女の子がデフォでバブみ溢れる世界で俺は... 作:胡椒こしょこしょ
囁き声がバイノーラル!!
仕上がってるよ!仕上がってるよ!!
あれからなんとか死に物狂いで走って、ギリギリ学校に間に合った。
遅刻すると、それはそれでとても面倒なことになる。
だからこそ、間に合ったのは僥倖だ。
そんでもって、同じように僥倖なのは俺の幼馴染である二子玉万結。
彼女とはクラスが違うということだった。
遅れそうになった理由のほとんどが奴のせいなので、少し距離を置きたかったのだ。
なので助かった。
現在は2時限目。
こんなイカレた世界でも学業においてはあまり前世とは変わりのない分野である。
理不尽に赤ちゃんのような振舞いを強要されることのない学問というのは、俺の心を安らがせる。
まさか勉強で安心する日が来るとは思わなんだ。
流石に勉強している間は、みんなもまともに黙って授業を受けている。
この時間だけが気を休めることが出来る唯一の瞬間だ。
しかし、無情にもその時間の終わりを告げるチャイム。
「それでは、次の授業までにここを覚えてくるように。はい、授業を終わります。」
「起立、礼。」
初老の男性教諭がそう締めくくると、日直は号令をする。
その瞬間、人間は時間には抗えない生き物であるということを痛感するのだ。
あぁ....安らぎの時間も一瞬の幻、この世界では泡沫の夢のような物なんだなぁ....。
着席するとクラス中の生徒が友達の元へ向かったり、教室の外に出たりと自由時間になる。
そして、何人かの遊んでいそうなギャルが先生に教科書を持って男性教諭の方へと向かっていく。
質問したい所でもあったのか?
だとしたら、人は見かけにはよらないなって。
「崎山さんっ!きょ、教師を揶揄うのはやめなさい!!第一、先生の質問が答えられないからといって急に前に来て組み伏せるのは非常識....。」
初老の男性教諭が日焼けをした明らかに遊んでいそうなギャルの女生徒に締め上げられている。
そして、その女子生徒はその教師の耳元で囁く。
「えぇ?別にそんなつもりないしぃ?ただわかんないからせんせぇにぃ、答えて欲しかっただけだし!ほらぁ~❤ここの活用、ママわかんないからおちえてくだちゃ~~い❤」
「アレコレオギャり今オギャリィィィィ!!!!!」
「ぷっwばぁ~~~か❤正解は『ありをりはべりいまそかり』だし❤このジジイほんっとバカ❤どうせ教え子と結婚することしか考えてないんだろ?アタシがママになって学生結婚してやるっつーの❤人生終われクソ教師❤」
ギャルの母性?とやらに当てられたのか初老の男性教師は白目剥きながら叫びを上げる。
そんでもってその声を聞いてギャルは愉快と言った様子で笑っていた。
うん、人は見かけによるわ。
誰だよ人は見かけによらないとかいう言葉作った奴は。
現実を見ろ、現実をさ。
教師と生徒が赤ちゃんプレイしてる。
しかし、別にそれが異常には感じない程には周囲の状況は地獄だった。
周りの生徒達も、赤ちゃんのようになる男子生徒とママになる女子生徒で教室は賑わっている。
「おい!スマホなんか見て片手間にママするなっ!これは赤ちゃんに対してのぼうと...ほ、ほぎゃっ!?な、なんでちゅこれ....!!?か、身体が...未だかつてないほどのオギャリが来るゥゥゥ!!?おんぎゃぁぁああああ!!!」
「あれ~?また私何かしちゃいまちたか~?❤何もせずとも定石のようにオギャって、まるで将棋でちゅね~❤はい、王手❤」
「あぁん❤うぅぅん投了でちゅ❤将棋連盟への入会も打診されてるぼきゅが将棋なんかやったこともないだろう頭の軽そうな女の子に負けるなんてぇ~❤これじゃ『バブ王のお痴事』でちゅ~❤でちにちてくだちゃ~い❤」
うるせぇよ。
一番近くに居る連中のバカ騒ぎが嫌が応にも耳に入ってうんざりする。
さっきの授業の時間が夢幻であるとすれば、休み時間はさしずめ悪夢と言ったところか。
学校が終わるとこれ以上の物量の赤ちゃんプレイを道中で目にすることになるので、悪夢というのは終わらないが故に悪夢って言うのだと痛感する。
