフィ。
自身に満ちあふれるその声。なれる確信なんて持てない筈なのに、どういう訳か否定できそうにない。こいつなら海賊王になれると思わせてくる。
「どうだ? 一緒に海賊やらないか?」
「いいぞ、行ってやるよ。よろしくな船長」
我ならがクソほどチョロいが、あんな言葉を貰ったら仕方ない。
だって誰もあの言葉をくれなかったんだから。
ずっと一人で探し続けて、どれほど世界を巡ろうと見つからなかった帰り方。それを探してくれるというのだ。着いて行かない訳にはいかないだろ。
「おいルフィ先行くなよ!」
「というかなんだそいつ? なんで羽生えてんだ?」
船から降りて来たのは緑髪の男と金髪の男。
さっき聞いた仲間だろうと思うので、早速俺は挨拶することにした。
「よろしく先輩、さっき仲間になったアヤトだ」
「仲間って……何があったんだよルフィ?」
「会って面白かったから仲間にしたぞ」
「そんな簡単に仲間増やすなよ……」
驚く金髪男と冷静にそうツッコむ緑髪男。
そりゃそうだな……こんな得体の知らない奴が仲間になるって言って、ハイそうですかとか普通は無理だ。
でも一緒に行きたいし、なんとか説得しないといけないな。
「でもいいかお前が決めたなら」
「……は? いいのか?」
「だってルフィが決めたんだろ? なら悪い奴じゃないだろ」
当たり前のようにそういう緑髪男を俺の方が不審な目で見てしまったが、それはどうやら金髪男も同じようで目を見開きながら驚いている。
ツッコみ役が二人にボケ二人のこのカオスな状況。
ツッコまれる筈の俺が。一番冷静なのおかしいだろうと思うも同じく冷静であろう金髪男に話しかけることにした。
「お前はいいのか金髪男?」
「金髪男じゃねぇ、オレはサンジだ……逆に聞くがお前こそいいのか? 急に仲間になれとか言われてよ」
「全然構わん、ルフィは俺の夢を叶えてくれるらしいしな」
「そうか、ならよろしく頼む」
どうするか、こっちも気を許してた。
ルフィの人望ヤバすぎないか?
こいつが決めたのなら仲間にするとか、なんというか善人集団というか……何だろうな?
「じゃあ船に戻るぞ、早速宴だー!」
「いいのか、これ?」
「いいじゃねぇか、さぁ酒飲むぞ」
「料理は任せろ、新人記念だ張り切ってやるよ」
こんな簡単に仲間になってもいいのだろうか? もしかして自分は考えすぎなのかとか色々な言葉が頭を過るも……この状況で考えても仕方ないと思った俺は、何も考えない事にして船に残っていた二人に挨拶してから小さな宴を存分に楽しんだ。