キングと毎週末映画を観る話【ウマ娘短編集】   作:あずきめし

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【トレーナー×キングヘイロー】キングと毎週末映画を観る話

……いつ始まったのか正確には覚えていないが、週末にキングヘイローと並んで映画を鑑賞することが習慣になっていた。

 

毎週土曜日のトレーニングが終わった後、私達は解散後に交代でレンタルビデオ屋に向かい、決まって旧作のDVDを一本だけ借りる。

 

そして翌日、日曜日の夕方にトレーナー室に集まり、隣合ってソファに腰掛けるのだ。

 

レースの研究用に学園が用意した4Kのテレビは、この時だけはレースを映さない。

私達はジャンルを問わずたくさんの映画を見たが、レースに関するような映画はついぞ選ばなかった。

 

扉の鍵を閉め、カーテンをかける。

学園内なのでお互いに制服とスーツという固い服装ではあったが、私は上着を脱いでシャツのボタンを緩めたし、

彼女はイヤーキャップと、靴と、靴下を脱いで、毎週この日にだけ準備する清潔で柔らかなカーペットに足を乗せた。

 

それから決まって私を先にソファに座らせ、その右手側に、まず大体こぶし一つ分の間を空けて腰掛ける。

彼女は大きなタオルケットをお互いの膝に渡して掛けると、いつの間にか部屋に持ち込まれていた私物の毛布やらクッションやらを丸めてかかえ込む。

これがいつものスタイルだった。

 

テーブルの上には飲み物と軽くつまめるお菓子。

カーテンを締め切って電気を消した薄暗い部屋に、じっと画面を見つめる横顔がぼんやりと浮かび上がる。

彼女の体からは、いつも薄く甘い香りがした。

 

そして映画がしばらく進んだ頃、彼女はやはり決まって私の右肩にもたれかかった。

ふわふわの毛に包まれた、遮るもののない耳が首筋を掠め、ふるふると震え、私の体内の音を拾っていく。

 

完全に体を預け合いながら、彼女の目はテレビから決して動かなかった。私も彼女を見ようとはしなかった。

 

彼女の左手と私の右手が重なり、指を絡める。

投げ出された彼女の足がカーペットの感触を楽しむようにゆらゆらと揺れる。

念入りに、丁寧に手入れされた彼女の桜色のつま先が、画面の光を反射してぼんやりと輝いている。

お互いの目は、映画だけを見続ける。

 

映画を見終わると片付けをしながら、私達は二言三言の感想を交わし、ビデオ屋のカードとDVDを袋にしまってトレーナー室の棚の上に置く。

 

次の週、映画を借りに行く方がついでに返却する取り決めだ。

 

最後に電気を消してトレーナー室を施錠した。

キングヘイローはその様子を隣で見ていた。

夕暮れの差す学園を後ろ手に、校門までの僅かな距離を惜しむようにゆっくりと、隣り合って歩く。

 

学生寮との分かれ道で私達はお互いに挨拶を交わし、別れを告げた。

そして私達はいつも、ほんの少しの間だけ、お互いの目を見つめ合った。

 

私とキングヘイローは、その時間の正体が何なのかを確かに知っていた。だが名前をつけることはしなかった。

 

どちらともなく視線を切り、歩き始める。

明日からまたトレーニングが始まる。夢を駆けるためのトレーニング。私達の絆。

 

その絆の端に、彼女の瞳が焼き付いていた。

鮮烈に、けれど繊細に輝く……名前を持たないその瞳が、いつまでも焼き付いていた。




終わりです。深夜の妄想に付き合ってくれてありがとう。
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