「...外、行くか。」
こんなところでボッーと突っ立っていると誘われたり、巻き込まれたりする可能性がある。
この世界ではこんな風にオギャリ散らかしている方が普通であるし、断る口実を考えるのは正直面倒だ。
ならば、最初からこのクラスに居なければ良い話である。
それに、偶に教室に万結が来ることもあるからな。
それを撒くことも出来るので一石二鳥だ。
次の授業に間に合うように、外を歩いて暇を潰すか。
そう思い経てば、立ち上がるのは早かった。
廊下においても、赤ちゃんプレイしている連中は目に入る。
彼らの言い分によれば、場所が違うだけで全然違うとか。
俺には理解できないし、理解したくもないって感じなんだが。
どこのクラスも同じ感じ。
そんな廊下を足早に通り過ぎると、階段も駆け下りる。
それにしたってこうして歩いているだけで、あくまで俺の価値観の中で普通に過ごしている人は少ない印象だ。
どれほど、あの性的に倒錯した光景が常識であるのかって話である。
溜息が、自然と出ていた。
外に出た。
体育の授業から帰る生徒(女子生徒の乳に服越しにむしゃぶりついている奴が大半)達が教室へと帰って行っている。
俺の常識とは違う光景が嫌が応にも目に入る。
いつもいつも、何をしているときにもバブちゃんだのママだのやかましいわ。
頭が痛くなる。
心中でぼやきながらも、ある場所へと歩き続ける。
足を進めていくにつれて、段々と人気が薄くなっていく。
向かう先は既に、決まっていた。
視界に入り始める鬱蒼とした雑木林たち。
教師たちの駐車場を通過して、第二グラウンドへと降りていく。
そして、そのグラウンドでも端っこの物陰になっている場所。
裏山と敷地を隔てるように金網があり、そしてそこに網が掛かっているが金網が千切れた場所がある。
ここを通ると、用務器具などの倉庫があるんだろう...多分。
そんな金網に、ゆっくりと背を預けて座り込んだ。
草の上に座り込んだから、羽虫がにわかに湧きたって周りを飛び交う。
鬱陶しい虫を適当に周りから払うとただただ上を見上げた。
清涼な風が頬を撫でた。
ここら辺は裏山が近いことからも、空気が清らかだ。
それでいて、遠いこともあってここは人が居ない穴場スポットだ。
...まぁ、流石に昼休みになってしまえば大自然養育とかバカげたことを抜かす連中が少なからず居るのだが。
空を見上げる。
清々しくなるほどの快晴。
こんなにも見上げた時の青空は同じなのに、どうしてこうもこの世界は生きづらいのだろう。
ニュースで見た人たち。
この世界で生まれたにも関わらず、この世界の男女の常識に疑問を抱いて拒まんとした男性たち。
しかし、拒もうとしただけであんな風にはみ出し者として扱われているのだ。
彼らがああなら、前世という別の世界の指標を持った俺なんて排斥されない方がおかしいだろう。
こうして、コソコソと隠れている間にも諦めて馴染もうとしてしまうのだろうか。
....それは、なんか嫌だなぁ。
「空、青いなぁ....。」
「えぇ、とてもよい御日柄でございますね。」
「っ....!?」
独り言のつもりで呟いた言葉を拾われる。
か細く可憐な女性の声。
背後から掛けられた声に、驚いて立ち上がる。
背後はフェンスの筈だが.....。
そう思いながらも、振り返ると...フェンスの向こうに一人の少女が立っていた。
儚げに細められた目にゆったりとした微笑をこちらに向ける。
立ち姿からはどことなく気品のような物を感じさせて、一言で形容するならありきたりではあるが大和撫子。
制服もきっちりと来ており、清潔感と共に本人の几帳面さを感じ取れる。
俺は、彼女を知っている。
同じクラスに在籍して、席も自分の後ろに位置している少女。
月見里千紋。
俺は、彼女であることを確認すると警戒を解いて今度は呆れ気味に溜息を吐く。
それは、現在の彼女の状況がなんとなく分かったからだ。
「....また迷ったのか?今回はどうした?」
「えぇ、この前はバスに乗って揺れのせいでうつらうつらと夢うつつ、乗り過ごして隣町まで行ってしまっていたので今度は歩いたら何故か山の中に来たので困り果てていたのです。」
「いくらなんでもそれはおかしいだろ。つーかバスで行く距離を歩いて行ったのかお前!?アホなの??すっげぇきつかったろお前。」
彼女は致命的に目的地に辿り着く能力がない。
方向音痴とかそういうレベルではなく、目的地に辿り着くことが出来ない呪いでも掛かっているのではないかと思う程である。
事実、彼女に話すようになったきっかけが周期的に訪れるこの環境への限界の到達によって学校をサボってほっつき歩いている時に彼女が同じ制服を着ている俺に道を聞いたことであるので相当である。
顔を合わせる度に、どこか道に迷っているのだ。
正直、危なっかしくて見ていられない少女であった。
以前今までそれでどうやって生活してきたのかと聞いたところ、姉が居たらしいが既に大学生になったらしく姉に彼女の道案内をお願いされていた同年代の人もいつの間にか頼まれていた役目を放棄していたらしい。
彼女自身は「私などに時間を割かれてはいけませんし....」と理解を示していたが、それにしたって可哀想な子である。
彼女の家は確か結構遠くにあったはずだ。
それなのに歩いて来たとか....。
よくよく彼女の様子を見れば、どことなく息が上がっていた。
大体一日の初めに出会った時には迷っているので、よくそこまで迷えるものだと驚嘆させられる。
...まぁでも、俺個人としては彼女は他の女連中なんかよりも全然一緒に過ごしていて気が楽な存在であるのは確かではあるのだが。
「くたくたじゃないか、大丈夫か?....あと、そこの穴から入ればこっちに来れるから。」
「律さん、いつもありがとうございます....。わたくしが迷った時にはいつも貴方が居てくれますね....あら?網が掛かっているからここから入っちゃいけないんじゃ.....。」
「そもそも裏山の中は入っちゃいけないんだ、今更律儀に守る必要もないだろ。遅刻してるってこと忘れてないか?」
「うぅ....そうでございますが....。学園の皆さま、お姉さま、お母さまとお父さま...千紋は今本当はやってはならないことをします...こんなわたくしをどうかお許しください.....。」
顔を伏せて、詫びるようにそう呟く彼女。
変なところで律儀な少女だった。
網から出てくる。
服の端々に落ち葉が付いているので、取ってあげる。
そんでもってハンカチを差し出した。
「俺のハンカチで悪いが、汗...拭った方が良い。」
「お見苦しい所をお見せ致しました...申し訳ありません。どうか償いを....。」
「償い!?なんの!!?」
...相変わらずなんかぶっ飛んでるな.....。
彼女はですがと二の句を継ごうとしながらも首元や額に薄く垂れる汗を拭う。
可愛い子って言うのはこういう姿も絵になる物だと感心させられた。
そう思った所で、チャイムが鳴り響く。
どうやら、彼女と結構長いこと話していたようだ。
授業に遅れてしまう。
「まぁ、償いがどうとかそんな話はとにかく早く校舎に戻ろうぜ。お前も職員室に行かないといけないだろ。」
彼女は遅刻している。
だからこそ、ここで油を売っている暇があるなら一刻も早く職員室で遅刻者が書く紙を書く必要があるのだ。
そう言うと、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「....なんだよ?」
「いえ....ただ、今の時間を考えると現在行われているのは『実習』。つまりは教室内で赤子のように振舞うことを義務付けられているはずです....。なので、わたくしはてっきり貴方は今準備よくサボろうとしているとばっかりに.....。」
「はぁ?何言ってんだよ。次の時間は数学で.....。」
そう考えて、とあることを思い出す。
確か一人教師が産休を取る都合上、3日前くらいに一週間の授業構成を再構築したと担任が言っていた覚えがある。
「わりぃ、時間割を見せてくれないか?」
「えぇ...構いませんよ。」
俺が尋ねると、彼女は静かに頷いて快く貸してくれる。
こんなにあっさりと鞄から出せるなんて整理整頓が出来ている証拠だ、見習いたいものだな。
そう思いながらも、時間割に目を通すと案の定といった有様だった。
うわぁ....マジかよ....。
教室に戻りたくねぇ.....。
そもそも校訓である『慈愛、博愛、母性愛』に基づいた社会に貢献する人材の育成という名目で赤ちゃんプレイを授業に組み込む時点でどうかしてる。
しかもママ側と赤ちゃん側でレポートを書かないといけない始末だ。
赤ちゃんプレイをした後で赤ちゃんプレイの感想を書けとか正気を疑う制度である。
身体から脱力してへたり込む。
あぁ....ここから動きたくねぇ.....。
もう、彼女の言う通りサボっちゃおうかな....。
でもなぁ、実習は理由なくサボると結構面倒臭いからなぁ......。
そんな俺の葛藤が伝わったのか、彼女は俺の手を取る。
突然手を取られたので少しギョッとしていると、彼女は俺に優しく微笑みかけた。
「であれば、わたくしの償いは貴方様が嫌であろう実習を避ける口実になることと致しましょう。ほら、遅刻してきた私と外でみっちり母性行為に励んでいたとすれば何も言われないはずです。...レポートの口裏を合わせることも出来ますしね。」
「た、確かにそれは魅力的な提案だが....でもなぁ......。」
彼女の提案は確かに俺にとっては非常に嬉しい物であった。
教室に居ない良い言い訳である。
ただ、これは所詮言い訳だ。
このような言い訳に、ただただ本当は通ってはいけない場所を通っただけでも学校の人間や自分の血縁者に詫びるほどの少女にそんな正しくない行為をさせて良い物だろうか?
そもそも彼女は遅刻をしており、彼女の言った通りにすると俺の都合で本当は既に学校に居る彼女をさらに遅れさせてしまうことになるだろう。
それは...なんというか良くないことに思った。
俺が言いよどんでいると、彼女は愛想笑いを浮かべつつ自分の胸元に手を当てる。
「まぁ...このような稚児のような発育の端女などと相手したことになることが不名誉であると言われれば、ごもっともだと納得せざるを得ませんが...そうなると、力になれなかった自分の身体が恨めしく思われますね....。」
「いや、誰もそんなこと思ってないから!俺はただ....アンタに悪いこと、させてしまうし...なんなら俺の都合で振り回すことになってしまうだろ。アンタもそれは嫌なんじゃないのか?」
さっきも顕著に見えたが、彼女は良いところのお嬢様であるらしいのでそのような倫理観についてもしっかりしているのだろう。
だからこそ俺が言うと彼女はキョトンとした後に、慈母のような微笑みを浮かべた後に口元に指を押し当てる。
「えぇ、ですから。内緒にしてくださいませ。バレさえしなければ、悪いことをしたことにはなりませんから。」
「お前....存外悪い奴なんだな。」
「えぇ。千紋は悪い子でございます....それでも、苦しんでいる人が目の前に居て何食わぬ顔で過ごすことが良いことなら、わたくし悪い子で良いのございますよ。」
そう言って彼女は俺に微笑みかけた。
「...で、なんでこうなってんだ。」
茶道部の座布団。
そこに正座している千紋の膝に俺は頭を降ろしていた。
そして彼女の横には木製の小箱が置かれている。
やろうとしていることが外では不都合である為、部長として彼女が任されている茶道部に訪れていた。
教室にはいかずに特別棟に向かうなんて経験、帰宅部の俺がするとは思わなかったなぁ。
そう彼女の顔を見上げながらぼんやりと考えていた。
彼女の申し出は素直に助かるし、嬉しい物ではあるが結局のところ赤ちゃんにならないといけないのは嫌だと思っていた俺に彼女が提案したのがこれだ。
耳かき。
他の連中が毎回行っているような授乳やハイハイではなくて、耳かきであった。
「わたくしは幼児のような体型で誰にも相手にされませんし、それに母乳の出ない未通女ですから...人並み程度に他の人と同じくばぶ..み?を行う為にはこういう技術が必要であると母に教えられたのでございます。それを試させてほしいと私がお願いしたのでございますよ。」
何やら頭の上で用意をしながらそう言う彼女。
彼女が自分を言い表すときの言葉は初めてまともに話をした時から変わらずに酷く自虐的である。
しかし、それはこの世界において『女性は姿形、心根までもが母性的であるのが是である』とされているのが原因である。
世相的には胸の大きく安産型であればあるほど良いとされているのだ。
彼女が自分の事を『稚児のような発育の端女』と言っているのは彼女自身の発育がそんな風潮から逆行しているからだろう。
彼女は幼児体系だ。
胸も起伏に乏しく、背は小柄で華奢。
触れれば折れてしまうのではないかという儚さに美徳を見出すのは前世の世界でもこの世界でも変わらないものの、それ故にママであるとはみなされないようである。
まぁ彼らが求めているのは危うげな儚さではなくて、自分の全体重を預けても包み込んでくれるような包容力なのだろう。
前に一度、お尻は人並み以上のなのですよ?と弁明していた彼女の様子は見ていて心が痛んだ。
そんでもって彼女の発育は他の同年代の女性で考えると遅れている部類であり、母乳も出ない。
前世の記憶を持っている俺からすれば、学生の段階で妊娠もしてねぇのになんで母乳なんか出るんだよ?と困惑してしまうのだが、それがこの世界のスタンダードであるのだから何を言おうがどうしようもないのである。
そんな乳の出ない女性は別に少数派であるが存在はしているものの、人間社会というのは汚い物でそんな女性を表す言葉として『未通女』という言葉があるのだ。
どうにも今は放送禁止用語である為に使用できない言葉であるのだが、昔は普通に書物にも乗っていたらしく彼女の家は由緒正しい歴史を持った家であるので、そこで過ごす彼女はそういう言葉も知っているらしい。
そして、彼女は自身の発育について表には出さないが深刻に気にしている。
そりゃそうだ、こんな時代で誰からも受け入れられる女性としてのアドバンテージとされている物をまだ身に着けていないのだから。
この世界では見た目が良いだけでなく、母性的でなければいけないのだ。
俺の感覚から考えれば本当におかしなことである。
「...別に、誰に相手にされないとかそういうの気にする必要はないだろ。世間的にはそう考えられていても事実そういう女性が好みの男性は確かに存在している。...それに、なによりここにはワイドショーで非男性的だって指さされてボロクソ言われてる類の、母性とやらが嫌いな男が居るんだぜ?だからまぁ....無責任に聞こえるだろうけど、大丈夫だ。」
そんな彼女の悩みや在り方に、俺はどこか親近感にも似た感情を覚えた。
自分と同じく、世界の在り方のせいで苦しんでいる少女。
だからこそ、俺は...初めて彼女の内面のそれを知った時になんとか励まそうとあんなにも他人に知られたくなかった自分のことを引き合いに出したのだ。
流石に前世での記憶とかは話せないが、まぁそんなものはないところで社会的に受け入れられない気質であるのは変わりないからな。
あの時も正直ドン引かれたり異常だと言われるのは覚悟していた。
というか、そうやって自分よりも下を見つけて自分はそれほど悪くはないと思ってほしかったのもある。
我ながらクソみたいな解決法だが、咄嗟に自分が取れる方法で最適解だと思ったのはそれくらいしか思いつかなかった。
だというのに、こともあろうに彼女は....。
「...いえ、この話題はやめましょう。貴方様にいらぬ気を遣わせてしまいますから。...どう、でしょうか?耳かきならば貴方様でも抵抗はないと思ったのですが....この段階で何か思い煩うのであれば今すぐに辞めましょうか?」
「別に、気を遣ったつもりはない。....まぁ、悪くはないな。少なくとも、嫌悪感はない。続けても....別に良いぞ?」
「であれば重畳...でございます....。続けさせて頂きますね。」
こうやってこちらに微笑を向けるのだった。
だからこそ、彼女はまぁ....俺にとっては貴重な心を許せる相手と言えるだろう。
こうやって、世間様では認められていないような気質を曝け出しても変わらない間柄。
そこに心地よさのような物を見出している自分が居たのだ。
それにしたって、さっき言った通り自分を引き合いに出したこと以外は別に気遣いでも何でもない。
俺が思っていた本心をそのまま口に出していただけだ。
事実、俺はこの世界の母性がどうだなどということを抜きにしても巨乳などよりも貧乳に魅力を感じる。
幼児体系?とても均整の取れているじゃないか。
巨乳などというのは無駄な脂肪であると言えるし、華奢な身体というのは儚さを感じさせるが故に庇護欲を搔き立てるものだ。
俺は守られるよりも、守りたい。
そんな一銭にもなりはしない自分の嗜好について考えているとなにやら小箱を開く音が聞こえる。
そして、何か彼女は取り出していた。
耳かきと言っていたし、その道具だろう。
耳かき棒だろうか。
「それでは始めさせて頂きますね。動く時は一言おっしゃってくださいませ。危ないので....。」
「お、おう.....。」
そう言うと、彼女は俺の右耳を指で広げて顔を近づける。
まずはどのくらい耳垢があるか確認しているのだろう。
それにしたって同年代に膝枕されて耳かきをされるなんて、なんとも不思議な気分である。
都合上しょうがないが、顔が近くなると彼女の吐息に掛かる....。
なんというか、変な感じだ....。
「凄い...ですね。もう少しでお耳の穴が全て塞がってしまう程に、耳垢が詰まっております。手前だけじゃなく、お耳の壁にまでびっちり....。」
「え、そ...そんなにか?」
通りでなんか最近声が聞きづらかったり、耳奥に痒みを覚えていたのか。
彼女は耳穴を広げると、首を動かして様々な角度から耳の中を見る。
「この耳垢...かさぶたさんが混じっていらっしゃいますね。血が出るほどに耳掃除をしなさいましたか?」
「あ、あぁ...まぁ風呂上りに水気を取るついでにやっていたらやり過ぎたらしくて血が出ちゃってな。ちょっと怖くなっちゃってそれ以降あまり触っていないっていうか....。」
「傷の周辺で耳垢が結晶化して平常時よりも更に溜まった感じでしょうか。お金を厭わないのであれば数週間に一度、耳鼻科で耳垢を除去してもらうと確実で一番安全だと思いますよ。」
耳垢程度でも耳鼻科、行っても良いのか....。
そう言えば、前に一度耳垢除去とかも病院の広告で見たことあったな。
言われるまで忘れていた。
それにしたって耳の中を見ただけでここまで状況が分かるものなのだろうか?
自分では自分の耳の中を確認できないので分からないが、素直に凄いと思う。
「それでは、まずは最初にこれで行きましょう。」
視点の関係上、彼女が何を取り出したのか分からないが何かが耳の中へとそっーと差し込まれていく。
一瞬耳の壁に触れた感触から考えるに、木か竹...?少なくとも金属ではないと思う。
耳かき棒の先端が奥の方で耳の壁にコツコツッ...と当たる。
「感触はどうでしょうか?一点に感じますか?それとも広く範囲的に圧迫感を感じるのでしょうか...?」
「どちらかと言えば、広くかな....。」
「なるほど、厚い耳垢の層が出来ていますね...。それではまずは削って行きますね。」
なんというか、かなり丁寧にやってくれようとしてくれてるな。
親に教わったのを試したいと言っていたし、意欲的であるのは当たり前か。
しかし、それにしても授乳やああいうプレイの代わりといった意味合いで耳かきを行うつもりであるようだが、代替となり得るのであろうか?
正直、ああいう行為は男側には母性を求めるのと同時にエロティックな衝動があるように思えるし、耳かきでは少し荷が重いのではないだろうか?
いや、彼女もここまでやる気だから水を差すようなことを言わないが...。
もしどうか聞かれた際にどう答えたら傷つかずに済むかとか色々考えておかないとな。
「あっ❤あぐっ❤おっっ..ほぉ❤ちょっ、これやばっ....あっ...❤」
あれから数分、厚い層になっていると言われた耳垢をカリカリとある程度砕くと遂にはゴリゴリと奥の方まで耳かき棒を入れ込みだす。
支点力点作用点の要領でペリ、ぺリリと剥がされる耳垢。
視界の隅には、パイの破片のように薄い膜が何層にも折り重なった塊がチリ紙に積まれている。
掻き出すたびに、ぬぷっ...ぬぷぷっと耳かき棒を引き出される。
そして、耳かき棒を動かして耳の中の皺を優しく掻いていく。
背筋に走るこしゃばゆさ。
それに追い打ちを掛けるように、彼女は耳元に口を近づけて囁く。
「かきかきかきかき...また大きいのが取れてまいりましたよ...ほら、ペリペリペリ~....ほら、これまた大きな耳垢さんです。細かい耳垢も...ふーっ....?どうかなさいましたか?なにやらモジモジと蠢いておりますが....。」
「なっ、なんでも...うひっ!?あっ..あ...あ❤み、耳かきすごっ❤みみかっ❤凄い❤こ、これと比べたら...授乳とかクソッ❤クソォォォ~~~~❤❤」
ぽしょぽしょと耳元で囁かれて、耳に息を吹きかけられると体中にこしゃばゆさが駆け巡り、脳みそが熱を持つ。
囁きが耳に入るたびに耳かきに呼応してピュッピュッと脳内物質が分泌されていく感覚と共に溶けるかのように気持ちよさが身体を震わせた。
ありきたりな言葉だが、マジでこんなの初めてだ....。
赤ちゃんツボとかとは違う感覚。
自立意識はあるのにも関わらず、頭の中は震えて溶けている。
自由があるのに、自由に動けず。
そして、まぁ....無理やりオギャらされているわけでもない単純に暴力的なまでの深層的快楽。
だからこそ、まったく嫌ではなかった。
寧ろ、過去に体験した母性とかかこつけられた行為なんてこれと比べたら糞同然だ。
それほどまでに卓越している。
これで試し...つまりは試行の段階?
バカ言え、恐ろしいにも程がある。
耳かき...正直甘く見ていた。
確かにこれは授乳なんかできなくてもこれさえ出来れば人は満足させられる。
寧ろ骨抜きと言った方が正しい。
こんなの知ってるなら、マジで体型なんか気にする必要ないよ千紋。
お前...すげぇよ....今だって頭で快楽物質感じてる。
「大方、耳垢は取れましたね...それでは梵天で細かいカスを絡めとって、右耳は終わりとさせていただきます。....律さん?」
「あ...う、うん...、分かった...これで、終わり...終わりか.....。」
余韻で小刻みに痙攣する身体。
終わりと知ると、この恐ろしいほどの快楽の終わりと思えば安心するような...どことなく残念なような....。
そんな複雑な心持になる。
しかし、そんなことを考える余裕も耳の中に入れこまれたふわふわとした感覚に奪われた。
多分梵天だ。
しかし、それにしたって....。
梵天が耳の中を掻き分けていくことで、ずぐっ...ずぶぶぶぶっとした音が頭に響く。
耳に敷き詰められるような綿、それがどんどん奥へと進んでいく。
「奥まで...行きましたね。それじゃカスを絡めとっていきます.....。」
彼女はそう言うと、ゆっくりと耳の中で綿が回転する。
荒い脱脂綿、それが耳の壁をなぞるように全身を這って行く。
さっきの快感が局所的な鋭い感覚だとすれば、今自分が味わっているのはゆったりと慢性的な快感。
背筋をゆっくり甘く痺れさせていく。
そんな中で、耳の中でカリ...カリリッと絡めとられたカスが耳の壁に擦れて微かな音が頭に響いた。
「んっ...、ふっ...❤おぉ....❤おごっ....❤」
「どうか致しましたでしょうか律さん?何か問題が....?もしかして梵天は気に入りませんでしたでしょうか?」
彼女はそう言いながら梵天を回す指を止める。
そうすると、甘い刺激の余韻がもろに脊髄を刺激する。
ここで辞められるなんて、生殺しも良いところだ。
やるなら最後までやってほしい。
「ちっ、ちがっ....❤もっ、もっと....やって...もっと...❤」
「ですが...今まで見たことのない顔をしていらっしゃるではないですか。鼻の孔も開いておりますし、息もあらいですよ?やはり....」
「....っ!いいからぁ!やってって言ってるだろぉ!!...おォォ❤❤」
甘い刺激に頭が溶けて思考がほわほわとなる。
そんな心地から強引に現実に戻されたことでじれったさが渇望の如く湧いてくる。
そして耐え切れなくなって、声を荒げてしまった。
すると、彼女も理解したのかくりくりとまた梵天を回し始める。
「ご、ごめ...❤こえ、あらげ...おっ❤こんな、ごめんなっ...おごっおぉぉお❤」
「いえ、構いません。気に入っていただけたならこれほど嬉しいことはないと言った物。母に教えられた技術をちゃんとした形で身に着けたということですからね。今までのわたくしとは違う、新たなわたくし...ニュー千紋でございます...えっへん!」
俺に冗談めかして答えると、クリクリと梵天がスパートをかけていく。
優しい感触の綿が間髪入れずに耳の中を責めさいなむ。
やっべ....もう、なんもしたくねぇ....。
身体が全てを委ねているのか力すらも入らない。
「しゅるるる....ずぷっ..ぷぷっ...すぽんっ....。成りましたね。こんなに取れましたよ。」
「あ、あぁっ....、ほんとだぁ...❤」
微睡むかのような意識で見せられた梵天の感想を述べる。
白い綿にやや黄色がかった粒上のカスがびっちりと付いている。
それを脱力したまま見ていると、彼女の手が俺の髪をさくりと掻き分けて頭皮を揉む。
じわっ..じわわっと頭の血流がほぐれ巡って行って、気持ちいい.....。
そしてあらかた頭を揉むと、彼女はゆっくりと膝の上の俺を回し始めた。
...え?
これで終わりじゃ.....。
そう思っていると、彼女は笑顔で言葉を告げる。
「次は左耳ですよ。...左耳はそこまで溜まってはいないみたいですね...。」
「え...終わりなんじゃ....。」
「え...?右耳は終わりと言いましたが左耳がまだでございますよ?両耳ちゃんと掃除した方が違和感が少ないのでございます....。」
た、確かに右耳は終わりと言っていた。
俺の勝手な勘違いだ。
しかし、それ故に身体が震えてきた。
あの快感が...また、もう一度?
身体が事実に戦慄している間も、後ろではまるで処刑を執行する処刑人のように準備を整える千紋。
怯えていながらも、心は踊っている。
母性に直面した時とは感じたことのない気持ち。
怖いのに、嫌じゃない。
身体はまったく逃げようともしておらず、相手に全てを委ねてしまっている。
耳かきが...こんな、ものだったなんて....。
「耳垢の層が薄いので先ほどよりも早く終わりますよ。それじゃ、耳かき棒を入れていきますね....。」
すると、耳かき棒がまたゆっくりと耳の中へと入っていく。
それが俺にはまるでゆっくりと首へと落とされるギロチンのように感じられたのだった。
月見里 千紋(やまなし ちあや)
名前の由来は貧乳、幼児体型=体に山なし=月見里という連想ゲームで出来た割と可哀想な由来の子です。
世相に反した容姿をしているので、顔は良いのですがいまいち不遇な境遇に居ます。
まぁ、だからこそ主人公が心を許せたのですが。
胸のある幼馴染がヤバくて、胸のない同級生の方が包容力があるってどういうことなんすかね?
やっぱり貧乳が母性的だってはっきりわかんだね!(非男性的思想)
おっ、こんな夜遅くに誰だろう....